魔族幹部達の次なる刺客って! 4、
体が求めている時の飲み物の何と美味しいものか。余韻を味わっているかのような動作の後に息をついた。
「足、イタイわ……筋肉痛~~っ」
「すまん、俺のせいだな。俺もイテ~けどよ」
確かにトムが散歩に誘って来なければ筋肉痛になったりしなかっただろう。でも2人っきりの時間は今の状況ではかけがえなかったよと心に秘めた。口ではお遊び口調でトムの謝罪をその通りだと断言したが。
「んっも~~そうよ! トムのせいよ! バカンっ」
「悪かったって」
そんなデュアが黙りこくったので、トムは何か気に触ることでも言ってしまったのかと訊いた。
「どうした?」
「ん……何かまた聞こえたような」
そういえばデュアの奴、少し前も気配かなんか感じていたな。今回もその可能性が高そうだと思って気にしすぎだと言ってやるつもりだったのだが――
「また? 幻聴とかじゃねーのか?」
どうも不穏な空気が漂っている気のするデュアは、自信はないけど悪い予感が忍び寄っている気がしてとトムに伝える。
「ううん。そんなんじゃないと思うのだけど……」
「まっ、いーじゃん。んなの気にすんなよ」
楽天家のトムの意見に流されて、デュアも構えてればいいかくらいの気持ちになった。
「ん~~~~、そうね。気にしないことにするわ!」
アイテム効果で宿屋に帰宅。
彼ら2人、どちらともなくお腹がなった。宿泊用の部屋にある机でトムとデュアは、ぐて~~~~っとだらける。
特にデュアはあまり気を張りつめすぎたらその瞬間になっても疲れが足を引っ張っちゃうかもと思い直したのである。
「腹減った~~」
「そういえば私も……」
さっきまで不思議アイテムの効果で自分の意思と関係なく歩かされてきたのだ。神経をすり減らして休息を体が求めていると考えられた。
「フフ……もうしょうがないわねっ、ちょっとおばちゃんのところにいってライスボールを作ってもらえないか頼んでくるよ」
疲れが表面化しているデュアとトムにメイがおせっかいをやき始めた。廊下に出て行ったメイを追いかけるようにグレイも同行を申し出る。
「あっ、じゃあ僕も行くよ」
「え……!? ちょっとグレイ……!」
引き止めるかのようなデュアの声は聞こえていたが、聞こえなかったフリをして階段の近くで待っていたメイとおちあう。デュアとトムに聞こえないように小声で、双子ちゃんがささやきあった。
(うふふっ、また2人っきりにしてあげたわね)
(うん。僕達って気が効くよね)
グレイとメイが一時的に退室して2人とも何だか気まずいような微妙な雰囲気のまっただ中にいるようだ。
(う~~っっ、気まずいぞーっ。な……何か喋らなくては……)
せめて話題くらい出さないとって考えてトムは悩み出した。
(な、何でなのか恥ずかしいよ~~っ。わかんないけど何を喋ったらいいかわからなくなっちゃった)
困ったと表情に出してしまっているデュアにとにかくなんか喋ろうとトムが話しかける。
「なっ、なぁ。デュア」
「なにっ!? トム」
話題を振ってもらえるのは嬉しかったが、少し変な声を出してしまったかもと恥じらうデュア。トムは適当な話題が出て来なかったのでさっきデュアが気にしていた声について質問する事にした。
「お前さ~、さっきから得体のしれない声が聞こえるような事を言ってただろ? その声ってどのくらいの年の声だった?」
ちょっと思い出すように小首を傾げてから デュアは自信なさそうに答える。
「ん~~~~、そうねぇ大体……私達より少し幼い声だったかしら……?」
<ワオ! お姉ちゃんってばすごいな! ビンゴだよ!>
どこからともなくデュアにのみ声が聞こえてくる。どんな魔法の様なものか不明なので得体のしれない不気味さが感じ取れて怖い部分もあった。
「ん……!? また……」
別にデュアの態度が気に入らないわけではないけど、トムがどこか不機嫌な表情をする。
「その声の主は男か女、どっちだ……!?」
でもデュアにはトムの表情が怒っていると取られてしまったようであった。
「な……なんでそんな表情をしてんの!? 男の子……っぽいかな」
「そうか……」
小さくつぶやいたトムが思案顔になって黙ってしまったので、デュアは話が続けられなくなる。
一方、その頃の双子ちゃんは――
調理場を貸してもらっている食堂のおばちゃんにメイが代表してお礼をしている。
「おばちゃーん、あたし達ってばとんだワガママを言っちゃってごめんなさい」
「あーっ、いいのよ。だって料理するのが仕事なんだからね」
そういう事が苦にならず楽しんでいるグレイがご飯を握りながら
「いや~~、懐かしいな。僕ってばライスボール結構得意だったりするんだよね」
両親に教えてもらった事を懐かしみながら手を動かしているグレイ。哀愁を感じている様子を表に出していない事から、両親の死を受け入れている一面かもしれない。そんなグレイに屈託ない笑顔で食堂のおばちゃんも軽い冗談を混じえた感じで聞く。
「ホントねー、あんたを男にしておくのがもったいないねぇ」
冗談だとわかったので、グレイもお遊びで軽口を叩いて笑った。
「ハハハッ、僕達はどっちが男だか女だかわからないですから」
そのグレイの軽口に対してメイが口をとがらせる。
「たちって何よ! あ、あたしが男勝りだとでも言いたいの!?」
そんなちょっと怒りを抑えきれなくなりつつあるメイがグレイを問い質した。
「やだなーっ、メイってばそんなムキになっちゃって……。性格の事を言っているんなら……それを自分で認めているから怒りを覚えちゃうんだよ」
指についたライスボールを握った際につくご飯粒をなめとりながら
「あたしだって作っていたじゃない、ライスボールッ!」
メイの剣幕にほんのわずか目を丸くしたグレイだったが、形のいびつなライスボールの形を見て遠慮のない感じで笑う。
「ハッハハハハ!! だってお前のライスボールって形になってないんだぞ。おかし~~~~!!」
笑われているのが我慢ならないメイが肩を震わせて笑うのをやめるように怒りをぶつける。
「う、うるさいな。黙ってなさいよ、黙って!!!!」
今はお客さんがほとんどいない時間帯でまだ良かったが、食堂のおばちゃんのお客様がいる事を想定しての注意にグレイとメイ2人してプロ意識の高さを感じた。
「そうだよ、お前さん達。静かにおしっ!」
その後、メイがライスボールを作って皿に置いているのを眺めてうまくいったかなとどこかホッとした表情をしつつ自画自賛している。
「さて……でーきったっと。良かった~、なんとか形になってる」
「そうだね」
メイの気づいていない時を見計らって僕が形つくってあげたんだけど……。と声には出さないがそう思いながらもそれをおくびにも出さなかった。
「やーっと持っていけるよ」
「じゃあ、ありがとうおばさんっ。持っていくね~」
威勢よく返事を返してくる食堂のおばちゃん。2人して頭を差が手から返事をする。
「あんた達、早く持って行っておあげ。きっと待ちぼうけを食らっている2人としては早くして欲しいと思っているだろうし」
「は~~~~い」
ライスボールを20個くらい並べているお皿を持っているグレイには無理なので、メイが宿泊している部屋のドアを一応ノックした。
「お待たせ~~っ! 食堂のおばちゃんとあたし達で作ったライスボールだよ」
グレイがライスボールの中身を待っていたデュアとトムに教える。
「アハハッ、中身はかつおぶしと梅干し。それから鮭だよ」
せっかく作ってきてもらったライスボールを前にして空腹なのは事実だけどと、トムが考え込む。すぐに食べそうな勢いで来るかと思ったのでメイは拍子抜けした部分もあるが聞いた。
「? 何を考えているの?」
「いやーっ、せっかくライスボールを作ってきてくれたのは良いんだけどさ。なんかもっとうまくコレを食える方法がね~かな~って思ってよ」
「そうね~~」
トムの提案にデュアが賛同した。結局ライスボールを見て空腹が我慢できなくなったトムが一口ほおばりつつもごもごと話そうとする。
「おっ! ほーら! あほこが良いよ! ホラッ! 俺とデュアがいっはほこ!」(訳 おっ! そーだ! あそこが良いよ! ホラッ! 俺とデュアがいったとこ!)
口の中に食べ物が入っているのは行儀悪いのでグレイが苦言を呈した。
「お前ねえ……食べるかしゃべるかどっちかにしろよ」
おにぎりを食べたのを飲み込んでトムが自分の食事の仕方が悪かったのを反省した。その後すぐにメイに瞬間移動でそこまで行けないかと訊ねた。デュアに聞いた所で何かあった時に対処する方法が減っちゃうでしょと一蹴されるのがオチだからメイに聞いたのである。
「ゴックン! ごーめんゴメン。ははっ。なぁ! メイ。瞬間移動できねーかな?」
男の子の声の謎は次回以降にお預け




