街で隠れる謎の影
『グレイ君にメイちゃん、良かったね。残念だがそろそろ回線が切れそうなんだ。すまないね』
そう言われたが、奇跡的に大切な家族の声を聞けたので十分といった受け答えをした。
「い……いえ!! 貴重な情報を入手させてもらいましたし、両親の声が聞けただけで充分です」
『デュアにも聞こえているか? また運が良い日があるまで(あるかどうか不明)じゃあな!』
そして回線が切れたときの無機質な音のみが残った。その後で、トムがグレイとメイを励ましだした。
「良かったな、二人とも!! 声が聞けて」
「うん!」
2人同時にうなずく。
「あ~~っ、あたしもなんか心が晴れたって感じ。えへへっ、パパの声も聞けたし……」
「ね~え、トム? 本当はトムも両親の声を聞きたかったんじゃないの?」
メイがイタズラ娘っぽく言い放つ。
「ばっ……! んなわきゃねーだろ。また小言を聞かされたんじゃたまんねーや」
トムが顔中、耳まで真っ赤になって答えた。半分は事実で半分は建前といったところである。今度はデュアにまでからかわれた。
「もぉ、トムったら素直じゃないんだからあ。素直に言っちゃおう?」
「うっ……うっせーな。そーだよデュア」
「ほーらやっぱりねー」
メイとデュアでトムの本心を教えてもらう目論見に成功する。
「でもこのペンダントの特殊機能わかって良かった。これでパパ達の声が聞ける可能性が残ってるって心の支えになるものね」
首にぶら下げているペンダントをデュアはそっと握り寄せた。
「なぁ、デュア? リリィさんがよ、オレ達に育って欲しいとか言っていたけどどうすればいいんだろうな?」
トムが不思議そうにデュアに聞いた。デュアも考えるのだが答えは出ない。
「う~~ん、そうねえ。どうしてかしら? ねえ、メイちゃん。もう一回リリィさんを召喚してくれない」
「残念ながら精霊さんの応答すらないわ。駄目みたい。ごめんなさい」
メイが呪文を唱えた。結果、静寂に包まれたままだった。どうしようもなくなったところでトムが切り替えの速さを見せる。
「どうにもなんねえならしょうがねえ。まずは寝床から探そうぜ」
歯切れ悪くデュアがトムに同意した。
「うん――」
「あ~あ、たりーよなっ。たくっ……ん? あそこに灯りが!?」
目に見える範囲に街の灯が見えた。なのでデュア達が走って近くに行ってみるとのどかな街の風景が広がっているのを目視。
物陰にはそんな彼らを見ている怪しい影があった。
“くっくっく、このミトースの街までやってくるとは愚かな連中だ”
◇ ◇
デュア達が町の入り口で灯の強さに立ち尽くしていると、一人の町人らしき人物が話しかけてくる。
「ようこそミトースへ! 旅の方ですね? 私はこの町の案内人リンディと申します。今日はもう遅いですし宿屋をお探しかと思いますが、いかがいたしますか。それともこの町のどこかに行きたい場所でもございますか?」
「あ……あの、リンディさん…………。宿屋の方でお願いします」
メイは人見知りするタイプなのだが、本当に疲れているのか誰よりも早く口を開いた。
「あっ! 気がつきませんで。そうでしょうそうでしょう、まずはわが町の宿屋でごゆるりとお休みになられるといいんじゃないでしょうか?」
それで案内人リンディに案内してもらったデュア達であったが、案内人のこの人には悪いけどこの町で一番高い建物が宿屋だと教えてもらった方が効率的だったとデュアは思う。
「大きい――!!」
皆、目を丸くしてその建物を見た。
「あははははっ、それはそうですよ。この宿屋のご主人はいろんな商売に成功して大金持ちになった人ですから。でもご心配なく。お客様にはリーズナブルな価格です。お客様四名で八フォゴルですね」
聞いた事もない通貨に戸惑いながら表の世界のお金を調べてみたデュア達。財布の中を確認すると見た事もないお金を持っていた。リリィさんがそうしたのかな?
「それです。結構お金を持っていらっしゃるんですね。十フォゴル頂きましたので二フォゴルお返しします。それだけ持っているのでしたら明日にでもアイテムの補充をするといいんではないかと」
案内人のリンディさんが受付を代わりにしてきてくれた。トムとメイはさほど気にしていないようだが、デュアとグレイは通貨をごまかされた可能性を否定出来ないので疑惑の視線を案内人にぶつける。
「何だか空気が穏やかじゃありませんね。詳しい理由は存じ上げませんがどうもあなた方は通貨のことをほとんど知らないようですね。いいでしょう、身の潔白を証明します」
そう言うと、案内人リンディは世界の通貨という本を宿屋の主人から借りて、詳しく説明してくれた。
「この世界の通貨はすべてコイン状で裏に一・五・十・五十・百・五百・千・万といった感じで特殊技能を使用した数字が彫られています。ですから注意すればごまかしなんて見破れますよ」
疑念を持ったデュアとグレイが平謝りすると、気にしていませんよという表情で案内人リンディは帰っていった。案内の仕事はこれで終わりだということだろう。代わって宿屋の主人がやってくる。
「さぁ、お客様。お部屋にご案内しますね。階段はお気をつけて。ごゆっくりお休みくださいませ」
デュア達が多分宿屋の主人の趣味で飾っている高級そうな壺つぼや美術館あたりでしかお目にかかれなそうな絵に感嘆している間に宿屋の主人に泊まらせてもらう部屋まで案内されていた。
“くっくっくっ、私のような大物が隠れているとは夢にも思うまい。楽にしてやるぞ、このヴァルマー様がな”
その部屋のベッド下に身を隠し、デュア達が油断しきった状態の時に始末するつもりなヴァルマー。部屋に忍び込んで隠れている。この時、グレイとメイはこの部屋から異様な感じを受ける。
「グレイ……、どうも誰かに見られている気がしない?」
そう聞かれてグレイも妹に感じたままを伝えた。
「やっぱりそうか?ボクも冷たい視線以上のモノを感じるんだ。動きがあったら対応しような」
ヴァルマーが忌々(いまいま)しそうに毒づく。
“ちっ、予想外に勘の良い奴が二人も! 俺様の気配に気づきやがったな。侮れん奴らよ。ならば早急に事を起こすか”
ヴァルマーはグレイとメイに充分な対抗をさせないようにすぐ行動に移すことを決めた。双子2人のピリピリ張りつめている空気に気づかず、その時にトムが口を開く。
「なぁ、部屋割りどーする? オレとグレイに、デュアとメイちゃんってことでいいか?」
双子ちゃん達はそれぞれで万が一に備えようと密談を交わした。そしてデュアとメイは隣の部屋に移動する。
“これは都合が良い。俺様の目が確かならば一番『優しい心』を持っているのはこのトムとかいう小僧だからなぁ”
敵は相当の実力者らしく、グレイも警戒を強めてはいたが、いかんせんまだレベルの差がありすぎた。グレイは全く気づくことが出来なかったのである。ヴァルマーは仮に見つかったとしても人間の美形に程近い姿をしているのであるが…………。
魔族ヴァルマー レベル32 適応能力26 かしこさ54
経験値については『イベント経験値とかも』考えている最中だったり。
敵を倒す経験値以外を作らないと、この話で彼らが強くなっていく理由が説明できない><
これで1章終了。2章に入ります。