第2話 3-3クラス会
ここでいいんだよね・・・・
クリスマスが過ぎた12月下旬、正月ムードで、年越しの買い物で賑わう都心部の某所。大通りを少し外れた雑居ビルの前に瑞樹は立っていた。
不安そうに目の前にあるビルに設置してある看板と、手に持っていたスマホの画面を交互に見つめる。
何度も確認してここで間違いないと確信した瑞樹は、恐る恐る一階にある自動ドアを開けて店内に入っていった。
「いらっしゃいませ!幹事様ですか?パーティーの参加者の方ですか?」
ロビーの中央にいたスタッフがそう瑞樹に話しかけてきた。
「あ、あの、3-3会の参加者です・・・」
「お待ちしておりました。ご案内します。」
スタッフは笑顔で案内を始めた。
何故瑞樹がこんな場所へいるのかは、約一か月前までさかのぼる。
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「え?クラス会?」
「そう!今回からは志乃にも絶対参加してほしいって思ってさ!」
文化祭の後、瑞樹の自宅前で中学時代の事を謝りに来ていた一人で、あの事件が起こる前までは一年の時から一番仲が良かった眞鍋沙織と夕食をとっていた。
文化際から眞鍋とはよくlineでやり取りをしていて、今日みたいに時々会ったりするまで2人の関係は回復していた。
初めの頃はお互い気を使い過ぎてギクシャクしていたのだが、眞鍋の持ち前の明るさと、瑞樹のゼミからの人間関係での経験が生かされて、自然に会うようになるまでそんなに時間はかからなかった。
そんな眞鍋からいつもの調子でクラス会の事を聞かされた。
勿論、瑞樹はそれに参加した事がない。
とゆうより、そんな事をしている事自体知らなかった。
眞鍋の説明によれば、中学を卒業してから年に4回クラス会と称して3-3のメンバーが集まっているらしい。
毎回、会の内容は違うらしくカラオケだったり、どこかの店で食事だったりと様々だったらしいのだが、そのメンバーの一人が良い場所を見つけたと言い出して、今回のクラス会はレンタルパーティースペースで行う事になったと聞かされた。
その説明を聞かされて、瑞樹は少し寂しそうな表情を見せる。
自分も同じクラスメイトなのに、誘われるどころか、クラス会なんて行っている事を知らなかったのだから当然だった。
勿論、この話をすると瑞樹がそんな顔をするのは、簡単に予想できた眞鍋はクラス会の説明を終えると、神妙な面持ちで静かに頭を下げた。
「今まで一度も誘えなくてごめんね・・・卒業しても平田に目を付けられるのが怖くて・・・本当にごめんなさい・・・」
静かにそう謝罪する眞鍋を見て、自分が無意識に謝らせてしまう表情になってしまっていた事に気が付いて、慌てて向かい側に座って頭を下げている眞鍋の両肩に、身を乗り出して両手でそっと触れた。
「私こそごめん!ちゃんと謝ってくれたのに、まだこんな顔してたら気にするよね・・・・ほんとごめんね!沙織はもう気にしなくていいからね!」
真鍋に必死でそう告げると、頭を下げていた真鍋は、まだ少し沈んだ表情をしていたが、視線だけは瑞樹を真っ直ぐに見つけて改めて話を続けた。
「それでね、年末にやるクラス会に志乃も是非参加して欲しいの!」
「でも・・・やっぱり、私は・・・」
毎年、年末にも行われたクラス会だったが、受験前だからと延期する話も出たらしいのだが、受験前だからこそクラス会を行ってリフレッシュして、残りの受験勉強に集中しようとゆう事になったらしい。
「それに、志乃が参加するかもしれないって話になって皆全員参加する事になったんだ。皆、志乃に会いたいって思ってる。だからこうして誘ってるのは私個人じゃなくて3-3全員の創意なんだよ。」
全員と言ったが、勿論その中には平田は含まれておらず、当日は平田はこない事を付け加えた。
瑞樹は少し視線を落として、中学当時の事を思い出す。
その時の眞鍋を含むクラスメイト達の顔を思い浮かべると、僅かだが両手が震えていた。
「沙織ごめん、折角誘ってくれて嬉しいんだけど・・・私やっぱり・・・」
「私が話した事は本当の事だよ。でも虫のいい話って事も自覚してる!だから今返事してくれなくていい!何なら当日でも構わないから考えてくれないかな?」
眞鍋が最後まで話させないように話を遮ってきた。
彼女の目は真剣そのもので、自分の為にそこまでしてくれているのが、少し嬉しくて断わろうとしていた言葉を引っ込めて、違う言葉を話し出した。
「わかった。少し考えさせてもらうね。沙織達の気持ちは嬉しいんだけど、まだ少し怖くて・・・でも、誘ってくれたのは本当に嬉しかった。」
「うん!それでいいよ!さっきも言ったけど返事は当日まで待つから、それまでに返事だけはちょうだいね。」
「うん、わかった。ありがとう。」
そう言って瑞樹は眞鍋に笑顔を向けた。
2人はその後も暫く話し込んで駅前のファミレスを出て、お互い家が逆方向だった為、その場で別れて自宅へ向かった。
帰宅した瑞樹はすぐに風呂へ入りリラックス出来る恰好をしてから、机に向かってシャーペンを走らせていた。
ふと、あの時の眞鍋の真剣な表情を思い出して、シャーペンが止まる。
クラス会か・・・・
誘ってくれたのは本当に嬉しかった。でも、もうそんな事はないと分かっていてもやはり怖いと思うのが本音だ。
思い切って行動に移せないのは理由がある。
それは、今までターニングポイントを迎える度に行動を起こして、色々な事を乗り越えてこれたのは、いつも間宮が傍にいてくれたからだ。
だが、今回はこの事を間宮は知らない。
瑞樹自身で決めないといけない今の状況になった時、初めて瑞樹は気が付く。
自分は思っている以上に間宮に依存している事に・・・
いつまでもこれではいけない。
本当に間宮の傍にいたいのなら、間宮の隣にいたいのなら、これからは一人で頑張れるところは頑張れるようにならないと、いつまでも妹のような存在でしかいられない。
そんな事を望んでいるわけではない。だから、今回は間宮を頼らずに自分で考えて自分で行動するんだと決心して、またシャーペンを遅い時間まで快調に走らせた。
「どったの?お姉ちゃん。」
翌日の朝、いつものように瑞樹が朝食を作り希と2人で食べていると、瑞樹の顔を覗き込むようにして、様子がおかしい事に気付いた希が聞いてきた。
1人以外の時は考えないようにしていたつもりだったが、毎日顔を合わせている希には隠せていなかったらしい。
「ん?別に何でもないよ。最近寝不足ってだけだよ。」
「そう?ならいいんだけどさ。てか、あまり根詰めるのもよくないと思うよ。」
「うん。ありがとね。」
朝食を済ませて瑞樹が洗い物を始めようとすると、私がやるからお姉ちゃんは休んでてと、希が袖をまくりあげ張り切って洗い物を始めた。
そんな希の背中を眺めながら珈琲を飲んでいると、自分が弱いせいで妹に心配ばかりかけているなと自己嫌悪に陥った。
「いつも、ありがとね。希。」
「えぇ!?何?突然に!気持ち悪いからやめてよ。」
いつも希の底抜けの明るさに助けられていた。
その明るさの側にいるだけで、心が救われる気がした。
私も強くなりたい。いつまでも助けられてるばかりじゃ嫌だ。
その為にはトラウマを乗り越える努力から逃げていては駄目なんだ!
「ごめん、希!私、ちょっと電話してくるから部屋に戻るね。」
「ん、了解!間宮さんに宜しくね!」
「な!間宮さんに電話するんじゃないってば!」
「え~!?ほんとかなぁ!?」
ニヤニヤとした視線を無視して、階段を上がり自室へ戻った。
スマホを手に持ち、軽く深呼吸をしてから番号をタップした。
「もしもし!沙織?朝早くにごめんね。えと、昨日のクラス会の件だけど、お邪魔じゃなかったら参加させて貰おうと思って・・・」
-え?ほんと!?邪魔なわけないじゃん!ありがとう!じゃあ、この電話切ったら場所の地図と住所をlineで贈るね。-
電話を切ると、直ぐに眞鍋からlineが送られてきた。
どうやら開催場所は都心部にあるようなので、周辺の地図を立ち上げて当日迷わないようにチェックを始めた。
まずは逃げるのをやめよう!そうすれば、完全に前に進む事が出来るはずだ。
瑞樹はそう決意して、当日何を着ていこうかと悩んだ。
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「こちらになります。ごゆっくり。」
「あ、ありがとうございます。」
スタッフに皆がいる部屋の前に案内された。
スタッフがロビーに戻ったのを確認してから、気持ちを落ち着かせる為に大きく深呼吸をする。
部屋の中から賑やかな声が漏れていた。どうやらもう始まっているようだ。
確かに今回の幹事をやる事になっている眞鍋を含めた三人は10分前から来ているとは聞いていたが、この漏れ聞こえる声はかなり大勢の人数からのものだと分かる。
ドアの前で少し首を傾げて、ドアをゆっくりと開いた。
「こ、こんにちわ・・・・お邪魔します・・・」
パーティースペースの部屋の中に、そう言いながら恐る恐る入ると、それまで賑やかだった声が一斉に止んで部屋にいる人間の視線が全て瑞樹に向けられた。
やはり、幹事の三人だけではなく恐らく参加者全員いるようにさえ見えた。
僅かな時間、こんな場所には相応しくない静寂が訪れた。
そんな空気が怖くなり、瑞樹は思わず部屋へ入った体を半歩後退させる。
「あ、あの・・・・えと・・・」
静寂の中、一人分の小走りで駆けよる足音だけが響く。
「志乃~~!!!!」
瑞樹はその足音の主の方に視線を向けると同時に、その主である真鍋に抱き着かれた。
「さ、沙織!?」
いきなりの事で驚いた瑞樹は、思わず体を硬直させて動けなかった。
「来てくれた!志乃が来てくれた!ほんとに来てくれたよ!」
嬉しそうに満面の笑顔で、眞鍋は瑞樹を力いっぱい抱きしめた。
その眞鍋の台詞と行動で、他の参加者からも「瑞樹だ!」「ほんとだ!瑞樹だ!」「懐かしい!!」「志乃が来てくれたよ!」「瑞樹!!」「志乃!!」
真鍋に抱き着かれた瑞樹の周りに一斉に他のメンバーが集まり歓声があがった。
他の女子達も眞鍋の上から更に抱き着き始めて、瑞樹は完全に身動きが取れない状態になる。
「うぅぅ・・・!えと、ちょ、皆・・・苦しいよ・・・」
想像以上の圧迫感に悲鳴に似た声を漏らす。
だが、そんなのお構いないに過激な抱擁は続いた。
その抱擁の輪の周りに男子達が囲み、一気にボルテージが上がる。
あまりに想像と違う出迎えに、思考が追い付かない瑞樹はもうされるがまま流されるしかなかった。
3分、いや5分以上あっただろうか・・・・
その過激な出迎えがようやく終わりを告げて、瑞樹への抱擁と言う名の拘束が解かれだした。
最後に初めに抱き着いていた眞鍋が離れると、瑞樹は手を胸に当て目を閉じて大きく呼吸をした。
その間、さっきまでの騒ぎが嘘のように静かになった事に気が付いた瑞樹は、閉じた目を開いて自分の周りを見渡すと、全員、神妙な顔つきでこちらを見つめている。
「え?えっと・・・・ど、どうしたの?」
入った直後とのギャップが余りにもあった為、不安な表情でそう呟くように言った瑞樹に、他のメンバーの中心に立っていた眞鍋が一歩、瑞樹に近づいて口を開いた。
「志乃!改めてになるけど、中学の時、志乃は何も悪くない事を知っていたのに、平田が怖くて言いなりになって裏切ってしまった事・・・・・」
そこまでゆうと少し嗚咽が聞こえた。それは眞鍋からではなく、他の参加者である元クラスメイト達から聞こえる。
「本当に!本当に!ごめんなさい!!」
大きな声でそう言って、眞鍋は深く、深く頭を下げた。
その謝罪と同時に、「本当にすみませんでした!!」と声を揃えて、他のメンバーも一斉に深く頭を下げた。
瑞樹はその光景を目の当たりにして動けなかった。
今回の集まりはそうゆう事なのだろうとは思っていた。
だが、ここまでの謝罪を受ける事になるとは考えていなくて、暫く言葉が全く出てこなかった。
その沈黙の間、頭を下げているメンバーは下げたまま微動だにしない。
いや、よく見ると肩や手を震わせているのが見える。
その光景を見た瑞樹は思った。彼らも辛かったんだ。
勿論、裏切られた事は本当に辛かったし、情けなくもあったし、何よりも寂しかった。
でも彼らだって何も感じずに行動を起こしたのではなかった事を、この光景を見て痛感させられた。
まだ、綺麗サッパリと洗い流す事は出来ない。でも、そんな未来を望んでいる自分に気が付いている瑞樹は、一歩進まないといけないと決意してここへ来たんだ。
だから・・・
「うん・・・本当に辛かったし、すごく寂しかった・・・皆の目が怖かったよ・・・」
瑞樹が震える声でそう言うと、頭を下げているメンバーの嗚咽が大きくなる。
「でもね・・・・今日ここに来て、皆が嫌々そうしていた事を知れたし、仕方がない事だとも思った・・・・だから」
「仕方がないで済む事じゃない!俺達は本当に最低な事をしたんだ!」
瑞樹の言葉を途中で遮り、仕方がない事ではないと男子の一人が否定した。
「うん・・・そうだね・・・ほんとに最低だよ・・皆・・・」
瑞樹がそう言うと、嗚咽は声を殺した鳴き声に変わり、皆、頭を下げながら膝をついた。中には泣き崩れる者もいた。
なるべく気丈に振舞おうと努めていた瑞樹の頬に雫が零れ落ちる。
言葉を詰まらせた瑞樹が、そのまま大粒の涙を流しながら俯いた。
流れ落ちる涙を俯いて見つめていた瑞樹は、ゆっくりと静かに膝をついている眞鍋達に近づいて、同じように両膝をついて同じ目線の高さになった皆を見渡して口を開く。
「でもね、私達はこれからなんだと思う。これからの時間が皆との溝を埋めてくれる気がするの。だから、これからだよ!ね!」
そう言って瑞樹は、涙はまだ止まっていないが優しい笑顔を皆に向けた。
その笑顔が今の瑞樹の精一杯だった。
これ以上はまだ辛い気持ちが表に出てしまう。
そんな事をしたら、今日ここへ来た意味がなくなる。だから必死で笑顔を崩さないように努めていると、眞鍋が瑞樹の手を握った。
「志乃、ありがとう・・・今はその気持ちだけで充分だよ!」
眞鍋は、いや、恐らく眞鍋以外も分かっているだろう。
この笑顔は心から表現している表情ではない事を。
だが、正直言って笑顔を見せてくれるとは、ここにいる全員が思っていなかった。
だから本心で充分だと思える。感謝しかない。
だからこそ、これからが大事なんだ。絶対にもう二度と裏切らない。
二度と彼女の笑顔を壊したりしない。
特に口裏を合わせたわけではなかったが、ここにいる瑞樹以外の全員がそれぞれそう誓った。
「さぁ!それじゃ、クラス会はじめよ!」
幹事でもある眞鍋がそう号令をかけると、全員のテンションが弾けた。
室内には軽快な音楽が流れだし、事前に頼んでいた食事や飲み物が次々と運び込まれる。
各々でそれをあちこちで楽しみ、会話に花が咲く。
そんな賑やかな空気の中、瑞樹は中央席に案内されて、そこで眞鍋を含めた8人程のグループで談笑していた。
談笑している最中に眞鍋が妙に時間を気にしてるのに気が付いた瑞樹は、気になってその事を聞いたのだが、少し慌てる素振りを見せながら、何でもないと教えてくれなかった。
「そういえば、今日遅刻してしまってごめんね。時間通り着いたつもりだったんだけど、集合時間を勘違いしてしまってたみたいで・・・」
確かに集合時間前に到着したつもりだったのだが、もうすでに瑞樹以外のメンバーが全員揃っていてクラス会が始まっていたのをドアの外から見て、時間を勘違いしていたのだと思い、遅刻してしまった事を謝った。
瑞樹の謝罪を受けて、眞鍋はニッコリと笑顔で首を横に振った。
「ううん!志乃は遅刻なんてしてないよ。」
「え?だって・・・・」
「志乃以外のメンバーは志乃に伝えた集合時間の30分前に集まる事になってたんだ。」
「どうして?」
「今日のクラス会は、平田を除いた元3-3全員で志乃に謝る為の会だったの・・・だから絶対に遅刻者なんて出すわけにはいかなかったから、30分前に集まる事にしたんだよ。」
時間通り到着したのに、もうすでに全員集まり終えていた事にやっと合点がいった。
真鍋によると、その30分の間に各自で瑞樹に対してどんな気持ちでいたのかとゆう事を話し合っていたらしい、
その話し合いの声が賑やかな声に聞こえたのだと、決して自分だけ揶揄われたのではないんだと安堵の表情を浮かべた。
クラス会が始まって1時間程した頃、瑞樹が気にしていた事を周りのメンバーに話し出した。
「それにしても本当に良かったのかな?私が参加したからいつも参加していた平田君が参加出来なくなったんでしょ?」
少し申し訳なさそうな表情でそう話す瑞樹に、周りが口を揃えてこう答えた。
「何言ってんの!あいつがいたから俺達がバラバラになってたんだぜ!堂々と拒否出来る理由が出来て嬉しい位だっての!」
そう言って笑う男子に周りのメンバーも同調する。
そこで眞鍋の携帯にlineが届いてた。
それに気が付いた真鍋はそっとスマホをチェックしてニヤリと笑みを浮かべてこう付け足した。
「そうそう!それに、一人抜けて、一人増えて±ゼロではないいんだなぁ!今回だけの限定なんだけどね!」
「え?」
瑞樹は眞鍋の得意げに話す内容が理解出来なかった。
当時の3-3のメンバーは確実に全員参加している。
これはクラス会なのだから、これ以上増えようがないはずだ。
もしかしてと、当時の担任が来るのかと聞いたが、そうではないらしい。
なら、益々言っている意味が分からない。
瑞樹は真鍋が言った事について、考えを巡らせていると部屋のドアからノックする音が聞こえてきた。
そのノックを聞いて眞鍋が「来た!」と言いながら瑞樹の方をチラリと見て、ドアの方へ向かいだした。
他のメンバーの様子を見渡してみると、皆、誰だ?って顔をしている。
どうやら今から入ってくる人物は、眞鍋しか知らないようだ。
「悪い!遅れたよな?」
「ううん!大丈夫だよ!私の方こそ遠いのに無理言ってごめんね。」
「いや、誘ってくれて嬉しかったから・・・」
突然の来訪者に注目が集まり、賑やかだった話声が静まったせいで眞鍋とゲストらしき人物との会話が耳に入ってきた。
「さ!入って!入って!」
「あ、それじゃ、お邪魔します。」
そう言って真鍋が部屋へ戻ってきた後ろから付いてくるように入ってきたのは、背丈が高く恐らく180センチあるかないか程で、少し細身に見えるがガッシリと筋肉質な体型だと服の上からでも分かるプロポーション、肌は健康的に焼けた肌、いかにも爽やかなスポーツマンで笑顔がよく似合う。
俗に言うイケメン属性に十分はいる美形な顔立ちをした男子だった。
その男子を見ても誰も声を発さない。
やはり誰も知らないようで、お互い側にいる者同士で顔を合わせながら、誰だと話しているのが聞こえてくる。
だが、瑞樹だけは彼の顔に何となく見覚えがあった。
確かにこんな感じの知り合いはいないのだが、何となく記憶にある面影を彼から感じる・・・・
座っていた瑞樹が無言でゆっくりと立ち上がる。
立ち上がった瑞樹に気が付いた男子も、ゆっくりと瑞樹の方へ体を向けた。
「久しぶり!瑞樹さん!」
そう言って見せた笑顔が、完全に当時の彼を思い出させた。
「・・・・・・岸田・・・君?」