ヴィアンとの戦闘後 挿絵あり
今回の一戦、ヴィアン戦はさまざまな運に助けられすぎである。これからの心配は尽きないが、とりあえず命あっての物種だと二人も生きている事実を改めて確認した。
「うん……心配かけちゃってゴメン」
照れているのがバレバレなトム、顔を赤くしながらデュアを直視できないのでそっぽを向いてごまかす。
「いーよ、そんなの。照れるじゃねーか」
3人の仲間にバレバレだが、照れるうんぬんの部分はトムとしては誰にも聞こえないくらいの小声で言っているつもりであった。
リリィ、戻っていいよとメイが召喚精霊にお礼を述べた。そうする事でリリィが光の中に帰っていく。
あまり喜べる状況ではないが、敵の魔族幹部を倒した事は事実なのでレベルアップする。しかし状況からして誰も……気づいていたとしてもその事は口にしなかった。今はこんな結末になったのを受け入れるのが精一杯だからだ。
レベル40のヴィアンを倒したことでの能力変化――
デュア レベル 26 HP169 適応能力 36→45 かしこさ 109 勇者見習い
適応能力がある程度上昇している理由は、ヴィアンに捕らえられている時も最後まで抵抗を貫いたので。失敗しようとそこから学べるというのもありますしね。
トム レベル 30 HP223 適応能力 42→50 かしこさ 74 戦士
適応能力がそこまで伸びなかった理由は、一番活躍しなければいけない場面で敵幹部の呪法にやられてしまったため
メイ レベル 29 HP150 適応能力 37→48 かしこさ 115 召喚士
適応能力アップ理由は、召喚でトムの傷を回復するタイミングの的確さなど総合して
グレイ レベル 30 HP182 適応能力 35→41 かしこさ 129 魔法戦士
なかなか適応能力が伸び悩んでいるのは裏方だからか。しかし、逆の考えを持ってもらえば慎重で仲間の能力バランスも上手く配分するような動きをしているのかもしれない。近い未来、適応能力が大幅アップするかもしれないよ?
※レベル上昇と共に、HPやかしこさも上がっていますが、一番重要な適応能力の上昇値のみをわかりやすくしてみました。
「……ようやくみんなそろったね」
デュアがしんみりとつぶやく。
「もう……デュアッたら心配させるんだから……。もう……」
メイは目頭が熱くなってきたがこらえた。デュアもそうだったかもしれない。
「さぁ、宿屋に戻ろう。もうみんなヘトヘトだ」
女の子等を気遣ってグレイがみんな無事、再会の喜びは安全な場所に戻ってからでいいだろうというのを提案した。メイが召喚術で精霊を呼び出して頑張ってくれたみたいだったので余力があるデュアの方が瞬間移動術を発動する。
テレポーテーション!
白い霧に包まれて、しっかりとあの時の宿屋入り口前に到着した。
「ふう。ただいまーーっ」
誰が応じてくれるとかはないのだが、デュアが気持ち的に帰ってきた時の挨拶をした。そんなデュアを優しげな瞳で見つめていたトムが今したい欲望のままの行動を声に出す。
「さーぁ、寝よう寝よう! 俺、もうクタクタだぜ」
「おやすみ~~~~」
宿屋の主人と女将も気づいてはいたものの、お客さんがすぐ寝そうだという判断で「おやすみ」と声をかけるのみ。聞こえてなくとも気にしない様に。
みんな口にしないだけで疲労が色濃い。部屋に行くまでにウトウトと寝かかっていて危なっかしい足取りだ。それでも男部屋、女部屋に間違いないように入っていつの間にやら泥のように深く眠ってしまっていた。
昨日の夕方前くらいから次の日の朝7時前
太陽の光が窓から今日はちょうど良い気候だと教えてくれているようである。
「ん……」
デュアが布団の中でもそもそし始めた。
「ぅわ~あ」
あくびが出たことで微妙に頭がすっきりして脳が働いてきたデュアが窓を開けるとさわやかな風が吹いている。
「気持ち良い~~」
その風を木も受け入れているのか、どことなく嬉しそうにさわさわと騒ぎ始めているように感じる。しばらく窓を開けっ放しにして風を全身に浴びていたのでクシュン! という可愛らしいクシャミが出てしまった。
「うう゛~~さむぅっ。ちょっと風にあたりすぎじゃったかな」
女子部屋をノックして返事がなかったが、隙間風が廊下にまで流れ込んできていたので軽く文句を言ってやろうとトムが部屋のドアを開けた。
「こらぁっ、寒いぞ! まったくもう少し休んだ方がいいだろ。ったく……」
「い~~~~じゃん別に。もう朝の7時くらいなのよ」
「全く……いったいぜんたい何時に寝たと思っているんだよ」
そう聞かれてデュアは思い出していた。昨日の夕方くらいからの記憶がないから――
「ん~~~~……どうだったかな。多分16時すぎくらいだったと思うけど……」
デュアに昨日の事を話してもらったトムの頭の上に電球がついたかのようになる。
「そうか! だったらもう起きてもいい頃だな」
最初はトムもごまかし笑いのように笑っているつもりだったが、デュアも遠慮して控えめに笑うので面白い事があったわけでもないのに二人の時間を共有するかのように笑いあった。
「久しぶりだな。二人っきりで話すのは……」
デュアが目を細めて笑顔を作る。
「そうね。久しぶりね」
トムに気付かれないように少しずつ近づいてトムの肩によりかかる。
「大ー好き。トム」
(じょ、冗談でもうれしーぜ!)
二人でしばらく時がすぎるのを待った。




