この魔族幹部は! 3
ディリーの持っている剣から聖なる力が発生しているなんて知らないトムが驚いた。それというのも、力強く一歩踏み出したかと思うとレイチェルの家の母娘を目にも止まらぬ速さで斬ったからである。
「な……何をするんですか。ディリーさ……」
そうした理由が不明だったのでデュアも戸惑いをぶつけるつもりだったが、ハッと何かに気づいた。
……………………………………
女の子と母親が倒れていたはずの場所から何かがだんだん形になっていく。冷たい瞳がデュア達一行を射すくめようとしてきた。
「ル……ルフラン……!?」
ディリーが驚愕からか目を見開く。さっきまでの女の子達は魔族幹部が作りだした幻のようだ。上を見上げてボー然としている彼を無視して自己紹介をし始めた。
「(最初は姿もなく声だけが)……わかりますか? ルシファーです」
(確かに聞き覚えがある声だわ……)
そう思ってディリーの方を見ると、彼が隙だらけだったのでピュテイアが大声で意識を向けさせる。
「……ディリー! 何をボーッとしているのよ!」
ハッと我に返った。
「……ルフラン」
「間近ではお初にお目かけいただきましたかね。光栄です」
「こちとらテメーなんかお呼びでねーよ。光栄でもね~し」
トムの怒りを前にしても、特に気にすることなくマイペースに自らの事情を語り出す。
「ヒドイですね~っ、わざわざ私の方から出向いているのに」
「頼んだ覚えなんかねーよ」
さも楽しそうにからかいがいがあると笑いながら――
「そりゃそうでしょうね~。勝手に来ただけですから」
話が進まないのは良くないと思ってグレイが問う。
「ところで何のためにここまで来たのですか?」
「何しに……ですって? ハハハッ、そんな事もわからないんですか?」
その笑い声がうざったかったからか、デュアが答えた。
「……大体わかるわ」
ルシファーがほぅっと感心したようにアゴに手を当てる。
「察しが良いようですね……さすがです」
デュアが厳しい目つきでルシファーを凝視した。
「おー、怖い。そんな顔で見ないでくださいよ」
「………………」
答えるかどうか疑問はあったものの、デュアは聞かずにいられなかったようで、大声で叫ぶ。
「こ……この人達に何をしたの」
「別に……何ということはありませんよ。ただ忠実な私のものになってもらっていただけですから。その内目を覚ますんじゃないですか。殺す気は有りませんでしたし」
「……モノ……?」
デュアはかなりの怒りを覚えたようだ。更にそれを聞いたディリーが黙っているはずもなく……
「ルフラン……ッ! お前はそんな卑劣な奴じゃないはずだぞ!?」
怒りのためか拳を震わせた。
それなのにルシファーが呆れた表情を見せる。
「さっきから何なんです? 私の事を『ルフラン』などと呼んで」
「なに……?」
その戸惑いから発せられた声を疑問と捉えたのかルシファーがやり直した。
「だから、何なんです? 私の事を『ルフラン』などと呼んで……」
姿形は間違いなくルフランのものなのだが……。ディリーは自分の知っているルフランとは違うと思い、その原因を探るために魔族幹部に誰だと質問する。
「お前……誰だ? 答えろ!」
パフォーマンスかわざとらしく剣を喉の近くにあてて言った。
「ルシファーですよ」
にっこりと底意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「ルフランはどうした。お前の顔はルフランにそっくりだが、性格が全く違うなっ!」
クックックッとルシファーが嫌な笑い方をした。
「当たり前じゃないですか」
「何……?」
ディリーがどういう意味だと掴みかかりそうな勢いで聞く。
「わからないのですか。この方も私のものとなったのですよ」
「な……んだと……!? モノだとぉ……!?」
デュア達はあまり見ないディリーの激情している姿を口を覆いつつも見ているだけである。ピュテイアが見かねてディリーの肩に手をおいた。彼の肩が小刻みに震えている。一粒の涙をこらえた。
「ディリー……」
「……ん」
「え?」
彼がルフランに怒りの言葉を告げる。
「許さん!! 俺は」
認めない……そんなマネをさせるだなんて許さないとディリーが動作で表現していた。
(どうしたの、ディリー……)
ほんの少し涙を流しているディリーをピュティアは支えてあげられない。
「おやおや。青年でしょうあなた。そのような方が涙を流すとは……恥ずかしい事じゃありませんか?」
そんな言葉もディリーの耳には入っておらず、剣を握る。険しい表情で覚悟を決めた強い瞳をルシファーに向けた。
「ふふ、そうそう」
そのやる気になっている事実は、ルシファーにとって何らかの狙いのようだ。策略にハマってしまいそうである。
改稿 最終話(第一部終了)は22日予約投稿