ジルヴィア戦 イベントバトル 4.
ザバァッ!! という大量の水がジルヴィアにかかり、その結果、水圧に押しつぶされている。
「くっ!」
結構なダメージを与えられたなとグレイがニヤリと笑った。
「僕だってやりゃーできるんだ! 1回死にかけたぐらいでナメんなよっ!」
(ナメるって意味が違うんじゃないの~)
口に出さずにメイが思っているだけなので気付く訳もない。兄のグレイを今は注視している必要は無さそうだと判断して、メイはデュアとトムの方を向く。
(つーか、デュアもう平気かな?)
ここまで時間稼ぎをしてきたのでどうしているかが気になった。
うっ……何かをしかけようとするデュアなのだが、ジルヴィアを見ると手を止めてしまい今でも決断出来ていない様子だ。
「やだやだやだよぅ。ねぇ、トムぅ、もう……ジルさんを止められないの? 暴走車状態??」
「……ああ、もう……」
無理強いしても何かが解決するって事はなさそうなのでトムも戸惑うしかない。
血の味がしてしまうくらい唇を噛み締めているデュアがジルウィアに交渉の余地はないか叫んだ。
「ジルさーんっ!! もうっ、もうやめてください!」
しかし、にべもなく断言される。
「やめられませんよお嬢さん。もう……遅いのです」
「そんな事ありませんっ。どうかやめて下さい」
いつの間にかデュアの瞳から涙が浮かび、こぼれ落ちた。
(あーあ、デュアが泣いちまうとか……)
トムはトムで何か思うところがあるようだ。
「言いましたよね。私の素性が知れてしまった以上あなた達を生かしておくわけにはいかないのですっ! それが魔族の掟!!」
どれだけ大事なものかなんて知る由もないが『掟』なんて守らなくていいのではと強く提案するが――
「そっ、そんな掟なんて破っちゃえばいいじゃない」
残念ながらジルヴィアにはその気は全くない様子である。
「無理ですっ!!」
「そ……んな」
無防備にもすすり泣く感じで再びデュアは泣きだしてしまった。
……もーお、デュアに任せている場合じゃねえな、コンチクショウ。2回も泣かせやがって……そんな考えで怒りに震えているトム。デュアとジルヴィアの間に割って入る。
「おいっ、この野郎! 泣かすんじゃねーよ!!
その後に言う言葉を口にする勇気が出なかったが、改めてしぼり出すように言い直した。
「おいっ、この野郎! 泣かすんじゃねーよ!! お……お……俺のた……せつなデュアに!」
特に後半は声が小さくなって聞き取りづらかったが、トムの本心をデュアは聞いた気がした。
(……え?……)
そんな何度も交信出来ないと教えられた気がするのだが、またもやデュアのペンダントから父親の声が発せられたので驚く。
<デュア……デュア……>
「えっ、パパっ!?」
どうも切羽づまった声で急いで用件を伝えようとしてくる父親に触発されて、デュアも落ち着きがなくなってきた。
<久しぶりだな……なんて言っている場合じゃなかったんだ。デュア……大変な事が起きてしまった>
「な……何!? 大変な事って!」
<お……落ち着けデュア。無理を言って交信しているから手短に言うぞ。世界で次々と『優しい心』が抜かれている事例が起きているようだ>
そんな状況に陥ってきているなんて想像もつかなかったデュアも単純な驚き声以外では何もいえない。
「ええ!?」
今のこの悪い流れを止めるためにはデュアの決断が必要なので、心苦しいながらも非情な宣告をするしかなかった。
<う……うむ。そのためにもお前の気持ちを察してやれんでもないのだが、その……ジルヴィアを倒すべきなんだ>
もちろん世界に異変が発生しているのでは急ぐ必要があるという現実はわかるのだが。しかし、デュアの気持ちとしてはまだ迷いがあり続けているので涙声で父親に他の方法はないかと訴えかける。
「い……いやだよっ、パパっ何で……」
止まっていた涙がまた溢れ出そうとしていた。
<実は助ける方法があるんだ>
まだ希望はあるんだとデュアの声が明るくなる。
<う……ん。その方法とはな、彼にもう一度更生してもらうんだよ。それか、悪魔祓いの人に頼んでその悪を取り除いてもらう方法も成功するかもしれないらしいぞ>
その活路が嬉しくもあるが、デュアには出来そうにもないと思って目を伏せて弱気な言動をしてしまっていた(理由らしい理由は思いつかないが)
「でも無理よ、私には……」
デュアは無理と思っている事でも仲間ならやってくれるだろうと父親に聞く。
<大丈夫……トムがやってくれそうだから>
「え!?」
そのトム――
一旦双子のグレイとメイに攻撃をやめるようにお願いして、デュアを守る気持ちの強さで一人ジルヴィアに立ち向かう。
「おりゃああ!!」
まるで疾風かのごとき速さでジルヴィアに襲いかかっていた。
…………ッ!!
(なーんて、ひっかけで)
意表をつかれたフリをする魔族。捉えたとばかりに、ジルヴィアがトムの動きを氷で封じようとする。




