シーオンによるヴィアンの回想 2
(フフッ、そうですよねぇっ。ちょっとご主人をからかってみただけですので。そんな真にうけないでくださいよ)
俺は本当に怒っているんだぞとばかりにご主人が拳をふりあげました。良心の呵責があったので私はとにかく謝罪して丸く収めようとしたんです。
「こらぁ、シーオン! ご主人をからかうんじゃねーよ」
(ハハッ、申し訳ありませんでした)
お遊びのような時間は束の間。結構早く次への行動にご主人が移るので、私は対応に遅れてしまいました。
「さ、さぁーてちょっとやろうか」
(何をです?)
小首をかしげた私を見て、少し心配そうにご主人が見つめます。
「な……何を? ……ってよー、お前!稽古に決まっているだろうよ!」
(クスクス)
私がもし人間の姿だったらそういった笑いをしていたのではないでしょうか。ご主人は私に「な……何笑ってるんだよ」といった表情をしていました。
気を取り直して私がいるこの草原でいつも通りご主人が剣の稽古を始めました。私は優しげな視線をご主人を見つめて激励したのです。
(ふふふ、頑張ってくださいご主人)
「ヴィアンーーッ!」
おや、女の方の声が聞こえてきましたね。この女性はご主人に好意を持っているのではないでしょうか。ご主人はそういう感情について理解している様子がないですけどね。
「やあ、マーガレット」
「何をしているの?」
2人ともが次の言葉を口にしないので周囲に沈黙が訪れました。それを破ったのはマーガレットお嬢さんの方でした。
「って聞くまでもないかーっ! うふふ」
マーガレットさんが楽しそうにしているのにご主人がいらぬ言葉をかけて怒らせてしまいました。
「何を一人でぶつくさとよ……。変なやつだな」
そのご主人の言動が気に入らなかったマーガレットさんがほっぺたをふくらませます。
「あーあっ、せっかくあんたの好きなアップルパイを焼いてきてあげたのにさ……。いいもんっ!! ぷーだ!!」
ご主人が失敗したな~という表情をしています。彼は意外とそういうミスをするのでこの時はこういった表情をするって私も学習してしまいました。
「あー、ゴメンゴメン。俺が悪かったよぅ。謝るからさ―」
お茶目なイタズラで困り顔を見たかったのといったところでしょうか、この後のマーガレットさんの言っていることから判断して。
「やあね、ヴィアンったら。ちょっと冗談のつもりで言ったのよ。ホラ、これ。焼・き・た・て」
「焼きたてかーー、ん~、うまそうな香り」
マーガレットお嬢さんは私にも、馬が食べても大丈夫なケーキを作ってきてくださって私の前に置いといてくださいます。
ご主人と私を平等に扱ってくれているかのようでご主人もご満悦な表情をしていました。
「シーオンにもね、ほら。キャロットケーキ。ニンジン丸ごと1本をすりおろしてとか苦労したおいしーいケーキになっていると思うわ」
ご主人が少し意地汚いと言われても仕方のない行動、早い話が手を伸ばしたのですが、地味に痛い手を払う事をマーガレットお嬢さんがなさっていました。そして「ダメよっ」と一言。
「何でだよ~~っ」
「ヴィアン、まだ稽古中なんでしょ? まだダーメッ!」
ご主人が「固いこと言うな」と食べようとしたのですが無意味。マーガレットお嬢さんにダメだってばと言われてしまっていました。
「じゃあ、さ。もちっと頑張ったらいいか?」
そうご主人が聞いたら、朗らかな笑みで「良いわよ」と言っていた覚えがあります。その後のご主人の稽古の張り切りようが凄かったですね。
「っ、ふぃ~~~~っ。疲れたぁーっ。なぁ~っ、マーガレットぉ、こんなに頑張ったんだからそろそろくれよ。俺、頑張ったんだからぁ」
ご主人がマーガレットお嬢さんにのみ見せる甘えた声(表情もそうだったかも)で、好意を持っている女性におねだりしていました。
「ふふっ、ヴィアンは頑張っていたものね。はい、いいわよ。食べて」
マーガレットお嬢さんが口を開けているご主人の口の中に少し入れてあげていましたよ。
「うっめぇ~~、さっすが! マーガレットが作っただけあるぅ。でもさ、せっかくならやっぱりアツアツのパイが食いたかったなぁ」
そのご主人のわがままを聞いてわざわざ焼き直してくれるみたいで家に戻るとか。良く出来たお嬢さんと仲の良い風景を見せられていますがご主人とお似合いだlと思っているもので私に不満はありません。
「んじゃあ、ヴィアン。ここで待っていてね。すぐやってきてあげる」
ご主人は楽しみにしている感じでうなずいています。そんなマーガレットさんは私の様な馬にまで気を使ってくれました。
「……あっ! シーオンもキャロットケーキを食べてね。じゃっ、行ってくるから」
私はマーガレットお嬢さんの方を見つめて、肯定の意を表現しました。気付いていただいたかどうかは些か疑問ですが。




