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29  作者: 葵 しずく
2章 導かれて
8/155

第1話 望まなかった再会

 ーーーー うそ ーーーーー


「はじめまして。英語のCクラスを担当させていただく、間宮 良介と言います。」


 ーーー なんで? ------


「全学年のCクラスを受講する生徒の皆さんは、英語に苦手意識を強くもっている人だと思います。」


 ーーー そこにいるの? -----


「英語を難しく考えないで下さい。」


 ーーー これじゃ もう ----


「この合宿では受験生の方には入試で点数を取れる様にする講義を行いますし、1~2年生には受験に向けて傾向と対策を教える事になりますが、」


 ーーー 逃げる事も -----


「それと同時に英語への苦手意識を取り除いて、英語が好きになるお手伝いが出来たらなと考えています。」


 ーーー できないじゃない!! -----


「8日間一緒に楽しみながら頑張りましょう!宜しくお願いします。」

 挨拶が終わると会場から拍手が送られた。


 この時、二人の表情は完全に真逆だった。

 壇上の方は、やわらかく温かい笑顔を生徒達に向けている。

 片や会議場に設置された椅子に座っている方は、顔色が悪く泣き出しそうな表情で隠れる様に下を向いていた。




 そんな志乃に気付かずに愛菜が小声で話しかける。

「ねぇ!ねぇ!間宮先生ってわりとイケてない!?あの顔であんな風に私に向かって微笑まれたらヤバいかも!

 大人な雰囲気も憧れちゃうなぁ。間宮先生見ちゃったら、ここにいる同年代の男共なんてただの子供にしか見えなくない?」


「・・・・・・・・・・・・・」

 志乃は言葉を返せない。


「志乃?下向いちゃってどうしたの?気分でも悪い?」

 愛菜が自分を心配してるのがわかって

「ううん。大丈夫、平気だよ。心配しないで。」

 何とか声を振り絞って答えた。





 講師達全員の挨拶が済むと、司会役のスタッフが生徒達から講師達に質問がないか尋ねた。


 すると各講師に色んな質問が生徒から投げかけられた。


 これから受ける講義に対して必ず抑えておくポイントは?と言う真面目な質問もあったが、

 半数位は勉強に関係ない、講師がタジタジになるような質問が多かった。


 例えば

 会場の男子から「おぉ!」と声があがる程の美人な藤崎先生には

「藤崎先生!今付き合っている人っていますか?」

「えっ?えっと・・・・いません」ー疑いの眼差しー


「藤崎先生 おいくつですか?

「ひ、秘密です!」ー笑-



 挨拶で笑いをとりにいってた奥寺先生には

「奥寺先生!その真っ黒な肌は自黒ですか?ヒサロですか?」

「もちろん!ヒサロです!」ー会場爆笑!ー


「奥寺先生!おいくつですか?」

「永遠の二十歳です!」-会場さらに爆笑!-



 厳しくいくぞ!と脅かしていたかなり筋肉質な斎藤先生には

「斎藤先生!何でそんなにアツいんですか?」

「夏だから!」-ややウケー


「斎藤先生!肉体年齢は?」

「17歳!」-妙に納得w-


 笑いがおきたりとリラックスした空気で質問コーナーは進行していく。


 最後に間宮先生の番が回ってくると、急に女子達がザワつき始めた。


「間宮先生!付き合ってる人いますか?」

「いませんよ」

「ほんとかなぁ!部屋に綺麗な彼女さんが待っててそうなんですけど?」

「ははは!だったらいいんですけどね。本当にボッチなんですよ」-笑ー


「間宮先生はおいくつなんですか?」

「29歳になりました。」

「え~!?見えないですね!24~25歳くらいだと思ってました。」

「そうですか?ありがとうございます」


「趣味はなんですか?」

「ここ数年あまりまとまった時間がとれなかったので、空いた時間に手軽に出来る読書ですね。文庫小説とかよく読みますよ」

「ラノベとか?」

「大好きです!」-会場爆笑ー


「間宮先生はさっき29歳になりましたって言ってましたが、誕生日っていつだったんですか?」

「誕生日ですか?誕生日は5月27日なんですよ」




 ーーーーーーーーえ??今なんて言ったの???-----




 ーーーーーー5月・・・・・・2・・・・7・・・



 それまで下を向いて微動だにしなかった瑞樹が、顔を間宮の方へ向けて「5月27日」と呟くと、

 ふらりと立ち上がった。

「志乃?」

「お手洗い行ってくる・・・」

 愛菜にそう告げると、フラフラと会場を出て行った。


 出口を出て暫く歩く。膝が震える。気を抜くと崩れ落ちそうになる。


 なんとかロビーに設置されているソファーまでたどり着き、崩れるように座り込んだ。


 あの人と初めて会った日も5月27日だった。

 て事はなに、あの人は自分の誕生日の日に、親切に落とし物を届けたのに、

 その落とし主に酷い暴言を一方的に受けたって事?


 ・・・・・ははは・・・・


 瑞樹は無気力に笑った。


 自分が馬鹿過ぎて笑えてきた。



 これは無理でしょ。誠意をもって謝れば許してくれるかもって?

 そんなわけないじゃん。私だったら絶対許せないって・・・

 もう・・・いいや・・・・何を言われても仕方ない事したんだし、コソコソするの疲れたし

 バレてしまえばいい。いや!もうバラしてしまおう。男の人に嫌われるのは慣れてるしね。



 開き直った瑞樹は、勢いよく立ち上がり会場へ戻った。


 入口を開けるとスタッフが壇上から、これからのスケジュールを参加者に説明しているところだった。


 席に戻ると愛菜が心配そうに

「おかえり志乃!ほんとに大丈夫なの?」

「うん!もう大丈夫だよ!心配かけてほんとごめんね!」

 愛菜は安堵した様子だった。


「参加者の皆さんは。これから各自指定された部屋へ移動して頂き、荷物を置いてから昼食を済ませてください。

 14時より各会議室で配布したとおりのスケジュールで講義を始めますので遅れないようにお願いします。」


「だってさ!愛菜早く部屋に行こうよ!」

「うん!どんな部屋か楽しみだね」

 2人仲良く部屋を探しに向かった。



 どうやらここの宿泊施設は建物の中にある通常の部屋と、中庭を抜けところにあるコテージの2パターンがあり、

 今回の振り分けは男性が通常部屋で女性はコテージとなっていた。




 志乃達が指定されたコテージは8人用で、一階に全員集まってもゆったりくつろげるリビング、風呂、洗面台、トイレが完備してあり

 二階は8人分の布団が敷いてある寝室になっていた。


「うわ~!おしゃれなコテージ!木の匂いがする!合宿に使われる位だから、期待してなかったけど、これは嬉しい誤算だったね!」

 愛菜がテンション高く言うと、同じ部屋に泊まる女子達も

「ほんとね!」

「すごくかわいいコテージだね」

「ほら!見て!出窓から綺麗な景色が見えるよ!」と大好評だった。


「これは夜に皆でぶっちゃけ恋バナで盛り上がっちゃう!?」と加藤が提案すると

「あはははは!それをする気力が残ってればね!」

「ほんとそれ!朝からガッツリ講義だしね」

「でも折角こうやって知り合えたんだから、勉強だけじゃなくて、色んな話したいよね!」

「だよね~~!!」


 そんな話で盛り上がっている輪から外れて荷物の整理をしていた瑞樹に女子の一人が

「ね!瑞樹さんもそう思うよね!」

「えっ?あぁ、そうだね」

 と答えるのを見て、愛菜が志乃の肩を抱いて

「何言ってるのよ!神山さん!恋バナと言えば志乃でしょ!だって見てよ!このビジュアル!

 この見た目で男が放っておくわけないじゃない!本命&対抗馬!便利屋君に貢ぐ君でしょ?あとはSP君とより取り見取りなわけですよ!

 色んな武勇伝があるんだろうなぁ!」


「ち、 ちょっと愛菜!人を救いようのない最低女みたい言わないでよ!」(違う意味では最低だけど・・・)


「あはははは!」

 皆が笑う中、瑞樹はため息交じりに

「馬鹿な事言ってないで食堂いかないとでしょ!」

「あぁ!そうだね!お腹ペコペコだぁ!いこ!いこ!お昼ごはんは何かなぁ?」

「そうだね!」

「食堂ってどこだっけ?」

「他のグループに付いていけば着くんじゃない?」

「それ適当過ぎ!」

「あははははは!」


 皆でワイワイ食堂へ移動した。

 グループの先頭で楽しそうに歩く加藤の背中を見ながら、

 愛菜のおかげで皆もう打ち解けあったみたい。本当にいい子だな。

 裏表なく誰にでも明るく振る舞えるところなんて羨ましいくらい。

 私なんかとは大違いだ・・・




 その頃、解散した会場ではスタッフと講師が打ち合わせを行っていた。

「・・・といった感じです。説明は以上です!何かご質問ありますか?」とスタッフが尋ねると


 斎藤が挙手して話し出した。

「あの!最終日の講義が生徒のアンケート制と言うのは?」


「それは7日目の講義が終わったあと、生徒にどの科目をどの講師から受けたいかアンケートを実施して、最終日はその結果で講義を振り分けるものです」


「えっ?それじゃあ受講する生徒の人数が偏りませんか?」

「ええ!偏るでしょうね!参加者が多い講義もあれば、少ない講義もあるでしょう!

 どうして、こんな事をするのかは、ここにいる講師の方々は説明しなくてもご理解していただけるのでは?」


 スタッフがそう言うと俺以外の講師の顔つきが明らかに変わった。


(ん?どうゆう意味だ?何でそんな事する必要があるんだ?全然わからん!・・・まぁいいか!)



「これで説明は以上になります。

 講師の方々には個室を用意しておりますので、荷物の整理をして食事を済ませて、講義の準備に入って下さい。宜しくお願いします」


 受け取ったルームキーを軽く振りながら、部屋へ向かおうと歩き出した時、「間宮君!ちょっといいかしら?」と天谷社長に呼び止められた。

「はい」

「あなたに大事な事を言い忘れたわ」

「何でしょうか?」

「実はこの合宿には目的が二つあって、一つは勿論参加した生徒の学力アップなんだけれど、もう一つは我が社へ正規雇用を希望する講師達の試験の場でもあるのよ」


「えっ?」


「勿論あなた以外の講師が対象の試験なんだけれど」

「あぁ!だからさっきアンケート講義の説明で

 皆さんの顔つきが変わったんですね」


「そう!それであなたにお願いしたいのが、この試験が終わるまで、あなたは試験の対象外だと言う事を黙っていて欲しいのよ」

「なるほど。僕が対象外だと知れば、英語担当のお二人が油断して手を抜きだす恐れがあるからですね?」

「その通りよ!約束してもらえるかしら?」

「わかりました」

「ありがとう!それじゃ私は本社へ戻るわね。講義頑張って!期待してるわよ!」

「はい!頑張ります!」



 社長を見送った後、部屋へ向かい荷物を整理してから、食堂へ向かった。


 それにしても今更だけど、上手くいくのかな・・・



 ただの営業マンの俺が今こうして講師なんてやる事になった経緯はこうである。


 あれは約20日前・・・

 取引先の天谷社長から電話があり、話があるから来るように言われた。

 俺は以前から売り込みしていた新製品の事かと期待して訪問した。


 社長室へ案内されると、

「よく来てくれたわね。早速なんだけど、間宮君、うちの夏合宿に英語の講師として同行してもらえないかしら?」

「・・・・・・は?」

「合宿講師は各学科3名ずつ採用する予定だったんだけど、英語だけ合格できた講師は2名だけで1名足りないのよ。

 間宮君は学生時代にウチで講師のバイトしてたから適任だと思って。」


「い、いや!待って下さい!僕が講師?無茶ですよ・・・」

「あら!そんな事ないわよ?あなたの講師としてのレベルは私が認めてるもの!」


 そう。大学時代ここで講師のバイトを2年間ほどやっていたのは事実。

 その際、当時専務だった天谷社長には色々と世話になった。

 何を隠そう!このゼミで使用されているテキストデータからソフト、端末タブレットまで、

 天谷社長が手掛ける全校のIT関連機器は全て我が社から販売した物を使用しているのだ。

 もちろんライバル業者は多数いたが、当時可愛がってもらっていた天谷専務が社長に就任されたのをきっかけに、売り込みをかけたら

 昔の仲間に協力して頂けるって事で、ライバルを退け僕と契約してくれたのである。


 だからお手伝いが出来る事があれば、協力するつもりではいたが・・・まさか講師をやれと言われるとは夢にも思わなかった。


「し、しかし・・・」

 と返事に困っていると、天谷社長がニヤリとして

「勿論!タダでとは言わないわよ!合宿は7泊8日で行うから、無条件でそんな長い期間あなたを借りるのは現実的じゃないしね。」


「とゆうと?」


「あなたがここ半年間頻繁にウチに売り込んできていた、IT関連の新システム!私の頼みを聞いてくれて満足な結果をだしてくれれば、

 全て間宮君から買ってもいいわよ。」


「えっ?ほ、本当ですか!?」


「ええ!私は嘘はつきません!あなたも解っていたから、売り込みにきてたんでしょうけど、入れ替え時期だったしね。

 ただ他社もそれは調べがついていて、あちこち売り込みに来ていたのも事実なの。あなたの所も含めてプレゼンを聞いていても、凄く良くなっているとは思ったわ。

 でもね?正直どこのも性能差はドングリの背比べだとも思った。」


「はい」


「じゃあどこで決めるかなんだけど、勿論価格も大事だけれども、それ以外で+アルファがあるかどうかだと考えているの」

「+アルファですか?」


「そう!あなたにとっては今回の私の頼みがそれだと思わない?」


「なるほど・・・確かにそうですね。」


「で!どうする?」


「わかりました。確かに社長が仰られる通り期間が期間ですので、僕の独断ではお返事するのは難しいと思います。なのですぐに弊社へこのお話を持ち帰り、上の判断を仰ぎます。」


「わかったわ。ただし合宿まで1カ月もないから、返事は5日以内でお願いできるかしら?」

「はい!必ず期限までにお返事させて頂きます。」


 帰社してからすぐ上に報告したら、うまく契約が取れれば、取引額が取引額な為、役員の判断結果は5日間どころか、翌日の夕方には出張扱いとしてGOサインがでた。


 こうなるともう引っ込みがつかない。翌日には社長へ引き受けると連絡をいれたのだ。

 恩返ししたかったのは本心だし、また大きな取引がとれるかもしれない期待もあった。

 講師をやるなんて不安しかなかったが、ここは腹をくくってやるしかないと、この施設へ乗り込んできたのである。




 今更ビビってても仕方がない!


 飯食って気合いれて講師やってみるか!!














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