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気持ちの甘さ(改稿版)  作者: 霜三矢 夜新
友情の芽生え
3/112

友情 2

(トムったら……私を元気づけるためにワザとね。ありがと)

デュアはトムが元気づけようとしてそんなことをしたんだろうなというのは感じていた。デュアは内心で感謝する。そんなデュアだがトムに隠し事をしていた。だけど、意を決して打ち明けることを決心する。

「ちょっとトム! 来て!!」

 グレイ達は来客用の準備をしているようであった。なので彼女は少し強引にトムの耳を引っ張って外に出る。

「痛ってーな、デュア。何だよ急に!!」

トムがデュアの手をはらった。場に気まずい雰囲気がただよい始める。デュアはゆっくりとトムの方に振り向き、真剣な顔つきで隠していた事実を話し出す。

「あたし、今までトムに言えなかったことがあるの……ごめんね。私のお母さん、五年前に病気を治すために大型都市に行ったって教えたよね? あれ、ウソなの。あの時、ママはもう生きていなかった」

 

 衝撃の真実を前にトムはショックを受けた。

「ウソ……だろ? ルナさんが!? あのやさしかったお前のママがいない、信じられねえよ」

「こんなことウソじゃ言えないよ……あたしだって今だに信じられない! それに私はトムが悲しんでいるところなんて見たくなかったの」

トムの反論なんてかすむ程、デュアが今まで蓄積されてきた思いをぶつけ続けた。

「あたしの方がショックもでかいってわかるでしょう? それに……あの日は私が先に帰ってたの。そこに誰か覚えてないけど「あなたのお母さんが魔物に襲われた」って言いに来た人がいたのよ。その人の話だと誰も魔物からママを助けようと行動してくれる人がいなかったって聞いたの。だ……誰も」

 

 それ以上は言葉にならず、デュアは辛そうに涙を流し続ける。

「そ……そうだったのか。許せねえよ。もしオレだったら真っ先に助けに行ってるぜ。例え命の保証がなくても!!」

「あたしも子ども特有の怖いもの知らずのせいかもしれないけど助けに行こうとしたと思うわ、デュア」

 厳しい目つきでメイが言った。デュアが後ろを振り向くとメイがいたので驚く。

「メ……メイ。そっか、聞いちゃったか」

 涙を手でぬぐいながらデュアが言った。

「二人とも急に玄関からいなくなるんだもの探したわ。それでここに来たんだけどなかなか間に入れなかったのよ」

 メイにも隠し事をしていた後ろめたさからか謝ったデュア。トムからその時の状況を詳しく聞かれる。

「なぁ、デュア? その魔物ってどんな奴?」

「私も聞いた話しか知らない。でも外見以外は人とあまり変わらないって。違いは生命力の高さと呪文使いがいることらしいわ」


                     ◇

 

 一方その頃、デュアの家に招かれざる来客が訪れていた。その来客は旅人のフリをしてドアをノックする。

「はい。どちらさまですか?」

 この日は偶然デュアの兄、ルアがいたので彼が応対した。

「名はつけられておらぬ。だが、今は泊まる場所がなくて難儀している。泊めて頂けぬか?」

田舎村特有の怪しい者を邪険にする村ではなく、旅人に親切にするのが普通な土地柄なので困っている人にそうするのは当然な感じの応対。

「どうぞ。私はお困りの人を放っておくなんてできない性分ですので」

「お邪魔いたす。…………クックックッ」

 その旅人風の人物は不気味な笑いを発すると徐徐に獣人の姿に戻っていく。


「これは失敬。ところで他の方はいらっしゃらないのかな?」

「ええっ、身内の贔屓目で見ても美人な愛妹は友達の家へ。父は急な仕事で……。ですから今は一人です」


 ルアは獣人の町に数年暮らしていたことがあるので特にこの旅人を恐れたりしなかった。 しかし、異様なオーラは感じていたのである。

「あなた、何か良からぬことを考えていませんか? 良くありませんよ」

「ほほう。人間にしては察知力が鋭いな。その通り、私はこの家の女の小娘を殺しに来たのだよ」

 ルアがすばやく臨戦態勢に入ろうとした。

「デュアはこのボクが守る。覚悟しろ」

「美しき兄弟愛か。だがお主にもう用はない。失せてもらおうか」

それよりも先に獣人がルアを隠し持っていた剣で突き刺していた。ルアは血の生暖かい感触を感じつつも、抵抗一つ出来ずにその場に倒れこむ。

「ぐふっ、デ…………デュア」

 獣人があざけりの笑みを浮かべて、ルアに意味も無く素性を明かす。

「あなたに敬意を表して私の名前を名乗ってあげましょう。私の名はバラス! といっても聞こえていないかもですねぇ」


                 ◇

 

 デュアは突如胸騒ぎを感じた。それを友達の皆に告げて自分だけ帰ろうとする。

「待てよっ! オレも行く」

「あっ……あたしも」

「ボクだって」

 デュアの心にみんなの思いが染みた。彼女はそれならと皆に来てもらうことにする。

「ありがとう、みんな。じゃあ私に捕まって」

「アレをやるんだな、デュア。心配しなくてもグレイ達にもすぐわかるぜ」

 意地悪くトムは笑った。

「いくわよーっ、しっかりつかまってね!」


 デュアの母親が亡くなったあの時、二十年に一度開かれるという『大魔法展』で買ったその品物こそ今、デュアが持っているものであった。 『瞬転しゅんてんの杖』これは一度行った場所ならどこでも戻れる希少品である。形見になってしまったそれをデュアは大事に使わせてもらっている。

「ただいま……、あれ?」

 家を開けても返事がない。誰かいれば必ず返事を返してくれるのにと思いつつ、不安な気持ちを押し殺して(出かけている可能性だってあるしと言い聞かせて)デュアは居間に入っていく。


「…………っ!! ルア兄」

 居間には血を流しながら横たわっているデュアの兄がいた。だが傷はそんなに深くなかったようだ。 獣人に刺された時は意識を一時的に失って、獣人がいなくなったさっきに意識が回復したので何とか止血が間に合ったようである。

「デュ……デュアか? ボクはどうにか無事なようだぞ」

「ルアさん」

 トムをなつかしむような視線を向けて、グレイやメイには几帳面に挨拶をする。そんな状態だとは思えないのに。

「大きくなったな……トム。初めまして、グレイにメイ……っく」

  傷口が傷むらしく、ルアは苦しげな表情であえいでいる。

「お兄。大丈夫?」

 妹の心配にルアは冷静に分析していた。

「このままだとまずいな。早く止血して適切な処置をしてもらわねえと」

 

 頭ではわかっていてもルアはすでに動ける状態になかった。血を大分流してしまっていたので小さな怪我が命とりになる状況の中ではうかつに動けないのである。なのでデュアにかかりつけの医者を家に呼んでもらう。これで一安心だ。そこへ小型の映像機が窓から投げ入れられた。そして勝手に映像が映し出されるとそこには獣人がデュアの父をほうむった瞬間があり、音声も入り込んでいた。


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