ヴィアンとの決着をつけろ 2
「フフン~、知りたい? 天馬君っ!」
メイの姿を認めて、再度の確認をする天馬。
(あ……あなたは私が特別に一度ここに連れてきてあげた……!?」
眼鏡のツルを直すかのような動作をした後で、グレイが天馬のうかつさを指摘する。
「君はとんだ誤算をしてしまったようだね……よりによって『風属性』のメイ。テレポートを使える彼女を一度ここに招待したのだから!!」
デュアが気絶しているのを見たトムが、ヴィアンに対して怒った。
「てんめ~~デュアに何をしやがった!? まさか……!?」
手遅れだった可能性を考えてメイの顔色が、も……もう『心』を取ってしまったんじゃ……!? とあって欲しくない展開を想像して悪くなる。
(そのような顔をしなくても大丈夫ですよ……。まだですから)
まだどうにでも出来る可能性があるという事にメイが胸をなでおろした。
(フウ……あなた方は今の状況をわかっていないようですね)
「な……なに!?」
一刻も早く邪魔をしなければいけない事をグレイはいち早く理解する。
「ま……まさか!?」
(あなたは察しが良いようですね。そうです! その通り。君の考えついた事をやろうとしているのです、間に合いませんよ?)
念話のように頭の中から伝わってくるシーオンの声に、トムが心中で悪態をついた。
(こ……こいつ……。そういえば人の心を読んでくるんだったか? クッ、クソ。嫌な力だぜ」
そんなトムの方を見据えて、天馬がトムの神経を逆なでしてくる。
(あなた……この娘が笑えなくなってしまうのかもしれないのですがね。とくと拝んでおいたらいかがですか!!)
「てめえ!」
そこでヴィアンがやってくる。戦いになりそうな一触即発な時にシーオンと交代した。
「怒りの業火が見えるな…… そう! その力だ! 『優しい心』を開放する鍵は」
またもやトムは頭に血が昇ってしまっていた。そのせいでヴィアンが重要な事を言ったのに気付かない。
「ごちゃごちゃ言ってねえで決着をつけようぜ!」
「私の邪魔はさせんよ!!」
グレイがヴィアンを観察していて、彼の属性を見抜く。
(トムと同じだあいつ……よし……!)
ウォーターウォール!! トムの前に水の壁が立ちはだかる。この世界の魔族は詠唱に集中すると、こちらが対策を立てても気づかない事が結構あるようだ。
戦闘開始ステータス
トム レベル 22 HP160 適応能力 42 かしこさ 67
メイ レベル 22 HP114 適応能力 37 かしこさ 115
グレイ レベル 22 HP138 適応能力 35 かしこさ 108
敵幹部ステータス
ヴィアン レベル40 HP219 適応能力 45 かしこさ 102
「邪魔はするな!!」
地獄の業火、ヘル・ファイア~!!
「うおおっ!」
マジックアーマーの魔法耐久力と補助魔法の効果で、トムは軽い火傷を負っただけである。
「な……なぜだ!? 地獄の熱さだったハズ……!?」
ヴィアンの基準は、補助魔法なしでのトムの状態予想だったのでかなりの違いに戸惑いを隠せずにいた。
「今度は俺から行くぜ!!」
メンタルソードに自らの属性『炎』を宿して命じる。
『ファイアー・ブレード!』
「俺達だってなー! お前を倒す方法を考える経験を積んできたんだぜー。実際レベルアップしているからこのブレードだってパワーアップしてんだよーっ!!」
「この程度で私が倒せると思っているのか~~っ!!」
ニヤリとした笑みを浮かべて、ヴィアンがトム達に実力の差を思いしらせようとしたのだが――
トムとヴィアンが対峙している間にグレイが詠唱を完成させる。トムがさっと横に移動しながら身を引いた。
今、彼らが何をするのか想定できなかったヴィアンが「!?」と不測の事態に対応が遅れる。
津波!!! SMELCH!!
津波と竜巻がヴィアンに襲いかかった。
「うぉあああ!!」
今のところはまだ不明だが、結構苦しんでいるかのような表情をしているヴィアンにグレイが手応えを感じる。
ヴィアンのHPを 219 →155 まで削った。
(やったか!?)
「う……やるな……。しかし、やられるわけにはいかん!!」
グレイが詠唱した水の竜巻と相反する魔術で、ヴィアンが反撃してきた。
ファイア・スメルチ!!
右手に炎、左手に真空の風を発生させてくっつけた魔術、炎の竜巻が発生して襲い来る。
炎がトムの体を包み込む。
「!!」
すでに救出の算段をつけていたグレイが、詠唱によってトムの体にまとわりついた炎を消化し始めていた。
来たれ!! 大津波!!
どこからともなく海のある方角から大津波がやってきて消化を完了したのである。
「サンキュー、グレイ!!」
お礼を述べるトムだが『炎』の属性を持っているとはいえ所々、火傷を負う。痛みを体が訴えてきている。それを我慢するにも一苦労であった。
トムのHP160→101(状態異常火傷 無視していると1ターンごとに5のダメージ)
(……とはいったもののかなりの大ダメージを受けてしまった……。くっ、頭がもうろうとしてきそうだ、耐えねえと)
ヴィアンにとっても、先程の魔術は詠唱集中がそれだけ必要だったようで息切れをしている。
どうやら2つの呪文を合体詠唱させるやり方だったようで(ちなみにグレイの詠唱はそれ単独で覚えている魔術なので疲労度合いは低い)ヴィアンもかなりの精神的疲労が蓄積しているようだった。
(う……うう。私……とした事が最強の呪法を連発してしまうとは。不覚をとったものだ……)
立っている態勢から力が抜けたかのように膝をつくヴィアン。どうやら彼もトム達に追い打ちをかける事が可能な状態ではない。
「大丈夫? トムぅっ!」
楽観的に聞いてくるメイに、熱さと痛さをこらえた表情でトムはそんな状態でも毒づいた。
「見……て……わかん……ねーのか……? 大……丈夫……な……わけない……だろ」
聞くのも野暮だったかとメイは悪いことをしたというようにしょげ返った。気を取り直して精霊リリィを呼び出す。
「待っててね、今リリィを召喚してあげるから」
トムを助けたい気持ちが強く、結構な早さで召喚魔法を成功させた。
「召喚! リリィ!」
のんびりとした口調で呼ばれた理由をリリィが尋ねる。
「は~~い、どうしたんですか?」
「あんた……状況をみればわかるよね」
呆れたように少しがっかりした態度を取るメイに、この状況に合わせてリリィが良く周囲を見回してみた。
「ははぁ、戦闘中みたいですけど」
その感想はどうなんだと、トムは苦笑する。
「ねぇ、リリィ。トムの傷っていうか火傷を見てくれない!」
メイにお願いされたことでやっと本題に入る精霊リリィ。状態異常にかかっているトムの状態を見て顔をしかめた。
「あちゃ、結構ひどいようで……」
レベルが上ったことで習得していたことに気付いたメイは、この召喚は今こそ使い時だと判断したのである。早く治さないとそれだけ窮地に陥る危険が増すのだから気が急くのも無理はない。
「そうでしょ? だから早く治して」
時間がかかるという事で渋る精霊リリィだが、そんな事を言っている場合じゃないとメイが急かした。
「んなのしょうがないって!! どうでもいいからって事もないけど……。とにかくっ、早く! 早く治して!!」
必死な様子のメイに精霊リリィがうろたえる。
「わ……わかりましたよ」
ヒーリングを開始して、精霊リリィが火傷などの傷を癒していった。
一時的に戦闘離脱しているトムに代わってどうにかしたいメイであったが、なかなか踏ん切りが付かない。
(ん~~、何としてもここは時間を稼がなくちゃいけないんだけど……)
メイの決意とは裏腹にヴィアンが呻いているだけで何もしてこない。それはそれでかなりの不気味さを醸し出していた。
(本当に不覚をとったものだ……まさかここまで消耗させられるとは。それにも気づかずに最強呪文に振り回されて……)
ヴィアンも上手くいかない状態に苦しんでいた。しかし、そんな事がわかるはずもないメイにとっては不気味でしかなく――
(うぅ~ん……あの人も呻いているし……。あ゛~~もぉっ、あたしはどうしたらいいのォ!?)
思案にくれていたメイだったが、頼りになる兄がいるという事を思い出す。気づくのがおくれたのが恥ずかしかった。
(はっ、そうだ! グレイに聞いてみよ)
近くでどう援護しようかタイミングを図っている兄を呼ぶメイ。呼ばれたグレイが「どうした?」と聞いてきたので内緒話を始める。
「ちょっと……」
聞き取りづらくまどろっこしかったグレイがもう少し耳の近くで言ってくれと進言した。
「なに!? もっと近くで」
内緒話でメイが自分の考えをグレイに伝えた。グレイもその意見に賛同する。
「ん。僕もそう思っていたところなんだ」
たまたま通常より文章量が多いですが、平均は2500文字くらいですので。




