新たな幹部 2
「うむ、わかった。ヴァルマーのようなヘマをしなければそれくらいの猶予は問題なかろう」
「心得ております。ヴァルマーの馬鹿のようなミスをすることはありませんからご安心下さい。大船に乗った気でいて頂ければ。では私はシーオンと共に去りますので……」
ヴィアンが指笛を吹くと、空から白い翼を広げた天馬が飛んできた。
「ヒヒーン」
「いくぞ、シーオン! まずは我が家に戻る。そして地上に行って娘の『優しい心』を取ってくるぞ。付き合ってくれるな?」
(了解ですご主人。私は忠実なペガサスですよ、死ぬ時は一緒です。どこにも行きません)
「おいおい言ってくれるじゃないか。思わず照れてしまいそうな事を言ってるんじゃない」
(ハハッ、ご主人。変なことをおっしゃいますね。あなたの小さい時からずっと見守り続けてきたではありませんか。おっ、家が見えてきました。さあっ、降りますよ)
ヴィアンの住処の上空付近に来たので天馬が一気にスピードアップ。
「おいっ、早くないかシーオン。急降下してくれるなと言わなかったか」
ヴィアンは、こういう感覚には慣れていないようである。
(ええっ。確かに言われましたけれど一刻を争うことなのでしょう? 手遅れになる事はないと思いますが、それだけ万全な状態に出来ると考えれば問題ないでしょ)
「む……、シーオンの言うことにも一理あるな。一刻も早く失敗を減らす作業に移るためには……か」
シーオンは行動で、ヴィアンの手助けになるであろうと思う事をした。
(それでは全力で降りますからね。しっかり捕まっていて下さい)
「おお!!」
予想より早く住み家に着く。
「おおお、我がマイルーム! たっだいま~」
家を好きすぎるヴィアンの行動に、シーオンは気付かれぬよう首を横に振った。
(ご主人様の家馬鹿には困ったもんだ…… フツーはそこまでの者はいない。見た事ないですね」
自分で建てた家だから愛着があるとヴィアンは、シーオンに文句をつける。
「何だよ、いいじゃないかシーオン! 俺が建てた家なんだぞ!」
同意しておかないと後が面倒になることがあるので、一応形ばかりの謝罪をするシーオン。表情は仕方がない人だという感じなのでどちらが精神的に大人かって感じだった。
(ハイハイ、そうでした。本当のマイハウスって感じですからねえ)
自分の家の大きなクッションに寝そべってヴィアンがリラックスしている。
「あーー、やっぱり家はいいよな~。心が安らぐというかーー」
言葉が途切れたヴィアンをシーオンが心配した。
「………………」
(どうしたんですか? ご主人。急に黙りこむとか……)
どうやら心(感情)があるということは、と考えてヴィアンは思うことが出来たようだ。
「いやっ、思ってみれば『心』があるというのはいいものだ。これがなくなるなんて可哀想だと思わないかシーオン?」
シーオンが呆れたように、ヴィアンに悪についての講義をしようとした。
(それはそうですけど。私達は悪なんですよ、悪ッ! そう生きると決めたからには可哀想だなんて……考えるだけ時間の無駄です!!)
ヴィアンはシーオンに怒られたことに驚く。
「なっ、なんだよ。シーオンっ。そんなにムキになってまで否定することないだろう。わかっているんだから」
シーオンに呆れ口調で注意されてしまった。
(……ムキになんかなっていませんよ。そんな事聞いたらバラス様に何と言われるか)
「そりゃそうだよなぁ……。でもこんな事を心配してやるなんて、俺ってもしや『心』について詳しい!? なーー」
シーオンから後ろ足で蹴られる。
(じ……冗談を言ってるんじゃありませんよご主人……そんなご主人は嫌いになってしまいそうですっ!)
ヴィアンは本気でそうされた理由がわからなかった。
「なんだあ!? やっぱりムキになってねえか。どうしたってんだよ、シーオン」
しどろもどろにシーオンが弁明したがほとんど伝わらない。
(なっ……なんでもありませんよっ! ご主人が心配なんかじゃ)
「なんだなんだ、何が心配なんだよ? 小さい頃からずっと一緒だっただろうに。俺のことを誰よりも知っているのはお前だろうに」
シーオンはだからこそ心配してしまうのだということを言いたいのに、理解してくれないので思わず嘆息してしまうというものだ。
(だから心配なんですって。ご主人、あなたはお人好しなんですよ)




