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29  作者: 葵 しずく
4章 錯覚
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第23話 画像の男

 瑞樹は間宮の元へ駆けつける為に、一緒にライブを楽しんだ仲間達より先に電車へ駆け込んだ。

 ライブ会場から電車でA駅へたどり着くには、何度か乗り換えが必要だった。

 今まで感じた事がなかったが、電車のルートを辿っていくとA駅へ向かう電車に乗り換える駅までが、無駄に遠回りしている事に気が付くと瑞樹はじれったい思いで焦る気持ちをグッと堪えながらすぐに降りられるように、席が空いていてもドア側から離れずに立っていた。

 駅へ到着するのを待つ間、思い出したようにスマホを立ち上げてlineの画面を覗き込むと、未だに神山の家から送ったlineに既読が付いていなかった。

 やはり嫌な予感が当たっていると確信した瑞樹は再びlineを何件か送って様子を見ていたが、乗り換える為に降りる駅へ到着するまでに既読が付く事はなかった。

 乗り換えのホームへ移動している最中に、今度は電話をかけてみたが10回近くコールした後、お決まりのガイダンスが流れるだけで、間宮の安否を知る事が出来ずに瑞樹の焦りは益々大きくなる一方だった。


 最後の乗り換えを済ませて、後はA駅に到着するのを待つだけになった時、瑞樹のスマホが通知を知らせる為に震えた。

 間宮から連絡があったのかと急いでスマホを立ち上げてlineをチェックしたが、通知マークが付いていたのは加藤とのアイコンだった。

 瑞樹は肩を落としながら内容をチェックすると、間宮の具合はどうだったか質問する内容だった。瑞樹はまだ自宅に着いていなくて、連絡も取れていない状況を説明する文章を返信してスマホを仕舞った。


 暫くしてようやくA駅へ到着した電車のドアが開くと同時に、瑞樹は電車から飛び出して改札を駆け足で通過して自転車で間宮の自宅へ急いだ。


 間宮のマンションへ到着して、来客用の駐輪所へ自転車を停める。

 エントランス前でオートロックに部屋番号を入力してインターホンを鳴らした。

 リンゴ~ン!

 どうでもいいのだが、ある程度の金額から上の家賃のマンションって、どうしてオートロックのインターホンの音が高級そうな音がするのだろう・・・

 寒空の中急いで駆けつけたからか、体の動きを止めると訳の分からない事を考えてしまう。


 インターホンを鳴らして少し待ったが、何も反応が返ってこない。

 それから何度か鳴らしたが、結果は同じだった。

 これは本当に心配していた事態になっている可能性がある。

 瑞樹は引き続きインターホンを鳴らし続けながら、スマホで電話やlineを送り続けた。

 暫くそれを繰り返していたが、インターホン、電話、lineどれも反応が全くなかった。


 その場でしゃがみ込んだ瑞樹の顔色が一目でわかる程、急激に血の気が引いていく。

 しゃがみ込んだまま、電話やlineを送り続けて、気が付けばマンションに到着してから3時間近く経過していた。


「あれ?志乃ちゃん?」


 うつろな目でスマホの画面を見つめていると、エントランスの左手から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 ハッと我に返った瑞樹は素早く顔を上げる。

 そこにはさっきまでライブを行っていた神楽優希のマネージャーで間宮の妹でもある茜が目を丸くして立っていた。


「どうしたの?こんなところで!」

 茜は慌てた様子でしゃがみこんでいる瑞樹に駆け寄る。

「あ、茜さ~~ん・・・」

 顔をクシャクシャにした瑞樹が、目からポロポロと涙を流しながら立ち上がり駆け寄る茜の両肩を掴んだ。


「間宮さんが、間宮さんが、インターホン鳴らしても、電話しても応答がないんです・・・風邪をひいて体調崩してるから心配で・・・」


 瑞樹は茜の両肩から手を放さずに、間宮が肺炎を起こしたんじゃないかと、涙を流しながら茜に助けを求めた。


「あ~、そっか、そっか!私の方にもlineきてたんだけど、忙しくて返信できなくてさ・・・落ち着いてから電話したんだけど繋がらなかったから様子見に来たんだよ。」


 だが、呼び出しても反応がないから、部屋には入れないと説明すると、茜はナンバーと合鍵を持っていると鞄から鍵を取り出してニッコリと笑った。

 その事に安堵した瑞樹は、流行る気持ちを抑えてエントランス前で自動ドアが開くのを待った。


「こらこら!良兄の様子は私が見て来るから、志乃ちゃんは帰りなさいよ!」

「え?な、なんでですか!?私も行きます!行かせてください!」

「だ~め!志乃ちゃん受験生でしょ?センターも目の前じゃん!風邪うつったら大変じゃん!」

「でも!」

「駄目だよ!こんな状態の部屋に志乃ちゃんを入らせたら、私が良兄に怒られちゃうよ!」

「でも!私が我儘を言ったせいで、間宮さんが無理をして体調を崩してしまったんです!だから・・・お願いします!お願いします!」

 自宅へ帰るように話す茜に対して、瑞樹は必死の頭を下げて食い下がる。そんな押問答が暫く続いて、「志乃ちゃんってマスク持ってるの?」と茜が溜息を付きながら、序所に瑞樹の熱意に押されだして感染を防ぐ予防に必要なマスクの所持を確認した。

「はい!インフルエンザが流行ってるので持ってます!新品のマスクも鞄に入ってます!」

 そう言って瑞樹は鞄から新品のマスクを取り出して茜に見せた。


「はぁ・・・分かったよ・・・でも少し様子を見るだけだからね!様子を確認したらすぐに帰るんだよ?」

「はい!分かりました!」

 説得は成功したが、様子を見たらすぐに帰るように言われて、その条件を一応了承した。

 一応と言うのはすぐに帰る気など更々なかったのだが、ここはそう返事しておかないと部屋へ入れてくれないだろうから、大人しく従うフリをしただけだった。


 茜は入室ナンバーを入力して、ロビーの自動ドアを開けて中へ入り、間宮の部屋の前まで到着した。

 そこで2人は手持ちのマスクを着用して、茜が合鍵で開錠を行い玄関のドアを開けた。


「お~い!良兄~!生きてるぅ!?」

 茜が玄関に入りそこから間宮を呼び掛けてみたが、やはり返答が返ってこなかった。

 その後に瑞樹が玄関へ入った時、茜には聞こえなかったようだが、間宮の荒い息遣いが瑞樹には聞こえた気がした。

 苦しそうな息遣いが聞こえた気がした途端、殆ど無意識に茜を押しのけた瑞樹は急いで靴を脱いでリビングへ向かった。

 リビングへ入り間宮の姿がない事を確認すると、すぐに隣の寝室のドアを開ける。


 ハァ・・・・ハァ・・・・ハッ・・・・・ハッ・・・


「ま、間宮さん!」


 寝室のベッドの上で間宮は倒れ込む様な体制で眠っていた。

 眠っているとはいっても、酷く呼吸が浅く苦しそうで汗もビッショリ掻いていている。

「あらら・・・・これは本格的な風邪みたいね。」

 予想以上に衰弱している兄を見て、冷やかし半分で訪れた茜の表情も真剣なものに変わった。


「良兄、大丈夫?」


 茜が間宮の側に近づいてそっと声をかける。


「あ・・・あ・・あ、茜・・・か・・・」

 僅かに目を開けた間宮が、茜の姿を確認して意識が朦朧としながらも口を開いた。

「うん、そう!とりあえず汗の始末をしないと余計に悪化するから着替えなさい。着替えってどこにあるの?」

 着替えの在処を聞くと、間宮はベッドの足元になるクローゼットを指さした。

 それを確認した茜は間宮から離れてクローゼットへ向かった。

 その間も僅かだが目を開いたままの間宮の視界に、朦朧とした意識が瞬間的にだがしっかりと戻る光景が映った。


「み、瑞樹・・・?」

 完全防備なマスクを装着していて目元しか露出していなかったが、特徴的な少し垂れた大きな瞳に肩下まで伸びた少し焦げ茶に染めたサラサラの髪、抜群のスタイルに白い肌。

 さっきまで茜の後ろに隠れていて気が付かなかったが、茜が移動して初めて間宮の視界に心配そうな顔をした瑞樹の姿が飛び込んできた。


「な、なんでここ・・に・・」


 そう話しかけられた瑞樹は、そっと間宮の側に近づいて膝を折った。

「間宮さんが心配で来ちゃった。」

 本当に心配でたまらない表情で、静かに優しくそう告げた。

「ば・・・・か…受験生のお前にうつったらどうるすんだ・・・よ・・」

「ごめんなさい・・・でも!」

「はいはい!話は落ち着いた時にね!着替えこれでいい?」

「あ、あぁ・・・なぁ、どうしても着替えないと駄目か?」

 着替えと汗をふき取るタオル類を用意した茜が間宮の側に戻り、2人に話は後だと促すと、間宮が辛そうな表情で着替えるのを拒むようにそう言った。


「もちろん!何で?」

「いや・・・熱が高すぎて少し動くだけで体中が酷く痛むんだよ・・」

「高熱?何度あったの?」

「昼過ぎに計った時は39度3分だったな・・・」

「はぁ!?9度3分!?それって・・・」

「あぁ!それは大丈夫だ。俺もそれ疑って午前中に検査してもらったけど、インフルエンザじゃなかったよ・・・症状は酷いが風邪だったからついでに点滴打ってきた。」

「そっか!まぁ、辛いだろうけど着替えてその汗はなんとかしないとだし・・・」

「だよな・・・分かった、じゃあ着替えるから出ててくれるか?」

「了解!あ、食欲ある?おかゆでも作ろうか?」

「そういえば、昨日の昼飯から殆ど何も食ってなかったな・・・口の中が少し痺れててよく分らんが・・・」

「OK!んじゃ一応作るから、少しでも食べて。」

 そう言って、茜が寝室から出てリビングへ戻ると、気合いをいれた表情の瑞樹が茜に駆け寄った。

「あ、茜さん!おかゆなら私に作らせて下さい!」

「え?いいよいいよ!私が適当に作っておくから、志乃ちゃんはそろそろ帰った方がいいって!」

 あまり寝室にいると2人に怒られそうな気がしたから、リビングから2人の会話に聞き耳を立てていた瑞樹が、おかゆを自分が作ると申し出た。

 だが様子を見るだけの約束だった為、帰宅するよう促される。

「いえ!帰りません!こんな事になったのは私のせいなんです!怒られたって絶対に帰りませんから!」


 痛ってぇ!ぐぁ!?いてててて・・・・ったぁーーー!!!!


 寝室からあまりの痛みに悲鳴に似た声が聞こえてくる。

 どうやら本当に辛くて着替えも儘ならないようだ。

 寝室の方を眺めて少し考えてから、茜は溜息交じりに話し出した。

「OK!分かった!それじゃ、私は良兄の着替えを手伝ってくるから、志乃ちゃんにおかゆ作るのお願いしていい?」

「!!はい!任せてください!」

 瑞樹の必死の訴えに折れた茜は、おかゆは彼女に任せて寝室へ戻っていった。

「ほら!やっぱり着替えられないじゃん!手伝ってあげるから立った!立った!」

 寝室へ入った茜は蹲る間宮にそう言いながら、寝室のドアと閉めた。

「は、はぁ!?い、いや!自分で出来るから、だ、大丈夫だから!」

「兄妹で何恥ずかしがってるのよ!ホラ!脱がせてあげるから大人しくする!」

「いや!だから・・・いいってば!!」


 本当はおかゆではなくて、間宮の着替えを手伝いたかったなんて恥ずかくて言えなかった瑞樹の耳に、寝室から間宮が嫌がるのを無視して無理矢理着替えさせる賑やかな音と、間宮の悲鳴が聞こえ瑞樹は少し安心して、クスクスと笑った。


 以前間宮の台所で母親の涼子と色々道具や食器を探しながら、タコ焼きの準備をした時に、大体どこに何があるのか把握していた瑞樹は、手早く準備を済ませて調理を始めた。


 相変わらず寝室の方からは、無駄な抵抗をする間宮の声と、半分面白がっている茜の声が聞こえる。

 混ぜてもらいたい気持ちをグッと我慢しながら調理していると、賑やかだった寝室が静かになった。


 寝室のドアが開いて茜が一仕事終えたような仕草をしながら出てきた。

「ん~!良い匂いだね!私もお腹空いてきちゃった!」

「あはは!お疲れ様です。量がよく分からなくて多めに作っちゃたから、茜さんの分も用意しますね。」

「嬉しいな。でも志乃ちゃんもライブが終わって直行してきて何も食べてないんじゃないの?」

「ええ、まぁ・・・」

「なら!3人で食べようよ!ね!」

 人差し指を立て片目を閉じて、茜はそう提案した。

 すでに様子を見たら帰るって約束は忘れているようで、内心ガッツポーズを炸裂させたい気分だった。

「はい!それじゃ、私も御馳走になります。」

「御馳走になるって志乃ちゃんが作ってくれたんじゃん!」


 あはははは!


 それから茜も配膳を手伝って食事の準備が出来た。

「それじゃ、良兄呼んできてくれる?」

 気を利かせたのか、瑞樹に間宮を呼んで来るように言った。

「は、はい!」

 茜にそう言われた瞬間、文字通り瞬間湯沸かし器に当てられた様に顔を赤らめて、おずおずと寝室へ向かいドアをノックして開けた。


「あ、あの、間宮さん。おかゆが出来ましたよ・・・」

 恐る恐るベッドの方へ視線を移すと、そこには無理矢理着替えさせられて疲れ切った間宮が寝息をたてていた。

 言いつけ通りしっかりマスクを装着して、静かに間宮の側に近づくと来た時より更に呼吸が安定している事に安堵した。

 肩にそっと手を置いて軽く揺らしながら、間宮に声をかける。

「あの、間宮さん、おかゆが出来たから起きて・・・」

 顔を近づけて驚かせないように、静かな口調で話しかけるとゆっくりと間宮の目が開いた。

 まだ意識がハッキリと覚醒していない間宮と目が合って、こんな時に不謹慎だとは思ったが、ドキドキと心臓が落ち着かなくなる。


「あぁ、ありがとう・・・」

 のっそりと起き上がりながら礼を言う間宮の横顔がまだ辛そうなのが分かる。

 ベッドから立ち上がるのに手を貸そうと構える瑞樹に、沈んだ顔で間宮が口を開いた。

「折角のライブ行けなくてごめんな。」

 間宮に謝られて瑞樹も表情が曇る。

「何で間宮さんが謝るの?私が我儘言って無理させたからなんだから、私が悪いんだよ・・・・本当にごめんなさい。」

 両手を腰の辺りで組んで、瑞樹は頭を下げて謝罪した。

「俺が体調管理を怠ったからで、瑞樹が悪いわけじゃないんだから気にするな。」

「・・・・・・・・」


 2人でリビングを通ってキッチン前に設置してあるテーブルへ向かった。


 テーブルには温かい湯気が立ち込めているおかゆと、その脇には梅干しと湯飲みが配膳されていた。


「美味そうだな。」

 テーブルの席に座り配膳されたおかゆを見て、痛みで辛そうだった表情が少し和らいだのを見て、瑞樹の表情も綻んだ。

 3人で食卓を囲み食事を始める。


 ハフハフとおかゆを口に入れた間宮が、ホッと息をついた。

「うん、美味い。昨日から殆ど何も食べてなかったから、体に染みわたる感じがする。」

「うん!美味しいね!あっさりしてるけど、塩加減が絶妙だよ!」

 間宮と茜が褒められて、瑞樹は嬉しそうにはにかんだ。


 食事が終わり淹れられたお茶を飲んで一息ついていると、茜が思い出したように間宮に話しかけた。

「そうだ!良兄。」

「うん?」

「例の件だけど、優希がいい方向に振ってくれて、何とか収束する流れになったよ。」

「そうか、それは良かった。」

「ん、まぁ、そうゆう事だから気にしないで安静にしてなさい。」

「あぁ、わかったよ。」


 2人の会話を聞いていると、ライブで神楽優希がMCで話していた例の画像の事なのだと理解できた。

 ただ、理解できない部分があり瑞樹は首を傾げる。

 茜は神楽優希のマネージャーで、その画像の事はスキャンダルの元になるから、怪訝するのは分かるし、あのMCの後観客の反応を見れば今後騒動になる恐れはないだろう。

 それで茜が安堵するのは理解できる。でも何故それを間宮に報告する必要があるのだろう。その件で間宮に相談でもしていたのだろうか・・・

 瑞樹はどうしてもその事が解せなかった。


 瑞樹がそんな事を考え込んでいると、茜は間宮にまた寝室へ戻るようにと促した。

 間宮も素直に応じようと席を立つと同時に、瑞樹も立ち上がって食器をキッチンに運び出した。

「瑞樹、洗い物は明日にでもやっておくから、流しに置いておくだけでいいよ。」

「ううん!料理は後片付けまでして初めて料理って言うんだよ?だから気にしないで。」

「そうか・・・何から何までごめんな・・・」

「ううん!そんな事いいから早く治してね。」

「ん、わかった。おかゆ美味かったよ。本当にありがとう。」

「ううん!食べてくれて嬉しかった。」

 そう会話を交わして、間宮は再び寝室へ戻っていった。


 瑞樹と茜はそのまま洗い物を済ませて、帰り支度を進めていると、茜がもう遅い時間だから家まで車で送ってくれる事になった。

 自転車は一晩間宮のマンションに預けて、明日引き取りに行く事にした。


 身支度を済ませた2人は、そっと寝室を覗くと間宮が静かに寝息を立てていた。呼吸も安定しているようで、後は安静にしていれば大丈夫だろうと話して2人は安堵した。


 マンションの正面に茜が車を回して、それに瑞樹も乗り込んで瑞樹の自宅へ走り出した。


「とりあえず、大丈夫そうで良かったね。」

「はい、最初見た時は凄く辛そうで心配でしたけど、あの寝顔を見て安心しました。」

「今日は本当にごめんね。バカ兄貴のせいで迷惑かけちゃって。」

「いえ!何度も言いますけど、これは私が悪いんですから謝らないで下さい。」

 そんな会話をしながら、自宅までのナビを続けた。


 自宅まであと僅かな距離まで差し掛かった時、ずっと気になっている事を茜に聞いてみる事にした。


「あの、一つ聞いていいですか?」

「ん~?な~に?」

「えと、さっき間宮さんに収束するって報告していたのって、神楽さんがライブのMCで言っていた事ですよね?」

「ん?そうだよ!いや~、あの画像が原因で志乃ちゃん達にまで迷惑かけてしまわないかヒヤヒヤだったよ。」

 益々、よく解らなくなった。何故あの画像で私達にまで被害が及ぶ事になるのか・・・

「誰が撮ったか知らないけど、一緒にいた男が良兄って事が分かりにくい画像で助かったよ。」

「え?」

 茜が何を言っているのか理解できなかった。

 確か、今、その画像に写っている神楽優希と一緒にいた男性が間宮だって言った?

 それって・・・・・


『写っている男の人は、実は6年前に事故で亡くなった姉の元婚約者なんだよね。』


 あの時、MCで話した神楽の台詞がフラッシュバックされる・・・


 神楽優希と一緒にいた事よりも、間宮に死に別れた婚約者がいた事にショックを受けた。

 言葉が出ない・・・・胸が激しく痛み軽く眩暈を覚えた。


 茜は間宮が今回の画像の事は近しい人物には話していて、すでにその事を知っていると思い込んでいた為、聞かれた質問に素直に答えた。

 その直後、瑞樹の様子が変わった事に気が付いて、俯いている彼女の顔を覗き込むと、瑞樹の顔色が悪くなっていた。


 その時、茜は自分の致命的なミスを犯した事に気付く。


 彼女はあのライブ会場にいたのだ。

 当然あのMCを聞いていた。

 だから、あの画像に写っていた男が兄だと知れば、兄には死に別れた婚約者がいた事実にたどり着いてしまう事に・・・


「あっ!!」


 茜は思わず声を漏らしたが、もう全てが遅かった。

 部外者の自分にだって分かる。

 瑞樹 志乃は間宮 良介に気持ちを寄せている事を・・・


 その気持ちが本気であれば本気であるほど、この事実を知ってしまったショックは大きいだろう。

 それに兄自身も知られたくない事だったはずだ・・・


 軽率な発言をしてしまった自分に腹がたつ。


 その怒りで思わずブレーキを踏み車を止めた。

 すぐに俯く瑞樹に寄り添うように近づき肩に手を乗せた。

「ち、違うの!これはその・・・・」

 駄目だ・・・・事実を誤魔化すどころか、何の言い訳も思いつかない。


「もうすぐそこなので、ここまででいいです・・・・ありがとうございました・・・」

 今にも消えてしまいそうな小さな声でそう茜に告げると、瑞樹は茜の返答を待たずに車を降り軽く会釈して歩きだした。


 茜も慌てて車を降りたが、トボトボと歩く瑞樹を追う事が出来ずに姿が見えなくなるまで呆然と見送る事しか出来なかった。

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