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29  作者: 葵 しずく
4章 錯覚
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第12話 間宮 良介 act 5 ~First date~

初めて、香坂に電話をして、深夜まで長電話した夜から、3日後の日曜日、12時15分頃

V駅前広場にて。


深呼吸をして気持ちを落ち着かせようと、集中していた間宮の背後から、背中をポンっと叩かれて、その後に聞きたかった声が聞こえた。

「こんにちわ!早いね!絶対私の方が先に着いてると思ってたんだけどな。」

初夏の爽やかな日差しと共に現れた、白を基調にしたワンピースの上にスカイブルーのカットソーを合わせて、淡いピンクの春物のセーターを腰に巻き、スラッと伸びた白い脚には、足首をストラップで巻いた、ネイティブ柄のサンダルを履いて現れた優香は、思わず見惚れる程に美しく、眩しく見えて目を細めた。

「ん?どうしたの?」

眩しそうに自分を見る間宮を見て、不可解そうな表情でそう聞いてきた。

「え?あ、いや・・・えと、こんにちわ!優香ちゃん。」

「うん!いい天気だね!」

「そうだね!えっと・・・それじゃ行こうか。」

「うん!でもその前に、聞きたい事があるんだけど・・・いい?」

「え、何?」

「折角のデートだから、私なりに頑張ってみたんだけど、その・・・この格好変じゃない?」

「え?ぜ、全然!メッチャ似合ってて・・・その、綺麗だと思うよ。って!デ、デート!?い、いや!今日は映画見て食事をするだけなんで・・」

「それを世間ではデートって言うと思うんだけど?それとも良介君は私となんて、デートと認めたくないって事なのかな?」

少し怒った表情で、俯く間宮の顔を覗き込みながらそう言った。


「ま、まさか!嫌なら誘ったりしてないって・・・・」

恥ずかしそうにそう言う間宮が可愛く見えた優香は、お姉さん口調で続けた。

「そ!それならいいんだけれどね!それと、服装褒めてくれてありがとう。良介君も格好いいよ。」


間宮はラフなシャツをインナーにして、上からサマージャケットを羽織り、パンツは所々にダメージ加工が施してあるデニムにスニーカーの出で立ちだった。


「そ、そうかな・・・ありがとう。」


いつも、出勤途中や、仕事帰りにしか会った事がなく、スーツ姿しか見た事がなかった。

だからお互いの格好を見ると、休日デートをしているんだと強く意識してしまい、何だか気恥ずかしくなった。


「それじゃいこっか!今日一日エスコートよろしくね!良介君!」

香坂は駅の方へ体を向けて、間宮に笑顔でそう言って、ゆっくり歩き出した。


「あ、うん!」


フワリと歩き出す香坂が眩しく見える。

ついに、期待と不安が入り混じった初デートが始まった。


2人は電車に乗り込み、都心を目指す。

休日の日中とゆう事もあり、車内はそれなりに混んでいたが、初めて2人が出会った時のように、香坂を壁側に立たせて、間宮が香坂の前に立って、壁に手をついて香坂のスペースを作った。


間宮の腕の中で、楽しそうに笑う香坂の表情を見ると、東が一番気を許しているのは間宮だと言うのは、強ち間違いではないのかもしれない。


目的地に到着すると、事前にネットで予約していた映画の上映時間まで、まだ時間があった為、先にランチをする事にした。


「こっちだよ。」


都心部はやはり人が多く、戸惑う香坂の手を優しく握り、目指す店まで間宮がエスコートする。


「あっ・・・」


人混みの中でエスコートする為とはいえ、さり気なく手を握った間宮は、自分の僅か後方からついてくる香坂の反応が怖くて、まともに顔が見れなかった。


「ここのクラブサンドと珈琲が凄く美味いんだ。」


「そ、そうなんだ・・・」


香坂は間宮の案内を聞く余裕がない程、繋がれた手を見つめている。


「あ、あぁ!ごめんね・・・」

香坂の視線に気付いて、間宮は慌てて掴んでいた香坂の手を離した。


「あ・・・」

手を離した瞬間、香坂が寂しそうな顔をしたような気がしたが、自意識過剰になっているだけだと、気にしないように努めた。


店内に入って、案内されたテーブルに座り、早速間宮おすすめのクラブサンドと飲み物を注文した。


「へ〜!いい雰囲気のカフェだね。

何だか凄く落ち着くよ。」

「うん。俺もこの辺に来たら良く来るんだ。落ち着き過ぎて長居してしまう時もあるんだけどね。」

「あははは!ダメじゃん!でもわかる気がする。」


カフェの落ち着ける雰囲気も手伝って、2人の会話が弾んだ。

そこにオーダーしていたクラブサンドが運ばれて来た。


同じ物を頼んだはずだが、香坂の分だけ4当分にカットされて運ばれてきたのを見て、そういえば、注文する時、間宮がスタッフに何か言ってた事を思い出す。


自分のクラブサンドを眺めている香坂に気づいた間宮は

「それ、結構なボリュームで分厚いから食べにくいかなって思って、カットしてもらったんだけど、必要なかった?」


余計な事をしてしまったかと、心配そうに見つめる間宮を見て、香坂はクスッと笑った。

「ううん!全然!ありがとう。てゆうか、良介君って女の子とのデート慣れしてるって感じがするね。」


「は?何言ってんだよ!そんなわけないじゃん!」


香坂が悪戯っぽくそう言うと、間宮は慌てて否定した。


わかってる。こんな気遣いをポイント稼ぎでやる男は、どこか白々しい空気を作る。それを必要以上にアピールする事も経験で知っている。


でも間宮にはそれが一切ない。

機嫌取りではなく、本当に相手を思いやって行動出来る優しい人なんだ。


「フフ!冗談だって!さっ!食べようかな、いただきます。」


香坂はカットされたクラブサンドを口に運ぶ。

「!! ん〜!美味しい!凄く美味しいね!」

左手を自分の頬に当てて、幸せそうな顔で、クラブサンドを絶賛する。


「だろ!ここの本当に美味いんだよ!気に入って貰えてよかった。」


ホッとした間宮も、クラブサンドに喰らいつく。

「フフフ、豪快だね!」

「ンフフ!これはガッツいた方が美味いんだよ。」


あははは!


その後も楽しくランチを続け会計を済ませカフェを後にし、メインの映画館へ向かい始めた。


「割り勘でよかったのに。」

「誘ったの俺だし、ご馳走させてよ。」

「ん、ありがとう、ご馳走様。じゃあ、映画は私に払わせてね!」


「別にいいって!言っただろ?俺が誘ったんだから。」

「私が気にするの!OK?」

「へい!へい!」


そんなやり取りをして、映画館に到着した。

丁度会場が入館可能になったところだった為、そのまま予約した席のチケットを専用端末で取り出した。


「え?あれ?お金は?」

「ん?ネットで予約した時、クレカでもう支払ってるよ。」


「もう!」

香坂はプクッと膨れた。

思わず「可愛い」と口に出しそうになり必死に堪える。


「じ、じゃあ!飲み物!あと食べ物とか!映画見てる時いるよね?」

「ん?さっきカフェで食べたし、飲んだから、俺はいらないよ。」


「む〜〜〜・・・」


悔しがる香坂の肩をポンポンと叩いて、落ち着かせてから会場へ入った。

やがて会場の照明が落ちて、予告が流れ出す。

そこで間宮は違和感に気付いた。


映画を映画館で観る時、照明が落ちると、気持ちが落ち着いて、映像に集中するのだが、今日は何だか落ち着かない。

何故だろうと考えて、スクリーンから視線を外した時、その理由に気が付いた。


隣に香坂がいるからだ。


彼女は面白そうな予告が始まると、間宮にそっと顔を近づけて、小声で口元に手を当てて、流れている映画予告について、話しかけてくる。

その度に彼女からいい香りがする。そんな彼女が可愛く思えて、ドキドキしてしまって落ち着かないのだ。


自分はこんなにドキドキしてるのに、彼女はそんな事御構い無しに無邪気に楽しんでいる。

この温度差はズルいなと、間宮は苦笑いしながら思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ウワー!さっきから話しかける度に、顔から火が出そうだよ!

真っ暗でスクリーンの明かりしかないから、バレてないよね?

が、頑張ってアピールするんだ!

少しでも自分を意識してもらえるように頑張れ!私!


香坂も必死だった。

恥ずかしい気持ちを何度も飲み込んで、間宮との距離を縮めようと努力する。

こんな事が出来るのは、今日のデートでは、暗い空間のここしかないと決めていた。


明るい場所だと、顔が茹で上がっているのが、一目で分かって無理してるのがバレてしまう。

だから、ここで近づけるだけ近くんだ!


デートする事が決まってから、どうやって彼に自分を意識してもらうか考えていた。


元々が引っ込み思案なのは自覚している。

でも、自分がそんな性格だからと、彼に甘えて理解してほしいなんて傲慢だ。


だから、だから・・・


頑張れ!私!




本編が感動のラストシーンで終わり、スタッフスクロールが流れる。

それと同時に半分くらいの客が席を立ち会場を出て行く。


これは好き好きなので、どっちが正しいとは言えないが、俺はスクロールが終わるまで、映画の余韻に浸る派だ。


エンドロールを見つめながら、この映画の真意を自分なりに探すのが好きなのだ。

感想を言い合ったりするのは、その後で十分だと思う。


今回も色々考えながら、エンドロールを最後まで眺めていた。

照明が戻り、映画の世界から一気に現実へ戻される。

いつもなら、この瞬間が寂しいと感じるのだが、今日は違った。

何故なら、エンドロールが終わり、照明が点いて明るくなっても、隣に座っている彼女が、観ていた映画の世界からまだ戻ってきていないからだ。


彼女はハンカチを鼻から口元にかけて押し当て、声を必死に殺して泣いている。


余程、映画に入り込んでいたのだろう。


そんな彼女が落ち着くのを、何も言わずに見つめながら待つ事にした。


そんな時間も悪くない。

彼女といると時間がゆっくりと、優しく流れていく気がする。


ただ、清掃員のスタッフに微笑ましく見られるのは、何だか落ち着かない・・・


待ち始めて数分後、ようやく落ち着いたらしい彼女は、ハッと我に返り慌てて隣に座っている間宮を見ると、バッチリ目が合った。


「あ、あ、あ・・・ご、ごめんなさい・・・わ、私、こうゆう映画観ちゃうと入り込み過ぎてしまうみたいで・・・」


ようやく収まった涙が、顔の充血と共にまた溢れてきた。

映画に入り込んで、流す涙は全然構わない。

でも、今流れだそうとしている涙は違う。


「何謝ってるの!大丈夫!いい映画だったな。」


間宮はそう言って、香坂の頭を優しく撫でた。

「う、うん。」

頭を撫でられ、目を大きく見開いた香坂の瞳から、溜まった涙が雫のように落ちる。


それから柔らかい笑顔を香坂に向けながら、席を立ち手を差し伸べる。


「そろそろ、出ようか。」


香坂は何も言わずに、差し出された手をそっと掴むと、ゆっくりと引き上げられて、そのまま2人で会場を後にした。


「あ、あの・・・本当にごめんね・・・わ、私って映画観るとよくこうなってしまって、一緒に観てた友達に怒られたりしてて・・・」


そこまで話すと、間宮がその話を途中で切った。


「何で謝るのかが理解出来ないんだけど?それにその友達が怒る理由もな!」


「えっ?一緒にいる子が、こんなだと恥ずかしいでしょ?」


「何が恥ずかしいんか理解出来へんわ!東京ってそんなんが普通なんか?」

間宮はつい感情的になり、無意識に関西弁が出てしまっていたが、構わず話を続ける。


「俺は誘った映画を、こんなに入り込んで楽しんでくれてるの見たら、メッチャ嬉しいし、誘って良かったって思うけどな。」


「・・・・・・・・・」


そんな風に言われたの始めてだ。

何だか無性に嬉しい。


一歩前を歩く間宮の背中が普段より大きく見える。


やっぱりそうだ。

始めて会った時に感じた気持ちは勘違いじゃなかった。


私はこの人が・・・



「うん!ありがと!良介君!」


香坂は前を歩く間宮を追い越して、振り向きざまに、今までで最高の笑顔を間宮に見せて、嬉しそうにそう言った。


そんな笑顔を不意打ちで見せられた間宮は、思わず赤面して明後日の方を見る。


本当にいちいち心臓に悪い事をする。

そして、その心臓を踊らされる度に、自分は目の前の女性に落ちていると痛感させられる。


もちろん、幸せなのだが・・・身がもたない気分だ。


映画館を出た2人は、少し休憩する為にカフェへ入った。


そこで複数で映画を観に行った醍醐味である、映画の感想を話し合った。

特に香坂は、あれ程入り込んだ映画だったから、そのトークにも熱が入り、気が付くと2時間も居座ってしまっていた。


その後、座っている事が多かったから、少し歩こうかと近くにあったモール街をブラブラと散歩する事にした。


「そういえばさ!」

「ん?」

「さっき映画観終わって出てきた時さ!良介君、関西弁だったね。」

「えっ?!マジか?!」

間宮は今更のように、手で口を塞ぐ。

「うん!気が付いてなかったんだ。」

「あ、あぁ!その・・・ごめん。」

「えっ?何で謝るの?」

「いや、だって恥ずかしいだろ?」

「意味わかんない!私、関西弁って好きだよ。何か温かい感じがするもん。」


無意識に話していた関西弁を気にして謝る間宮に、香坂は関西弁の印象をそう告げた。


「そ、そうか!なんか・・・ありがと・・・」

「何でそこでお礼なんて言うかな!フフフ、変な良介君!」


香坂はそう言ってウインドウショッピングを再開した。


こんな時だとよく分かる。


彼女は事あるごとに、一喜一憂して本当に楽しそうだった。

そんな彼女を見ていると、大した事ない事でも、楽しく感じてしまう。

それが彼女の魅力の1つで、彼女となら例えホームセンターをブラついても楽しいだろうなと思う。


そんな時間を過ごして、夕暮れ時になり、予約している店の時間が近づいてきて、夕食を食べに行こうと香坂を誘い、店に向けて移動を始めた。


到着したのは、小洒落たイタリアンレストランだった。


「へ〜!ここかぁ!何だかいい雰囲気のお店だね。」

「そう?気に入ってくれたら嬉しいけど。」

そう言って間宮は、店のドアを開いて香坂を店内にエスコートした。


事前に予約していた席に案内されて、席に着くと香坂がガラス張りになっている壁から外の景色に目を奪われた。


「うわ〜!夜景が凄く綺麗だね!」


このレストランは商業ビルの20階にあり、夜景が自慢のレストランだった。


ウエイターがオーダーをとりに近づくと、間宮は予約していたコースと、グラスワインを注文した。


「良介君!分かってるよね?」


ウエイターが席を外すと、香坂は間宮をそう牽制した。


「ん?何が?」

「今度こそ、ここは私が払う番だからね!」

今日一日、全く支払いをさせてもらえなかった香坂は、支払い時だと先を越されてばかりだった為、今回こそはと、食事を始める前に釘を刺そうとした。


「食べる前から、支払いの話とかよそうぜ。」

「その言い方ずるい!」


あははは!


「でも、本当に素敵な眺めだよね。」

「あぁ!初めてここに来た時は、おっさん4人で眺めてて、可笑しな絵面だったけどな。」

「それ!ウケる!」

楽しそうにクスクスと笑う香坂を見て、やっぱり彼女の笑顔は幸せな気持ちになるなと実感した。


そうしているウチに、コース料理が始まり、ワインで乾杯しようとお互いグラスを持った。


「えっと、その、初デ、デートに乾杯?」

「フフフ、何で疑問形なの?乾杯!」


チ〜〜ン!


ワイングラスを合わせて、綺麗な音色を響かせた。


美味しい料理に舌鼓を打ちながら、会話も弾み楽しい時間が過ぎていく。


「へ〜!良介君って一人暮らしなんだ。」

「あぁ!さっき無意識に出たけど、大阪出身で、大学からこっちに来て、そのまま就職したんだよ。」


「良介君って大阪の人だったんだね。

大学の頃の友達とね、仕事が落ち着いたら、大阪に旅行に行こうって話してるんだけど、今度おすすめスポットとか教えてよ。」


「いいよ。マニアックな観光ルート考えておくよ。」


あははは!


「一人暮らしかぁ、いいなぁ!私もしたいんだけど、お父さんが許してくれなくて・・・」


親に自由にさせて貰えない愚痴をこぼす。


「そりゃ、こんな綺麗な娘を持った親なら心配で仕方がないだろうしな。」

「えっ?き、綺麗って・・・」

不意打ちされ、顔を赤らめてもじもじし始める彼女を見て、間宮も思わず口から出た言葉に恥ずかしくなる。


「い、いや、綺麗ってのは、その・・・世間一般的な美的感覚であって・・・」


自分から言いだしておいて、照れ隠しに訳の分からない言い訳をする。


「じ、じゃあ、良介君の美的感覚で見た私は・・・どう?」


香坂はもじもじしながら、下を向いていた視線だけを間宮に向けて、そう聞いた。


その上目遣いは反則だ!と心で叫び、もう誤魔化すのは諦めて、感じたままを口にする。


「き、綺麗に決まってんじゃん。気の利いた言葉が出なくて悪いんだけどな・・・」


「ううん!ありがと、嬉しい!」

間宮の言葉に対して、素直に満面の笑みで嬉しさを表した。


そこへ最後のコースメニューのデザートが運ばれて来た。


「本日のデザートで柚子のジェラートになります。」

「ありがとう。」

デザートを出されてお礼を言う2人に、立ち去る前にウエイターが一言添えた。

「このお席だけ、何故か空調の調子が悪いようなので、溶けない内に、お早めにお召し上がり下さい。」

ニッコリと微笑みながら、そう言ってウエイターは立ち去った。


おい、ウエイターの兄ちゃんよ!上手い事言ったって思ってんだろ。

残念ながら、その一言は火に油注いだようなもんだぞ!

見ろ!彼女の茹で上がりを!

それと、俺の茹で上がりっぷりを!


もはや、蒸気でも吹き出しそうな2人は、黙ったままデザートを食べ終えて、食後のコーヒーを飲んだ。


それから少し話をして、間宮が何気に時計を見ると、21時を少し回っていた。


「もうこんな時間か。それじゃ、そろそろ出ようか。」

そう間宮が言うと、テーブルの端に置かれていた、伝票を素早く手に取った香坂は「そうだね。」と勝ち誇った顔で席から立ち上がった。


「えっ?いや、ちょっと・・・」

伝票を香坂に奪われて、焦る間宮を横目に、何も言わずにレジへ向かった。


後ろから間宮が必死に訴えていたが、それも無視して香坂が清算を済ませた。


そのまま店を出た2人は、エレベーターが来るのを待つ。


「な、なぁ!気持ちは嬉しいんだけど、やっぱりここは俺に払わせてくれよ。」

「や〜だよ!お店に入って直ぐに、ここは私が払うって言ってたでしょ?」

「そうだけど、了承してないじゃん。」


ここで呼び出していたエレベーターが到着して、扉が開き香坂は足早に乗り込む。

その後を間宮が乗り込むと、目的の階である一階のボタンを押した。


静かにエレベーターが一階へ降りて行く。

財布を持ったまま固まっている間宮の胸をトンッと叩き、「諦めなさい。」と言ってエレベーターを降りた。


ビルから本通りに出る。

「ん〜!風が気持ちいいね。」


ネオンや走り去る車のヘッドライトとブレーキランプの光、色々な色が心地よく吹く風を感じながら、体を伸ばす彼女を彩る。


沢山の人が行き交いする中でも、彼女の存在が褪せる事はなかった。

少なくとも間宮にとっては、そんな大勢の人々すら、彼女を引き立てる風景にしか見えない。


そんな香坂を見つめていると、胸を刺される感覚を覚えた。


「なにしてるの?まだ私が会計済ませたの気にしてる?」

胸を指す感覚は、香坂が人差し指で間宮の胸を指していたからだった。

「え?あ、いや、もうそれは諦めたよ、ご馳走様でした。」

「どういたしまして!それじゃ、帰ろっか。」

笑顔でそう返した彼女は、駅へ向かって歩き出す。


2人は電車に乗り込み、今日一日あった事で盛り上がっていると、あっとゆう間に、香坂が降りるV駅へ間もなく到着するとアナウンスが流れた。

「今日はありがとう、良介君!」

「俺の方こそありがとう。」

「本当はね、今日一日一緒にいるの、凄く緊張してたんだけど、凄く楽しかった。」

「俺も本当に楽しかった。」

香坂は間宮にそう言って席を立ち、間宮の返答に嬉しそうに笑って、小さく手を振ってから出口へ向かった。


間宮は香坂の背中を見て、思わず立ち上がり、降りようとする彼女に話しかけた。


「あのさ!よかったらまた会ってくれないかな・・・」


彼女に届いたか微妙なタイミングだった。

その証拠に香坂は立ち止まらずに電車を降りてドアが閉まるまで、間宮の台詞に対して反応しなかった。


香坂は間宮に背を向けたまま、天井付近を見上げている。

その間、車内にいる間宮はどうする事も出来ない。


電車が出発するアナウンスが流れ出した。

やはり聞こえなかったか・・・

半ば諦めかけて一瞬だけ香坂から視線を外して、直ぐに戻して彼女を見ると、こちらに振り返って間宮を見つめていた。


その次の瞬間、電車がゆっくりと動き出した時、強張っていた間宮の表情が一気に明るくなる。


香坂は、少し恥ずかしそうに、親指と人差し指をくっつけてOKのサインを送っていたからだ。

遠くなっていく彼女の口元の動きをよく見ると、《おやすみ、またね。》と言っているのが、間宮には分かった。



もう駄目だ。

止まらない、絶対に止まらない。

ライバルが多い?そんなの知るか!


この思いを伝えよう・・・・必ず。


今日一日隣で見てきた彼女を思い出しながら、強く決意した初デートの夜だった。


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