ヴァルマーのヘマ 1
ちょっと魔族側の話
場所が変わってここは暗闇の岩城。そこでヴァルマーが上級種族であるバラスに怒られていた。
「こんの馬鹿もんが――っ!! なんっっっで青髪の『心』を持ってきただけで少女の『心』を持ってこなかったのだ――――!!」
「無礼を承知で申し上げます。この青髪の小僧を使ってあいつらをおびきだそうかと」
バラスはほんのわずか溜飲を下げ、早く行くように急かす。
「それはそれでいいが、とにかく小娘の『心』の方を取ってこーい!」
息を切らしながらもバラスは怒鳴り終える。そして疲れた表情で、隠し階段の所までヴァルマーを連れていった。
「もうお前がマーヤのところへ行ってこい。私が案内してやる」
「マーヤ様に謁見ですか? 恐れおおいなー」
階段の隠し場所を教えながらも、バラスはヴァルマーを連れて歩き出す。
「ここだぞ。マーヤの部屋は」
(む……バラス殿の声か?)
占い師マーヤは外から聞こえて来るバラスの声に来客の受付準備を始めた。
「では行って参りますバラス様」
バラスは役目を終えたので、後はヴァルマー任せにするようである。
「うむ。ここで待っておる。早く行ってくるが良い」
ヴァルマーが扉を開ける際に部屋の中のマーヤに声をかける。
「マーヤ様。いらっしゃいますでしょうか?」
妖艶なとでもいえばよいのだろうか、姿形に似合わぬ口調の占い師がヴァルマーに訊ねた。
「おお、ヴァルマーとはお主か。とんだヘマを起こしたのう? バラス殿にこっぴどく叱られたであろう。ほれっ、そこにかけろ」
自分のミスを他人にとやかく言われる程、屈辱的なことはない。しかし相手はバラス直属の部下である。どうにか無礼にならない様にマーヤに対して質問出来た。
「はっ! ありがたき幸せ。それでマーヤ様、『優しい心』の持ち主を特定して頂けたのでしょうか?」
バラスにはとっくに教えたはずなのだが教えなかったのだなと思う。そんなことはおくびにも出さずにマーヤがヴァルマーに伝えた。ヴァルマーは自分で聞いた情報以外理解しないことがあるとバラスに聞いた通りだからだ。
「うむ。特定できておる。お主にも教えるぞい」
ヴァルマーが身を乗り出した。
「ほっ、本当ですか? マーヤ様の占いを聞けるなんてこのヴァルマー、感激の極み」
神妙な顔つきになってマーヤがヴァルマーに占い結果を告げた。ヴァルマーは自分の推理がはずれたことを悔しく思う。
「うむ。今度はお主にも特徴を教えておこう。緑色の髪、青い瞳、十字架のペンダントってところじゃ」
ヴァルマーは自分の間抜けさを呪いつつも大げさに驚いた。
「な、何ですってー。あの時はあの小娘を連れて来ようと思っていたがやめた。小さい子娘の方がクジャク様所望のやつだと思っていたのに」
結局メイを連れてくる可能性があったということで、仮にそうしていたとしても怒られていたことは変わらないということになる。幹部の割に「かしこさ」が低いのがわかる側面だ。
「一刻も早くとってきてほしいのじゃ。クジャク様が苦しんでいる姿を見ているのは辛い。お願いしたぞ、急いでおくれ」
「はい! わかりました。それでは失礼を」
ヴァルマーは依頼された通り急いで「やろう」と思っていたのだが、マーヤに呼び止められた。
「待つのじゃ、ヴァルマー。心を取る時の条件を教えとらんかったのう」
ヴァルマーにとって初耳の話だ。トムの『理玉』は取れているのに何か条件があったとは思っていなかったのである。
「条件……といいますと?」
マーヤはその理玉の取り方では何かのきっかけで、元の体に戻ることがあると告げた。
「それじゃがのう。相手を人気のないところで裸にすることなんじゃよ」
「ええっ!? どうしてもですか?」
そこまでする必要があるのかなと思いつつヴァルマーはマーヤに再確認してみたのだが、マーヤにすごまれてしぶしぶうなずく。
「儀式完了に必要なことじゃ。や・る・の・じゃ・よ。わかったかの!」
「はい――――っ」
ドアの外に出ると待ちかねた様子のバラスがいた。
ヴァルマーが軽口を叩くと、地下特有のじめじめした空気で怒りも倍増したのかバラスが怒る。
「行って来たか。待ちくたびれたぞ」
「気、短いっすね。バラス様って」
「どこから私の気が短いと、、、うるさい!!」
魔族の中にも最低限の礼儀というものはある。バラスの威厳を意に介さないヴァルマーには、手を出さないとわからないのだ。
「うー、いたた。ぶつことないでしょう?」
ヴァルマーの抗議に耳を貸す気はない。バラスが簡潔に聞いた。
「それでわかったのか?」
「ええ。それが…………」