シーオンによるヴィアンの回想 3
(はい。ありがとうございます。頂きます)
そんな私をご主人がチラ見してきます。
「なぁ……シーオン……」
ご主人が気づくか気づかないかくらい微妙に迷惑していると表情に表して……
何ですか? まだ食事している最中ですよ……と態度で表したのですが――
ウキウキした感じで近づいて来ただけでなく、目がハートマークになっていて……。私は今のご主人の状態はまずいと思いました。だってこういう時はいつもノロケ話を聞かされるんですから。
「いんやぁ~~やっぱよぉ、可愛いぜぇあいつは。はあ~~んサイコー」
しばらくご主人は自分の世界に入って行きます。それなら自分の世界だけで満足して欲しいのですが口には出しません。怒られたくないですし。結構早くマーガレットお嬢さんが戻ってきてくれました。
「ハアハア、お……お待たせー。はーい、アツアツよ」
「そ……そんなに息を切らして俺の為に!?」
アツアツなお二人は勝手にやっていて欲しいと私は二人の様子を見ていましたが、ご主人のキザっぽいセリフにはマーガレットお嬢さんはお気に召さなかったのかもしれません。なーに、うぬぼれてるのよ……という感じの表情をしていました。女性の心の機微はどうもわかりません。
「あっはははは!! やーねぇ!!」
「その笑いはどういう意味なんだよ」
そのご主人の質問にマーガレットお嬢さんは応える気がなかったようで、せっかくアツアツにし直したアップルパイを食べるように急かしていました。
「どういうもこういうもないの。味わって食べてね」
どういう事か知りたいけど、深く考えないご主人様でしたよ。単純ですね。
(はぁ~! 美味しかったですぅ。ふぅーっ)
(甘いものが疲れた体を癒してくれるかのようだl)
私もご主人も満腹になったので一息つきました。私達にわざわざ差し入れをくれるためにご主人の元へ来てという日はいつもの日常だったのですが、この日は平穏を揺るがす事があったのです。
「きゃああああ!!」
!? マーガレットさんの悲鳴……! 動物である私の方が先にマーガレットお嬢さんに何かあったことを察します。馬の耳に念仏というのは私には当てはまりませんよ。私の自慢でした。そんな事はどうだって良いんです、ご主人にマーガレットお嬢さんが大変な状況に陥っていそうだと伝えなくては。私の様子がおかしいのでご主人は気付いてくれました。
「んっ? ああ?」
どうもまだ事態を把握しきれていないご主人の服を口でくわえて、私の背に乗せました。それで恋人に良くない事が迫っているような予感を感じ取ったご主人が私に次にすべき行動を委ねてきます。
「いやぁぁ!! いやっ! やめてぇーーーーっ!! ヴィアン~~~~」
……助けて……
パカラッパカラッパカラッパカラッ……私は数日前に雨が降っていたので、ぬかるんでいる土の道をゆるい丘から街道に出るまでスピードを落とさず走り抜けます。ご主人が蹄の点検をしっかりしてくれるので滑りもしません。ご主人の焦る気持ちを背に受けて、とにかくマーガレートお嬢さんの声が聞こえてきた地点まで急ぎます。
「こっちか!?」
(そうです、こっちの方角から……)
ご主人がマーガレットお嬢さんに祈りの言葉(俺が行くから待っていろと)を感じ取って何やらぼやけて見えてくる場所までやってきました。
"マーガレット……!?"
やはり嫌な予感というのは当たってしまいがちですね、そんなのは思い過ごしだと安心したかったのですが。
(ビンゴ! です。ご主人)
「バ……バカッ!! おっ、お前なぁ。んなことを言ってる場合か!?」
私の考えに気を取られている場合じゃないですよ、早く助けてあげて下さい。
ご主人に気づいたマーガレットお嬢さんが悲痛な表情で助けを求めています。ご主人が鬼気迫る表情でお嬢さんを襲いかけた魔物を蹴散らしました。
ヴィ……ヴィアン!?
「マーガレットを……ッ」
離せぇぇぇぇ!!
ご主人の持つ切れ味鋭い剣の一閃で魔物の手は一刀両断されました。こういう時のご主人はかっこいい。
「グォォォォ……ッ」
魔物の手からマーガレットお嬢さんが落ちましたが(お嬢さんは魔物に持ち上げられていたのです)
私が機転を利かせて私の背中に落ちるようにその場に寄ったのです。そのままでは反動で怪我をしかねないので上手く衝撃を弱めるように私は動きでコントロールしました。
「あ……ありがとう。シーオン」
どうやらマーガレットお嬢さんに目立った外傷は与えずにすんだようで安心しました。




