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29  作者: 葵 しずく
3章 過去との決別
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第24話 瑞樹 志乃 act5 ~意気込みと消沈~

「オッス!瑞樹さん!」

昨日と打って変わって明るい挨拶で、いつもの中庭に現れた岸田に、目を丸くして驚いた。

「こ、こんにちわ、岸田君。」

「いや~!四時間目、体育だったから腹減ったわ!」

そう言いながらいつもの場所にドッカリと座って、紙袋からパンを取り出した。

唯一いつもと違うところは、瑞樹も初めて見る黒い巾着袋を、岸田は自分と瑞樹の間に置いた事だけだった。

「いっただきま~す!」

「い、いただきます。」

2人で合わせるように合掌すると、岸田は本当に美味しそうにパンを食べ始めた。

そんな岸田を横目で見ながら、今日は元気そうだと安堵して瑞樹も弁当を食べ始めた。食事をしている最中は、お互いの受験勉強の進行具合など他愛のない会話をしていたが、食べ終わってお茶をしだしてから、岸田の様子が変わった。

「あ、あのさ、平田の事なんだけど、今はどう思ってるの?」

「え?ひ、平田君?ど、どうって言われても・・・」

「い、いや、平田って小学生って感じなんじゃないかなって思ってさ。」

「ど、どゆこと?」

「ほら!小学生の時って好きな子に対して気を引きたくて、わざと悪戯してりするじゃん?だから、今回の事もそんな感じだったんじゃないかなって思ったんだよ。」

確かに小学生は何故か、好きな女子にちょっかいをかけたがる傾向はあるが、いきなり選りにも選って、瑞樹をここまで孤立させた張本人の本音が気を引きたい一心で、こんな事をしたと言うのは流石に無理があった。盗聴されている事を意識しすぎたのと、自分は会話下手とゆう自覚があまりない事が原因で平田と契約を交わした初日から、ポイントを稼ぐどころか不穏な空気をただ作っただけでしかなかった。

「あの野郎!何が然りげ無くだ!不自然極まりないじゃねぇか!話下手も大概にしろよ!」

屋上で2人の会話を黒い巾着袋の仕込んだ盗聴器で盗聴していた平田が、大声で発狂している事など全く気にしない程、自分では完璧なフォローをしたと自画自賛していた岸田だった。

しかしフォローには全くなっていなかったが、岸田の口から平田の名前が出たのをきっかけに瑞樹は考えていた事を話す決心がついた。

「あの、岸田君・・・」

「ん?何?」

暗い表情で岸田と目を合わさず話しかけた。

「こうやってここで会うの・・・今日で最後にしない?」

「え?」

突然、会うのをやめようと言い出された岸田は、激しく動揺して自分の耳を疑った。

折角、身を削る思いで、自分の気持ちを封印してまで、瑞樹の笑顔を守ろうとした矢先なのだから、自分の耳を疑いたくなるのも当然だった。

「ど、どうして!?」

岸田にとってあまりのも衝撃的な発言で、思わずベンチから勢いよく立ち上がり瑞樹の前に立ってそう問いただした。目を見開いて信じられないと言わんばかりの岸田の顔を、瑞樹は真っ直ぐに見つめて話しだした。

「平田君と何かあったでしょ!?」

「!?」

「隠しても無駄だよ!正直に話して。」

そう言って岸田の目をじっと見つめ無言の圧を岸田にかける。やはりバレていた。それはそうだ、急にあんなに傷だらけになっていればバレて当たり前だ。

・・・・・でも!

「いや!何もないよ!僕みたいな小さい存在なんて、相手にしてないんじゃないかな・・・瑞樹さんの考え過ぎだよ!」

負けじと瑞樹の目を真っ直ぐに見つめて嘘をついた。瑞樹の為に嘘を突き通すと言えば格好がいいのだが、本音は自分の為に嘘をついている。気持ちを打ち明ける事が出来なくなった今、もう岸田にはこの時間しかないのだ。

「嘘よ!だって、急にそんな体になるのっておかしいじゃない!」

「おかしくなんかない!これは本当に筋トレの筋肉痛や、階段から落ちた傷だよ。嘘じゃない!」

「・・・・・・・・・」

嘘くさいのは重々承知している。でも突然の事だったから、このまま嘘を突き通すしかない。

「そ、そう・・・わかった・・・急に変な事言ってごめんなさい・・・」

もちろん納得はしていなかったが、真っ直ぐな目で何もないと言い切られて、瑞樹は渋々と上げた手を引っ込めた。瑞樹がチョロイのは昔からだったようだ。

「ううん!俺のほうこそ心配かけてごめんね。」

何とか押し切れて安堵して、ニッコリと微笑んだ。

「よくあんな嘘を信じたな・・・」

屋上でもそう言って平田はホッとしていた。

「おい!トークが下手過ぎる!打ち合わせするから岸田を放課後にいつもの場所へ呼び出してこい!」

仲間にそう伝えさせて、平田は後頭部を掻きむしった。

そんなおかしな状態が暫く続いた。盗聴されているは、然りげ無く平田の名前をだして、色んな作話を瑞樹に聞かせたりと、余計な部分は大変だったが、それでもやはり瑞樹と一緒にいて楽しかった。

瑞樹の方も笑顔だけではなく、冗談を交えながら楽しく会話が出来るようになった。そんな新しい瑞樹を見る度に心がチクチク痛み、夜眠る時ベッドの中で歯を食いしばる日が続いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鬱陶しい梅雨が明けて、本格的な夏が到来した。

と言っても受験生に季節など関係なく、受験勉強に追われる日々を送っていた。

唯一の楽しみだった昼休みのランチタイムは、夏がきても継続していたが、中庭は暑過ぎる為、比較的風通しが良く日陰になっている別館の渡り廊下へ場所を変えて2人は会うようになっていた。

今日は明日から始まる期末テストに向けて、勉強会ランチをしている2人。

「だから、ここでこの公式を当てはめれば、もっと簡単に答えが出せるようになるんだよ。」

「なるほどな!この方法って誰に教えてもらったんだ?」

「ふふ~ん!私が通ってる塾の先生から教わったんだ。」

得意気にそう言う瑞樹のドヤ顔がおかしくて岸田は、思わず吹き出した。

「あはははは!」

「あ!なによ!何で笑うの!?もう数学教えてあげないからね!ふんっ!」

頬を膨らませて、プイッとそっぽを向いて拗ねた。

「あ!ご、ごめん!つい・・・・」

両手を合わせて、焦りながら謝る岸田を横目で見て、

「プッ!あははははは!ごめん!ごめん!怒ってないよ。」

「な、なんだよ!超焦ったじゃんか!」

あはははははは!

すっかり変な緊張もなくなり、まるで昔からの友達みたいに話すようになっていた。そんな信頼している岸田に、瑞樹は前々から考えていた事を話しだした。

「あのね!前から考えていた事なんだけど、私、英城学園を受験してみようかなって思ってるの。」

「え?英城ってあの英城学園!?あそこってレベル高かったよな。」

「うん、もちろん私の今の成績じゃ厳しいんだけど、塾長に相談したら本気なら夏期講習からカリキュラムを組んでくれるんだって。現状の偏差値だと厳しいけど、勉強の内容次第で私は凄く伸びしろがあるから、可能性は十分にあるって言ってくれたんだ。」

「何で無理して英城を狙うのか聞いてもいい?」

本当は違う学校を目指す理由は、何となく察していたが、瑞樹の口から聞いてみたかった。

「うん、私が今の状況になってから、あちこちの先生に聞き回ってたんだけど、約6割の生徒の第一志望が上野高校だったんだ。そんなに同じ学校へ私も進学したら、まだこの状況が続くかも知れない・・・・その可能性が高いと思ったから、私の事を誰も知らない高校へ行こうと決めて調べたら、誰も志望していなくて、ウチから通える学校は英城学園しかなかったんだよね。」

「そ、そっか・・・そ、そうなんだ・・・が、頑張れよ!上野からと英城からじゃ狙える大学だって雲泥の差だろうし、可能性が高いのなら挑戦するべきだよ!」

ショックだった。正直卒業しても同じ高校へ進むのだとばかり思っていた。でも瑞樹の考えも十分に理解出来るから、引き止める事なんて出来なかった。

「お、俺も英城狙ってみようかな・・・なんて・・・無理か・・はは」

冗談っぽくそう言ったら、瑞樹は少し困った表情になった。

「無理だとは思わないけど・・・・」

「はは・・・何かストーカーみたいで気持ち悪いよな・・・」

思わず出てしまった言葉で、瑞樹を困らせてしまったのが見えて、岸田はそう言って進路変更の話をはぐらかした。しかし、一度口に出してしまうと、同じ英城へ通う2人の姿が思い浮かび、諦める事が出来なくなっていた。

瑞樹はその後、進路の事には触れずに期末テスト対策のノートを読み込んで、そのまま昼休みが終わった。


放課後、岸田は帰宅の道中・・・いや、昼休み明けからずっと瑞樹の進路変更の事で頭がいっぱいだった。英城学園・・・確かレベル的には上野高校より2ランク上の高校だったと記憶している。上野を楽勝で受かるレベルなら、確かに頑張り次第では可能かもしれない。英城に受かりさえすれば平田の手も届かなくなり、諦めていた気持ちを伝える事だって可能だ・・・・

「なんだ!よく考えたら状況的には良くなるって事じゃん!」

同じ上野に進学したら、平田も第一志望が上野だと聞いていた為、ずっと監視から逃れられない状況が続く可能性があったが、2人だけ違う学校へ進学してしまえば、もう誰にも邪魔されない事に気が付いた。

岸田の目に輝きが戻り、帰宅したら両親に希望を伝えて許可を貰おうと意気込んだのだが、その意気込みはすぐに消沈してしまう事になる。


「は?転校??」

帰宅して珍しく父親も早く帰ってきた為、家族揃っての夕食の席で志望校の変更の事を話そうとした矢先に、父親からいきなり転校を打診されたのだ。

余りに唐突な話で思考が停止する岸田・・・

父親は転勤が多かったが、これまで子供に転校ばかりさせるのは可愛そうだと、単身赴任で乗り切ってきた。しかし今回の転勤が最後になるらしく、これからは家族と一緒にいる時間を大切にしたいと切望した。

「な、何で今なんだよ!せめて卒業まで何とかならないの?」

「すまんな。この転勤の話が出た時はそのつもりだったんだが・・・」

急な転校を打診してきたのは、知人が海外へ永住する為、駅から近いマンションを手放す事になり、格安で譲ってもいいと声をかけられたのが原因だった。

まだまだ新しいマンションで条件は申し分ない凄く良い話だったのが、

ただ、8月中に出ていく事になった為、早急に返答を求められていたのだ。

もし転校する事になると、期末テスト終了直後に転校手続きをとり、夏休み中に引っ越す事になっている。

たかしには申し訳ないと思っているんだが、こんな条件なんて二度と出てこない話なんだ。今まで仕事ばかりでお前の事もあまり関われなかったから、今までの時間を父さんに取り戻させてくれないか?」

「で、でも・・・俺にだって・・・」

志望校を変更して、これから死に物狂いで勉強して、瑞樹と新しい生活を送ると決めた直後に、その展望を根底から壊される打診を素直に受け止める事が出来ずにいた。

「友達の事や、進路の事で迷惑をかけてしまうのは分かっている。でも向こうのマンションからなら、極端に遠い学校でもないかぎり通学には最適だし、こことは比べ物にならない位に便利な場所に住めるんだよ。隆、父さんのわがままを聞いてくれか!頼む!」

父親はそう言って深く頭を下げて岸田に理解を求めた。

今まで家族の事を優先してきた父親だ・・・単身赴任も大変だったと思う。

それもこれも自分の事を思ってそうしてきてくれたのは知っている・・・・

それに俺なんてまだ中学生の子供だ。まだまだ親に頼らないと生きてなんかいけるわけがない。

「わ、わかったよ・・・父さん・・・」

受け入れるしか選択枠なんてなかった。挑戦する前にリタイヤなんて悔しくて仕方が無かったが、こればかりは自分が頑張ればどうにか出来る問題ではない。岸田は転校を承諾して、部屋に戻って体全身に力を込めて歯を食いしばって・・・・静かに泣いた。





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