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29  作者: 葵 しずく
1章 最低な出会い
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第5話  背中越しの再会

 7月7日(金曜日) 期末テスト最終日


 ----------キーンコーンカーンコーン------------



 昔ながらの鐘が鳴り響き、すぐに担任が「はい!そこまで!速やかに後ろから答案用紙を集めなさい!」とテストの終わりを告げる。


 それまで殆どシャーペンが答案用紙を叩く音と問題用紙をめくる音しか聞こえなかった空間が、先生が指示を出す声が聞こえた瞬間に色々な音や声が溢れ出した。


 私も机に上半身をうつ伏せにして、ふぅ!と息を吐いた。


 すると後ろから背中を指でつんつんと突かれて

「お疲れ!志乃!」

 と声がかかり、振り向きながら

「お疲れさま!麻美」

 後ろの席にいた友達の遠藤 麻美に返事をした。

 少しウエーブをかけたボブカットの髪型に白いヘアバンドが目に付く、活発なイメージをもった女の子だ。

 1年の時に同じクラスになり、2年では離れたが、3年で同じクラスになった1年からずっと仲良くしている、友達の一人だ。


「ねぇ!どうだった?」

「う~ん こんなもんかなって感じかな?麻美は?」

「私は結構ヤバイかも……もう受験だもんねぇ、どっか塾でも探そうかな~」

「塾いくの?」


「う~ん……あっ!志乃って1年の時から塾通ってるんだよね?どんな感じ?」

「悪くないと思うよ?全然授業についていけなかった私をここまで上げてくれたからね!」


「だよね!でも志乃の塾ってO駅じゃなかったっけ?」

「そうだよ?」

「学校から家とは逆方向か」

「あぁ!そっか!そうだね。それは流石に時間かかっちゃうね」

「うん……どっか他のとこ通ってる子に聞いてみようかな」

 真剣に塾通いを検討している麻美を見て、本格的に受験なんだなと実感した。


 続けて麻美が

「それはそうと、志乃はこれからどうするの?」

「ん?どうって?」


「私これから摩耶達とカフェでランチしようって話してたんだけど、志乃もどう?」

「それいいね!うん!私も行きたい!カフェで反省会だね」

「え~!?やだよ~!もう今は勉強の事考えたくな~い」

「あはははは!」


 二人で笑って学校を出て待ち合わせしているカフェへ向かった。


 店に入ると待ち合わせしていた江里菜と摩耶が先に着いていた。

「おーい!麻美!志乃!こっち!こっち!」

 2人は瑞樹達を見つけて手をブンブン振っていた。


 ふんわりとした長い髪を綺麗に一つに結ってリボンで飾った髪型で、すこし垂れ目の大きな瞳、ほんわかした雰囲気をもった女の子が仲見 江里菜

 肩までの長さで艶がある綺麗な黒髪、切れ長な瞳、ちょっとたらこ唇で、少し大人な雰囲気をもった女の子が本庄 摩耶

 この二人も1年の時から一緒にいる大切な友達だ。


 席に近づいて四人で順に手を合わせながら

「おつかれ~!」

「おつか~!」

 などと挨拶を済ませて席に着いた。


 それぞれランチメニューを注文して、待っている間テストの出来栄えの報告会が始まった。

「ね!麻美と志乃はテストどうだった?」

 すると麻美はギクッとした様子で視線を天井に向ける。

「もう!聞かないでよ~!さっき志乃にも言ってたんだけど、今回はシャレになってないもん」

「あはははは!でも私も今回はキツかった!一問解き切るまでに時間がかかり過ぎちゃって、後半駆け足になってたもん」

 と摩耶が溜息交じりにそう言うと

「ああ!わかる!私もそんな感じだったから、後半絶対ケアレスミスしてる気がするもん!」と江里菜が苦笑いしながら話した。


 すると麻美は、楽しそうにスイーツのメニューを眺めている瑞樹の方を見て、羨ましそうな顔をした。

「その点、志乃はいいよねぇ。今回も悪くなかったんでしょ?」

 と恨めしそうに言ってきたので、苦笑いしながら、

「え?う、うん!なんとかね」


 摩耶と江里菜が続いた。

「だよね~!確か2年になってからだっけ?急に成績伸びてきて、今じゃ学年の成績順位も常に20位以内なんだもんね!肖りたいんですけど!」

「あはは!今度志乃先生に教えてもらおうよ!」


 2人からそんな無茶ぶりを喰らって、焦りながら両手をブンブンと交差させた。

「えっ?えぇ!?偉そうに教える程、賢くないってば!ここに入学して、自分がどれだけ馬鹿なのか思い知ったくらいなんだよ?」


「またまたぁ!謙遜しなくていいってば!前はそうだったかもだけど、今は違うじゃん?自慢してもいいくらいなのに~」

 と江里菜が志乃の肩をポンポンと叩いて言った。

「自慢なんて全然だってば!英語なんて昔から相変わらず苦手だもん!」

 すると摩耶が悪戯っぽく麻美の方を見ながら

「苦手科目なんて誰にでもあるっしょ!麻美なんて苦手な科目の方が多いくらいなのに~」

「うるさいな!!ほっといてよ!もうテストの話はおしまい!」

 麻美が膨れるのを見て皆で笑った。


 その空間 空気 雰囲気 

 私は楽しいと感じていた。

 この感じを取り戻したくて、私自身の事を誰も知らない学校へ入学したのだ。

 もう失いたくないから、私は私を変えたのだ。



 食事を済ませて、コーヒーを飲みながら女子トークに花を咲かせていると、摩耶のスマホが震えた。

 画面を見ると摩耶の顔が曇っていく。

「はぁ……やっとテスト終わった途端に猿モードですか」

 溜息交じりに摩耶がそう呟いた。


 すると江里菜が

「なに?前に言ってた大学生の彼氏から?」

「そう……テスト終わったのならウチに来いってさ」


 その意味は瑞樹でも理解できる。

「い、忙しいね……摩耶」

 そう一言だけモジモジしながら言った。


「ほんとそれ!こっちはテスト勉強で寝不足だっつの!パスよ!パス!猿の相手出来る程、体力余ってない!」

 そう言いながら断りの返信を送っていた。

「あははは!酷くない?」

「いいの!最近調子に乗り過ぎなんだよ!あいつ!」


 すると不意に麻美が私の顔をジッと見てきた。

「な、なに?麻美」

 麻美が口を開く。

「やっぱり志乃って可愛いよね!」


「へ?」


「顔が小さくて白い綺麗な肌、パッチリ二重の大きい瞳、スッと通った鼻に、少し小ぶりな艶のある唇、シャープな輪郭、落ち着いた茶色で痛んでない綺麗なサラサラストレートの髪、手足も長くて、スラッと細身、でも出るとこはしっかり出てて……同じ女から見ても、こんなに完璧なのに」

 いきなり瑞樹の事を褒め倒してくる。


「は?はぁ!?な、何!?いきなり!私なんて全然だし」

 いきなりの褒め殺しに、顔を赤くして俯いた。

 そのリアクションを見て麻美が続けた。

「そう!それ!そのビジュアルで顔を赤くして照れながら俯く仕草なんて見せたら、大概の男は魂抜かれてるって!絶対!」


「……悪魔みたいに言わないでよ」


 それを聞いてた摩耶が、ニヤリを笑みを浮かべる。

「あははは!ほんとそれ!でも志乃は私達と知り合った時から、ずっと男には超冷たくて時々ケンカ腰になる時もあるくらい、自分から遠ざけようとするんだもん。もはや別人だよ?勿体ないって!」

 それを聞いて頷きながら江里菜も口を開く。

「そうそう!今まで何人撃沈した男子を見てきた事か……好きな人とか、気になってる人とか、まだいないの?」

 と、あまり聞かれたくない質問してきた。


 三人共興味津々のようだ。


「う、うん そんな人いないよ」

 この言葉に嘘はない。

 今までどれだけ冷たくあしらったり、相手を怒らせたりしても、後悔した事も気にした事もない。

 変に気を持たせてしまったら、またあの時に戻ってしまうかもしれない。


 また大切な時間を失うかもしれない。


 そんなのはもう嫌なんだ!

 だから男の人を勘違いさせる事は絶対したくない!

 誰も好きになるつもりもない!


 ……でも


 ……でも


 あの時の事だけは今でも凄く後悔してる。


 何故なんだろう……どうしてなんだろう……

 今の私にはよく解らなかった。


「もし、好きな人とか出来たら、速攻で私らには報告してよね!」

 強制的にそう約束させられた。


 私が誰かを好きになる事なんてあるのかな


「さて!明日から試験休みだ!とゆわけでどっか遊びに行かない?」

 麻美が目を輝かせて、そう切り出した。


「おいおい!シャレになってない受験生がそんな事言ってていいのかなぁ?」

 ニヤニヤした顔をして、摩耶が揶揄うように返す。

「うわ~!それを言わないでってば!」

「あははははは!」

 三人で笑った。


 麻美は負けじと反論する。

「受験生にも息抜きは必要じゃん!夏なんだし、どっかいこうよ!ね!志乃!」


「……うん、行きたいんだけど、終業式の翌日からゼミの勉強合宿があって、明日から色々と準備しないとなんだ」

 三人一斉に「え~~~~!?」とブーイングがおきた。


「ほんとごめんね!合宿から帰ったら、また誘って!」


「そっか~、成績がいい志乃がそれだけ頑張ってるんだから、私らはもっと頑張らないとだね!」

「だね!」

「よし!私達も頑張ろうよ!」


 どうにかブーイングが納まったので、瑞樹がこの話題を締めるように。

「うん!皆でがんばろ!」と小さな拳をあげた。


「でも夏休みに入ったら誘うから、その時は遊ぼうね!」

「あははは!うん!わかった」


 そんなこんなでランチタイムは終わり、店を出て駅へ向かう。

 下り線で帰るのは私だけなので、改札を抜けた所で皆と別れて、ホームへ向かった。

 電車を待ちながらベンチに座って考えていた。


 そういえば今日は七夕だったな。

 彦星と織姫が一年に一度会える日


 織姫がこんな生意気で可愛くない私みたいな女だったら、彦星様は会ってくれるのかな。

 なんて乙女チックな自虐が入った妄想をしていたら、テスト勉強で寝不足だったせいか、ウトウトと居眠りをしてしまっていた。


 意識が途切れそうになった時


 ギシ!


 裏の背中合わせになっているベンチに誰か座った。

 ……声が聞こえる

 、

 (……電話中っぽいな)


「もしもし、天谷社長!間宮です。いつもお世話になっています。

 あの社長!例の件ですが、会社からOKが出たので、お引き受けさせて頂きます。

 はい、はい、わかりました。では18時にそちらにお邪魔させて頂きますので、詳しい事はその時にお願いします。失礼致します。」


 (仕事の電話かな……社会人も大変だな……

 でも何かいい声だったな、優しい低い声、耳に気持ちよく響いた

 ……心地よかった)


 そこで意識が切れた。


 しばらくして駅のアナウンスが流れて目を覚ました。

 時計を見ると、どうやらウトウトしていたら、電車一本乗り過ごしてしまったらしい。

 背中越しに聞こえた心地いい声の持ち主もいなくなっていた。




 《今日は七夕 彦星と織姫が会える日 その日、生意気で可愛くない織姫とそれなりに生きてきた彦星が気付かずに、背中越しに再会した日であった》


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