魔物退治中断中 3
トムとグレイが謝る気が無さそうな、いい加減な返事をした。彼らがわかればそれでいいと思ってデュアが少し偉そうな人の真似で応じる。
「わかればよろしい。さー、ご飯の時間だ~」
下に降りていくと、宿屋の店員が用意してくれた食事からおいしそ~な匂いがしてきた。
「んーっ、いい匂い。早く食べたいな~っと」
メイが食事の香りにはしゃいでいる。
「ほんといい香りねえ。今日は何かしらね? 早く食べたいわねっ」
トムは女性陣二人を横目で見ながら、女の子の方が空腹に敏感なのかもな、とかどうでもいいことを考えていた。
(女ってホント……食欲旺盛なんだな。別にいーけどさっ)
食卓に並べられている食事を前にデュア達が感嘆の声をもらしている。
「うわ~~、パンだわ。ヤギのミルクのスープにブルーベリージャム……いろいろあるねー」
……でもこういうのを見ているとお母さんの味が恋しくなるのよね……と感傷的になるメイ。気づかれない様に表情にも出していない。バレないはずだ。
「こんなに食いきれるかなあ? 太っちまうぞ」
「誰も全部食べてといわれてないから大丈夫」
メイが食卓の前に来ると、食欲に忠実になった。
「さーっ、食べよ食べよ~っ。冷~めちゃ~うよ~っとくらぁ」
「そうだな、食べようぜ」
四人が声を合わせて食事前の挨拶をする。
「いっただっきまーす!!」
一応食卓のイスに座っているグレイが、まだ食欲があっても(なかなか食うだけで痛みを伴うのはちょっと)とか思いながら、食べられそうなパンに手を付けた。
(……だから僕は食べづらいんだけどな。ま、パンなら左手でも食べられるけど……スープとかはな~……ちょっと困難だよ)
「わあーっ、美味しい。このヤギのミルク美味しいわ~」
美味しさにデュアも同意する。
「ほんと美味しいわ。いいのかしら、こんなにぜいたくしちゃって」
天にいる両親に、メイが今日も食事が出来たことへの感謝を伝えた。
(パパ……ママ……今日はこんなに美味しいものを食べたわ。ママの作る料理にはかなわないけど)
トムも女性陣二人があまりに美味しいを言っているのでスープを飲んでみると、かなり美味しいと思う。
「ほんと、うまいな~。初めて食ったぜこんな味」
全員美味しいと言っていればグレイも気になって当然である。こぼさないように気をつけながらやっとの思いで飲み込んだ。
「はぁ~~~~、疲れたっ。味わう余裕なんかなかったけど」
「えーっ、もったいないよ。食べさせてあげよっか? あたしそろそろ食べ終わるところだしさ」
デュアの申し出自体は嬉しいが、遠慮してしまう。
「え……ッ!」
耳まで赤くなってしまった。
「いーよ、悪いし。かっこ悪いから……」
「かっこいいとか悪いとかいう話とは違うんじゃないの!」
メイはデュアの看病をする優しさを素敵な性格だと思ってはいるが、それとこれとは話が違う。トムがやきもちを焼くような状況にはダメねといった感じで首を振らざるを得ない。
(あーあ、バカなんだから。またトムの前で……本当に鈍い子よ、デュアって)
メイの思っていた通り、トムは状況を把握しているものの心が平静でいられない。ついつい余計な邪推してしまう自分を嫌ってしまいそうな程に。
(ガーン、デュアの奴。グレイにあんなことやこんなことまでしてあげちゃうんじゃ……わ~~、違う違うオレのバカッ)
首を振って自分の考えを否定していた。
「何やってんのよ、トムったら……変なのっ」
「は……はは。なにやってるんだろーな? 変なオレ~~~~、バッカみて~だ」
トムがどうにか笑ってごまかしている。
「ほ~んとバッカみたーい」
鼻で笑う感じで、デュアに言われてしまった。
(ムカーー! こっ、こいつっ。小馬鹿にした感じで言いやがった……!!)
頭に血が昇りやすいのは悪いクセだなとトムは思っていたが、メイの方を見ると彼女まで舌を出していたのでトムの怒り倍増。
「はいっ。あーんして。この味がわからないなんてもったいないよ~~」
グレイは仕方なしに食べさせてもらうことにした。
(あ~~~~っ!! グレイのやつ食べさせてもらうとか。くっ、うらやましい)
トムが一人やきもきしているが、デュアは全く気がつかない。
「……うんっ、美味しいよ。かなりの味」
痛みを我慢して食べていたさっきと違って、グレイはスープ本来の味を楽しめたようだ。
「でしょーっ! もっと食べなよ。はいっ」
「もういいよっ。僕一人でも今食べた味を思い出しながら食べればその味を感じられるだろうし」
デュアに親切にされているのは嬉しいが、やはり恥ずかしさが勝った。グレイは遠慮するのだが――




