4話 仕事はつらいね。でも俺頑張る!
薄暗い路地を若い男女の二人組が歩いていた。繁華街から遠ざかり、すっかり人気がなくなった路地を歩く二人の様子は仲睦まじいとはとても言えず、なにやら一方的に騒ぐ少年に、少女はうんざりした様子だった。
「いや、しかしあれだね。先輩ったら何か困ったことがあったらすぐ俺を頼るんだから。
いくら俺が頼りがいのあるイケメンだからって、まったく困ったもんだよ。なあ。」
「嫌なら断ればいいじゃないですか。」
「そうもいかないさ。あれだ。ほら俺優しいし、イケメンだし。」
「そうですか。」
「そうなんだよ!もうあれだね、先輩ったら俺がいないと何もできないんだから、俺が守ってやらないと…あれ、今頃先輩、俺がいなくて寂しくて泣いているんじゃないか?なあ、どうしたらいいと思う?今すぐ会いに行ってあげたほうがいいのかな?」
「はあ…。」
「どうしたのよ、チョコ?さっきからつれない反応ばっかり…もしかして俺が先輩の話ばかりするから、嫉妬してる?」
「どうしてそうなるんですか…。」
「マジかよ。実は俺をめぐる恋のトライフォースが既に成立していたのか。くそ、俺の知識じゃどう対応すればいいのか、分からない」
「相変わらず人の話を聞かない人ですね。」
「チョコから脱がしたほうがいいのか?上から…いやここは下から攻めるべきだな。」
「脳内とはいえ勝手に人を脱がせないでください。」
いい加減、我慢の限界だったのだろう。チョコと呼ばれた少女は、大きなため息をついた後、歩みを止めると少年に向き直る。
「いい加減黙ってもらえますか?忘れているかもしれないのですが、私たちは仕事でここに来ていることを思い出して頂けないでしょうか?」
「ああ、そういえば…。いや、うん。仕事だった。俺忘れてない。ウソジャナイヨ?」
「もういいです。どうせあなたの鳥頭じゃ、今夜ココに何をしに来たのかすら覚えてないのでしょう?」
「鳥頭とは失礼な!俺のパーツは100パーセント純粋な人間で構成されている!たぶん、いや、俺の製造元にちゃんと聞いたわけじゃないけど。」
「どうでもいいですよ、そんなことは。」
「そうだね!…それで、俺たちは何でこんな夜中に薄ら寂しいところをうろうろしているんだっけ?」
「やっぱり忘れているじゃないですか。」
チョコはあっけらかんとした少年の態度に心底あきれた様子になる。
この男は今回の仕事について何の感慨もないのだと。
「あれだ!ここをウロウロしていると人畜無害の一般ピーポーに牙をむくモンスターとエンカウントするとか、そんな感じだろ!!それで俺が正義の鉄拳で、悪の背骨をへし折ると、やっべ、俺カッコいい。サインいる?いまなら婚姻届と離婚届の両方にしちゃうよ!」
「そんなのいりませんよ…。それにどうするんです両方にサインして?まさか一緒に提出するんですか?」
「あ、それでいいよ。俺一度手に入れればそれで気が済むし。か、勘違いしないでよね、別にアンタのことなんて、私なんとも思っていないんだからね!」
「そうですか、それは助かります。あと先ほどおっしゃっていた仕事の内容ですが、逆ですよ。」
「逆?」
「モンスターを狩るんじゃないです。…襲うんですよ罪もない一般人を。アナタがモンスターになるんです。」
チョコの言葉に少年は一瞬呆けた表情を浮かべるが、すぐに笑顔を取り戻す。
「なにそれ!?まじか、そうだっけ?ヒーローかと思っていたら、実は俺が怪人側だったのか!!いや最近だと珍しくないのか。悪を倒すために悪に堕ちるダークヒーロー。やっべ、やっぱ俺カッコいいは!!」
「…この町で騒ぎを起こせば、獲物があなたの好みで選んでいいとのことでした。人数には指定がありませんでしたが、3人から5人程度で十分かと思います。アナタが特に注文を付けなかったので、人気がないところで適当に済ませようと思ったのですが」
「え、なにそれ?ダメだよ。そんなじゃ!!仕事を楽に済ませたいとか、そういう最近の若者の発想はよくないよ!いいかい?仕事っていうのは、楽をすることに力を注ぐんじゃないんだ。与えられた条件の元、どれだけクオリティを上がられるかが重要なんだ。具体的には…。」
「あなたに要望があるならそれに従います。」
「話は最後まで聞こうよ!まあ、いいか。それじゃさ、繁華街に戻ろう。偶然会った人間を、出会いがしらにあの世までフルスイングするのは、いくらなんでも雑すぎる。俺もそんな出会いじゃ何の愛着もわかないしね。」
「愛着ですか?」
「そう愛着!もしかしたらさ、戦いの中で意気投合して、長い付き合いになるパートナーになるかもしれないじゃない?大事だよ、相性ってやつはさ。」
そう言うと、少年は鼻歌交じりで来た道を引き返し始める。その姿を見てチョコは一人思う。
(最近は、より一層破綻してきている。)
少年にとってそれは、目的を達成するための苦肉の手段だったはずだ。だが、今は手段を達成することだけに終始し、肝心の目的を忘れてしまっている。
少年のことを哀れに思うチョコであったが、すぐにその考えを思い直す。自
分も人のことなど言える立場ではないことを、思い知っていたから。