トム達の決断 2
トムは苦笑いしながら自分の勘違いに声をつまらせた。だけど、ごまかし半分でグレイにもシーオンの声を聞くようすすめる。
「うーん、確かに……わかるわけねーか! ーってお前も背中に耳を当ててこいつの声を聞けばいいじゃねえか」
「それもそうだね」
シーオンの背中にグレイが耳を当てた。
(ああ。あなたは私の声をほぼ聞いたことないんでしたね。私としては聞かれた事なら何でも答えるつもりでいますよ。話しやすいのは貴方の妹君ですかね)
シーオンがメイを指定するので、グレイはメイを呼ぶ。
「メイ、天馬さんは君が話しやすい人みたいだよ」
(女の子だからとか、そんな考えは毛頭ありませんが。レディーファーストであなたからの質問を第一に聞こうかと思いましてね)
天馬の透明度が結構ある瞳にメイは吸いよせられるかのようで照れてしまった。
「やっだ~~!! そんなーっ……って照れている場合じゃないよ」
気を取り直して、メイは質問する。
「デュアは今、どうしてるの?」
天馬が見たのは眠りの呪法をかけられたデュアである。しかし、天馬という幻想生物の恐るべき勘はただの予測のはずなのにほぼ正解に近かった。
(ん~~、どうしているかですか。私はすぐにご主人の家から飛び出していっちゃったもので。仮にあの子が目を覚ましているならばソリが合わなそうなので口げんかでもしているかと)
「ねえっ、ペガサス君っ。あたしだけでいいから……、ヴィアンの住処へ連れて行ってくれないかな?」
メイとしては、非常に分の悪い賭けだと承知してはいた。しかし、何も情報がない以上どこかでリスクを負わなくてはこれからの行動の選択肢が増えないと思っている。
(無理な提案だってわかってる。でもイチかバチかに賭けるから)
天馬はしばらく思案しているようだった。
「ん~、そうですね。今はケンカ中ですし……。まっ! いいでしょう。アナタだけは特別です。他の男二人、あなた達はお留守番ですよ」
この流れさえ、敵の罠の可能性が結構高い気もした。しかし、ここはあえて乗るしかない。トムとグレイはものわかり良く首肯する。
「むっ! なんか馬鹿にした言い方に感じるぞ」
「まぁまぁ。なんか話もついたみたいだし」
トムとグレイはここから演技しようとジェスチャーと目を見合わせることで、スイッチを入れた。
「あのねーっ、あたしこのペガサス君にデュアのところまで連れて行ってもらうの」
双子ならではの伝達方法か、アイコンタクトしただけでこれからの会話は演技でアドリブしろよ的なことが伝わったようだ。
「何言っているんだよ、メイー。危険すぎるだろ」
「だってホントだも~ん。ねー」
同意を天馬に求めるために、メイがシーオンの顔をのぞきこむ。天馬は静かにうなずいた。二人が「何だと!?」と表情にそういう気持ちを表した。
「なっ、なななんでメイだけなんだ。おいっ、妖しすぎんだろ!」
「あたしがレディだからだも~ん」
もどかしそうな表情で、トムがメイに耳を近づけてもらい内緒の話をする。
「じゃあ、ちゃんとデュアの無事を確認してきてくれよ」
神妙な面持ちでメイもトムを見つめ返した。
「わかってる……じゃあね」
天高く翔びたっていく。
「ふう……行っちゃったなー、メイ……」
「気持ち察するぜ、グレイ~」
天馬がヴィアンの元に戻っているその時間帯のヴィアンとデュア。
「はうう――――っ、見れば見るほど美しーーっ」
また眠ってしまっているデュアは「ん……」と寝息をたてた。やることがないのでボ――――っとしていたらまた眠りの世界に……
「むっ……驚いたな。全く心臓に悪い……」
デュアが眠ってしまっている間にさっさと儀式をすませようと股付近に触れるつもりでいた。目をつぶっていたためか……デュアの胸に。
「うっ、うわわーっ。なっなんちゅートコを。誰も誰も見ていないよなっ」
結局しなければいけないことはもっと甘美な世界になるのだが、変に純情なところがあるヴィアンはきょろきょろと辺りを見渡している。
「ふう~っ」
そんな理由を知るわけないメイがすでに天馬にヴィアンの家に着いていて、彼の行動に嫌悪の表情を浮かべていた。
「凄い変態ぶりね、あの人……顔は良いのに……」
(ハッハハ。そうですね……今のはかなり)
さすがに気持ちを落ち着かせたいのか、メイが天馬に家の感想を話す。
「ペガサス君、立派なお家なのね」
(そうですか? どうもありがとうございます。ご主人が聞いたら喜びますよ。ではあなただけで行ってきてください)
天馬の真意はわからないが、メイも敵の住んでいる場所にただ乗り込むなんて無謀なマネをする気はなかった。
「えぇ~、そんなぁっ。君も一緒に来てよぉ、怖い!」
メイの本心をくすぐるかのような天馬の甘言だが、何やら訳あり気に言葉を濁らせる。
(そんなに悪い人ではないはずなのですよ、少なくとも私がご主人に初めて会った時は。あなたはあの子に会いたいのでしょう? ご主人……)
天馬が何かを言いたそうにしているので、メイがどうにか話を続けさせた。
「そんなに何で……ってこと?」
(悪い人だった覚えはないのです。ある日突然、あんな性格になってしまっていたんですよ。さ、私もついて行きますから行きましょう)
少しメイは戸惑ったが……「うん」と返事をする。
ドアをシーオンが鼻っ面でノックしていた
「ん……? 誰か来たがもしや!? ……しかしな……」
ヴィアンがすぐにドアを開けないので、シーオンが声をかけた。
(私ですよ、ご主人)
シーオンの声を聞くやいなや、実は帰ってくるのをヴィアンは心待ちにしていたかのようにドアを開け、平謝りする。
「シーオンか! よくぞ帰ってきてくれた!! すまないっ、私の失言であったな」
(いえいえ、毎度のコトじゃありませんか。気にしないでください)
シーオンの隣に女の子がいたので、ヴィアンが聞いた。
「……ん? 誰かな君は?」
「誰っ……て忘れちゃったの!? 心を読めるんでしょ、読めば?」
メイが肩を落として脱力し、自分の口から言うのが面倒になって勝手に心を探ればという気持ちになる。
「では、読んでやろう」
覚えられていないことにメイはご立腹だったようで、内心では結構怒りをかかえていた。
(も~っ、覚えていないなんて失礼な奴! 自分で考えるのも何だけどこんな美人を忘れるなんてっ。まっ、デュアが無事だったことには一安心ね……)
「ほほうっ、名前はわからんが思い出したぞ。私がこの娘をさらいに行った時に間抜け面で眠りこけていた娘の方か」
さすがに悪口のような言われ方をされたのでは、メイも黙ってはいられない。
「……ぜんっっぜんちがうわよっ!! 女の子に対してデリカシーがない魔族ね」
ヴィアンはどうでもよさそうな口調である。
「ふ~~~~ん、私はこの娘にしか興味ないからな」
きっぱりとヴィアンが断言した。
「別にあたしもあんたなんかに興味なんかないですよーだ」
対峙した二人の間に険悪なムードが漂う。
(あああ~いけませんね~。でもこの二人、意地っ張りだとか似たもの同……)
「何か言ったかっ。シーオン!!」
しらじらしいのを承知のうえでシーオンはごまかしていた。
(いーえ、いーえ。なんにも~~)
「何を二人で話しているのよ! あたしは……」
いい言葉が思いつかず、言葉も続かない。
「デュアを見に来ただけなのにか?」
ヴィアンに自らの気持ちを言い当てられて、声に出せないメイ。
「!!」




