ヴィアンとの再戦 2
トゲのある言い方をするかと思いきや、念動力からは喧嘩する相手がいなくなってさみしくなっちまうというヴィアンの感情が流れてくる。本人に気づいている様子は皆無だった。
"そーだよ! あの馬は大事なんだろ? 小さい頃からの友達なんだろ? 失いたくなかったら早くやれよ! やっちゃえよ! マーヤ様の言う通りやりゃーいーじゃねーか。なっ!」
頭ではヴィアンもやろうやろうとしているのだ。しかし、迷う心が体を支配して動きを制限してしまっている。
う……
"迷っているバアイじゃねーってばよ! 倒れそうになっているバアイじゃねーぞ!? さぁ、起きろ。起きんだよ! 俺のライバルよ!"
ふらつく足取りながら、ヴィアンがしっかりと立ち上がる。それだけヴィアンに借りを作るのはゴメンなのである。喧嘩する相手の掛け声はヴィアンに力を奮い立たせてくれた。
(そうだ……ありがとうな! ヴァルマー……うっ、やっぱり立ち上がると目まいが……クラっとくるぜ……悪いがヴァルマー……俺を起こす手助けを許してやっていいぞ)
こんな状況になっても毒づくヴィアンに呆れ半分なヴァルマーは、それでもこいつをからかうネタとして使えそうだと気付かれないようにほくそ笑み、魔族の念動力使用でしっかりと地面に足をつけてやる。
"仕方のないヤツだ、ホラよ……!"
ヴァルマーにからかいのネタとして使われるとは気づかないヴィアンが、魔族の力でヴァルマーが視覚を同調することを許してガッツポーズを作ってお礼を言った。
(Thank you! 行ってくるな!)
"おう、頑張ってこいよ"
(おうっ!)
そんなやりとりがヴィアンにあった事なんてトム達にはわかるはずもない。ただ、わかるのは結局のところヴィアンにも残された力は多くないという事だけだ。
「ん……くっ……」
まだ精霊リリィにヒーリングをされている最中のトムにはまだ火傷の痛みが残っている。はいつくばってデュアの近くに行くヴィアンを何をする気だと思いながらも見ているしかないのがもどかしかった。
「う……麗しの君よ……永遠の別れを……」
ヴィアンが指を鳴らすと、原理は不明だが(見えざる魔力?)デュアの鎧が浮き上がって床に落ちる。
「もう一丁!」
また指を鳴らすと、今度はデュアが下着姿になってしまう。消失の魔法だろうか。3回目の指鳴らしでついに一糸まとわぬ姿になってしまった。
魔族の主、クジャク様復活を担う『sweet heart』(娘の心) だが、娘そのものを依り代にするとマーヤよりヴィアンは聞いていた。スラッとしていてまだできかけの角ばった胸、よくくびれたウエストライン……最高条件の体だったので思わず拝み倒したい衝動にかられるほどだ。
「や……めろ……何しや……がんだ……こ……の……変態野郎……」
極力デュアを見ないように気をつけながら(不可抗力でも物凄く怒られそうだし)火傷で痛む体が回復しきらない内にデュアの命を守るためにトムが立ちふさがろうとしたのだが――
「邪魔をするな! ブレイク・ダウン」
体力も弱まっていて呪文抵抗の気力も減っているトムには対向する手段がない。トムは気絶してしまった!
(もう……一刻の猶予もない私には)
そして魔族の禁断の呪法――幹部のみが1回だけ使える生命力を大幅に削る呪法。この呪法はどんんな強敵でも体内内部から臓器を握りつぶす事も可能ではある。ただ、この呪法は基本的にはクジャク復活のための『心』を取り出すために使われる禁断呪法。それを使用してデュアの体の中に手を入れる。
「ん…………」
やっぱり人間だった頃のサガがヴィアンに残っているのか、ハッとして手を抜いてしまった。
(私は……私はなんてコトをしようとしているんだ……!? ダメだダメだやはりできない。手を……いや、魂を押し殺してまでやる必要はあるのか……)
指を鳴らすことで(何か微妙に音を変えてる?)一糸まとわぬ姿のデュアの服を戻し、鎧も着用し直して元の姿に戻す。
(……すまないヴァルマー、やはり私には出来ない……出来ないよ……ポリシーが邪魔をして……フフ……私が永遠の別れになってしまいそうだよ)
せっかくどんな裏があろうと協力をしてくれたケンカ友達状態な幹部のヴァルマーに思念を送る。そんな中、メイとグレイの足止めをしていたシーオンが苦しみだした。
[ううっ……!]
「ど……どうしたの!? ペガサス君!?」
死期を悟ったシーオンが心配そうに近づいてこようとするメイとグレイの頭に直接伝える。
[いけ……ません。わた……し……は……今……ッ魂……を抜かれて……いるので……す。と……言う事は……ご……主人……も……っ]
だが思い残すことはないと表現するかのようにシーオンがかすかに微笑した。
間もなく本格的な再戦に挑む3人を応援してあげて下さい




