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29  作者: 葵 しずく
4章 錯覚
82/155

第24話 離れる心と近づく心

「・・・・・・・はぁ」

 イラ・・・

「・・・・・・・・・・・・・・はぁ」

 イライラ・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は」

 イラッ!

「ちょっと!お姉ちゃん!!」

「え?」

「やっと起きてきたと思ったら、まともに挨拶もなしに溜息ばっかりとか・・・折角、クリスマスの朝なのに勘弁してよ!」

「え?私そんなに溜息をついてた?」

「自覚なしとか・・・・マジですか・・・」


 妹の希に指摘されるまで自覚がなかったのだが、どうやら10時過ぎまで部屋から出てこず、ようやくリビングへ降りてきたと思ったら「おはよう」と挨拶すらまともにせずに、私が起きてこないものだから希が適当に朝食を作ったらしく、今その妹が焼いた焦げた目玉焼きを前にしてフォークを突き立てたまま溜息ばかりついていたらしい・・・・それは希じゃなくても怒りますよね・・・・


「ご、ごめんね。いただきます!」

 突き立てたままのフォークを動かして、目玉焼きを口に運ぶ。

 見た目通り苦みが凄く顔が引きつりそうだったが、必死で堪えてなるべく美味しそうに食べ始めた。

「文句なら起きてこないお姉ちゃん自身に言ってよね!私が料理出来ないの知ってるでしょ!」

「う、うん・・・お、美味しい・・よ・・・」

「無理しなくていいし!そんな事より昨日あれから何かあった?ライブをドタキャンされてケンカしたとか?」

「あんなグッタリした間宮さん相手にケンカするとか、私そこまで鬼じゃないし・・・」

 希は私の事をどんな奴だと思ってるんだろう・・・ムスッとした顔を向けていると、希の次の台詞でその表情が一瞬でかき消された。


「じゃあ、間宮さんが元婚約者持ちだって知ってショックを受けたとか?」

「!!!!! 希、あんた何でそれを・・・」

「やっぱりね。昨日ライブの後のクリパの時、神楽優希が言ってた画像をネットで見つけたんだ。私や結衣さん達はピンとこなかったんだけど、愛菜さんだけ、これ間宮さんだって気が付いてさ・・・それであのMCじゃん?その後微妙な空気になったんだよね。」


 茜の話によるとあの画像に写っているのが間宮だと気が付く可能性は低いと聞いていたが、やはり絶対に気が付かないわけではないようだ。


「そっか、そうなんだ・・・・私は茜さんからその事を聞いたんだ・・・」

「ふ~ん・・・で!それってそんなにショックを受けるものなの?私にはよく解らないんだけど・・・実は彼女がいましたとか、奥さんがいましたって事なら理解できるけど・・・」

「・・・・・・」

 希の疑問に対して、瑞樹は何も答えずにテーブル席から立ち上がる。

「御馳走様。ちょっとこれから出かけて来るね・・・」

 瑞樹は希にそう告げて、食器を洗って自室で着替えを済ませ家を出た。

 その間、希が色々と話しかけてきたが、何も返答する気が起きなくて無言を貫いた。


 外は今日も乾いた風邪が肌に刺さるような厳しい寒さだった。

 そんな寒空のなか瑞樹は自転車を回収する為に、間宮のマンションに向かって歩き出した。


 道中色々な事を巡らせる。


 間宮さんってもう29歳なんだから、今まで色々な女の人と付き合ったりしてきたのは現実的に仕方がないとは思う。

 寧ろ、今まで恋人がいなかったって事の方が不自然だし、そんな魅力がない人なわけがない。

 だから、私が今まで好きになった女の人達の中で一番になればいいだけだって思ってた。

 でも・・・婚約者か・・・・間宮さんが結婚しようとした人がいたのか・・・

 しかも事故で亡くなってる・・・・か。


 ようやく気が付けた気がした。

 合宿で再開した時から感じてた違和感の正体・・・

 近づこうとすればする程、あの柔らかい笑顔を透明な膜みたいな壁を感じる事があった。今までそれは自分に自信がなくて飛び込めない心の弱さだと思っていた。

 でも、それは違った。いや、弱さも確かにあるけど、自分の弱さとか関係なく、間宮さん自身がこれ以上誰も近づけさせない領域みたいなものがあるんだと思う。

 つまり、間宮さんはまだその婚約者の人を想っていて、他の人と恋愛する気がない・・・・て事なのかな・・・



 そんなの・・・・私なんかにどうしようもないじゃん・・・・



 絶望的な考えに浸っていると、いつの間にか間宮のマンション前に着いていた。

 瑞樹はそのまま停めていた自転車を駐輪所から出すと、すぐに跨ってべダルを漕ぎだした。

 あんなに行きたかった間宮のマンションが、今は一番辛い場所になりつつある。

 それから折角出かけたのだから、真っ直ぐ帰るのも勿体ないと駅前の書店に向かった。

 ファッション雑誌を暫く立ち読みしていたが、やはり間宮の事が気になって全く頭に入ってこない。

 瑞樹は雑誌をパタンと閉じて棚に戻し目的の物が売ってある場所へ移動した。

 以前から気になっていた参考書を棚に並ぶ本を指でなぞるようにして探し始める。

「あれ?」

 前に見つけた場所を中心に探したが、目的の参考書が見当たらない。

 売れてしまったのかと思ったが、よく探すと何故か一段高い棚へ移動させられていた。

 しかし、以前置かれていた棚の高さで、瑞樹の身長でギリギリだった為、一段高くされるとまともには手が届かない。

 ん~~!と目一杯まで踵を上げ背伸びして取ろうとするが、中指が僅かに触れる事が精一杯だった。

 背伸びしながらチラリと向こうの並びに絵本を取り扱っているコーナーがあり、その通路の脇に子供用の高い場所にある本を取る為の階段状になっている台を見た。


 あれを使うのって・・・なんだか・・・・


「負けた気がするとか思ってるんだろ?」

「え?」

 必死に参考書を取ろうと背伸びをしている瑞樹の後ろから、そう声をかけられたかと思うと、瑞樹が伸ばしている手を軽く超える高さに違う手が伸びて欲しかった参考書を取り出した。

 恐る恐る振り返ると取り出した参考書を手渡そうとしているマスク姿の間宮が立っていた。

 今、一番会いたくて、一番会うと辛い人が目の前に立っている。

 何も話せず固まっていると、間宮が首を傾げる。

「これ取ろうとしてたんだろ?ほれ!」

「あ、ありがと・・・」

 おずおずと参考書を受け取ったが、目を合わせる事なく俯いたまま沈黙を守る。

 何か話さないと不自然だ。そう分かっていても言葉が出てこない。

 それどころか今すぐにでも逃げ出したいと思ってしまう。

 間宮がまだ亡くなった婚約者の事を想っていてあの見えない壁を作っているのだとしたら、私の気持ちは彼にとって迷惑でしかない。

 そう考えてしまったら、何も言えない、言えるわけがない。

 だって、私は彼を困らせたいわけではないのだから・・・・


「あ~、その・・・なんだ・・・おかゆサンキュな。美味かったわ、マジで。」

 沈黙を破ったのは間宮だった。

 後頭部を掻きながら照れ臭そうに昨日の礼を口にした。

 そう言ってくれるのは嬉しい、嬉しいのに、その事まで困らせてしまったんじゃないかって・・・気を使ってくれているだけじゃないかって考えてしまう自分が嫌になる。

「ううん、大した事できなくて・・・ごめん・・・」

「何言ってんの!おかげでここまで回復出来たんだぞ。一応大事をとって今日まで休む事にしたけど、本当に嬉しかったんだ。」


 嬉しかった・・・この言葉に色んな感情が入り交じって泣きそうになる。

 ライバルが多いのは知ってる。

 藤崎先生やゼミの子にだって人気があるし、他にも間宮さんの事を好きになってる人だっていると思ってる。もしかしたら神楽優希だってそうかもしれない。

 でも間宮さんへの思いは誰にも負けてないって自信があったから、笑っていられたんだ。

 だけど・・・婚約者の人には勝てる気がしない・・・

 間宮さんが一生一緒にいたいって思った女性なんだから・・・・

 いなくなってしまっても、まだ想っている女性なんだから・・・

 勝負もさせてもらえないなんて・・・・ズルいよ・・・



「そっか・・・そう言ってくれたら嬉しいかも・・・」

「・・・なぁ、何かあったのか?いつもと違くないか?」

「別に、何もないよ。あっ!ごめん、これから行くとこあるから、そろそろ行くね。これ取ってくれてありがと、それじゃね。」

「あ、あぁ、またな。」

 これ以上は無理だ。これ以上一緒にいたら自分が何言いだすか分からない。


 瑞樹は逃げるようにレジに向かい清算を済ませて、そのまま間宮の方を見る事なく店から出て行った。


 困惑しながら店から出ていく瑞樹を見送り1人残された間宮は、小さく口を開いて呟く。

「・・・・メリークリスマス」

 そう一言だけでも言いたかったのだが、伝える前に瑞樹はいなくなってしまった。


 釈善としない気持ちで書店出たところで、間宮のスマホが震えた。

 仕事関係なら出ないでおこうと、着信先を確認すると妹の茜からだった。

 昨日の礼も言えずにいた間宮は、丁度いいタイミングだとすぐに電話に出る。

 電話が繋がって開口一番の茜の言葉は謝罪の台詞だった。

 何の事だか分からない間宮は詳細を求めると、どうやら昨晩、瑞樹を送り届ける途中で神楽優希と一緒に写っている男が間宮だと話してしまったと聞かされた。

 茜は瑞樹達には正体がバレていると判断していた為、ライブのMCについて聞かれてMCの内容と間宮を繋げてしまったらしい。


 なるほどな・・・それで話が繋がって俺に婚約者がいた事を知って様子が変だったのか。


「ん?実はついさっき偶然に瑞樹と会ったんやけどな、俺に婚約者がいたのに驚くのは分かるけど、様子が変やったぞ?元気がないってゆうか、思いつめてるって感じでな。」


「は?良兄!それマジで言ってる!?とぼけてるんじゃなくて?」

「とぼけてるってなんやねん!」

「はぁ・・・・志乃ちゃんも大変やなぁ・・・」

「だから何がやねんな!」

「ああ!分からんならもういいわ!兎に角、謝ったからな!後で文句言ってきても聞かへんから!」

「は?いや、許すなんて一回もゆってないや・・・・」

 ブッ!ツーツーツー・・・

 間宮が話している最中に茜に電話を切られた。


「たく、瑞樹といい茜といい・・・何なんだよ・・・」

 間宮は状況が呑み込めないまま、買い物を続ける事にした。



 夕方になり帰宅しようと自宅までの帰り道、昨晩の事、そして瑞樹に優香の存在を知られてしまった事を考えていた。

 そもそも何故彼女に優香の事を隠していたのか・・・

 あんなに年の離れた女子高生に対してまで拒絶反応を示す必要があったのだろうか。

 そして彼女はそれを知って、何故沈んでいたのか・・・・

 茜の言った事も含めてグルグル頭を駆け巡る。

 寒い風が吹き抜け思考が鈍っているから分からないのか・・・

 それとも・・・・


 そんな事に意識を集中していると、いつのまにか自宅のマンションまで角を一つ曲がる所まで来ていた。

 そのまま角を曲がってマンションが視界に入った所で間宮の足が止まった。


 マンションの前に人が立っている。

 真っ白はダウンジャケットの裾から伸びるチェックのスカートが目を引く。

 そのスカートから黒のタイツを纏った細い足が伸びてこれまた白いロングブーツの中に納まっている。

 モコモコとしたニット帽を深被りしてかけているメガネの一部が隠れている。

 薄いピンク色のマフラーを顎先まで覆うように巻いていて、顔の露出は極めて少なかった。


 だが、間宮にはその少ない露出でも誰なのか一目で分かった。

 道路の方を向いていた彼女は、立ち尽くす間宮の気配に気が付きお互いの目が合った。

 間宮と目が合った彼女はニッコリと微笑み、ジャケットのポケットに入れていた手を出して、小さく左右に振った。


「優希ちゃん・・・」


 間宮が小さく呟く。

 マンションの前に立っていたのは、昨日Xmasライブを行った神楽優希だった。

 間宮が彼女の事をそう呼んだのは、元婚約者の優香の妹と知って神楽と呼ぶのに違和感が生まれ、とは言っても香坂と呼ぶのも他人行儀な気がした為、優香の妹なのだからと下の名前にちゃん付けで呼ぶ事にしたのだ。

 とは言え、出来れば優希の事をそう呼ぶ機会がない事を望んでいた間宮にとっては、複雑な心境で優希の様に微笑む事は出来なかった。


 そんな心境の間宮の事を気にせずに、優希は立ち尽くす間宮に歩み寄る。


「こんちわ!昨日茜さんに風邪ひいてライブに来てなかったって聞いたんだけど、もう大丈夫なの?」

「あぁ、おかげ様で殆ど完治したよ。一応今日まで休み貰って明日から出勤するつもりだ。」

「そっか!そっか!それはラッキーだったかな!」

「ん?なに?俺が風邪で死線を彷徨ったのがそんなに喜ぶとこなわけ?」

「まぁね!」「おい!」

 そんなやりとりをしている間に、通行人が何人かいたが、誰も神楽優希が目の前にいてるとは気が付いていないようだ。

 以前言っていたが、変装さえしていればステージを降りた自分はオーラがないから気付かれないってのは、どうやら本当の事のようだ。

 前に撮られたのは変装を解いた状態で、俺といたからなのだろう。

 辺りを見渡すと、前に乗り付けていた真っ赤なBMWがない事に気が付く。


「あぁ!あの車なら少し離れたコインパーキングに停めてきたよ。」

「そっか。」

 優希は間宮の考えている事を先読みして、愛車の居所を説明した。

 そして改めるように間宮の正面に立ち、頭を深々と下げる。

「この前は不用心な事をして良ちゃんに迷惑かけてしまってごめんなさい。」

 例の画像流出事件で、容易に間宮だとは断定出来ない画像であったが、少なくとも世間に説明が必要な事態になってしまった事を、優希は深く頭を下げて謝罪した。

 随分軽い感じで接触してきたから、正直謝罪するなんて想像もしていなかった間宮は驚いて目を見開いた。

 車でマンション前に乗り付けなかったのは、自分の車はもう盗撮した人間には割れている事が予想したうえでの、彼女の配慮なのだろう。

 ライブでのMCトークは話題になったようで、間宮も今朝見た芸能ニュースで優希が今回の騒動に対して、何を言ったのかは知っている。その後コメンテーター達が好き勝手話しているのは気分が悪かったからすぐにテレビを消した。

 だが、コメンテーターの一人が言った一言だけは気になっていた。

 それは、ミュージシャンとはいえやはり人気商売であり、今回の騒動はスキャンダルに値する。このスキャンダルで好感度が下がる可能性は低くはない。

 だから対応としては知らぬ存ぜぬで切り抜けるのがベターな選択だったはずだと・・・

 その見解は間宮も同意だった。

 なのに彼女は隠す仕草すら見せずに、堂々と真実をファンに話して、尚且つアイドルをやっているつもりはない、だから好きな人が出来ても隠すつもりもないとキッパリ宣言したのだから驚かないわけがなかった。


「それでそれを俺に言う為に、わざわざ待ってたのか?」

「まあ、それもあるんだけど、具合が良くなっているのなら少し付き合ってもらえないかなって思って。」

「付き合う?どこに?」

「今日は何の日か知ってる?クリスマスだよ?クリスマス!」

「それは知ってるけど・・・」

「私ね、この仕事初めてからクリスマスにオフがあるのって初めてなんだよね。」

「だから?」

「だからって・・・分かんないかなぁ!デートだよ!クリスマスデートのお誘い!OK?」

「は?」

 人差し指を立てて少し膨れた表情で、デートの誘いだと言ってきた優希の顔は赤く染まっていた。

「恥ずかしいならデートなんて単語使うなよ。」

「うっさいし!クリスマスデートって響きに憧れてたんだから仕方ないじゃんか!」

「憧れって・・・まるでクリスマスを男と過ごした事がないみたいな言い方に聞こえるぞ。」

「ないよ・・・今の仕事を始めてからもだけど、それ以前にだってクリパならあるけど、男の人と2人でクリスマスを過ごした事なんて・・・」


 意外だった。外見は優香に似て抜群の美貌に、中身だってまだ全て把握出来ているわけではないが、悪くはないはずってか、きっと良いと思う。性格が良くないとわざわざ謝罪しに来ないはずだし・・・

 更に、今人気絶頂のトップアーティストで天才的な才能も持ち合わせている。

 ハッキリ言って非の打ちどころがないとはこの事だ。

 そんな女性が今までクリスマスを2人で過ごした事がないのは疑っているわけではないのだが、俄かに信じがたいと思ってしまう。


「それに良ちゃんだって暇してるんでしょ?」

 優希は間宮がぶら下げているスーパーの買い物袋に視線を落としてそう言った。

「ばっか!俺は色々と忙しいんだぞ。」

「そう?因みにこれからの予定は?」

「帰って空っぽの冷蔵庫に食材を放り込んで、自炊して食べて風呂入って寝るんだよ!」

「良ちゃん・・・それを暇って言うんだよ?」

「うるさいわ!」

 口を尖らせて顔を背ける間宮を見て、優希は楽しそうにクスクスと笑う。

「そうだ!それじゃ、私が晩御飯作ってあげるよ!」

 優希は間宮がぶら下げている買い物袋を指さして、名案と言わんばかりの顔でそう提案した。

「駄目だ!ほぼ完治したとはいえ、まだ部屋にはウイルスが残ってるかもだし、優希ちゃんに移したら大変だろ。」

 そう言って優希の提案を却下した間宮の顔を、少し驚いた顔で優希が見つめている。

「なんだよ・・・」

「いや、そうゆう理由で拒まれると思ってなかったから・・・」

「は?意味分からないんだけど?」

「分からない?1人暮らしの部屋に行くって言ってる女を拒むのに、風邪のせいにしたんだよ?じゃあ、その心配がなかったら入れてくれるって事じゃない?」


 優希にそう問われて初めて自分が言った事に驚いた。

 確かに今までの自分ならそう言って断ってきたはずだ。

 なのに、今回は風邪を理由に断った・・・

 優香がいなくなってからずっとそうしてきたのに・・・

 以前、瑞樹を部屋へ入れた事はあったが、あれはずぶ濡れになった彼女を助ける為で、決して下心があったわけではない。

 なら、俺は優希に対してそんな感情があるって事になるのか?


「分かってるよ!」

 {え?」

 頭の中でそんな葛藤を途中で遮るように、優希がそう話しかけてきた。


「多分、良ちゃんってお姉ちゃんがいなくなってから、ずっと誰も部屋に入れる事を拒んできたんだよね?」

「あ、あぁ。」

 そうだ!その通りだ!だから分からない・・・何で・・・俺は・・・


「それはね!私の姿にお姉ちゃんがダブって見えてるから抵抗がないんだと思うよ。」

「!!!」

 そうか・・・やっぱり俺は彼女を優香とダブらせて見てたのか・・・

 だから、断る理由がそれしか浮かばなかったんだ・・・

 だとしたら・・・俺は最低な事をしているよな・・・


「だから!そんな顔しなくても分かってるってば!てか、今はそれが私の唯一の武器なんだしさ!」

「え?今、何て言った?」

 自己嫌悪に陥っていて、優希が言った事を全部聞き取れなかった。

「ん~ん!別に!じゃさ!また少しドライブでも付き合ってよ!それならいいでしょ?」

 優希はそう言って提案内容を変更してきて、グイグイと押しを強めてきた。

 その押しに押し切られそうになっている自分に違和感を覚える。


 俺は彼女の押しが強いから、押し切られそうになっているのか?

 本当は心のどこかで彼女に誘われて喜んでいるからじゃないのか?

 ずっと守り続けてきた、瑞樹が感じている見えない壁に僅かに綻びが出来たのを感じる。


 俺は・・・・本当にそうなのか?


「わかった・・・付き合うよ。」

 自分でも驚く程、何の抵抗もなく言葉が出てきた。

 言った直後に失言だったと後悔したが、OKの返事を聞いて本当に嬉しそうな笑顔でピョンピョンと跳ねる優希を見たら、もう訂正する気が起こらず苦笑いを浮かべるしかなかった。


 優希は行きたい場所があるから、すぐに出発したいと催促されたので、買ってきた食材を部屋の冷蔵庫へ放り込んで、すぐに優希の車を停めているコインパーキングへ2人で向かった。

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