ヴィアンとの再戦 3
「! 羽がなくなっていく」
メイは涙目になっていた。シーオンの背中から完璧に羽が消え去ってしまったから。
「……なくなっちゃった……。羽が……」
グレイは悲しさを抑え込み、ただ首肯することしか出来なかった。
「うん……」
シュウウウ……といった音が出ているかのような消え方でシーオンの体までもが消え去っていく。
「うう……!」
そんなに悪い存在でなかった幻想生物の存在消失に、メイが悲しさのあまりヒザを折って座り込んだ。
◇
そんな状況でデュアが目を覚ました。今、自分はどこにいて何をされているか。危険な状態で気絶させられていたのだから混乱するのも無理はない。だが、デュアが周囲の様子を確認すると目前でヴィアンに異変が発生していて何が何だか……? 一番近くにいた本人に今の状況の説明を要求する。
「?? どうしたの!?」
その質問に対してヴィアンが苦しげに返答した。
「い……や……。死の……第一歩を歩……みだし……ているのです……! そなたの『心』の変わ……り……に……クジャク様が私……の……魂を……抜いて……いるのでしょ……う……」
いくら自分の命が助かったとはいえ、理解が追いついていない内にヴィアンが呻きをあげながら苦悶の表情を浮かべているのはいたたまれない。
「なんでよ!? なんで!? あなた達には『心』ってもんはないんじゃ……!?」
その疑問に答える気力も残っていないので後で仲間にでも聞いてくださいとだけ言い残し、ヴィアンは伝えておきたいと思った事のみをデュアに語った。
「元……は……人……間なのさ。そな……たと同じ……っ。人……間は……次から次へ……と……『心』が成長……してい……く存在な……のでしょ……う? そうい……う……心の持ち……主をが……生まれるので……すから。…こ……れは……覚えてお……くとい……い……でしょう。きっ……と役……立つ」
途切れ途切れの意味深な最後の忠告に耳を貸していたデュアはそれをもってヴィアンの命がこときれたのを理解する。
「家バカ……」
デュアが苦しまぬようにか、抵抗されたら面倒くさいと思ったか定かではないが気絶させられていたので彼女は自分も死の旅に出ていたとしても不思議はなかったと感じる。しかし、ヴィアンも自らの行動を疑問に思ったか葛藤したのかもと考える。ただの悪者ではなくもっと別の結末があったかもしれないと思えたのだ。自然と流れ出ていたデュアの涙がほおをつたってヴィアンの顔に落ちた。
「マ……ガ……レット……」
どうやら魔族ヴィアンが死んだと感じたのはデュアの早とちりだったようである。
「え!?」
実際の所、もしかしたらデュアの涙がきっかけになって本当にこれだけは言い残しておきたいと最後の力を振り絞ったのかもしれない。もう二度と戻ってこないと思っていたヴィアンが弱々しく近くの者にしかわからないような声量で何かを言っているので耳をそばだてた。
「マーガレット……」
そうした方が良いと思った瞳をウルウルさせているデュアは、ヴィアンの手を横から軽く持ち上げて握ってやる。
「家バカ……!? 意識が戻ったのね」
多分横にいるのが誰かなのもわかっていないのだろう。空虚な瞳で天を仰いだまま手を握っている人物が伝言を伝えてくれるのを信じているだけ。
「伝言……を頼み……たい……」
「うん、わかった……」
その返事が聞こえていたのかどうか定かではない。少しの間があった後に、ヴィアンが装備品入れから女性物の宝石らしいものを渡してきた。
「ボーデ……。ノーウェのボーデに行くことがあっ……たら……うっ……。マーガレッ……トにコレ……を渡してくれ……! 好きだった……と」
それはペンダントだった。いくら敵だったとはいえ、形見を渡してくれという願いは聞き届けてあげようと握りしめ、アイテム袋にしまう。
「あ……り……が……と……う……」
今度こそ誰の目から見ても明らかなように息絶えてしまった。
「きっと……アンタの言ったコト守ってみせるよ。任せてね」
今回の幹部と幻想魔物はデュア達の心境に大きな変化をもたらした。それは今後明らかにされる時があるかも知れない。
「きっと、アンタの言った事を守ってみせるよ。任せてね」
きっと――――――――――
デュアがその時にすべきことを心に刻み込んでいると、トムがヴィアンの気絶呪法から意識回復した。
「ん~~~~、よく寝たな~……ってそんなバ……」
気絶呪法を使われる前の状況が状況だった。起き上がりこぼしどころじゃない早さで起きあがる。だが、結果的にはトムの脳裏に浮かんだ最悪な展開――デュアの最後という光景ではないことを徐々に理解していった。トムと向かい合わせな位置にいるデュアが控えめに元気だという意味で手を振る。




