ディリーとピュテイア 3
到着した場所で何故か迷っている様子。だが、この建物の主と話をつけると決めたようで
目を閉じてディリーが何やら精神統一をしている。ふうっと一息ついて――
「ロキに話をつけてくる。付いてくるなよ」
さっさか目的地に向かっていった。
――いつ見ても古びているな、ロキん家は――
良くいえば趣きのある家といえなくもないが、結構築年数が建っていそうな小屋に近い家に住んでいる家主の家をディリーはノックする。
ドアの手前に人の気配、「誰だ?」と手短に聞く家主。
「俺だ」とディリーも声で判断しろという態度である。
それで意思疎通が計れたようにドアを開けた家主、ロキが尋ねた。
「あ、ディリー。どうした? お前が来るなんて珍しい」
人との関わりを今まであまりしてこなかったという一面がわかる場面だ。どこか不機嫌な表情でディリーがむっつりした顔になる。
「そんな事はどーでも良いだろ」
「……で? どんな用件だ?」
腕の立つ魔祓い師のロキだが、一度やる気を無くさせられると厄介な事態になるのだ。そうした理由から遠慮がちにやってくれないかと下手に出た。
「あ……いや~その……。お前に魔を祓ってもらいたい者がいてな」
どうやらそれを承諾してくれる気になっているらしく、ロキが入り口に立っているディリーを家に招き入れる。
「そういう事か。いいぞ、入れ」
ドアが軋む音と共に開け放たれる。うってかわってこれが地の性格なのか明るい表情になってロキが出迎えた。
「っよぉー! 久しぶりだな、ディリー!」
性格の変貌っぷりに(会った時はいつもの話だが)気さくに挨拶されるのだが、少しだけ困惑しつつも普段通りに接する。
「あ……ああ、久しぶりだなロキ……。すぐ本題で悪いが魔を祓ってやれるか?」
ディリーがかついでいたジルヴィアを床において、その後でやっとピュティア達数名も招きいれていいか許可を求めた。
(おっとあの女達の事を少し忘れていた。といったら、どやされちまうだろうがな)
一度苦笑し、
「そうだ、ピュティアと縁あって行動を共にする事になった少年少女を入れてやってもらえないか? それをすぐ聞いてこいと言われていたんだった」
話がついた事を教えるために、ディリーが手を振った。それは来て良いという合図。比較的一緒に旅をしてきたピュティアは彼のそういう面がわかってきている。
「も~、遅いんだから」
近くにいたデュア達にだけ聞こえるような呆れ声を出してから、ピュティアがデュアとトム、双子ちゃんの4人全員に「行きましょう」と山の中にある家を指さした。
それで招待された全員(以下ピュティア・デュア・トム・グレイ・メイ)が話を続けていいかというディリーと家主の視線を受けてうなずく。
一息つき
「ディリーから聞いた。俺の魔祓い師としての力を使って欲しいんだってな」
誰もがドキドキしている。断られたらどうしようという不測の事態にも備えなきゃいけないかなと主にデュアが考えていたらロキから明快な返事が返ってきた。
「ああー! いいぜ! ディリーが頼み事なんて珍しいしな。なんでも聞いてやるぜ!」
口下手なディリーが改めて事情を重い口を開いて語る。
「……こいつ……は魔族なんだが。むっ……うまく言えないが、助けてやってくれ? 『心』が苦しがっている……。楽にしてやってくれ……」
一度自然に目を閉じ、ゆっくりと開けてロキが良い返答をした。
「わかった、やってやろうじゃんか!」
しばし間があく。
「じゃあ、俺は外に出ている。そいつを頼んだぞ、ロキ」
「ああ」
沈黙の時間があったのには、ロキは苦笑するしかない。
(しかしさっきの沈黙は一体……)
そういえばと、ディリーが連れてきた仲間達に対してロキが忠告した。
「見ているのは構わないけど、あまり近くまで来たらだめだよ。僕が何をしても騒がないこと! 邪魔になったら外に出て行けと言わざるをえないからね」
それを受けて、デュア達が神妙な面持ちになる。
「――んじゃ、ぼちぼち始めるかな」
言の葉を紡ぐという表現がしっくり来るかのような不思議で真剣な祈りや願いを口に出し、儀式めいた事を始めた。
「この者に取り憑きし邪悪なるものを取り除き給え!!」
小さなナイフで手首を少し切って、その血でジルヴィアの横たわる場所に魔法陣のような丸い陣を囲むようなものを作り出す。
その陣から光が放たれ、横たわっている状態のジルヴィアの体から玉のような黒いものが出てきた。
ロキはこれを取り、握りつぶそうかとも思ったが嫌な予感がしたので札が貼ってあるビンのふたを開け……その邪悪のもとを閉じ込め、再びフタを閉める。




