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29  作者: 葵 しずく
3章 過去との決別
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第27話 届く事のない手紙

 ーー本日の授業終了★今から帰るねO(≧▽≦)Oーー

「送信っと!」

「えへへ」

 lineのメッセが送られた事を確認して、スマホを鞄に仕舞って、足取り軽やかに駅へ向かう瑞樹はご機嫌だった。


 あの平田達が乗り込んできた文化祭、そして間宮の部屋で自分の過去を曝け出して泣いた夜から5日が過ぎた。学校も文化祭が終わり通常運転に戻ったが、1人だけ未だにお祭り状態の娘がここにいた。


 あの夜まで、身体中に纏わり付いていた影みたいな物が確かにあった。

 その影は本当の自分を隠している存在だった。

 隠して、周りの男達を拒絶する事で、自分を守ってきた。

 もうあんな事には二度と巻き込まれたくはない。その思いだけで約3年間貫いてきたのだ。

 その為に色々な事を犠牲にしてきた。心苦しい事もあった。

 息苦しくて眠れない夜もたくさんあった。


 でも、いままでやってきた事は、結局逃げていただけだったんだと、このままじゃいつまでも解決する事はないんだと、自分の側にいてくれる仲間達が教えてくれた。

 そしてその影を脱ぎ払う勇気をくれたのは、いつも優しい笑顔で見守ってくれた間宮だ。


 そもそも彼が自分の前に現れなかったら、間違いなくこんなに浮かれた自分はいなかっただろう。あの悪夢のような出来事を、過去のものになんて出来ていなかった。

 今の私は彼から見て、可愛いだろうか?それとも以前の影がある私の方が好みなんだろうか・・・・

 そんな事を考えられるようになったのは、自分を表に出す事が出来たからで、そんな自分を好きになった。

 自分を好きじゃないと、人に好きになってもらえない。

 好かれる事から逃げていた自分が、そう思えるようになった事は、自分の中では大事件と言ってもいい。


 メッセを送ってから少し経って間宮からレスが送られてきた。


 ーーーおつかれ!気をつけて帰れよ。俺は遅くなりそうだ・・・ーーー


 すかさず、返事を間宮に送る。


 ーーーうん!帰ってまた勉強だ!頑張ろう(≧∇≦)/間宮さんもお仕事頑張ってねO(≧▽≦)Oーーー


 くふふふふ・・・・


 あの日以来、以前は緊張して中々lineを送る事も出来なかった瑞樹が、朝起きてから、夜眠る時まで、細かくマメに間宮へlineを送っている。

 一度枷が外れると、中身はバカップルのそれであった事に、瑞樹は気が付いていないようだ。


 間宮の方からは用事がない限り送ってくる事はなかったが、瑞樹からの何てことのないメールでも、タイムラグはあるが必ずレスが届く。

 それだけで今の瑞樹にとっては十分に幸せだった。


 幸せに浸りながら、スマホを握り締めて悶えている瑞樹の後方で、若干引き気味に眺めている女子達がその様子を眺めていた。


「お~い!志乃~!!」

 ニヤニヤしている瑞樹の後方から、呼び止める声が聞こえて、振り向くとそこには、遠藤麻美、仲見江里菜、本庄摩耶の3人が苦笑いしながら、瑞樹に近づいてきていた。

「あ!麻美、江里菜、摩耶!」

 満面の笑顔で3人が追いつくのを待った。

「うお!ま、眩しい!!」

「サングラスがないとキツイな!これは!」

「全く!何があったんだか・・・」

 眩しすぎる瑞樹の笑顔をそう誂いながら、4人は合流した。


「あのさぁ!幸せ絶頂なのはいいんだけどさ・・・道端で悶えるのはマズイっしょ!キモいってば!」

「キ、キモいって酷くない?」

 麻美は瑞樹の肩に手を置いて、ため息混じりに道端で悶えるのはマズいと忠告した。

「さあ!ここで会ったが100年目!今日ってゼミの日じゃないよね?今から私達に付き合って貰おうか!」

 摩耶は瑞樹の肩を逃げられないように組んで、連行しようとする。

 すかさず反対側を江里菜が、そして後ろから背中を麻美が押し出した。


「え?ちょっと!な、なに?なに?」

 焦る瑞樹をニヤリと笑みを浮かべる3人組。

「決まっておろう!これからカフェで取り調べじゃ!」

「さ!行こうぞ!皆の者!」

「お~!!!」

「え?嘘でしょ?私、帰って勉強しないとだし・・・」

「今日は諦めて、明日から頑張りたまえ!」

「え~~~~!?!?!?」

 3人組の取調官に強引にカフェで根掘りお葉掘り取調を受ける事になってしまった。

 もちろん、その事も間宮にlineを忘れずに・・・


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 取り調べから8日程過ぎたある日


 いつものように、間宮にこれから帰宅するとlineを送って、帰宅する為に駅へ向かった。今晩は母親の帰宅が早い日で、夕食を作る必要がない為に、途中で書店に寄って、以前から欲しかった参考書を買い、荷物が重くなったから急いで帰宅しようとA駅へ到着して駐輪所へ向かった。

 重かった荷物をカゴに乗せて、真っ赤な夕暮れの中、快適に自転車を走らせた。

 何度も往復した道、何度も見てきた景色なのに、あの日からまるで別世界の様に瑞樹の目には写っていた。

 それだけではない、食べ物が美味しく感じたり、何だか肌の調子もいい。

 辛いはずの受験勉強さえも楽しく思える。

 まさに、今の瑞樹は無敵の絶好調だった。


 自宅へ到着して、ガレージに自転車を止めて、荷物を両手でしっかり持ち、自宅の玄関を開けようとした時、


「し、し・・・の・・・瑞樹さん。」


 ピクッ


 玄関のノブに伸ばした手が止まった。

 ここ最近聞いた声ではない。でも知らない声でもない。

 思い出しくない、忘れたかった声・・・でも忘られなかった声。

 最後にこの声で言われた言葉を、今でもはっきり覚えている。


『ごめんね、志乃・・・こうしないと私も・・・ほんとごめん・・・私も志乃を無視なんてしたくないから、もうこっちを振り向かないで欲しい・・・』


 この台詞を思い出した途端、手が肩が、体が震えだした。

 もうこの声は自分には恐怖でしかない瑞樹は、呼び止められた事を無視して、自宅へ逃げようと、掴みかけていたノブを握って玄関を開けた。


「ま、待って!お願い!」


 またあの声で呼び止められた。体が条件反射を起こし、逃げ込もうとした足が再び止まった。

 怯える子犬の表情になった瑞樹は、恐る恐るゆっくりと呼び止められる声がした方を見た。


「さ・・・おり・・・」


 振り返った先には、中学時代、瑞樹と一番仲の良かった眞鍋沙織と、当時のクラスメイト6人が希と同じ上野高校の制服に身を包んで立っていた。


 今更、自分になんの用があるのか、理解出来ない瑞樹の顔から困惑の色が隠せない。


「な、なに?」


 視線を外して俯き、掠れる、今にも消えそうな細い声で、一言だけそう言った。


「ご・・・・ごめん!し・・・瑞樹さん!」


 先頭に立っていた眞鍋は、突然瑞樹にそう謝罪して、深く頭を下げた。


 家の前をたまたま通りかかった通行人が、何事だと言わんばかりの顔をして通り過ぎていく。

 そんな通行人の視線が全く気にならない程に、瑞樹は突然の謝罪に驚いていた。


「え?」


 困惑する瑞樹に頭を下げていた眞鍋が顔を上げて、瑞樹と視線を合わせた。

「あの時、あんな態度をとってごめん。本当はクラス全員あんな噂なんて、誰も信じてなんかいなかった。でも・・・平田に目をつけられるのが怖くて・・・し、瑞樹さんを裏切ったの・・・」


 眞鍋がそう瑞樹に当時のクラス全員の心境を説明すると、他のクラスメイト達が、眞鍋と同じ場所まで前に出てきた。それから全員目線を合わせてから、瑞樹に視線を戻した。


「瑞樹!ごめん!本当にごめん!」


 7人は一斉に深く、本当に深く頭を下げて瑞樹に謝罪した。


 その光景を見て、瑞樹は体の力が抜け、持っていた荷物が手から離れ地面に落としてしまい、瑞樹本人も足から崩れ落ちるように、その場にしゃがみこんでしまった。

「ど、どうして・・・・今になってそんな事・・・」

 瑞樹がそう疑問に思うのも当然だ。あれから3年近く経った今になって謝罪に来たのだから。

 そんな瑞樹の言葉を聞いて、眞鍋が頭を下げたまま話しだした。

「本当はもっと早くに謝りたかった。でも、瑞樹さんは私達の顔なんて見たくないだろうって考えたら、動けなくなってて・・・・」

 そこまで眞鍋が話すと、他のクラスメイトが話を続けた。

「そんな時に、平田がウチに来たんだ。あの時の噂は、自分の狂言だったって。無理矢理あんな事をさせて悪かったって謝罪してきたんだ。」


 それを聞いて自分の耳を疑った。だってあの文化祭の時、立ち去る間際にこれで終わったと思うなと言われたのだから・・・

「ひ、平田君が・・・」


「ああ!今、当時のクラスメイト全員に謝罪して回ってるらしいんだ。」

 益々理解が追いつかない。確かに加藤からもう心配しなくていいとは聞いていたが、具体的な説明がなくて半信半疑だった。

 だが、次に真鍋が発した言葉で、色んな事が繋がる事になる。


「謝りに来た平田が、凄い怪我していて、顔も腫れ上がって最初誰か解らない位だったの。謝った後も、足を引きずりながら帰っていったんだ。」


 それを聞いて、ようやく間宮のガーゼが繋がった。

 恐らく、学校を立ち去った平田達を間宮が・・・・


「そっか、そうだったんだ・・・・もう無茶ばっかりするんだから・・・あの人は・・・」


 間宮の行動が繋がった瑞樹は、僅かに笑みを作って立ち上がった。

 そして、頭を下げ続けている真鍋達の前に立った。


「顔を上げて・・・」


 瑞樹が真鍋達にそう声をかけた。

 そう言われて眞鍋達は、ゆっくり顔を上げて目の前にいる瑞樹を見つめた。


「あの時は、寂しかったし、辛かった。でも、あの噂を誰も信じてなかった事が分かったし、皆も私の為に苦しんでいたのも分かった。」

 そう言うと一呼吸おき7人を見渡してから、

「だから、もういいよ。謝りに来てくれてありがとうね。」

 静かに涙を流しながらも、笑顔を眞鍋達に向けて、謝罪を受け入れた。


「みず・・・・・志乃!!!」


 その涙と笑顔を見せられて、我慢していた。もうそう呼ぶ資格がないと諦めていた瑞樹の名前を呼び捨てながら、眞鍋は瑞樹に抱きついた。


「えっ・・・えぐっ・・ごめんね・・・本当にごめんなさい・・・志乃・・・ごめんなさい・・」


 抱きついて、瑞樹の耳元で泣きながら、何度も、何度も謝った。


「うん。大丈夫!もういいよ。私こそ逃げるように違う学校へ進学してしまったから、沙織達を苦しめてしまってたんだね・・・ごめんね・・・」

 そう言った瑞樹は、眞鍋の頭を優しく撫でて、流した涙をそのままに微笑んだ。

 そんな2人を他の6人は取り囲む様に座り込み、2人の肩を抱いて声を殺して涙を流した。


「・・・・・・・よかったね、お姉ちゃん。本当によかった・・・」

 玄関先での瑞樹達を、部屋の窓から見ていた希は、嬉しそうに瞳を閉じて涙を流した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その夜、食事と入浴を終えて部屋に戻った瑞樹は、机に置いてあったスマホが目に入り、間宮に平田達との事で、お礼を言う為に電話しようとスマホを手に取り、間宮のアドレスを立ち上げたが、そこまでで電話するのをやめて、再び机にスマホを置いて、首にかけていたバスタオルで髪を拭きだした。


 バスタオルに包まれながら、瑞樹はこう考えた。

 恐らく、自分に当日の事を何も話さないのは、私に気を使わせない為、責任を感じさせない為なのだろう。だったら、あの時間宮がしてくれた事を、私が知ってしまった事は言わない方がいい。このままずっと知らないまましておこうと。感謝の気持ちと、申し訳ない気持ちは多大にあるが、ここは間宮の優しさを尊重しようと決めた。


 髪を完全に乾かしてから、受験勉強に取り組む為机に向かった。


 それから数時間後、予定していたポイントまで勉強を進め終わった瑞樹は、参考書等を仕舞って、机の上に数枚の便箋を用意して、手紙を書き出した。


 集中して書き込んだり、ペンを器用に手で回しながら考え込んだりして、書き終えた便箋を可愛らしい封筒に入れて、その封筒を机の引き出しの一番奥へ大事に仕舞いこんだ。それからベッドへ入ってから、間宮におやすみのメッセを送ってから眠りに就いた。


後日、加藤から聞いた話しだが、平田達が学校から立ち去った後、間宮が路地裏へ引きずり込んで全員を潰した後、許しを請う平田に条件をだしたらしい。

その条件とは一ヶ月以内に当時の3年生全員を卒業アルバムで調べ上げて、1人、1人に謝罪して来る事と条件を出して、平田に謝罪周りをさせていたのだと言う。



『岸田君へ


 お元気ですか?もうお互い高校3年生ですね。

 岸田君は進学?それとも就職?

 進学なら受験勉強頑張ってる?私は進学で毎日眠い目を擦りながら、勉強を頑張ってるよ。

 実は今日、あの時の事をクラスメイトが謝りに来てくれたんだ。

 それで、今はどこに住んでいるか解らないから送れないけど、どうしても岸田君に報告したくなって、今、この手紙を書いてます。


 この前ウチの学校で文化祭があったんだけど、そこに平田君が来てその時に、あの時に岸田君が私に隠していた事を聞かされました。

 あ!勘違いしないでね!別に怒ってるわけじゃないからね!

 聞いた時は、驚いたし、ショックは受けたんだけど、怒る前に岸田君が何故そんな嘘を私についたのか分かっちゃって、怒るに怒れませんでしたw

 岸田君は、嘘をついてでも卒業まで壊れそうな私の心を守る為に、平田君と取引きしてくれたんだよね?

 岸田君は本当に私なんかの為に傷ついたり、気を使ったり大変だったよね。

 それなのに、私は何も岸田君にお返しが出来なかったのが、今でも心残りです。

 ねっ!転校する直前の1日デートの事覚えてる?

 私は一緒に観た映画や、その映画の話しで盛り上がった事、ボーリングで私が勝っちゃった事、カラオケで顔を赤くして熱唱してる岸田君の事とか、全部昨日の事のように覚えてるよ。

 あのデートがあったから、岸田君がいなくなった後も、何とか耐えて卒業して、志望校へ進学出来たんだよ。

 誰も私の事を知らない学校へ進学したくて、偏差値的に無理目な学校を目指したから、入学してからも授業についていくのに苦労したんだけどねw

 岸田君は、今は何か夢中になってる事ってある?

 私は夢中になっている事ってか、つい最近まで自分を守る為に、自分を偽ってたんだけど、今の私と一緒にいてくれる友達のおかげで、そんな自分を捨てる事が出来て、今すごく楽しいの!受験勉強まで苦にならないくらいにね!

 この今の自分が壊れずに残ってたのは、あの時岸田君が守ってくれたおかげだよ。

 本当に感謝してます。ありがとう!


 この際だから、思い切って言っちゃうね!

 実は、あの頃、岸田君の事が好きでした。

 転校しないで、卒業まで一緒にいれたら、多分私から告ってたと思う。

 そしたら、また違う未来になってたのかなって考える時が、今でも時々あったり、なかったり?w


 あ!違う未来を考えた事はあるけど、別に今が嫌なわけじゃないからね!

 えへへへ!

 実はね、こんな私だけど、今、凄く好きな人がいるんだよ。

 一方的な片思いなんだけどさ(;´д`)

 その人に出会ってから、自分を偽る為に隠れていた壁を、溶かして手を引っ張ってくれて、あたたかい世界に連れ出してくれたんだ。

 その人が今の楽しくて、幸せな時間を与えてくれた存在なの。

 だから片思いかもだけど、この気持ちは最後まで諦めたくないって思ってる。

 ずっと側にいて欲しい人なんだ。

 お節介な所は誰かさんに似てるけどねw


 岸田君は今誰か好きな人はいますか?

 もしいてたら、その気持ちを大事にしてね。

 もう会う事はないかもしれないけど、私はずっと忘れないし、ずっと岸田君の幸せを願ってるよ。


 これから寒くなってくるけど、風邪をひかないように気をつけて、受験勉強頑張って、岸田君の目指してる事に向かって頑張ってください!ずっと応援してます!


 最後に、私の為にとはいえ、嘘で塗り固められた岸田君だけど、1つだけ本当の事があったんだよ。

 それは、持っているといい事があるって言って、プレゼントしてくれたあのキーホルダーなんだ。


 このキーホルダーが私の前に、間宮良介って大切な人を連れてきてくれたんだ。だから、このキーホルダーがなかったら、間宮さんに出会う事はなかったし、今こうして幸せな毎日を送れてなんていない。

 キーホルダーがなかったらと思うと、怖くなっちゃうもん。


 本当に感謝しています。

 会う事はないかもですけど、元気でね!

 助けてくれてありがとう。


 さようなら


 瑞樹 志乃』











これで3章終了になります。

ここまで読んでくださった皆さんに感謝です。

さて!4章なんですが、ストックを作る為に暫く連載を休載しようと思います。

なるべく早く連載を再開しますので、少し時間をいただきます。

宜しくお願い致します。


葵 しずく

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