ディリーとピュティア 1 挿絵あり
ディリーがどこか間の抜けた声を出した。そんな事を言われるなんて思っていなかったので唖然とする。デュアは目的地も聞いていないのに……と早計な行動のよる言動、今になって恥ずかしさがこみ上げるという事を経験する。思わずピュティアが吹き出し笑いをしたのは無理もない。
「あっははは! 面白い子ね、あなたって!」
デュアはますます、どこか神秘的な女性の笑い声のせいで赤面してしまった。
「ごめんね、でもそういう子、私は好きよ」
「は……はぁ。それはどうも……」
「コラ、みこ……じゃなかった。ピュティア。その子は俺と話していただろう?」
軽くたしなめられたピュティアが一歩下がる。
「そうね、ごめんごめん」
経過はどうあれ、トムが手助けしてもらったお礼をいうために割り込んだ。
「えっと……ディリーさん。さっきは助かった。どうもありがとう」
口数が少ない彼、無愛想な感じにそっぽを向いてちょっと照れくさそうにしている。
「いや、そんな事はない。俺が勝手にやっただけだ。それに『さん』づけはいらん」
堅苦しいのが苦手なトムは相手が許可したのですぐ遠慮のない口調になった。
「ディリーはどこへ行くんだ?」
『さん』付けの必要はないとディリー自身が言ったのは事実だが、すぐ馴れ馴れしい感じになったのには苦笑するしかない。
(急に馴れ馴れしくなったな、こいつ)
まぁいいとばかりに、ディリーが話を続けた。
「俺のかついでいるやつの『魔』をはらいに行く」
相手を傷つけることなく、しかも魔を払う方法をディリー達が知っていそうなのでデュアの表情が明るくなる。
「えっ、えっ本当ですかディリーさんっ!!」
喜怒哀楽がわかりやすかったり、表情がころころ変化していくデュア達を見てディリーがどことなくおかしそうにしていた。
(こっちも急に明るい表情になったな。わからんやつらだ)
一度目を閉じ、
「ああ。ロキと言ってな。そいつならきっと……」
ディリーが何かを思い出すようにして懐かしみを感じているかのような瞳をした。
(あらっ、この人ってこんな顔も出来るんじゃない)
デュアがそんな事を思っているなんて気づかず、まだ思い出の場面を思い浮かべているディリー。
(ルフラン……)
行く場所が決まったという事で早速行くんでしょとばかりにピュティアが提案した。
「じゃ、ディリー。早いトコ行きましょうよ」
「ああ。あんたらもついてきたいのなら止めはしない」
何だかディリー達に付いて行く事が正しい気がして、デュア達全員の意見が一致する。
「ええ。行こうっ!」
「……の前に休ませてもらってもいいか?」
ふいにトムの弱気な声が聞こえたので全員が立ち止まる。
「構わんが……」
「いや……な。悪ぃとは思ってんだけどよっ、この右手の凍りつきのせいでな……。体力が奪われて行く気がするんだ」
ふらふらとトムの体が揺らぐ。デュアが心配そうに声を欠けた。
「ねえ、トム大丈夫? 顔色が良くないけど」
まつ毛を瞬かせてじっと見つめる。
表情を確認してくれているみたいなのでトムは顔が見やすいように前髪をかきあげた。
「ああ。なんとか……な」
無理してそう言っているように思えてデュアは何度も確認する。
「ほんと? ほんとにほんと? 顔色が……」
デュアはやっぱりという仕草をして気づいてしまった。
「! トム……顔が赤くなってるよ? 無理しないでっ」
その2人のやりとりを見てピュティアは思った。2人って……? 気になったので近くにいるデュア達の仲間、メイに尋ねた。
「ねえっ、あの2人ってどういう関係なわけなの?」
メイは初対面な人が得意ではなく、緊張するタイプだ。しかし、ピュティアの不思議な雰囲気に話しやすいとも感じる。
(えっと、あの……。あれ? でもこの人の目に見つめられていても悪い気はしないわ)
それを悟られたくないので、メイはたんたんとした口調で答えた。
「ああっ、あの2人ね。幼なじみだとか」
どこか棒読みみたいになってしまったのは気にされてないはず。グレイが代わりに話す。
「はたから見ると恋人っぽく見えますよね? 僕なんかトムと長い付き合いなんですが、あいつがデュアを僕達に紹介して一緒に遊ぶようになってからしばらく嬉しそうな表情をしてたんです、なぁメイ?」
メイはグレイも初対面の人には人見知りするタイプなので、最初からしゃべりかけるなんて珍しいと思った。
「そーなの! デュアを私達に紹介してからはベタベタしちゃって思わず妬けちゃうくらいなんだから!」
双子らしく「ねーっ」と声を合わせる。
「……お前ら何をごちゃごちゃ言っている? 置いていくぞ!」
「あらぁ、トム君を置いて行くきぃ? ディリーって冷たいのねえ」
こめかみに血管を少し浮かべて
「主にお・前・に・言っとんじゃ。ボケッ!」




