第1話 感謝の気持ち
岸田宛に送る事のない手紙を書いた日から、2日が過ぎた9月25日。
「お仕事お疲れ様です!」
間宮の勤めている会社のロビーから出てきた松崎にそう声がかかった。
あまり聞き覚えのない女性の声に驚いて、声をかけられた方に顔を向けると、そこには学校帰りの服装姿の加藤が立っていた。
「えと・・・確か、愛菜ちゃんだったよね?」
「はい!」
「どうしたの?あ!間宮待ち?あいつならもう帰ったはずだけど?」
「いえいえ!今日は松崎さんを待っていたんですよ!」
「俺を?何で?」
不思議そうな表情を浮かべながら、松崎は自分に指を差しながらそう聞いた。
「はい!お礼がしたいなと思って!」
「お礼?俺に?」
加藤は瑞樹から中学のクラスメイトが自宅まで謝りに来た事を聞いていた。
その事態が起こったのは、松崎が平田に当時の同学年全員に瑞樹は無実な事と、脅すような真似をして瑞樹を孤立させた事を謝罪させた事も・・・
だから、その松崎に親友を助けてくれたお礼がしたくて、待っていた事を説明した。
「いや、礼なんてされる事してないって!逆に謝らないといけない位なのに・・・」
松崎と平田は親の再婚同士の連れ子で、血は繋がっていない義理の弟だった。
「馬鹿な弟のせいで、瑞樹ちゃんはもちろんだけど、愛菜ちゃん達にも怖い思いさせてしまって、本当に申し訳ない!」
そう言って自分の会社の前で、女子高生に深く頭を下げる姿は、周りから見ると異様な光景だった。
「え?あ、ちょっと!謝らないで下さい!松崎さんに感謝はしているけど、怒ってる人なんていませんから!」
慌てて頭を下げる松崎に、両手をバタつかせながら、今回の事に関わった人人間全員の創意だと主張しながらそう言った。
「いや、でもさ・・・」
「とにかく!今日はお礼をしにきたので、謝られると困るんですよ!」
「う、うん、わかった・・・で?お礼ってどうするんだ?」
「松崎さんってもうご飯食べました?」
「え?いや、まだだけど?」
「よかった!それじゃ!夕食ご馳走させて下さい!いきましょう!」
そう言って半ば強引に松崎を食事に連れ出した。
会社があるO駅を出てまっすぐにW駅を目指した。
改札を出たところで、松崎がキョロキョロしながら、加藤に目的地を聞いた。
「なぁ、飯なら近場でよかったんだけど、ここに何かあるの?」
「松崎さんにとびきり美味しいハンバーグをご馳走しようと思いまして。」
「へぇ、ハンバーグか。」
ハンバーグってのが子供らしいなと、心の中でほくそ笑んだ。店に到着するまでは・・・
「え?この店なのか・・・?」
「はい!そうですよ!」
到着したのは、やたらと高級感漂う店構えのVerdunだった。
高校生がご馳走する店なのだから、もっと庶民的な店を想像していた松崎は、思わず身構えてさっさと店に入ろうとする加藤を呼び止めた。
「な、なあ、こんな高そうな店じゃなくていいって!その辺りのファミレスに行こうよ。」
どこかで聞いた事のある台詞だなと思った加藤は、松崎の提案を無視して重厚な扉を開けて振り返った。
「遠慮なんてしなくても大丈夫ですよ!さ!入りましょう。」
「お、おい!」
加藤はそう言って、松崎を店内へ案内した。
店内へ入ると、これまた高級店をらしく、しっかりと教育を受けたホールスタッフが、2人を迎えた。
「いらっしゃいませ。ようこそ、Verdunへ。」
スタッフの1人が接客にあたる。そのスタッフに加藤が近づいて何やら話を始めた。
「西野さん、こんばんわ。えと、結衣から聞いていると思うんですけど・・・」
「はい、お嬢様から伺っております。どうぞこちらへ。」
ホールのチーフを担当している西野が、加藤達を席へ案内する。
席へ案内されて座った松崎は店内をキョロキョロと見渡していた。
「もう、いい大人がみっともないですよ。」
「いや、だって・・・まさかこんな店に連れてこられるなんて思いもしなかったからさ・・・」
どう考えても不自然だった。心地よいクラシックが流れて、すごく落ち着いた雰囲気の店に、高校生が制服を来て席に座っているのだ。
そんな事を考えていると、西野がミネラルウォーターとメニューを運んできた。
メニューを軽く覗き込んだ松崎は、「えっ!?」と思わず驚きの声を漏らす。
値段がとても高校生が払える額ではなかった。
加藤はメニューを開かずに、西野に注文を始めた。
「お願いしていたコースと、ビールを1つと烏龍茶お願いします。」
「かしこまりました。」
注文を受けて西野は厨房へ姿を消した。
「な、なぁ・・・」
「はい?」
「ここ俺が払うから、無理しないでくれよ。」
「え?何言ってるんですか?そんな事させたら、ここへ来た意味がないじゃないですか。」
「だって、高校生がポンっと払える額じゃないだろ。そんな無理させるわけにはいかないって!」
「心配しないでください。あの文化祭で私と一緒に志乃を守ろうとした女の子がいるんですけど、このお店ってその子のお父さんが経営しているお店なんですよ。」
「マジか!?」
「マジ!マジです!それでその子が店に口を聞いてくれて、高校生の私でも問題なく払える金額で提供してくれるようにしてくれたんです。」
「そうなのか・・・それなら折角だしご馳走になろうかな。」
「はい!お金の事は心配いらないので、たくさん食べてくださいね。」
説明を終えた加藤はニッコリと笑顔を松崎に向けた。
暫く談笑していると料理が運ばれてきた。
一目見ただけで分かる程、美味しそうなハンバーグや付け足しのサラダとパン、それにスープが並ぶと松崎は目を輝かせた。
「これはマジで美味そうだ。」
「美味そうじゃなくて、本当に美味しいですよ。」
「はは!そうだな。それじゃいただこうかな!」
そう言って2人はビールと烏龍茶が入ったグラスを合わせた。
「これは確かに美味いな!肉汁が半端ないじゃん!」
「でしょ!私も始めて食べた時、感動しちゃいましたもん!」
元々明るく、人当たりの良い加藤は、松崎の申し訳ないといった空気を、すぐに壊して、皆で守ろうとした瑞樹の事、そして間宮と自分達の関係や経緯の話で盛り上がり、食事を楽しんだ。
食事が終わり、会計を済ませようと加藤が財布を取り出したが、その行動より一瞬早く、松崎が代金を支払った。
「え?何やってるんですか!」
「愛菜ちゃんさ、世間体って言葉知ってる?こんな人目につく場所で、いい年した大人が女子高生に支払いをさせてるって絵面はさすがにマズイんだよ。」
だからここは自分が支払って、店を出てから金を受け取るからと言い聞かせ、食事代の支払いが終わって2人は店を出た。
駅前まで戻ってから、加藤はさっきの代金を松崎に支払おうとしたが、その金を押し戻された。
「ちょっと!話が違うじゃないですか!今日は私がお礼の為に、ご飯をご馳走するって言いましたよね?」
そう責める様な眼差しを松崎に向けて言った。
「その気持ちだけで十分なんだって!それに義弟の事をずっと気にしていて、正直参ってた所があったんだけど、愛菜ちゃんのおかげで気分も晴れたんだ。だからここは俺がお礼しないといけないくらいだから、今回は譲ってよ。」
「・・・・・・・・わかりました・・・それじゃ・・・ありがとうございました。おやすみなさい・・・」
加藤はそう言って、松崎の言葉を待たずに一方的に走り去ってしまった。
走り去り際、加藤の横顔は怒っているとゆうより、寂しそうな表情に松崎には見えた。
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9月30日
瑞樹はこの日、昼過ぎからこの前の文化祭で助けてもらった加藤達を自宅へ招き、夕食をご馳走する準備に追われていた。
「お姉ちゃん!このお皿はどうしたらいいの?」
「それは、今作ってる料理に使うからそこに置いておいて。」
その食事会に参加する希も積極的に手伝おとしたが、なにせ料理なんて殆どした事がない為、食器関係の準備しか出来ないのだが、姉の指示に的確に行動して動いていた。
「てか、私、希にもお礼しようとしてるんだから、手伝う必要ないんだよ?」
「いいの!だって愛菜さん達とお泊まり会なんて楽しみ過ぎるんだもん!」
今日は丁度両親揃って出張で家を空ける事になっていた為、お泊まり会の話をすると、その方が安心だと賛成してくれていた。
テーブルに予定していた料理が並んでいるのを眺めて、瑞樹は満足そうに頷いた。
「よし!こんなもんかな!」
ピンポ~ン♫
「来た!」
そう言ってインターフォンで確認するのをすっ飛ばして、希は一目散に玄関へ駆けていった。
「いらっしゃい!皆さん!」
「おぉ!希!一週間ぶりだね!」
そう挨拶を交わして、2人は大げさに抱き合う。
「どんだけ仲いいのよ・・・アンタ達は・・・」
あははははは!
賑やかな笑い声が響いてくる。
その声を聞いただけで、瑞樹の心が弾む。
よし!今日は頑張っておもてなしするぞ!
気合を入れて、リビングへ入ってきた加藤達を迎えた。
「いらっしゃい!」
「志乃!おじゃまします!これ手土産ね。」
「そんな気を使わなくていいのに。」
申し訳なさそうにそう言うと、加藤は首を横に振った。
「気なんか使ってないよ。だってこれ、希が食べたいって頼まれてたやつだもん。」
ギクッ!!
「希!!」
「はぁい!ごめんなさ~い!」
急に標的になった希は、慌てて加藤の後ろへ回り込んで、瑞樹の雷をかわした。
最後に落ち着かない様子で、佐竹がリビングへ入ってきた。
「佐竹君、いらっしゃい。」
笑顔で佐竹を迎える瑞樹を、アタフタしながら視線を外した。
「お、おじゃまします・・・あの、僕まで来てしまってよかったのかな・・・」
「え?もちろんだよ。佐竹君にも本当に感謝してるんだよ。」
「そ、そうか・・・何か・・ごめん。」
「何で謝るかなぁ・・・あ!でもお泊まり会はちょっとアレなんだけどね・・」
「そんなの当たり前じゃん!そこに参加したら、緊張しすぎて胃に穴が空くって!」
「あははは!そうかもね!じゃあ、早速食べようよ!皆座ってね。」
瑞樹が食事を始めると声をかけて、招待された加藤、神山、佐竹が横並びに座って、その向かい側に瑞樹と希が座った。
「それじゃ、主催者のお姉ちゃん!挨拶ヨロピク!」
「あ!そっか、そっか!そうだよね。」
挨拶を希に振られて、忘れていたように、慌てて席から立ち上がった。
「えと、今回の文化祭での事ってゆうか、昔からあったトラウマを皆が助けてくれたおかげで、解消する事が出来ました。ホントはずっとこのトラウマと付き合っていくしかないって諦めていたから・・・・嬉しかった・・・私に明るい未来をくれて本当に・・・ありがとうございました・・・」
瑞樹は話しながら、文化祭時の校舎裏で、皆が体を張って自分を守ろうとしてくれた事が、頭の中で巡り思わずまた涙が溢れて、最後の方は掠れた声になっていた。
「そんな辛気臭い挨拶はいりませ~ん!私もうお腹ペコペコなんですけど!」
食卓の雰囲気がしんみりするのを嫌った希は、そう言って茶化してみせた。
「あ、ごめん!そうだよね。私なりに頑張って作った料理なんだけど、よかったらたくさん食べてね。」
気を取り直して、そう言いながら瑞樹は椅子に座った。
それを見て、希は手を合わせた。
「それじゃ、いただきます!」
「いただきます!」
それに合わせて、皆も一斉に食事を始めた。
「うわ!美味しい!」
「このローストビーフも自家製ってマジ!?メチャ美味いんだけど!」
「盛りつけもいちいち綺麗で、お店みたいだよ!」
「でしょ!ウチのお姉ちゃんは、すぐにでもお嫁さんに出せるよ!」
「ア、アンタ何言ってんよ!でも喜んでくれてるみたいでよかった。」
美味しそうに食べてくれている皆の顔を見て、瑞樹は安堵して自分も食事を始めた。
皆で写真を取ったりして暫く談笑しながら、食事をしていると文化祭でのお礼で集まっているのに、主要人物がいない事を、今更のように加藤が話しだした。
「今更なんだけど、間宮さんと松崎さんは招待してなかったの?」
この場にいない間宮と松崎の事を不思議そうに加藤は瑞樹に聞いた。
「あ、うん・・・もちろん誘ったんだけど、間宮さんはウチのゼミの新しいシステムの導入が本格的に始まって、どうしても時間がとれないらしくて、松崎さんも同様に仕事が片付きそうにないからって断られちゃった・・・」
そう説明した瑞樹は少ししょんぼりして俯いてしまった。
これはマズイ事を聞いてしまったと気が付いた加藤は、いつもの調子で場を盛り上げようと積極的に動いた。
そんな楽しい雰囲気に瑞樹も癒されたようで、終始盛り上がった食事会になった。
ここからは女性陣のお楽しみタイムとゆう事で、佐竹は帰宅の準備を始める。
そんな佐竹に瑞樹は申し訳なさそうに声をかける。
「あの、佐竹君・・・なんだか追い出すみたいになってごめんね。」
「え?あぁ!いいよいいよ!元々その予定だったんだし、流石にこれ以上この場に男がいるのはマズイしね。」
謝る瑞樹に慌ててそう言って、支度を終えた。
「そうだ!そうだ!志乃の手料理を堪能出来たんだから、アンタは帰って大人しく寝てなさいってば!」
悪乗りした加藤が、佐竹にさっさと帰れとゆうような口調でそう言った。
「ひ、ひでえな・・・」
「コラ!愛菜!何で佐竹君にはそんな事ばかり言うの!折角、受験勉強で忙しいのに、時間を作って来てくれたのに!佐竹君に謝りなさい!」
まるで母親のような口調で加藤を叱った。
「はい・・・・すまんな・・・・」
調子に乗ってしまって瑞樹に叱られた加藤は、素直に非を認めたが、謝り方が雑だった為、瑞樹がやり直しをさせようとしたが、その前に階段を駆け足で登って行き、瑞樹の部屋へ逃げ込んでしまった。
「ご、ごめんね。愛菜には後でキツく言っておくから・・・」
そう言って加藤の変わりに瑞樹が謝った。
「い、いや!気にしてないよ。加藤があんなのは昔からだしね・・・はは」
苦笑いしながら、佐竹は瑞樹が見送る中、1人で帰っていった。
佐竹を見送った後、瑞樹はプンスカと怒りながら、皆が集まっている自分の部屋のドアを開けた。
「愛菜!何で佐竹君にあんな事言ったのよ!」
瑞樹は佐竹に対しての態度に怒り口調で、問いただした。
それを聞いた加藤は、拗ねた表情でそっぽを向いてボソボソと話しだした。
「だって・・・あいつ絶対志乃の事諦められてなんていないんだもん・・・」
「そ、そんな事ないと思うけど・・・」
加藤にそう告げられた瑞樹は、少し動揺しながら否定した。
「いや、多分そうでしょ!お姉ちゃんは鈍過ぎるんだよ。」
加藤の主張に賛同するように希が、その会話に入ってきた。
「だよね!前々からそう感じてたんだけど、今日の食事会で確信したもん。あいつは絶対、まだ志乃の事が好きだって。」
「・・・・・・・・・・」
瑞樹は言葉を失ってしまった。
もし加藤達の事が正しければ、佐竹に対して酷い事をしてるんじゃないかと考えてしまったからだ・・・
「でもさ、平田達とやりあった時、愛菜が襲われそうになったのを、佐竹君体を張って守ってくれたじゃん。」
そんな空気の中、静観していた神山が加藤達の見解を否定した。
「そ、それは・・・・」
加藤が言葉を続けられなくなった。
「中々出来る事じゃないと思うな。特に佐竹君みたいな大人しい男子なら尚更ね。」
「・・・・・・わかった・・・ごめん・・・近いうちにちゃんと謝るよ・・・」
「うん!そうした方がいいよ。」
素直に自分の非を認めて、後日佐竹に謝罪すると約束して、神山に謝った。
そんなやり取りを見て、瑞樹も少し感情的になっていた事に気づき、加藤の隣に座り手を握った。
「ごめん、私もキツい言い方したね・・・・ごめんね、愛菜。」
握られた手の上から、反対側の手を乗せた加藤は首を横に振った。
「ううん、私が悪いんだもん。志乃が怒るのも当然だよ。空気悪くしちゃってごめんね。」
そこでようやく空気が和らいだのだが、加藤の不満は続いた。
「でもな~確かにあの時助けに来てくれたけど、もうちょっと格好よく出来なかったかな・・・盾になって一方的に蹴られただけだったし!」
「それはしょうがないでしょ!多勢に無勢って状況だったわけだったしさ!」
佐竹の無様さを嘆く加藤だったが、すぐに神山が佐竹を庇った。
「でもさ!多勢に無勢って、間宮さん達があいつらをやっつけてくれたんでしょ?しかも松崎さんは加勢してないって聞いたよ?てことは間宮さん1人であいつらをやっつけたって事でしょ?」
「そ、それは・・・間宮さんが普通じゃないってだけだよ・・・」
佐竹を庇う神山の意見をそう否定されたら、神山も苦笑いで言葉を濁すしかなかった。
「やっぱりあの時、間宮さん達にも迷惑かけちゃってたんだね・・・」
ギクッ!!??
つい佐竹の愚痴つながりで、思わずあの騒動を解決した張本人の事に触れてしまった事を後から気がついて、加藤と神山、そして希の体が凍りついた。
瑞樹達が打ち上げに向かった後、間宮が戻ってきた時に簡単にだが平田達の件は解決したと聞いたのだが、その時に瑞樹が気にするからこの事は内密にしてくれと言われていたのだ。
「あ、いや!違くて・・・その・・・」
加藤達が言葉を詰まらせていると、神妙な顔つきの瑞樹が、割り込むように話しだした。
「いいの・・・あの夜に間宮さんに会った時、妙に埃っぽかったし、あちこち傷とか負っていたから、そうなのかなって思ってたし・・・」
辛そうな表情を浮かべる瑞樹に、加藤は意を決して本当の事を話しだした。
「志乃!ごめん!間宮さんを巻き込んだのは私なんだよ。」
「え?」
「私が間宮さんに文化祭の日、志乃のボディーガードを頼んだんだ。あ!でもでも!志乃のトラウマの事は言ってないんだよ!誓って、絶対に言ってないから!」
加藤は少し泣きそうな表情で、そう瑞樹に訴えた。
少し沈黙が流れたが、すぐにその空気を切ったのは瑞樹だった。
「うん。わかってるよ。でもあの夜に昔の事を間宮さんに全部話したんだ・・・」
「そっか、そうだったんだ・・・」
また部屋に沈黙が戻った・・・だが、嫌な沈黙ではない。
ここにいる全員がお互いにこれまでやってきた道のりを思い出していた。
その時、瑞樹が食事の時に撮った画像を間宮に送っているのを見た希は、急に立ち上がった。
「あぁ!そうだ!忘れてた!」
そんな優しい空気を突然壊した。
「な、なに!?どうしたの希?」
加藤が驚いてそう言うと、全員の視線が希に集まった。
「あの日の夜の事、何にも聞いてないですよね?」
「あの日の夜の事って?」
希の問いかけに首をかしげる神山。
「だ~か~ら~!お姉ちゃんが間宮さんの部屋に泊まりした詳細ですよ!」
!!!!!!!
希の号令のような言葉に加藤と神山がハッとした表情に変わり、一斉に瑞樹に視線が集まった。
ギクッ!!??
「え?あれ?えと・・・」
3人の圧に押されるように、後ずさりして部屋から逃げようとしたが、希に先回りされて、出口が塞がれた。
「ちょ、ちょっと!希・・・」
「ふふん!逃がさないよ・・・体を張った私達は聞く権利があるのだよ・・・」
退路を絶たれた瑞樹に加藤がジワジワと近づく・・
「そういえばあの日の翌日から、雰囲気変わったよね。すごくご機嫌だったし?ついに大人の階段登ったか?ほれ!白状せい!」
「の、登ってない!登ってない!ほんとに何もなかったよ・・・」
加藤の尋問内容を否定したが、すぐ後方から肩を掴んできた希が追い打ちをかけてくる。
「嘘だね・・・男の部屋に二人きりで一晩一緒だったんだよ?何もないわけないじゃん!」
希が悪魔のような声色でそう言うと、悪乗りした神山も続いた。
「そうだよね・・・私の中では志乃が間宮さんを襲ったまであると睨んでるんだけど?」
「はぁ!?そ、そんな恥ずかしい事するわけないじゃない!ちょっと、ほんとにこの話は終わりにしない?ね?」
苦笑いをしながら話を終わらせようとしたが、それは無理な提案だと全否定されて、尋問は夜遅くまで続いた。
こんな賑やかな夜は久しぶりだ。
平田の件で無理に元気に振舞っていた日々とは違い、
こんなに素直に笑ったのは、あの合宿以来かもしれない。
やっぱり、最高の仲間を手に入れたんだ!
絶対大切にしたいと仲間の笑顔を眺めて、そう誓った夜だった。




