ジルヴィアの術にはまっている? 2
「あっ……!」
思い出したかのようにどこかスッキリした表情になるグレイ。どうしたんだと、トムが確認した。
「もうちょっと、もうちょっとなのよ……」
とても大事な事柄な気がしてデュアの握った拳にも力が入る。
しかしそのタイミングでジルヴィアの横槍が入ったのである。
<ダメです、もう少し私達の事なんて忘れていてもらいましょう! フォゲット!>
重要な何か。またもやデュア達全員の記憶から消え去ってしまった。
「……れ? あたし達は集まって何の話をしていたんだっけ?」
「そーいや、何だったか? 忘れちまった……」
それを引き起こしたジルヴィア、遠くからデュア達の見える位置で空中に浮いている。魔族の魔力のなせる技なのかどこかにトリックでもあるのか今の所わからなかった。
<そうです、それでいいのです……。しばらくの間忘れていてください。私と我が弟を楽しませてもらいたいですしね>
風が巻き起こったかと思ったら、ジルヴィアの隣にその子がやって来る。
「兄さん、何が『それでいいのです』だよっ。勝手にお姉ちゃん達の記憶を消すだなんてバカーッ!!」
怒声を張りあげた弟のクイに視線を向け、やってはいけない事に対してジルヴィアは注意を忘れなかった。
「……うるさいですねぇ……。マインド・スキャンをしましたね~~!? 使ってはいけないと言っているでしょう……。悪い子ですね」
ジルヴィアのゲンコツがくだりそうになったが、クイは危機一髪で避けた。
「全く、兄さんは笑顔で言うくせにやる事が怖ぇーんだよな……」
眼鏡のツルを右人差し指で調整して、改めてクイに質問する。
「何です、クイ。何か用があって来たのではないのですか?」
「別に用なんてないよっ。つまんないから兄さんに遊んでもらおうと思っただけ」
口をとがらせてクイが抗議した。
「だーって兄さんっ。ボクをまともに相手出来る人なんていると思う?」
「いるじゃないですか。あのお兄ちゃんお姉ちゃんたちが」
何を言っているんだかという様にクイが興味なさそうにしている。
「違うでしょ……みんなだらしないんだもん。ボクがあそぼうっつっただけで術をかけていないのに固まっちゃうんだもん」
「術を使った自覚がないんですから……。はいはい、一緒に遊べばいいんでしょう?」
「うんっ。兄さん、帰って遊ぼう?」
でもクイの本音ではやはりデュア達と遊びたいようで記憶を戻すように念押ししていた。
「そ・れ・か・ら。ちゃあんとお姉ちゃん達の記憶を戻してよね」
「そのうち」
そして今、デュア達を狙っている魔族幹部2人は風の様に去っていく。
その頃のデュア達――
これから魔族幹部が襲いかかってきてもいつでも準備出来るように戦闘経験をつまなければという辺りまで記憶が戻ってしまっているようだ。
「ふわぁっ、ヒマねぇ……。何か暴れたい気分だわ」
「そ~~いやどれくらい戦ってねえんだろうな。そろそろ経験をつまねーとやべえかもな……」
話が続いている中、メイが関連する魔族の組織についての話をし始めた。
「そうだね。それにしても『クジャク』って魔王は何を考えているんだろうね。ヘンな部下ばかり用意して」
デュアが気を引き締めるためにあえてメイを注意する。
「あら、ナメてかかっちゃイケナイわよ。ヘンな部下ばかりだけどアホに見えて実はそうじゃないって掴みどころのないトコロが怖い存在なんだから……」
「うーん、デュアの言う通りかもしれないな。僕達も力をつけないと!」
デュアやグレイの意見にトムも賛同し、全員で戦いの経験をつもうと決めた。
「んじゃー、行くか?」
トムが少し興奮が強い気がしたので、グレイが軽くおふざけな返事でガス抜きする。
「そら、いくべ<田舎の人風>」
グレイのした事が何となくわかるので流して、デュアとメイ女の子勢も気合を入れ直した。
「じゃあ行きますか!」
「お~~~~~~~~~~~~っ!」
◇ ◇ ◇
森の緑が修練しようとしているデュア達を出迎えるかのようにザワザワと風にゆらめく。戦闘経験を積むつもりではいるのだが、矛盾する事にあまり出会いたくはないのでそろ……そろ……と出来る限り足音を出さないように歩いていた。すると木の上からミノームンが出現。
「んもう! 気持ち悪いわねッ。ヤな奴が現れたわ……」
「げげっ……4匹も……」
デュアがこの魔物に嫌悪感を覚え、グレイが数が多いなと少し焦った。その時、メイが名案を思いついたとばかりに何かをしようとする。トムがどうせ役に立たない名案だろうと決めつけて期待せずに見ていた。
「あ! 良い事思いついちゃった」
「どーせ下らないんだろ? 勝手にやってろ!」
「じゃあやるもん! 思いつきワザやっりま~~~~す」




