クイとのイベントバトル 4.
正義側の精霊に語りかけられているだけでイライラするが体に力が入らない。
そんな状況にあるクイと精霊リリィの近くで不可視の風が起こって――
「コラッ!! お前は……! うん? あっ……申し遅れました。私はクイの兄ジルヴィアと申します。まったくお前はこんな無茶をしてまだ戦闘は早いんだ! ったくもう」
まずはクイに強めに言い聞かせるように注意し、どうにか様子をうかがっているリリィに対しては謝罪の言葉を述べて今は何もしないアピール。またもやクイに苦言を告げる流れに戻った。
「兄ちゃ……ん」
「叔父さんには怒られるかもしれないけど、これ以上無茶をさせられない」
改めて訴えかけるようにクイが疲れた声で言葉を紡ぐ。
「兄ちゃ……ん」
クイが視線でデュア達を『凝固』させた姿を伝える。それに気づいたジルヴィアが謎の言葉を詠唱し始めた。
「ん? ああ……クイにやられたみたいですね。では……」
精霊としての責務を果たすために、召喚者のメイ中心にデュア達を守ろうとするリリィだったが時すでに遅く――
「『氷』パワー全開!」
デュア達の『凝固』している体の箇所を中心的に氷を張った。
「何を……!?」
守れなかったと嘆く精霊リリィに対して最後まで見届けてから判断しろとばかりにデュア達の『凝固』を解く。
「心配しないでください。はぁッ!!」
気を入れてデュア達の『凝固』部分に氷の力を集中させると、心臓に悪い大量に何かが壊れる音、氷の崩れる音が聞こえる。その技術だけでもこの魔族幹部の実力が相当なものなのだと想定出来るというものだ。
「っくしゅ、何すんだよ!? アレ!? 右半身が動くぞ……」
トムがいろんな所を動かしてみた。
「でもっ寒~~。薪ねーか?」
「ハイ、どうぞ」
デュアが近くに落ちていた薪を渡す。
「うー、サンキュウ」
トムが自らの能力を活用して種火を作って火をつけた。
「は――――、温け~~」
「じゃあ私は戻りますね」
デュア達の無事を確認してどこかホッとした声色で精霊リリィが声をかける。
「じゃ私は帰りますね」
「最後まで付き合ってくれてありがとう。あなたの従順さに救われたわ」
精霊のリリィの帰還を見送っていたデュア達を待ってからジルヴィアが丁重に頭を下げた。
「きっとコイツは再度挑戦してきますから楽しみにしていてください」
「楽しみじゃねーよ」
そうトムは毒づいたがジルヴィアは特に気にしていない。
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 私の兄は……グレイはどうなるの!? 倒さなきゃ還ってこれないんじゃない。最後まで……」
言いたい事を最後まで言えずにメイは涙ぐんでしまった。
「死んでいる人の魂を呼び戻すのは神に逆らう行いですが……。クイが殺してしまったのですから方法はありますね。それは精霊の歌を歌うという方法ですが。しかし……」
苦悶の表情を浮かべてジルヴィアが目を細める。
「しかし……って、でき……ないの?」
悲しそうにうつむきながらメイが問いかけた。
「ハイ……わたしには残念ながら……」
落ち込んでいる状態なのでつかみかかりに行ったりはしないが、もし元気ならつかみかかったかもしれない。そんなメイがどうにかしたいと質問している。
「じゃあ……グレイはどうなるの? まだあの世への道にいるって事……?」
ジルヴィアがメイを見据え、可能性がある事を匂わせた。
「しかし一つだけ方法はあります」
「なっ、何!? その方法って……!?」
食いついたメイを気にもせず、単に説明しているだけかのような口調で告げる。
「精霊のように美しく、しかも『優しい心』を持っている者でなければ願いは届けられないでしょう。おや!? あっ、そうでしたそうでした。こちらにはいるんでしたね。そういう人物が」
視線をジルヴィアが向けると、デュアは落ち着けなくなってしまった。
「え……っ? わ……私?」
少し緊張して喉が渇いてきたデュアの疑問に、ジルヴィアが応じる。
「ハイ、あなたです。綺麗な声をしていますね」
「やだ……そんな……」
どんな状況であろうとも、自信があるとはいえない事を褒められて照れない人物はいないのではないだろうか。代わりにトムが聞いた。
「どうやるんだ!? 教えてくれ」
やるのは『優しい心』の持ち主だと思いつつも答える。
「……生き返るように念じながら歌うのです」




