デュア救出のために出来る事 4.
ベッドの中でもそもそ動いていると、メイが気付いた。
「おっはよ~ん、グレイー。お目覚めいかがー?」
そう言いながら、少し乱暴に布団をひっぺがした。そういうことをする妹に、グレイは毒づく。
「メイ~~、お前なあ。それが病人に対する態度かー!?」
「なによー、もう治ってるク・セ・に」
おでこをツンっといった感じでつついてきたメイに、グレイは怖気が走った。
「やっ、やめろよーっ。気持ち悪いっ」
「なんですってぇー!? 結局寝ていなかったんでしょーー……」
癇癪を起こしかけたメイだったが、グレイの状態を見て
「髪の毛ボサボサ……眼鏡をかけているようでかけていない……目はうつろ……こりゃあもう寝てたわね~」
メイに何だかいろんなところを見られている気がしたグレイが、メイの行動を訝しむ。
「何だよ、人のことをジロジロ見て……」
「いっ、いや~。何でもないのよ、気にしないで」
無意味に手を左右に振ってメイはごまかそうとした。
「……おいっ、無視すんなや!」
険悪な雰囲気の再燃で、メイがトムの方をおそるおそるといった感じで見る。
「い……いや~、あたしたちさっ、あの~~……ね? ケンカすると何かのキッカケでまた始めちゃうってゆーか。いや……その……」
グレイの憐れむかのような目で見られて、メイは言葉につまってしまった。
「言い訳は聞く耳を持つ気はないぜ? 全く困ったちゃんだよなお前」
トムにまで責められるようなことをいわれたメイは、グレイに怒られた責任転嫁を小声でする。
「あんたのせいで怒られちゃったじゃない」
飛び火してきた意見にグレイが反論した。
「何だって!? 僕のせいっておかしいよね!?」
言い争っている二人に向かって、トムが呆れたようにつぶやく。
「……何をごちゃごちゃ言ってんだよ」
訳のわからない事でケンカしていたと思ったら、今度は三人ともが唇の端を広げてにやけ顔になる。どうもふざけあっていただけみたいな雰囲気になった。
「さーてと、俺らも休むとするかー?」
「ご飯も食べてないのに?」
メイに聞かれたトムが戦闘で体を動かしたということもあって、小腹が空いた事を意識する。
「そーだよな。俺ってば何を言っているんだか。精力つけなきゃ危険があっても対応遅れるし、いけねえ」
「だよね~」
食欲に関しては、欲望に忠実すぎる妹を苦笑しながらも……何かの意味では感心してしまう気分にもなる。でもグレイも軽食くらいはしたいと思った。
「そういえば僕もお腹がへってきたかもしれない。早く行こう! 少し食べるくらいでいいけど」
妹のことばかりいえないかとグレイはそう思う。二人についていって宿屋の階段を降りていった。この街の宿屋は食堂とつながっているらしく、ドアの先からパンのような香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。
「ん~、いい香り!」
「本当そうだな」
その頃、その食堂にて――
宿屋と街の出入り口が見える隠れやすい路地から移動してきた謎の人物。一度報告に戻る前に少し小腹が空いたので料理を注文して待っていた。
「あーあ、またあのボウヤを始末しそこねちゃった」
なかなか思うようにいかなかったので、その女性は嘆息している。
「はっやく行こー! イェ-イ」
メイがテンションが高くなって、歌っぽく弾んだ声を出しながら食堂に入っていく。男二人はメイのその様子にはしゃぎすぎだろと思って場合によっては他人のフリをしようかなと思ってしまった。
先程のアヤシイ影というか人が……だるそうに入ってきたお客さんを何気なく確認して、標的が来るとはとほくそ笑む。
(おやおや、かなりラッキーな状況だこと。多分寝ぼけていたから私の顔を見てもわかんないわよねぇ。ウフフ、覚悟しなさいボ・ウ・ヤ)
三人が空いている席に座る。お店の従業員さんがやってきたので全員が好きなものを注文した。
「あたしはライ麦パンとポタージュにフルーツ盛り合わせで」
「俺は……ん~、何でもいいから軽食セットにでもすっかな」
「僕はお粥のような消化に良い食べ物かな」
全員の注文したものを聞き終えた従業員が、キッチンの方にオーダーを伝えて去っていく。注文したので三人とも特に何もする気がなく、だらけていた。
料理を運んで来てくれる人が来そうな気配。なので料理楽しみだなとそわそわした感じに態度を変える。
「どうもお待たせいたしました」
みんなは、軽食の割に手が込んでいると思って、感嘆する。
「美味しそうね、いただきます」
手を合わせて、メイが食前の挨拶をした。
「いただきます」
男二人もしっかり食べる前の礼儀だと思って言う。特に食事中に歓談することもなく、行儀よく食べている三人。そこへ謎の女性が声をかけに来る。




