デュア達、一行の前に現れた魔族 2
「俺……は……」
ディリーが迷っているかのような口ぶりで答えを出せずにいる。
魔族ルシファーにそこの片目の人は言葉をにごしている様子ですが……どうしたんでしょうねえ? と嘲笑するような言い方をされたので彼はきつい視線を浴びせるようにすごい形相で声の方へ向く。
もう一度今度こそ魔族のくだらない考えを打ち消してやろうと言葉を発するのだが、ディリーにとって理解し難い感情がその声を震わせてしまっていた。
「お……れは……。信……じる……ッ」
得心したかのような態度で魔族ルシファーが「ほほうっ」と声をもらした。どうして『友』というのに反応するのか……と嫌らしい笑みを浮かべて尋ねる。
「キ……キサマ……ッ。俺に何が言いたいっ!!」
そんなに深く考えこむ質問じゃないはずなのにとピュテイアが楽観的な声で聞いてみたところ
「なーにムキになってんのぉ?」
敵意に似た良くない視線をピュテイアに投げかけてディリーが言った。
「黙れ! ピュテイア」
そこまで怒鳴られるとは夢にも思っていなかったピュテイアが気まずそうにした。そうして起こった沈黙、その瞬間にルシファーがディリーの気づいた信じたくない予想を口に出す。
「クク……。なぜ貴女がそんなにためらうのか当てましょうか……?」
…………ッ!!
それを聞かなかったことにすればそんなあり得て欲しくない事は知らずにいられる。だが、ディリーもそれを受け入れたくないだけで向き合うしかないとわかっているのだろう、否定しながらも言葉を滑らせてしまっていた。
「いや……だ。言うなッ!! ルフランの事だけは……っ!!」
その言葉が聞きたかったという感じの魔族ルシファーが嫌味っぽく笑い、ディリーにとって最悪の事実を告げる。
「クク……やはり君の言う友とはそいつなのかい? へぇ~、その子ならすでに僕達の仲間入りしているよ」
何かを納得したような言い方。驚愕の表情で体を硬直させてしまっているディリーを面白い見世物を見せてもらっているといった様子。
そんな姿を魔族ルシファーが見つめていた。
「……ッ!!」
その時、ディリーの目は大きく見開かれる。
「そんな……。嘘だ……何故!! ルフラン……」
ディリーの迷いを増やして苦しむ姿を見続けるという楽しみをしたくて、魔族ルシファーが嫌な考えを続けさせようと圧力をかけるのをやめなかった。
「ハハハ……何でだろうね? 実は君を嫌っていたりしてね……。フフ……」
焦燥し出したディリーにピュティアが訴えかけるが、それが聞こえているかどうか定かではない。
「ダメよ、ディリー!! そんな奴の声に耳を貸しちゃダメだってば!!」
(そうなのか、ルフラン……)
ディリーに心理的負担をかけるだけかけておいて、魔族ルシファーはその場を後にした。
「それでは失礼したね。それじゃ」
ディリーが混乱している様子を見守っていたデュアとメイが疑問を話し合う。
「アイツ、何で『友達』を信じるかって聞いたのかな?」
「さぁね……心を乱すためじゃないかしら?」
「乱すって……誰の?」
辛そうな表情をしているディリーの方に視線を向け
「先刻から落ち込んでいるディリーさんよ」
少し考えデュアが気づいた。
(もしかして『ルフラン』って人に過剰に反応してたから……まさか!?)
「ねぇ、ディリーっ。ディリーらしくないよーどうしちゃったの?」
ピュティアの心配そうな眼差しを見たディリーがしばらく無言でいた後に深く息をついて口を開く。
「………………。なんでもない、気にするな」
「その目……は『なんでもない』って感じじゃないよ!! ねぇ、どうしちゃったのよ!?」
「……本当に何でもないんだ……っ」
頭をかかえてうつむいた。
(ディリーさん……)
いてもたってもいられない、デュアが彼の手をとって無理矢理気味に連れて行った。脱力しているディリーを連れて行くのは「男の人ってこんなに軽かったっけ?」とデュアが一瞬戸惑うくらいに楽な事になっている。
「ピュティアさんっ、ちょっとディリーさんをお借りします!!」
唐突にデュアが叫んだのに驚いたが
「え? ええ……」
ピュティアの何とか発した肯定の声を聞いたかどうかくらいのタイミングで、どだだだっといった力強い走りで勢い良く宿屋の扉を開いて外に出て行った。
ちょっと急ぎすぎて人気のないところまで無駄な体力を使っちゃったわねと今更思ったデュアが一息つく。
「はぁっ、はぁっ。こ……ここまで来ればいいわね」
「何をするんだ! デュア!」
やっとディリーが自分の意思でデュアの手を振り払った。
「いえ……私の思った事がもし本当だったら……! と思いまして……」
「? 何の話しかな」
何となく聞かれそうな話の想定がつくとはいえ、ディリーは疑問を感じているかのような表情を作る。
「あなたの親友の事です……」
「!!」
彼の驚きの表情がすべてを物語っている。
「あのルシファーという奴の事を知っていますね?」
ドキッとしたが、首を振って否定した。
「嘘です! 何故本当の事を言ってくれないのですかっ!?」
「……君の瞳は澄んでいるんだね。見透かされているかのようだよ……」
しばし無言の時間が流れる。