この魔族幹部は! 2
聞かれても関係なく、のらりくらりとかわした感じでこの場からいなくなろうとするルシファー。
<それはご自分でお考えください。それでは私はこの辺で……>
この魔族幹部との話は避けて通れない。そう覚悟を決めたディリーが苦々しい表情をどうにか見せないようにしながら自分の考えが正しいはずというのを確かめる事にした。
「待てっ!!」
ルシファーが訝しそうに聞き返す。
<急に何ですか?>
「お前……ルフランなんだろ……?」
記憶を失くしてしまっているのか、実際に他人の空似なだけなのかどうかは今の状況ではわからない。ただ、本気でわからないという表情をされたのは事実であった。
<はて……? 誰ですかルフランって……?>
「とぼけるな!!」
ただディリーの大声に驚いただけなのか、それとも実はルシファーの正体(?)は――これ以上の会話をする気はないらしく影に溶けこむかのごとくいなくなってしまう。
<とぼけてなんかいません。それではこの辺で失礼させてもらいます>
ルフラン……と考えていそうなディリーの悲しい瞳にピュテイアはまごまごする事しか出来ない。
そんな中、ディリーが落ち込んでいるのは俺の責任なのか? と勘違いしているトムの姿があった。
◇
ルシファーの去った後のイコウ村。さて、こんな状況の村に何をしてあげられるのかとデュア達が頭を悩ませていると、村のどこか(デュア達のいる場所からは遠くなさそうだ)から子どもの泣き声が聞こえてくる。
えーん……え~ん……
「あっちからだ!」
グレイの指差す方角に行ってみると、泣き声が近づいた気がした。
えーん……うえ~ん……
「どうした!?」
一応他の場所からかもしれないと逆方向を見に行っていたディリーとメイ、それとトムが戻ってくる。
「あっちの方角から泣き声が聞こえてきたんですよ」
結局そちらに耳をすますと、間違いなくこちらだろうというのがわかって全員で向かった。
うぇ~~ん……うぇ~~ん……
「どうしたの? おじょうちゃん」
全員の中でデュアが代表し、優しい声音で話しかける。
女の子が一旦泣きやみ、デュア達を見上げて聞いてきた。
「ひっく……ひっく……だぁれ?」
「旅人よ、良かったらどうしたのか教えてくれる?」
今まで泣いていた事もあってしゃくりあげながら説明をしてくれる。
「み……みんな……。動かなくなっちゃったの……」
「おじょうちゃんはそれで泣いていたの?」
確かに泣いていた理由はそれなのだろう。少し驚いていた様子だったが、まだ不思議な事はあるという事実を教えてくれた。
「ん……。あ、で……でもママは何ともないの!」
村人が全員抜け殻のようにされているのにこの子の家にだけ何もないのは変だ。動けるのには理由があるはず、超強力な退魔アイテムを身につけているとか、家に置いてあるからとか。その真偽を確かめるためにもこの女の子の家に行ってみたいと思う。
「ちょっとあなたのお家まで案内してくれるかな? え……と……」
お名前教えてとデュアがやさしく聞く。すると泣いていた女の子が控えめに名前を言った。
「レイチェル……」
「レイチェルちゃんね。道案内してくれる?」
黙ってうなずき、歩き始める女の子。少し歩いて1つ目の角にこの女の子が住んでいる家に着く。
「ここだよっ」
何の変哲もないはずの一軒家、そのはずなのにデュアがどこか嫌な感じを覚えた。
「クク……ッ」
影に溶けこむようにいなくなったと思っていた魔族幹部ルシファーの声!? その笑い声に短い驚きの言葉を発してしまう。
「な……!?」
「どうしたのお姉ちゃん」
家のドアを開けているのに来ないデュアにレイチェルが首を傾げていた。
「え……ううん……」
今のところデュアしか気づいていない? この空間の異常さ……何か禍々しいものに包まれている予感がしてならない。
「デュア! どうしたんだ? 顔がヘンだぞ」
危険察知している表情をヘンと言われるのはデュアにとって心外なのだが、思いすごしの可能性があるのでまだ様子を見ていた。
「別に……なんでもないわ」
デュアの感じていた嫌な予感めいたものを巫女であるピュテイアも感じ取ったらしい。
「おかしい……この空間」
そう感じたピュテイアがディリーを呼び寄せる。
「ディリー!」
「なんだ?」
どこか様子がおかしいのはわかるという話を彼に聞いてから、その剣で悪い気を祓ってとお願いした。
「あの子……禍々しい気を発しているわ……。何かが憑いてる……」
了解とばかりにうなずいたディリーが剣の聖なる力で斬りかかる。
「よし……その気を祓おう! そうすれば正体がわかるはずだ」
剣の聖なる力を引き出すためか、ディリーが決め台詞のような言葉を口にした。
――その汚れを祓おうぞ! 汝、滅せられよ! ――
「ディ……ディリーの野郎、何を……!?」