トムの心 3
獲物を奪い返そうとする肉食動物のようなヴァルマーの眼光の鋭さ。それにデュアは恐怖を感じつつも敵が狙いをつけている理由の方もかなり気にしていた。
(すっごく気になる)
デュアは自分の気持ちをそのまま言葉にして表現する。
「知りたいじゃない!! 教えなさいよ!」
そっぽを向いたヴァルマーは、デュアに「そんなつもりはない」ことをアピールした。
「どーーしてよおおおっ!」
ヴァルマーの胸ぐらをつかんだデュアはその勢いのまま体を前後に揺らす。
“小……娘えええっ!! 何をする”
「教える気あんのっ!? あんた!!」
“ないっ!”
魔族ヴァルマーの気が変わるのをわずかでも期待していたデュアだったが、ヴァルマーに否定の意思を即座に示されて更に躍起になった。
「いいから~~~っ、お・し・え・て・よ。ねぇぇぇ~~!!」
“誰が教えるかっ! この下衆げすが!”
「小娘ならまだしも下衆ですってえ~。あんた人間型よね。それならこうしてやる」
ヴァルマーの悪口にデュアは目の色を変える。そして彼女は小さい頃に良くトムに食らわせていたくすぐり攻撃をヴァルマーに試そうと決めた。その異様な雰囲気に魔族ヴァルマーがたじろぐ。
デュア レベル10 適応能力更にup 28→30
“どうする気だ!? まさか”
「そのまさかでしょうね。ほーーらっ、こちょこちょこちょ~っ」
“ぐわ~~はっはっはっはっはっ。い~ひっひっひっひっひっ~い、あははっ、やめろ~”
魔族ヴァルマーの体にある笑いのポイントを見極め的確に攻める。くすぐり続けながらデュアは問いかけた。
「教える気になった? 教えないと死ぬくらいまで続けてやるんだから」
笑わされているヴァルマーは力が入りきらず、デュアを押しのけることが出来ない。
“ぐわっはははは。やめろっ、教えてやるから”
一瞬やめてデュアは「本当に?」と聞いた。
一瞬考えたもののヴァルマーの呼吸が整うより先にまたくすぐり始める彼女。
「やっぱりあんたなんか信用できそうにないから続ける」
“ぐわ~~っはっはっはっ。本……本気で教えるからやめれ~~”
「んじゃ教えてちょうだい」
もうしばらく笑いたくもないと思わせられる程に笑わされたヴァルマーは、息を整えてからしぶしぶ魔族の目的を話し始めた。
“ぜーーっ、ぜーーっ。その理由だと? それは我ら魔族の主であるクジャク様が完全体になるのに必要だからだ。やさしい『心』を悪の心に染めた方が力をより強く出来るらしいからな”
魔族の企みを知らされたデュアは憤慨する。
「そんなくだらないことに? 悪が完全体になったりしたら大変じゃない!」
“だからこそ、その『心』が必要なんじゃいこのボケ小娘がー!!”
「だったらこんな仕事(?)やめて正義の為に力を使いなさいよ」
「そーだ、そーだ」
やっとの事で二人の間に割り込めたトムがデュアの意見に賛同する。
「あっ! トム。もう平気?」
「ああっ。心配かけちまったみたいで悪かったな、デュア」
「ううん、いいの♪」
そこだけ光っているかのごとく、彼ら二人の世界に入っていった。
(やってられんわ。この私が肩身狭くなるようなマネをしおって) ヴァルマーがやさぐれている中、今でも彼女達は二人の世界にいる。
「トム、好きよ。何度も言わせないでね、なんちゃってー」
照れくさそうに顔を完熟トマトみたいに赤くしたデュアは照れ隠しなのか、トムの背中を強く叩いた。
※イベント発動
「……?」
またもやトムの意識が薄らいだ。一度『心』の理玉を取られた影響のせいか、背中を叩いた勢いで理玉が出てしまったのだ。その機を逃さずヴァルマーが理玉を手中におさめる。
“ふっふっふっ、今度こそ小僧の『心』をいただきい”
「いや――っっ!返してよぉ。悪が完全体になるなんていけないことよっ!」
デュアの失敗を鼻で笑ったヴァルマーは、先程の恨みを晴らそうとする。
"ふふふ! ぶわーかめいっ! 愚か者がーっ。このヴァルマー様に敵うわけあるかっー!? 小娘ごときが"
ヴァルマーは さっきはこの小娘のペースに飲まれてしまったが、との反省をしつつも結果的に『心』も奪ったしいいかとすぐに帰ろうとした。
「さっきはこっちの有利だったと思うけど?」
図星をつかれたヴァルマー、デュアの疑問を一喝してごまかす。
"やかましいわ。もう私は館に戻る"
「館――――!?」
"いちいちうるさい小娘め! おい、小僧。こいつの相手をしていろ"