第14話 間宮と初詣 act2
皆さん!あけましておめでとうございます。
いよいよ2019年が始まりましたね!
お正月にちなんで、「29」も丁度、初詣のお話になってます。
まさに計算通り!!
あ、嘘です!たまたまの偶然ですww
今年も変わらずお付き合い頂けたら幸いです。
皆さんにとって今年も良い年でありますように。
葵 しずく
ほえ~凄い人だなぁ・・・
参拝する為に本堂へ入った2人は、賽銭箱渋滞の人の多さに絶句した。
だが、今日は何となくのお参りではなく、受験合格祈願をお願いする為に来たのだから、引き返すわけにはいかない。
必ず最前列まで並んでしっかりと手を合わせると、気合いをいれて2人は列に並んだ。
並んでいる間も、間宮は腕を器用に使って瑞樹にスペースを可能な限り作ってくれている。
これだけ優しいくて頼り甲斐がある人なんだもん・・・・
私以外の人が好きになったって、なんにも不思議な事じゃないよね。
間宮の優しさは正直に嬉しい。嬉しいのだが、この優しさは自分だけに向けられているわけではないのは知っている。
だから、複雑な気分になってしまう。
今まで恋愛なんてしてこなかったけど、私って自分で思ってる以上に嫉妬深いのかも・・・
そんな複雑な心境のまま、賽銭箱の最前列までたどり着いた2人は、勢いよく賽銭を投げ入れて手を合わせた。
受験生である瑞樹が、学問のご利益で有名な神社で願う事なんて、一つしかない。
本人も手を合わすまでは、合格祈願をするつもりでいた。
だが、実際にお願いしたのは、間宮の健康についてだった。
きっかけは先日発症してしまった盲腸が原因だったが、まだ学生の瑞樹から見るとかなり無理して仕事をしているように見えて、前々から体を壊さないか心配していたからでもあった。
勿論ここはそんな神社ではないのは百も承知だったが、同じ神様なのだし聞いてくれないはずはないと、何とも強引な考えで手を合わせた。
神様も大変だ・・・
お参りが終わり、参拝の列から外れて比較的人が少ない場所まで移動する。
その間、相変わらず間宮の袖をキュッと握りしめてついて歩く瑞樹だったが、その袖から出ている間宮の手に意識が集中していた。
「間宮さんは何をお願いしたの?」
月並みな質問だとは思ったが、気になった事を素直に口にしてみた。
すると、世界平和的なと白々しい返答が返ってきた為、無言の圧力を間宮にかけた。
「・・・こうゆうのって口に出すと、叶わないって言うだろ?」
「ん~~~~・・・なら聞かないよ!」
間宮も言い出したら、中々きかない頑固な所があるのは理解している。
だから、これ以上追及しても聞き出すのは困難と判断した瑞樹は、納得がいっていない返答をして、この話は終わらせる事にした。
周りを見渡すと、参拝の次に賑わっている場所が目に入る。
「ね!間宮さん!おみくじ引こうよ!」
「あ、あぁ。」
おみくじに誘っただけなのに、間宮が妙に浮かない顔をしたのに気が付いたが、気にしないふりをして掴んでいた袖を引っ張り移動した。
久しぶりの家族以外での初詣を堪能しようと、楽しそうにニコニコと歩く。
子供の頃からおみくじを引くのが楽しみだった瑞樹の目は輝いていた。
おみくじの料金を払おうと、鞄を開けようとしたら隣にいた間宮が、当たり前の様に2人分の料金を支払ってくれた。
なんだか申し訳ない気持ちだったが、断っても間宮は絶対に引かない事は十分に知っているから、お礼を言って早速おみくじの棒が入った筒を持ち上げて、一生懸命に振った。
子供の頃はこの筒が凄く大きくて、振るのが大変だったが・・・・・今も大変だった・・・・
数回振って、ようやく一本の棒が出てきてその番号を巫女さんに告げ、おみくじを受け取った。
間宮もほぼ同時に隣の巫女さんから受け取ったようだから、少し離れた場所へ移動してから、早速おみくじを開こうとした時、何故か間宮が不安げな表情をしてこちらを見ていた。
なんだかその視線が恥ずかしく感じて、わざと間宮からは見えないような位置に体の向きを変えてからおみくじを開く。
「あ!やった!」
おみくじの結果を見て、瑞樹は声を上げた。
結果が大吉だったのだ。
受験の年に縁起がいいと喜びながら、引いたおみくじに書かれてある内容に目を通す。
ー勉学ー
光あり。何事にも明るい兆しあり。
そう書かれていた事に安堵した瑞樹は、次に色々と飛ばして恋愛運を読んだ。
ー縁談ー
良い結果が得られる。積極的に。
え、縁談・・・・・
いやいや!気が早過ぎるんだけど・・・
でも・・・そっか!良い結果が得られるんだ!
エへへ・・・・
健康運や金運をすっ飛ばして、隣で何故かこちらを気にしている間宮に、大吉のおみくじを自慢げに見せた。
「お!やったじゃん!新年早々縁起がいいな!」
と反応した間宮は何故か自分事のように嬉しそうだった。
とゆうより、ホッとしているように見える。何故だろう・・・
「間宮さん末吉だったんだ。微妙だねぇ!あはは!」
「うるさいよ!ほっとけっての!」
自分の大吉のおみくじを大切に財布に仕舞ってから、間宮が真剣に読み込んでいるおみくじを覗き見して、間宮を揶揄った。
末吉なのに、妙に間宮さん嬉しそうだなぁ。
真剣な眼差しで、おみくじに視線を落としている間宮の横顔を眺める。
やっぱり、優しいとか頼り甲斐があるとか内面の事だけじゃなくて・・・
単純に格好良いよね・・・
頬を赤らめて、そんな事を考えながら間宮を眺めていると、間宮も瑞樹と同じように、末吉のおみくじを財布に仕舞おうとしだした。
「あれ?おみくじって大吉以外は、あそこに結ぶんじゃなかったっけ?」
確かそうだったはずだ。自分も大吉以外はいつも括り付けて厄落としをしていた。
「いいんだよ!このおみくじは手元に持っておきたいんだ。」
そう言って、間宮は財布を鞄の中に仕舞った。
すると、少し強い風がこちらに向かって吹いてきて、さっき通ってきた出店からいい匂いが風に乗って届いてきた。
その匂いを嗅いだ瑞樹は、おみくじの事を瞬間的に忘れ去り、匂いにつられてまた、間宮の袖をクイクイと引っ張りだした。
「ね!お参りも済んだし、何か食べようよ!」
今朝は朝早くから着付けをしてもらっていて、殆ど何も食べずに家を出たから、もうお腹がペコペコなんだよ・・・
「あぁ、そうだな・・・っとその前にちょっとトイレ行ってくるから、ここで待っててくれ。」
何だかお預けを食らった気分だったが、瑞樹は大人しくなるべく人が少ない場所を探して、間宮を待つ事にした。
また今朝のように迷惑はかけたくない一心で、効果があるのかは別にして、瑞樹は真剣に気配を殺すイメージで、呼吸をするのも細心の注意を払いながら待った。
ウ・・・・凄く周りから視線を感じる・・・お願いだからこっちに来ないで・・・
もはや目の前にいる神様に祈る気持ちで、間宮が一刻も早く戻ってくるのを待った。
「悪い!待たせたな!」
「おそーい!もうお腹ペコペコだよ!」
ぷくっと頬を膨らませて、抗議する瑞樹の手をそっと握った。
「へ?え?え?」
いきなりの事で瑞樹の思考は混乱する。
そんな事お構いなしに、そのまま瑞樹の手を引いて出店の方へ歩き出す間宮の顔も少し赤らんでいた。
え?何?ずっと考えていた事を神様がきいてくれたの?
あわわわ!嬉しいけど、凄く照れるよ・・・
って間宮さんも赤くなってるし!
境内を離れて出店が犇めく通りへ到着すると、来た時より遥かに人混みが増していた。
「逸れないように手を離すなよ。」
間宮はそう言って、握っていた瑞樹の手に力を込めた。
「あ、あはは・・・そうゆう事か・・・」
「ん?どうかしたか?」
寂しそうな顔をした瑞樹を覗き込む様にして、間宮はそう聞くと慌てて出店の方を見て笑った。
だよねぇ・・・わ。分かってたし!喜んでなんかないんだからね!
自虐気味に瑞樹は、心の中で誰に言うでもなく自分に言い訳をした。
「なんでもない!それじゃ!まずは定番のたこ焼きからだよ!」
「その恰好でたこ焼きなんて食べたら、汚すんじゃないか?」
「子供扱いしないでよ!」
そう言って繋いでいた間宮の手を引いて、たこ焼き屋へ向かう。
もう理由なんてどうでもよくなる位、間宮と手を繋ぐ事の気持ちよさを感じていた。
好きな人と手を繋ぐ事が、こんなに安心出来て気持ちのいい事だなんて初めて知った。
引っ張る度に、わざと握る手に力を込めてギュッと握ってみる。
その時、勘違いかもしれないが、力を込める度に間宮も握り返してくれた気がした。
思わず手を引くのを止めたくなくて、たこ焼き屋さんを素通りしてしまいそうになったのは内緒です。
「6個入りを一船下さい!」
瑞樹が元気にたこ焼きを注文すると、タコ焼き屋の従業員の手が止まる。
「おぉ!お姉さん!超ベッピンだねぇ!彼氏が羨ましいわ!」
「え?か、彼氏!?・・・えっと、いや・・・」
「あはは!ありがとう!」
間宮を彼氏と間違えられて、慌てて訂正しようとしたが、隣にいた間宮が彼氏ではないと否定しなかった為、口を閉ざして俯いた。
な、何で彼女じゃないって否定しなかったの!?
いつもの天然?それとも・・・・
分かってる!その場に合わせただけだって分かってる・・・んだけど・・・
少しは期待してもいい・・・のかな。
なんだかよく分からないうちに、8個入りをサービスして貰ったたこ焼きを持って、通りを外れたベンチに座った。
早速間宮がたこ焼きを開いて食べようと言ったが、
さっきの事を考えてしまって、それどころじゃなくなってきた。
「どうした?たこ焼き食べたかったんだろ?」
「・・・・だって・・・・間宮さんが・・・」
口には出してみたが、声が張れずにぼそぼそと話す事しか出来なかった。
「え?なに?」
やっぱり聞き取れなかったみたいだ。
だが、こんな状態にした張本人が、呑気にたこ焼きを食べようとしているのが、段々腹が立ってきた。
「だから!間宮さんが私の事を彼女じゃないって否定しなかったからじゃん!」
今度はしっかりと声を張って言えた。
さあ!これで少しは私の気持ちを味わえばいいのよ!
そんな事を考えながら、間宮の反応を待っていると、
「わ、分かった!否定して欲しかったんだよな!悪かったよ・・・」
あっさりと、謝ってきた。
やっぱり他意はなかったんだな・・・
分かっていたけど、何だか凄く悲しくなってきた。
何とも思っていないなら、軽々しくそんな事言わないで!
私みたいな単純な子は勘違いしちゃうんだから・・・・
「謝るなら初めからそんな事しないでよ!」
もう我慢の限界だった。
これ以上、間宮の一言、一言に振り回されていたら、おかしくなってしまいそうだった。
だから、間宮にキツくあたってしまった。
ここまで言ってしまうと、この場に居づらくなり瑞樹は通りの方へ小走りに駆けていった。
大勢の人が賑わう大通りに一人で流れに逆走する瑞樹。
あぁ、何かこの感じも懐かしいかも・・・
花火大会の時もあったなぁ・・・
やっちゃったな・・・
何で我慢出来なかったんだろ・・・私らしくないよね。
間宮さんが相手だと、言わなくていい事まで言ってしまって困らせてばっかりだ。
怒ってるよね・・・
通りを真ん中辺りまで戻ってきた瑞樹の後方から、沢山聞こえていた足音より、明らかに速足で歩いている足音が混じっているのに気が付いた。
こんな人混みの中、何をそんなに慌てているのだろうと、ぼんやり考えながら、瑞樹は変わらず出口に向かって歩を進める。
そんな瑞樹の肩を少し乱暴に掴まれる感覚が全身に走り、驚いて思わずビクッと跳ねた。
恐る恐る掴まれた方に振り返ろうとした時
「なにやってんだよ!お前は!」
少し息が切れた声色で話しかけてきたのは、さっき逃げるように離れた間宮だった。
「だ、だって・・・」
追いかけて来てくれた嬉しさと、迷惑をかけてしまった情けなさで視界が歪む。
歪んだ視界で見た間宮は、何故か自分の方ではなく、間宮よりさらに後方を無言で見つめている。
何故だか分からないが、間宮から刺々しい雰囲気を感じたが、やがてその雰囲気は消え失せて、ゆっくりとこちらに振り向いた。
間宮はそのまま何も話さずに、掴まれた肩を押すように通りから外れた違うベンチに誘導されるように移動した。
「ごめんな。」
また謝られた。てっきり勝手な行動をとった事を怒られると思っていたから、少し驚いて目の前に立っている間宮に顔を向けた。
謝られてどう反応したらいいか分からないから、何も言えなかった。
「軽率な発言だったよな。俺は別に他意はなかったんだけど、その発言で瑞樹がどう捉えるか考えてなかった。ごめんな・・・・」
「・・・・もういいよ。私の方こそ急に怒ったりしてごめんなさい。」
やはり、まだ何故瑞樹が怒ったのか理解は出来ていないようだ。
他意がないから怒ったって言ったら、間宮さんどうするんだろ・・・
迷惑に思うかな・・・それとも少しは喜んでくれるかな・・・
うん・・・この話はもう終わらせよう。
間宮さんだって、私の事を揶揄ったわけじゃなさそうだし、これ以上雰囲気を悪くしたら、折角の初詣デートが台無しだもんね。
瑞樹の機嫌が直って、間宮は本当に嬉しそうだった。
そんな間宮を見て、瑞樹はズルい人だと苦笑いを浮かべる。
「そっか!よかった!じゃあ、ちょっと冷めちゃったけど、これ!」
あ、さっきのたこ焼き・・・ちゃんと持っていてくれたんだね。
間宮が一つ口に入れるのを見て、瑞樹も息を吹きかけて口に入れた。
冷めたといっても、まだ中の方はトロトロで熱くて2人は口の中でたこ焼きを転がすように、冷ましながら呑み込んだ。
「うん!美味いな!」
「ほんとだね。」
美味しそうにたこ焼きを食べる横顔を見て、また懐かしい記憶が頭の中に鮮明に映し出された。
「こうしていると、何だか合宿の花火大会の時を思い出すね。」
「そうだな、あの時は色々あったよな。誰かさんが大泣きしたり、特大のぬいぐるみを欲しがったり・・・」
ふえっ!?
そ、そんな余計な事まで思い出さなくていい!
瑞樹は焦って、間宮の肩を両手で交互にポカポカと叩いた。
「もう!そんな事は思い出さなくていいから!」
そんな事を言いながらも、瑞樹はあの時の間宮の腕の中の温かさを思い出していた。
顔が更に赤くなって、顔を間宮から背ける。
あの時は、まだ間宮さんが謎の人って感じだったな。
でも、凄く信頼できる人だとゆうのは、すぐに分かった。
それに、凄く芯の強い人だって事も・・・・
でも、中々、本心を見せてくれない人だとも思った。
普通、本心を見せない人を信頼するって変な事なんだろうけど、何故かそこは疑った事がない。
本当に不思議な人だと思う。
そして、私が本気で欲しがっている人なんだ。
瑞樹はゆっくりと、間宮に視線を戻すと間宮は黙ってジッと瑞樹を見つめていた。
驚いたが、暫く何も言わずにそのままでいると、倒れそうな気がしたので少し名残惜しい気持ちもあったが、固まっている間宮に話しかける事にした。
「ね、ねぇ・・・・」
「ん?なんだ?」
「さっきから、何で私をジッと見つめてるの?」
「え?」
どうやら間宮は無意識で瑞樹を見つめていたらしい。
勿論それは嬉しいのだが、その感情と同じくらい恥ずかしいものだった。
ようやく引いたはずの、顔の赤みがまたぶり返す。
何だか、恥ずかしすぎて涙が出そうになる。
「さ、さて!早いとこたこ焼き食べて、出店回ろうぜ!他にも色々食べるんだろ?」
「う、うん!そうだね!」
間宮が慌てるように、再びたこ焼きへ意識を戻した。
瑞樹も照れ臭くて、何も言えなくなっていたから、正直助かったと安堵した。
そう言って2人で残りのたこ焼きを平らげて、出店が立ち並ぶ通りに戻って行った。
それから色々な物を花火大会の時と同様にシェアして食べ歩き、色々な出店を回って遊んだ。
間宮はまたメロンパンカステラがないか期待していたようだが、今回は残念ながらそれは売られていなくて、ガッカリする間宮を瑞樹はクスクスと笑った。
そういえば、あのメロンパンカステラ美味しかったなぁ。
帰りに間宮さんがお土産にって、焼きあがっているパンを全部買い占めたんだよね。
後で値段知って、ちょっと引いちゃったよ。
たこ焼きを食べ終えてからは、本当に楽しい時間だった。
間宮さんが、楽しくエスコートをしてくれたから、安心しきって本当に笑った。
こんなに笑ったのはいつぶりだろう。
受験勉強に追われているのもあるが、ちょっと笑う余裕すらなかったのかもしれない。
私はこの人の傍でこうして笑っていたい。
一緒に笑っていたいんだ。
ちょっとセンターが近いからと、気負い過ぎていたかもしれない。
間宮さんのおかげでそれに気が付けた。
やれるだけの事はやったんだ。
だからやってきた事に自信を持とう。
そして、受験が終わった後、またこうして隣で笑っていたい。
「よし!沢山遊んだし、三が日はお休みするつもりだけど、お正月が終わったら、すぐにセンターだから気合い入れて頑張ろ!」
駅前に近づいてきた頃、楽しい一日の終わりを感じた瑞樹が、両手を握りしめて気合いを入れ直す様に話し出した。
「そっか!もうセンターなんだな。受験勉強の調子はどうなんだ?」
「順調だと思うよ。模試もいい結果だったし!でも、油断は禁物だけどね!絶対にK大に現役で受かりたいから!」
「やけにK大に拘ってるよな。教授の事は聞いたけど、それだけなんだろ?」
確かに間宮さんと出会う前までは、それが志望理由だったね。
でも、知り合って間宮さんがK大出身って知って、どうしてもやりたい事が出来たんだよね。
「他にも色々と増えたけど、一番の理由はね・・・」
そう言いながら、瑞樹は間宮を指さした。
「間宮さんの後輩になりたいから!かな?」
「は?」
フフフ、驚いてる!驚いてる・・・・のかな?あれ?もしかして呆れてる!?
掴んでいた袖を離して、間宮の前に立った瑞樹は続けて口を開く。
「受かったら間宮先輩って呼ばせてね!」
「は?せ、先輩!?」
「それとも、パイセンの方がいい?」
「なんでやねん!」
あははは!久しぶりに間宮さんの関西弁が聞けた。
でも、冗談に聞こえたかもしれないし、間宮さんにとってはくだらない動機に聞こえるかもしれないけど、私にとってはかなり重要で、本気でそうしたいって思ってるんだよ。
間宮の反応に満足気な笑みを浮かべながら踵を返して、再び駅へ歩き出した。
「なぁ!瑞樹。」
背中から間宮の声が届く。
毎度の事だが、間宮に不意に声をかけられると、心臓が跳ねてしまう。
いい加減この癖は直さないと、いつか心臓が止まってしまうかもしれない。
「ん?なに?」
立ち止まって再度、振り返ると間宮がコートのポケットをゴソゴソと漁っている。
探し物を取り出せるまで黙って見ていると、ようやくポケットから取り出せた小さな紙袋をそっと差し出す。
その袋には、さっきまでいた神社のマークがプリントされた物だった。
「これって。」
差し出された紙袋を受け取り、視線をまた間宮に戻す。
「開けてみて。」
「うん。」
紙袋から、そっと中身を取り出すと赤い生地で作られたお守りが出てきた。
そのお守りをジッと見つめてから、間宮に三度視線を戻した。
「ここの神社って学問の神様で有名だからな。普段から受験勉強頑張っているのは知ってるし、油断させしなければ大丈夫だとは俺も思ってる。でも、何が起こるか分からないし、最後の最後に神頼みってのも悪くないと思ってな。」
実は本堂にいる時に買おうか迷っていた。
でも、お守りは自分で買うより、買ってもらった方が御利益があると聞いた事があった為、明日家族で来た時に買って貰おうと思っていた。
勿論、想い人であり、目標の大学出身の先輩に買って貰うのが、一番御利益がある気はしたのだが、術後だとゆうのに強引に初詣に付き合わせたうえに、更にお守りを買って欲しいとは言えなかったのだ。
「嬉しい!ありがとう!でもいつの間に買ってくれてたの?」
「あぁ・・・おみくじ引いた後にちょっとな・・・」
「あ、トイレじゃなかったんだね。」
クスクスと笑いながらも、貰ったお守りを大事そうに優しく手に包み込む。
間宮にしてみれば、些細なプレゼントをしたくらいにしか思ってないかもしれない。
だが、瑞樹にとっては本当に嬉しいサプライズになり、寒空に反して心をポカポカと温められた。
「瑞樹に・・・その・・・先輩って呼ばれるの楽しみにしてるよ。」
プレゼントをしてもらった余韻に浸っていると、間宮から思わむ言葉が降りかかってきた。
先輩呼びを楽しみにしてくれている。
勿論、受験に対しての激だとは分かっているが、でも、間宮のあの表情を見ていると、それだけで言っているわけではないのも知っている。
だから、そんなエールに対して、瑞樹は貰ったお守りを胸のあたりでキュッと包み込む様に抱いて、間宮に胸を張って宣言する。
間宮さん!見ててね!合格が決まったら一番に連絡するから・・・
「うん!楽しみにしててね!必ず先輩って呼ぶから!」