新章 魔族幹部達の次なる刺客って? 1 挿絵あり
――クジャク城――
――魔族会議――
「バカ者が!! あれほど言っておいたであろう!!あれ程『人間』の名残は残すなと……」
マーヤがまだ表舞台に登場しなさそうなマーヤ直属の部下ルファに苦言を呈する。
「マーヤ殿……。過ぎた事をグダグダ言ってもどうしようも有りませぬ」
自分より階級が上のバラスにそう告げられてしまえば黙るしかない。
「バラス殿……」
「あ~~あ、結局敵対してた者が死んでしまうとはなぁ……俺様がわざわざテレパシーで忠告してやったのに……」
――と顔に陰りを帯びさせて少し悲しそうに下を向いた。
「ヴァルマー……今、お前悲しそうな表情になっている様子だったが?」
魔族の幹部なので、感情なんて失くしているも同然のはずである。張り合いがなくなったという事はあったかもしれないのを表情に出して明るい口調で応じる。
「いやだな~~、バラス様っ。俺様に『心』なんてあるわけがないじゃないですか」
特段気にしている訳でもなかったのでバラスも簡単に流した。
「フッ……そうだな」
魔族の会議にふさわしくない子どもの声が会議室内に響き渡った。
「……うそつき! ヴィアンのにーちゃんが死んじゃって喧嘩相手が? 気にかけていたってことだよね」
その小学生くらいの10歳前後な見た目の魔族がヴァルマーを茶化す。
「クイ! 子どもが口出しするんじゃない!」
ちょうど20歳前後の見た目な最近幹部入りしたという頭の切れそうな魔族がその子どもを注意する。こいつはまだしも、子どもがこの場にいるのが気になって仕方のない。不満げにヴァルマーが質問した。
「バラス様ッ! 誰っスか。この子ども《ガキ》は!」
「ガキ……失礼だなっ。ボクはもう10歳だよ」
「思いっきりガキじゃね~か!!」
だいぶ幹部歴のあるヴァルマーに、クイが生意気な口を聞く。
「ヘンッ、あんたよりかはガキじゃないやいっ!」
いくら同じ魔族とはいえども優劣の差くらいはわからせてやりたいヴァルマーだったが――
「やめんか! 二人とも! 会議中に……」
ヴァルマーは注意を受けて丁重に頭を下げた。が、クイはそしらぬ顔をしていた。
「スイマセン……」
咳払いをしてバラスがクイの能力を確認する。
「ところで、クイの能力は何だったかな?」
聞かれても口で説明する頭脳は持っていなかったらしく、行動で能力を発動させている所を見せるクイ。
「え~~ボクの能力? うーん、よくわからない。でもこんな事なら出来るよ!」
クイの能力によって一時的に魔族の幹部達のいない部屋の空間が凝固してしまった!
「す……すごい」
この声は魔族幹部の誰の者か不明だが、驚きの声を上げられなかった幹部達の代表みたいな感じになる。
そんな中でマーヤがハッと気づいた。
「も……もしや、これは」
そのマーヤの様子からバラスが丁重に訊ねる。
「マーヤ殿、なにかお気づきになられたのですか?」
マーヤがこの能力はかなりのレア能力で高確率でクジャク様復活の助けになるはずだとバラスに伝え、その後でクイの肩に手を置いて称賛した。
「クイ……あなたの能力はすごいですよ……。これならあの者どもの『優しい心』を奪いやすいかもしれぬ」
今、初めてこの会議の席に来たクイなのでそう言われても誰の事なのかわからない。
「あの者ってだぁれ?」
「では今からお見せしましょう」
何やら意味があるのかないのか不明な事だが、水晶の左右で占うように手をゆっくりと上下に動かしながら、マーヤが占いで水晶に力を送っている。水晶が光り始めデュアとトムが映し出された。
「わあ! 美人なお姉ちゃんとかっこいいお兄さんだ!」
それだけで十分と判断したのか、マーヤが占いをやめると姿があいまいになっていき、やがて水晶からは何も見えなくなる。
「ちぇ~~っ、もうちょっと見てたかったなー」
ぶーたれたクイの表情をみたマーヤが苦笑交じりに提案する。
「まあまあ、クイ……いつでもいいからそのお姉ちゃんとお兄ちゃんを生で見ておいで」
「え~~~~っ、いいのぉ!? ワーイワーイ。いーーっぱい遊んでもらおーっと♪」
えらく子どもっぽい喜び方で嬉しそうにするクイをマーヤはたしなめた。
「コラ、クイ。私達だけが承知しても仕方がないだろう。兄のジルヴィアにも許可をもらいなさい」
「はーい! それじゃ皆さん失礼しまーす」
煙球を地面に叩きつけて煙幕をまく。
「ゲホゲホッ……普通に消えたり出来るんじゃないのかよ~」
近くにいたので煙を吸い込んだヴァルマーが咳き込んでいる。そんな中、バラスが煙の来ない位置に座っているので冷静な表情で腕組みをしていた。
「バラス様、よく平気な顔していますね」
「慣れているからな」
不思議に思ったヴァルマーが疑問点を訊ねる。
「慣れ……って、バラス様はあのガキの何なんですか!?」
別に隠す必要もないのでそういう関係だからどうしたといった感じで答えた。
「叔父だ」
「叔父……そっスか」
その噂の子ども、クイが一度戻ってくる。
「おじさーん、いいってーっ!」
そうした機会が出来て認める気になったら書類を用意してやれとクイの兄に言ってあるので、バラスがそれの有無を確かめた。
「証書は?」
「はーい、この通り」
丸めた紙を手に持っていたクイは、紙をまっすぐにしてこれでいいんでしょ? と得意げな顔で見せる。
「うむ。よかろう、行っといで」
バラスが仕事を取るので、マーヤは私の仕事を取らないで欲しいと微妙に焦ってしまう。わずかでも焦ったかのような口調になった。
「それはわたしの仕事ですよぅ」
「いつぞやのように失敗されては私が大目玉を食らうものでな。今はクイに任せる事を決める」
もちろんそれは結果的にデュア達に幹部を退けられたことを指しているというのは想像に難くない。
「…………………………」少し顔を赤らめた。
失敗を指摘されたマーヤは失敗という羞恥を振り返って表情に出てしまっているのであった。
「じゃー、早速行ってこようかな!」
静かに座したまま、バラスが威圧感たっぷりにクイに頼む。
「頼むぞ、クイ」
元気いっぱいに返事をしてクイが去っていった。
「はーい! 任せておじさん!」
そしてクイがその場にいなくなって、魔族会議の閉会を宣言したバラスは幹部達をいつもの場所で待機あるいは仕事をするように申し付けた。一人残ったバラスは叔父な一面を見せてただ応援の言葉をつぶやく。
「任せたぞ、クイ……」
う~っ、ワクワクするなぁ。ボク、綺麗なものってだーい好き。そーいやあのお姉ちゃん、キレーなペンダントを持ってたなー。どーせ『心』を取った後ならなんっにもわからないんだから。
もらっちゃお~~♪
……おっ、早速お姉ちゃん達がまだ滞在中の町が見えてきたぞ。
待っててね~
欲しいものを入手するためなら手段を選ばない、子ども(クイ)の残酷な一面。でもそんな様子は全くわからない無邪気な姿なのでかなり危険かもしれない。




