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29  作者: 葵 しずく
第5章 それぞれの想い
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第7話 まだ見ぬライバル

 結局一睡も出来なかった。


 昨夜、間宮の意識が戻るまで付き添わせて欲しいと、嘆願したが規則だからと断られた。

 暫くしてから、瑞樹から連絡を受けた茜が間宮のマンションへ出向き、部屋中を漁り保険証を探し出してから、病院に姿を現した。

 瑞樹は茜にも頼み込んだが、家族が心配するからと柔らかく断られて車で自宅まで送られた。


 帰宅してからシャワーだけ浴びて、寝る体制でベッドに入ったのだが間宮の事が気になって眠れなかったのだ。

 壁に掛けてある時計に視線だけ移して、時刻を確認すると10時10分前辺りを指していた。

 岸田が駅前で10時に待っていると言っていたが、もう今からでは間に合わない。

 とゆうより、断っているのに強引に約束を突き付けられただけなのだから、無理に行く必要はない。

 元々乗り気ではなかったうえに、間宮のあんな場面に遭遇して気になって仕方がない状況で、とてもじゃないが岸田の元へ向かう気にはなれなかった。


「はぁ・・・」

 小さく溜息を吐きながら、枕元に置いてあったスマホに手を伸ばした。

 lineのトップ画面を立ち上げて、昨日交換したばかりの岸田のアカウントを開こうとすると、そのアイコンに通知の表示が出ていた。

 アイコンを開くと、まだ白紙のはずの画面に《今日はありがとうな!楽しかったよ。明日楽しみに待ってるから!》と書き込まれていた。

 昨日岸田と別れてから送られたlineにようやく気が付いた。

 あの時は本当に必死だったんだと改めて実感した。

 倒れている間宮を発見するまでは、まるで絶望の底に叩き落されたような気分だった。

 どう整理して立ち直ればいいか全く見当がつかない程に。

 だが、あの場に遭遇して必死に声をかけて救急車を手配したりしながら、本当は・・・本当の本当は心の片隅でホッとした自分がいたんだ。

 帰ってきた間宮を見て、瑞樹にとって最悪の想像が現実に起こらなかったから・・・


 苦しんでいる間宮さんを見て、安心してるとか・・・最低だな、私・・・


 自己嫌悪に陥りながら、瑞樹は岸田に《昨日あれから色々あって帰宅したのが明け方で殆ど寝ていません。だから、誘ってくれたのは嬉しかったんだけど、今日は休ませてください。ごめんなさい・・》そう書き込んで送信した。

 間宮の存在に触れていないが、嘘は書いていない。

 岸田に変な期待をもたせない為に、少し自分勝手な言い分を書いた。

 これで今日は諦めてくれるだろうと、手にしていたスマホをベッドの上に投げ置いた。

 天井をジッと見つめながら考え込む。

 間宮はもう目を覚ましたのだろうか・・・お見舞いに行きたいけど午前中に行ったりしたら、術後だし迷惑かもしれないから午後からなら大丈夫かな・・・

 そんな事を考えていると、ようやく眠気が襲ってきてウトウトと意識が遠のきだした。

 しかし、そのまま意識を手放す事が出来ない事態になる。

「お姉ちゃん!!」

 眠りにつく寸前に、勢いよく部屋のドアが開き希がそう叫びながら入ってきたからだ。

 瑞樹は体をビクッと反応させてベッドから上半身を起こした。

「希!いつもの事だけど、入る時はノックしなさいって言ってるでしょ!」

 溜息交じりに抗議したが、希は気にする素振りすら見せずに鼻息を荒げた。

「お姉ちゃん!中学の時、色々と助けてくれた男子がいたって言ってたよね?その人の名前って岸田じゃなかった?」

 瑞樹は不可解な表情を浮かべた。

 希の口から出てくるはずがない名前が出たからだ。

「?そうだけど・・・どうしてそんな事アンタが聞くの?」

 軽く首を傾げてそう言うと、希は人差し指を下に指して

「だって、今、来てるんだもん。」

「はい?」

 状況が呑み込めない。

 慌ててスマホを確認すると、返信は来ていないが断りのメッセージには既読が付いている。とゆう事は断った事が伝わっていないわけではない。

 それに何か言いたいのなら、時間もないのだし電話やlineで事足りたはずだ。

 なのに、何故わざわざ家まで来たのだろう。

 確かに中学時代に何度か家まで送って貰った事があるから、場所は覚えていたのかもしれないが、だからといって家まで来る理由が思い当たらない。


「兎に角!外は寒いと思って、玄関で待たせてるから降りてきたら?」

 ブツブツと状況を整理していると、希が岸田を待たせているから対応しろと催促するので、考えるのを中断してベッドから降りて部屋を出ようとした。

「お姉ちゃん!そんな恰好で出ていくつもり?」

 希にそう指摘されて、自分の恰好を自室に置いてある鏡で見てみると、髪の毛はあちこち跳ねていて、そもそもパジャマ姿だった事に気が付いた。

 瑞樹は希の手首に巻かれていたシュシュを奪うように抜き取り、手早く髪を一つにまとめ跳ねている髪を隠して、着替えてる時間はないと判断し椅子に掛けてあったカーデガンを羽織って一階へ降りていく。

 一階へ降りてから、玄関に到着する僅かな時間に、前髪を整えようとしたが、どうにもならないと諦めて、オズオズと恥ずかしそうに玄関先で待っている岸田の前に姿を現した。

 岸田はパジャマ姿の瑞樹に目のやり場に困り、咄嗟に俯いた。

「えっと・・・こんな格好でごめんね。」

「い、いや、寝てたの知ってていきなり押しかけたのは俺だし・・・何かごめんな。」

「ううん、気にしないで。それより今日行けなくてごめんね。」

「いや、強引に誘ったんだし、それにそんな事情じゃ仕方がないよ。」

 lineで行けないと送ったが、改めて岸田に謝ると本人は気にしてない様子だった。

「それでさ、今日14時位まで大学にいるつもりなんだけど、その後少し時間貰えないかなって思って。」

 岸田にそう誘われた瑞樹は、午後から間宮のお見舞いに行くつもりだったが、瑞樹にとって間宮とは違うが大切な人なのに違いはない岸田の誘いを、これ以上断わる気になれなかった。

「うん、いいよ。」

「ほんとか!?それじゃ、駅前のカフェで15時に待ち合わせでいいかな?」

 待ち合わせ場所を指定してきた岸田に、瑞樹は無言で頷いた。

 ホッとした顔を見せてから、時間が押し迫っていたのか「それじゃ、あとで!」と言い残して岸田は駅に向かって走り去って行った。


 バタンと玄関の閉まる音が響くと、瑞樹は作った笑顔を崩して軽く溜息をついた。


「そんな溜息つくなら、断ればよかったじゃん!」

 瑞樹の背中からそう話しかけられた瑞樹は、驚いて後ろを振り向いた。

 そこには玄関に通じる廊下の壁に凭れて、少し呆れた顔をしている希がいた。

「盗み聴きとか、趣味が悪いんじゃない?希・・・」

「いやいや、リビングに居ても聞こえたってば!」

 心外だと言いたげな顔で、そう否定した希は「珈琲を淹れるね。」と告げてリビングへ戻って行った。

 後から続いてリビングへ入ると、希は早速珈琲を淹れる準備を始めていた。

 そんな希を横目で見ながら、ゆっくりとソファーに腰を下ろす

 暫くすると珈琲のいい香りがリビングに広がっていく。

 その香りを楽しむように吸い込むと、玄関先での事を希に向かって話し出した。

「別に岸田君が嫌なわけじゃないんだよ・・・ただ、お昼から出掛けたい所があったから、少し困っただけ・・・」

「ふ~ん・・・そっか!はい、どうぞ!」

 希は瑞樹の話に相槌を打ちながら、淹れたて珈琲の湯気が立ち込めるカップを二つテーブルに置いた。

「ありがと。」

 希にお礼を言ってカップに息を吹きかけながら、珈琲を口に含んだ。

 冷えた体を中からじんわりと温めてくれる。

 やはり寒い朝は淹れたての珈琲だなと、香りを楽しみながら瑞樹は口元を緩ませた。

「その予定を壊して、会う事にしたのは何で?」

「予定って言っても誰かと約束をしていたわけじゃないし、岸田君は今日名古屋に帰るから、断るのも悪いしね・・・それに」

 瑞樹はその先を話し出す時、真剣な顔を見せた。

「私も岸田君にはちゃんと話さないといけない事があるから。」

「そっか・・・」

 何か納得をした表情で、珈琲を啜りながら希はそう呟いた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 コンコン!


 意識が戻り、軽く病院食の朝食を摂った後、倒れていた自分に必死に声をかけてくれて、救急車を呼びそのまま手術が終わるまで付き添ってくれていた瑞樹の事を、病室の天井を見つめてボンヤリと考えていると、病室のドア付近からノックをする音が聞こえた。

 だが、ノックなどしなくてもドアは開けっ放しにしてあったはずだと、目線だけドアの方へ向ける。

「おはよ!やっと起きたみたいだね、良兄!」

 そこには間宮の病室に入って室内から開いてあるドアをノックしている茜が立っていた。

「茜か・・・おはよ。何か色々と迷惑かけたみたいで、ごめんな。」

「ほんとだよ!志乃ちゃんから連絡貰ってから、良兄のマンションに行って、部屋中ひっくり返して保険証を探してから、病院で色々と手続きしてって大変だったんだからね!」

 茜は両腕を組んで溜息交じりに、間宮が倒れたと連絡を受けてからの経緯を説明した。

「ほんとに助かった、ありがとな。ただな・・・」

「ん?なに?」

「今朝看護師さんに聞いたんだが、初めは大部屋に入院する準備をしていたのに、急遽、妹に個室へ移してくれって頼まれてここに移動したって聞いたんだけど・・・」

「あぁ!その事ね!大丈夫よ!大部屋と個室の差額はこっちが支払うから。仕事絡みだから経費で落ちるしね!」

「俺が個室に入るのが仕事って、意味わかんねぇんだけど?」


 タッタっタッタ!

「院内を走らないで下さい!」


 急いで走っている足音と、それを注意している看護師の声が茜の耳に入った。


「来たみたいね。仕事だって意味はすぐに分かるわよ!」

 苦笑いを浮かべながら、茜は入口の前から横にずれて壁に凭れた。


 キュッ!!


 走っていた足音が、間宮の病室の前で止んだ。


「ハァ!ハァ!ハァ!・・・良ちゃん!!」


 入口に立ち止まったのは、息を切らして苦しそうに両手を両膝について前かがみになっている、神楽優希だった。


 優希はベッドに横たわっている間宮の姿を確認すると、走ってきた勢いそのままに間宮の元へ駆け寄った。


「ご、ごめんね!良ちゃん!昨日私が作った料理のせいだよね!?怪しい物作った覚えはないんだけど、ホントごめんね!」

「ハァ!?いや、これは急性虫垂炎が原因なんだって!盲腸だよ!盲腸!」

 目に涙を溜めて、挙動不審な動きで必死にそう謝る優希に、とんだ勘違いだと説明した。

「え?盲腸?」

「そうだ。昨日あの後A駅の駅前で腹痛が酷くなって、痛みで倒れてしまったんだよ。そこで救急車に運ばれて手術を受けたってわけだ!」

「え?それじゃ、昨日の食事が原因じゃなかったの?」

「当たり前だろ!何で食アタリでオペする必要があるんだよ。」

 呆れるようにそう話すと、安心したのか優希は全身の力が抜け落ちるように、間宮が寝ているベッドに顔を埋めた。

「そっか・・・よかった・・・盲腸だったんだ・・そっか・・・よか・・・って!!全然良くないじゃん!」

 埋めていた顔を勢いよく持ち上げた優希の顔は蒼白になっていた。

「も、盲腸!?手術って?え?成功したの?え?だ、大丈夫なの?死なないよね?」

 手術と聞いて軽くパニックに陥った優希は、盲腸がどんな病気なのか判断すら出来ない状況だった。


 ペシッ!


「あぅ!!」


 パニック状態の優希に軽くデコピンが飛んできた。

 指で弾かれた額を手で押さえながら、優希は目を丸くした。

「落ち着けって。盲腸だぞ?盲腸の手術なんて手術のうちに入らないっての!もう切ったし、後は数日安静にしてたら退院出来るよ。」

 優希を落ち着かせる為に、優しい口調でそう説明すると、今度こそ心から安堵したのか、ニッコリと笑うと目に溜めていた涙が静かにベッドのシーツに零れた。


「こうゆう事よ。」


 壁に凭れながら、2人のやり取りを眺めていた茜が、そう一言だけ間宮に告げた。

 その言葉だけで、間宮は茜が言いたかった事を何となく理解出来た。

 恐らく、茜は間宮をこのまま大部屋に入院させたら、今の様に優希が走り込んできて騒ぎ出すと分かっていたのだろう。

 優希のような超有名人が大勢いる大部屋に来て、更に騒ぎ出したりしたら・・・大パニックの地獄絵巻が見えた。


「流石!敏腕マネージャーだな。」

「あほ!」

 茜をそう称えると、恥ずかしそうに茜はそう返した。


 え?マネージャー?間宮の口から出たその単語で、優希の背筋に緊張が走る。

 恐る恐る、聞きなれた声が聞こえた後方に目をやると。、腕を組んで睨むようにこちらを見ている茜と目が合った。


「茜さん!?」


 優希は必死過ぎて、今の今まで間宮しか目に入っておらず、先に病室にいた茜の存在に気が付いていなかった。


「これはどうしたのかしらね?確か今日は13時に迎えに行くまで、自宅待機しているはずじゃなかった?」


 ニヤリと優希を抉るような視線を向けて、白々しくそう話す茜の姿は掌で優希を転がすお釈迦様のようだった。


「え、いや・・・だ!だって!茜さんが連絡くれたんじゃん!良ちゃんが倒れて入院したって!」

 言い訳を探し当てた優希は、茜の責任だと訴えだした。

「ええ!確かにそう言ったわね。でも、その後にこうも言ったわよね?」

 ここまで聞くと、優希はマズイと感じたのか少し逃げ腰になったのが、間宮にも分かった。

「でも、簡単な手術で問題なく成功したから、全く心配はいらないって・・・」

「そ、それは・・・そうだけどさ・・・でも・・・」

 両手の人差し指をツンツンと重ねて、唇を尖らせながら歯切れの悪い返答をしていると、更に意地の悪そうな顔になった茜が話を続けた。

「そもそも、どうして兄の事をあなたに連絡したのか気にならなかった?」

「え?・・・・・・・あ!」

 最初は言っている意味が分からないとゆう顔をしていた優希だったが、冷静に考える余裕が出来たのか、その直後に茜が言わんとしている事に気が付いた。


「わかってたわよ!あなたが優香さんの妹だと知った時から、こうなるんだろうなって思ってた。」

 溜息を付きながらそう吐き捨てるように言うと、間宮が横になっているベッドのその先にある窓から、空を見つめて話を続ける。

「立場上、妨害するのが正解なんでしょうけど、あのライブであれだけの演説をした後だし、その反響が良い方へ向いている事もあって、事務所的には本人も大人だから本人の判断に任せるって方向で固まったの。だから邪魔する気はないから安心しなさい。」

 そう言い放ってから、2人に視線を戻すと予想していた反応をしていない事を不思議に感じた。


「あれ?てっきり優希は小躍りして喜ぶと思ってたんだけどな・・・」

 苦笑いしてそう告げると、間宮と優希はお互い少しだけ目線を合わせて、気まずい空気を作った。


「あはは・・・勿論嬉しいよ・・・あ!そうだ!」

 少し引きつり気味に子芝居がかった反応を見せた後、優希は昨夜からの話の中で気になった事があったのを思い出した。


「あのさ、良ちゃんが倒れて救急車で運ばれてきたって言ってたけど、誰が救急車を呼んでくれたの?偶々、通りかかった通行人の人?」

 一気に話を変えたのは間宮にも都合が良かったのだが、変えてきたのがその話題で間宮の思考がかなり乱れた。

「え?あ、あぁ、そうなんだよ。親切な人で本当に助かったよ。」

 乱れた思考では、歯切れが悪くなってしまうのも仕方がなかった。

「そうなんだ。ホントに良かったよね。盲腸って軽く見られがちだけど、手遅れになったりしたら十分に怖い病気って聞いた事があるから。」

「・・・そうだな。」

 咄嗟に誤魔化した話を疑う事をしなかった優希に、ズキッと心が痛んだ。


「ん?何で志乃ちゃんの事を隠すの?志乃ちゃんが救急車を手配してくれてオペが終わるまで付き添ってくれたんじゃん。」

 わざとか・・・・・それとも天然か・・・・

 茜は間宮が真相を誤魔化した内容を、ご丁寧な説明で完全に否定してしまった。


「志乃・・・ちゃん?」


 聞きなれない名前を聞いた優希は、茜の方に振り返り少し首を傾げて詳細を求めた。


「そっか!優希がライブチケットを手渡した時、彼女はあの場にいなかったもんね!知らないのは当然だよね。」

 ライブチケットを手渡したのは、優希の出身校での話だ。

 あの時招待したのは、間宮以外は全員高校生だった。

 それなら、その志乃って女の子も同じ高校生と考えるのが自然だ。


 年齢の離れた女の子・・・妹的な存在・・・何より私にその子の事を隠そうとした・・・・


「・・・そっか・・・そうゆう事か・・・」


 何かが繋がったような、納得した顔をした優希はそう小さく呟いた。


「瑞樹志乃ちゃんって女の子なんだけどさ!優希は知らないだろうけど、文化祭ライブの時に凄くお世話になったんだよ!優希の我儘ランチの・・・」

「私、そろそろ帰るね。」

 瑞樹の事を優希に話そうとしたが、話を途中で遮った優希は帰ると言い出した。

「支度があるから、一旦自宅に戻るね。」

「そっか!私はまだ手続きとか残ってるし、少し病院と話す事があるから送ってあげられないけど、予定通り13時に迎えに行くわね。」

「うん、了解!それじゃあとでね。」

 茜にそう告げて、病室の出口へ向かおうと足を一歩前に出したところで、優希の後方にいる間宮を横目でチラリと見た。


 その視線に気が付いた間宮は、少し申し訳なさそうな表情をして優希の視線から目を背けた。


「そうゆう事なんだね。何となく分かったよ。」

「あ、あぁ・・・ごめん・・・」

「別にいいよ。存在自体は昨日聞いてたんだしさ。」

 そう話すと、壁際に立っていた茜に軽く会釈して病室を出た所で、再び足を止めた。

「良ちゃん、また来るね。」

 そう言って、間宮に小さく手を振って見せた。


「あぁ、またな。」

 間宮も手を振って応えた。


「うん、じゃね!」

 そう言い残し立ち去ろうと、優希の姿が見なくなる瞬間、彼女の横顔が暗く沈んでいるのを間宮は見逃さなかった。

 また、心が痛む。

 彼女をここまで傷つけてまで、今の状況を作り出す意味が本当にあるのだろうか・・・・

 確証があるわけではない・・・・単なる自己満足なのではないか?

 昨日、電車に揺られている時から自問自答を繰り返している。

 だが、今もハッキリとした明確な答えは得れていない。

 それでも、どこかで誰かが囁いている気がするのだ。

 だから迷っていても進む事を止める事だけはしないと、改めて強く自分自身に念じた。


「あの・・・・何かマズった?私・・・」


 間宮と優希の言動を傍で見ていた茜が、何かマズイ事を言ってしまったのではないかと、不安気にそう聞いてきた。


「いや、茜は別に嘘を言ったわけじゃないんだし、お前が気にする事じゃないよ。」

 気にするなと言われて少し安堵の表情を浮かべた茜は、また来ると告げて病院側と話があるからと、間宮の病室を後にした。



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 帰宅しようと愛車に乗って、病院を後にして信号待ちで車を止めてから軽く溜息を付く。

 瑞樹 志乃・・・・

 あの人が言っていた気になる子で間違いない。

 どんな女の子なのか会った事がないから、何とも言えない。

 でも、これだけはハッキリしている。

 お姉ちゃんの存在に縛られていたはずの、良ちゃんの心をここまで揺るがせる事が出来る存在なのだとゆう事を。

 それだけで、私にとっては途轍もない脅威的な存在だ。


 瑞樹 志乃


 一体、どんな女子高生なのよ・・・・


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