ヴィアンとの再戦 1
回想のラストシーンがあります。
「んじゃっ、やっちゃいましょうかね~~~~ぇ」
自らの考えの浅さに失敗したと首を振ったご主人。私はそんなご主人を助けたい一心で自分でも信じられないくらいの速度で魔族ルファとご主人の間に割り込みます。
(やめていただきたい! 私のご主人に何をする気ですか!?)
私が食らいつくのでルファは鬱陶しくなったのでしょう。どんな方法かわからない内に、私の意識は遠ざかっていきました。
「何だこの馬は!? えーいコイツから魂を抜いてやろう」
意識が完全になくなる直前に私はルファから心臓付近に重い拳をいれられたと気づきました。だけど、これをご主人に伝えたくても無理そうです。
「……ファルッ!!」
私の自慢の白い毛はみるみる内に黒ずんでいき、完全に息の音が止まっているとご主人に理解させるのは容易かったことでしょう。
「な……っなにすんだよ……!! 俺の大切な友達を……」
しかし、どういう訳か私にはわかりかねますが幽体離脱したかのような状態で私はご主人とルファの戦局を見続ける事はできました。ご主人が涙声で訴えている、やはりあなたは私をとても大切な存在だと思ってくれていたのですね。
「ほ~~~~ぉ、馬がお友達ですか」
「うるせぇっ、お前に俺の気持ちがわかるもんか!!」
小憎たらしい笑みを浮かべてルファがご主人の怒りを誘っていました。
「ええ、わかりません。私にはね……」
それを聞いたご主人は力を振るう気力がなくなってしまったようでした。ご主人、何ですかその体たらくは。あなたには愛してくれるマーガレットお嬢さんという存在がいるでしょう!? 私がそこにいればそう叱咤出来るのに。
「もう……俺の魂も取れ! 俺はシーオンと共に逝く」
戦う気がなくなったご主人に興味を失った様子で、ルファはさも当たり前のようにご主人の魂を抜きにかかります。もう好きにしてくれ……といった様子で大の字で死を受け入れるご主人なんて見たくありませんでした。
「ではお望み通りに……」
魂の抜き方は私にそうした時と同様でした。それを終わらせると、どんな感情もないかのような瞳でマーガレットお嬢さんに捨てセリフを残してルファは去っていったのです。
「おじょうさん。あなたは惜しい存在ですが、生かしておくことに価値がありそうな予感がします。それではあなたと親しい関係にあった一人と一匹の魂はもらっていきますので。さようなら……」
マーガレットお嬢さんが瞬きをした時にはもう姿形が消え失せていました。
「い……嫌だよ。ヴィアン……シーオン……。な……んで!? 何で私をおいていっていまうの? いやだ……いやだよぉ……バカぁ~~~~っ!!」
どうしようもなく悲痛な叫びが丘で響き渡りました。お嬢さんは家族の者が迎えに来るまでご主人や私の亡骸のそばで泣き続けていたのです。
◇ ◇ ◇
「……という訳だったのです」
メイがヴィアンの過去の風景を想像して涙を流した。
「良い話ねーっっ。だからだったの……。で・もッ! デュアの『心』を取るなんていうのは許せないわよ」
(私にそんな事を言われましても……ヤルのは私じゃありませんし)
そこでメイがある事に目を留める。
「だから君は羽が生えているのね。実は天馬とは違うと」
(ハイ……私は天馬ではありません。実はこの身体は赤の他人じゃなくて馬の体を借りているのです……。ですから本当の私はもう天にいるんです)
私の無念を、天使様が晴らす機会を与えるために翼を具現化してくれたのかもしれませんね。となれば、私のやるべき事はご主人を最後まで見届けることでしょうか。
そのヴィアンは、トムとサシで向かいあっている。決着をどんな結果になろうとつけようとする相手に対してトムが悔いのない戦いにしようと声をかけた。しかし、反応がかえって来ない。自分の存在に気づくまでトムは待ち続けることにした。
"……おい。ヴィーちゃん。ヴィアンってばよッ!"
自らの精神に混乱が生じて立ち往生しているヴィアンに対して、魔族の念動力の様に頭の中に直接語りかけるような呪法を用いるヴァルマー。その問いかけにヴィアンが呟く。
(ヴァルマー……?)
"何をやっているんだよ! なあ! お前らしくないぜ! ちゃっちゃとやっちまおーぜ! そのお嬢ちゃんの『心』を取らないとお前が……"
(――わかってるさ……消されてしまいかねないもんな。私の存在がなくなってしまう……もちろんシーオンも……)




