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29  作者: 葵 しずく
2章 導かれて
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第2話 さり気ない優しさ

 食堂に朝からずっと落ち込んでいる男がいた。

 瑞樹と仲良くなろうと張り切り過ぎて、いきなりバッサリと一刀両断された佐竹だった。



 元々周りに溶け込むのが苦手な男だっただけに、瑞樹と仲良くなるどころか、参加している男達とも、

 すでに若干浮き出している始末・・・


 そこへ「あった!食堂はっけ~~ん!」入口から元気な声が聞こえた。

「愛菜がまかせて!って言うからついていったら、見事に迷うんだもん!」

「まぁ!お約束ってやつですよ!探検って感じで楽しかったじゃん!」

「あははははは!」


 賑やかな声に反応した男子達がザワザワとしだした。

「おい!瑞樹が来たぞ!」

「ヤッベ!やっぱ超かわいいじゃん!」

「何とかして合宿中にお近づきになれねぇかなぁ」


「あ!俺は加藤派だからな!」

「誰もそんな事聞いてねぇよ」


 ふん!さっきから瑞樹!瑞樹って馴れ馴れしい!全くここに何しに来たんだか・・・(お前が言うな!)

 勿論そんな事を面と向かって言えるはずもなく、テーブルに向かってブツブツ呟いていた。


 すると遠くから聞こえていた瑞樹の声が、近くで聞こえる事に気付き顔を上げるとトレイを持って空いてる席を探していた。

 佐竹は立ち上がって

「瑞樹さん!よかったら僕の向かいが空いてるよ!」と思わず声をかけたのとほぼ同時に

「志乃!ここ丁度8席空いてるよ!」加藤が瑞樹を呼んだ。


「あ!うん!ありがとう!」加藤に返事をしてから、佐竹の方を見て

「佐竹さんもありがとうございます。でも皆と一緒に食べたいのでごめんなさい」

「そ、そう・・・わかった・・・」

 と会話を少し交わして、佐竹が座っている列のテーブルと一列違いのテーブルに佐竹からは背中しか見えない席に座った。

 僕は恥ずかしくて完全に俯いてしまった。



 そんな時入口の方がまた騒がしくなった。


「あ!間宮先生!ここ空いてますよ!私達と一緒に食べませんか?」

「いや!いや!こっちで食べるんですよね?間宮センセ!」

 あちらこちらでお誘いが間宮にかかる。


 それを見ながら佐竹は思う

 あぁ・・僕も間宮先生みたいな外見だったら、もっと自信をもって瑞樹さんを誘えたのにな・・・と

 すっかり自虐モードに突入していると、

「ここ、いいですか?」と声がかかった。

 声の方へ顔を上げると、そこには先程あちらこちらで女子達に誘われまくっていた間宮が立っていた。

「えっ?あっ、どうぞ」慌てて返事をした。

「ありがとうございます」

 と間宮はにっこり笑い僕の向かいの席に座った。


 ?????

 何が何だかわからなかった。

 女子達にあんなに誘われていた人が、何で僕の向かいに座っているんだ?

 間宮の後ろに同じような気持ちの人間がもう一人いる。


 間宮を背中合わせの席に座っている瑞樹だ。

 体中の神経とゆう神経が全て背中に集まってしまったんじゃないかと思うほど、

 背中越しの間宮に意識が集中して警戒モードに入っている。


 佐竹と瑞樹は思う。


 何でここに??と



 固まってばかりはいられないので、佐竹は緊張しながら昼食に用意されたカレーライスを食べ始める。


「カレーですか・・・」


「えっ?」と佐竹は間宮の顔を見る。

「いやぁ、こんな感じの団体で食事をするって言ったらカレーライスになる事って多くないですか?」

「まぁ、そうですね。団体だと人数分食事を作るのは大変でしょうし、カレーライスなら大鍋でまとめて作れますからね。」

 すると間宮は頷いて

「なるほど!でも敢えてセオリーを無視したメニューを出した方が、インパクトがあって印象に強く残って面白いと思うんですよね」

「セオリー無視のメニューですか。例えばどんなメニューですか?」

 と佐竹も話に興味をもち質問した。。


「そうですねぇ・・・・・!!ぬた和え定食とかどうです?」

 と間宮は人差し指を立てて身を乗り出しながら答えた。


「ぬ、ぬた?」


 プッ!!思わず佐竹と後ろから聞き耳を立てていた瑞樹が同時に吹き出した。


「あははははは!何でぬた和えなんですか?そんなの喜ぶ人少ないし、逆にクレームきちゃいますよ!」

 佐竹はまさか、ぬた和えなんて言葉が出てくるなんて夢にも思わなくて、意表を突かれ過ぎて大笑いしてしまった。


 それはこっそり聞いていた瑞樹も同じで吹き出してしまってから、慌てて手で口を覆い声を殺して肩を震わせながら笑った。


「ん?志乃どうしたの?」

 瑞樹の向かいに座っていた加藤が俯いて声を殺して笑っている私を覗き込んで話かけてきた。

「んふふふふふ・・・ん!なんでもないよ・・クククク・・ほんとダイジョブ・・」


 笑いが納まらない佐竹を見て、

「ぬた和え喜ばれませんかねぇ?僕は大好物なんですけど・・・何故だろう??」

 と間宮が腕も組みながら不満気な顔で、そんな事言うもんだから、また笑いの波が押し寄せてきて、一人で爆笑してしまった。


 そんな佐竹の笑い声を聞きつけて周りの生徒達が

「なに?なに?なにがそんなに面白いの?」と集まってきた。


 佐竹は何とか笑いを落ち着かせながら「いや!実は!間宮先生がさ!」

 となるだけ間宮との会話を忠実に再現して「ぬた」とゆうオチまで説明した。


「ぬた和え?!」


「あははははははは!」もう周りは予想以上に爆笑した。

 いつの間にか周りの集まった集団の中心に佐竹がいて、皆と本当に楽しそうに会話をしている。


 そんな彼を眺めてニッコリと微笑み

「ご馳走様でした。それじゃお先です」

「あ!はい!」


 トレイを返却口に置いてそのまま間宮は食堂を出て行った。


 後ろでそのやり取りを聞いていた瑞樹は

「そっか!だから佐竹君の向かいに座ったのか」と間宮の考えに気付いた。

 愛菜が不思議そうな顔をして聞いてくる。

「志乃?何かあった?嬉しそうな顔して」


「ん~ん!なんでもない!さあ!部屋に戻って講義の準備しょ!」

 瑞樹は元気に皆を部屋に引っ張って行った。







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