トムの心 5
ヴァルマーが長々とした説明。デュアの方に返答を求めてきたが、彼女にとって意味不明だった。なのでヴァルマーの言葉を遮る。それに気分を害したのか攻撃をやめるように命じていた心なきトムにデュアの身柄を確保する様に命じ、自分はまた魔族の城へと戻っていったのだった。
"と、とにかく貴様の方が『優しい心』の持ち主の可能性が高いという事だ。ええい、もういい。今一度お館様の城へ戻るぞ"
「あっ!! ちょっとヴァルマー!?」
デュアは何かをヴァルマーに言おうとした覚えがあるのだが、忘れたので今の状況に集中する。
「なんだっけなー? 考えている暇はなさそうね。さっ、ゲームの再開といきましょう」
状況説明
町で2人が騒いでいれば、不審に思った町人達が集まって来ても不思議はない。だが、ヴァルマーが帰る前に天使や悪魔または精霊ぐらいしか認識出来ない空間を作り出していった様だ。
デュアは、心なきトムが立ちふさがっているのでどうにかしようと試みていた。
「勝つのはオレだ。女相手だろうと手加減しない」
天使の羽のデュアと、悪魔の翼を広げた心なきトムが双方羽を広げて空中戦を始めた。
「フレイムブレード」
「炎!? ひきょうよぉっ」
心なきトムが剣に魔力を付加させる。その武器をデュアは少し余裕を持って避けながら(どうもスピードはデュアの方が上か?) 精霊リリィが消える直前に言っていたことを思い出そうとしてみる。確か、リリィさんは武器と防具に魔力が秘められている。すべての武器防具じゃないけど、と説明を受けたはずと。あたしのムチは属性がある気がする。トムが炎の属性ならあたしはそれ以外?
炎と反する属性を期待してみるしかないと攻撃をどうにか躱し続けている間にデュアは思考をまとめる。
「ぼーっとしている場合か! 今は戦闘続行中なんだぞ!!」
「あつ……っ」
いらだちを隠そうともせず、心なきトムはデュアの怒りをたきつかせようとしてきた。
「攻撃してこい!! 無抵抗のやつをどうにかする程オレは弱くない」
「……っさいわねー。考え事よ。いいから戦闘を続行しましょ」
フェイントを織り交ぜた二重の攻撃で心なきトムの武器の魔力を弱めた。しかし、すぐに元に戻して(魔力注入)してきたので意味がなくなる。
「そりゃ――!! えいっ、二段攻撃!」
「うっ……くっ、今のは効いたぞ。だが、フレイムブレード!!」
攻撃の間隙をつく心なきトムのスピードが上がった太刀筋の速度。デュアは避けるのが遅れた。肩に炎の熱さと痛みを負うものを受けて火傷しただろうなと嫌な感覚を覚える
「熱……あっつーい!! よくも火傷の痕が残りそうなことをしてくれたわね。このクソバカトム――っ!」
「くっ……クソバカだと!? いい度胸だ、更にやってやるぞ」
その負のエネルギーを炎に変化したのか剣に宿っている炎の威力が増大した。
(ああっ!! 熱い。リリィさん助けて――!!」
精霊の力が付加された双子ちゃんはこの空間にすんなり入れたみたい。
「ていやあ――っ!」
炎がはじけるような強い音は水系魔法とぶつかった音だったようである。
(……? 今のは……?」
何が起こったのかデュアには理解できなかった。それで後ろを向くと魔法を使ったばかりのメイと視線が合う。
・メイ HP66 適応能力24 かしこさ70 召喚士
「ごめんねっ、遅くなって。メイちゃんとうじょ――――う」
「何だお前は?」
怒気を帯びた心なきトムの声にも怯まず、強気な態度でメイが応じた。
「失礼しちゃうわね。さっき名乗ったばかりじゃない!」
「ボクもいるよ――」
・グレイ HP73 適応能力23 かしこさ68 魔法戦士
しかし、グレイは見当違いの方を向いて言っている。ミトースの宿屋に眼鏡を忘れてきたからだ。とりあえず今だけはそんなグレイを無視。そして、小声でメイがデュアにトムの状態について聞く。
「ねぇっ、いつものトムと違わない!?」
「そうなのよ。トムったら『心』の核をヴァルマーとかいう魔族に持っていかれたの」
心なきトムが邪魔者から始末しようと寄ってきた。メイはまだデュアと小声で会話中なのでグレイを自分達の前に立たせて牽制させることで、話を続行させている。
「さあ来い。ボクが相手になってやる」
今のグレイには誰が誰だか霞がかっていてよく見えてはいない。
しかし、だからこそ敵と思われるものだけに精神集中している。なので心なきトムはうかつな手を打てないでいるのだ。
(こいつ、かなりの熟練者な気がする)
その時間を上手く利用してメイはデュアとの話を再開させていた。
「どうも事態が読みきれないわね、つまり?」
「早い話がトムは魔族に操られているってことなの」
「それってトムが間抜けだったってこと?」