第16話 Cultural festival act8 ~仲間達の力~
杉山が腕を組んで仁王立ちしている。
「お客さん!ウチの人気ウエイトレスを連れ出されたら困るんですけどねぇ。」
不敵な笑みを浮かべながら杉山が平田に苦情を述べた。
平田は舌打ちして、不愉快そうに杉山を睨みつける。両者の間に沈黙が生まれ睨み合いが続く。神楽のMCに観客が盛り上がる歓声が響き渡る。
「チッ!次から次へゾロゾロと・・・おい!兄ちゃん!!」
「なんだよ!」
平田が声を荒らげ杉山を指差す。その威嚇に動じず冷静に受け流す杉山。
「どうせ乱入するなら女にしてくんねぇかな!俺達をお前だけで潰せるなんて思ってないんだろ?雑魚山君!」
平田は杉山の名前をイジって鹹かったが、その台詞さえもクールな笑みを浮かべた。
2人のやり取りを暫く聞いて瑞樹が、会話に割って入った。
「杉山君!こいつら本当に危険だから早く逃げて!」
瑞樹が杉山に逃げろと叫ぶのを聞いて、平田はニヤリと笑みを浮かべながら、
「そうそう!俺達はいまからお楽しみの時間で忙しいんだ!今なら逃げても見逃してやるから、とっとと尻尾巻いて逃げるのを勧めるぜ?クックックッ!」
完全に馬鹿にした表情で、杉山にそう忠告した。
「確かに俺がここに加わっても、お前らの餌食になるだけだろうな・・・・でも!」
「でも?・・・・でもなんだよ・・・・ッ!?!?」
そう言いかけた平田は、その直後の光景に言葉を失った。
ザッ!ザッ!ザッ!ジャリ、ジャリ、ジャリ・・・・
大勢の靴が地面を歩く音が聞こえる。仁王立ちしている杉山の周りに人影が次々と現れだした。完全に足音が止まり、杉山を含めた周りの光景に瑞樹を始め、加藤達も絶句して立ち尽くした。
「これでも瑞樹達を助けるのは無理だと思うか?」
杉山の周りに駆けつけたのは、3-Aのクラスメイト全員だった。
その人数、瑞樹を除いて、男女合わせて33名がこの場に集結した。
杉山の隣に陣取った女子が、一歩前に出て平田達に口を開く。
「おい!お前ら!ウチの友達にふざけた事しやがって、絶対に許さないから覚悟しろよ!」
杉山同様に腕を組んだ麻美が平田達に宣戦布告した。
「あ、麻美・・・皆・・・・どうして・・・・」
驚きを通り越して、瑞樹の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
臨戦態勢に入っていた加藤達も呆気にとられて、状況が理解できずに、お互いの顔を見合わせていた。
「どうして?仲間がピンチなんだぜ?助けに行くのは当然じゃん!」
杉山が白い歯を見せて、片目を閉じ瑞樹に優しく語りかけた。
そんな杉山を隣で見ていた麻美は、
「杉山!何、どさくさに紛れて、志乃の事口説いてんのよ!アンタに志乃は勿体無いから!」
「ば!ちがっ!そんなんじゃねぇよ!」
あははははははは!
焦りながら必死に否定する杉山を見て、クラスメイト達は大笑いした。
その間、平田の仲間達は戦況が一変した事を理解して、目線を送り合いながら一歩、また一歩後退していく。敵の距離がジワジワと開いてきて、加藤達は構えを解いて、杉山達の動向に視線を送る。
ゴホンッ!
杉山は弄られて、緩んだ空気を引き締めるように咳払いをして、改めて平田を睨んで対峙した。
「で?どうするんだ?まだやるんなら、ここからは俺達が相手になるぞ?」
一人一人の力を比べたら、当然平田達に軍配が上がるが、どうみても多勢に無勢な状況なのは、誰の目にも明らかだった。
それでも仲間達の戦意がまだ高いレベルで維持されていれば、続行したいところだったが、周りの連中は明らかに数に圧倒されてその場の空気に飲まれてしまっている事はすでに分かっていた平田は、観念したような表情を浮べて、
「チッ!今日のところは引いてやるよ!行くぞ!」
平田は降参して仲間達に撤収を言い渡した。1人、1人杉山達が立っている逆方向位へ歩き出した。人数が減る度に張り詰めた空気が和らいでいく。
最後に立ち去ろうとした平田が、瑞樹の横を通り過ぎる時、小声で囁きかけた。
「これで終わったと思うなよ!絶対にお前だけは許さねえからな!」
そう言われた瑞樹は、平田を睨みつけて歯を食いしばったが、何も言い返さずにやり過ごした。平田が完全に立ち去った直後、ずっと張り詰めていた緊張から開放されて、瑞樹は足から崩れるようにその場に座り込んでしまった。
その様子を見た杉山達は、慌てて瑞樹の側へ駆け寄った。
「瑞樹!大丈夫か?怪我とかしてないか?」
「志乃!無事!?よく頑張ったね!」
麻美が真っ先に瑞樹に抱きつき、2人を囲む様にクラスメイト達が、瑞樹に声をかける。その状況を見て加藤達は完全に緊張を解いて、加藤、希、結衣はお互いの拳を合わせて、お互いの健闘を称えあった。
「おつかれ!希!結衣!」
「お疲れ様でした!」
「うん!皆無事でよかったよ!」
3人は笑顔で瑞樹を守りきった事を労いあった。
「い、いや・・・俺は無事ではなかったんだけど・・・」
恨めしそうな声が3人の背後から聞こえてきた。
その声を聞いてハッと気が付いて、声の主の方に振り返った。
そこには顔を派手に腫らした佐竹が立っている。
「弱いくせに、あんな事するからよ!馬鹿だねぇ!大丈夫?」
加藤が苦笑いしながら、そう佐竹に声をかけた。
「そんな言い方酷過ぎじゃね?」
あははははは!
2人のそんなやり取りを佐竹以外の3人が笑った。
「ごめん・・・・本当にごめんね・・・皆にまで迷惑かけたね・・・ごめんなさい。」
クラスメイトに囲まれていた瑞樹が、膝をついて下を向き涙を流しながら謝罪していた。1人で乗り切れるなんて自分を驕るにも程があったし、過剰評価も甚だしかった。そんな自分が情けなくて悔しくて涙が止まらない。
そんな瑞樹をもう一度抱きしめて、麻美が優しく話しだした。
「そんな事ない!普通あんな連中に女の子が1人でかかっていくなんて出来ないって!私達こそごめんね!ヤバいって事はあいつらが店に来た時に分かっていたのに、助けに来るのが遅くなって・・・」
麻美の腕の中で、瑞樹は首を横に振った。おずおずと麻美の腕の中から出てきた瑞樹は、改めてクラスメイト達を見渡して立ち上がり頭を下げた。
「皆!本当にありがとう!」
感謝の気持ちを込めて、深々と頭を下げた瑞樹だったが、気になる事がありすぐに顔を上げた。
「ところで、どうして私がここで襲われてるってわかったの?」
そう聞かれて皆は顔を合わせ合い、杉山が代表する形で答えだした。
「それが、突然ここで瑞樹が平田って奴らに襲われてるって教えに来た人がいたんだよ。大事な仲間が襲われてるのに助けにいかなくていいの?って嗾けられてさ!」
杉山の返答を聞いていた加藤が、駆け寄って杉山に詰め寄った。
「それって年上の男の人じゃなかった?」
加藤は連絡したはずの間宮が、ここに姿を現さなかった事が気になっていて、クラスメイトを動かしたのが間宮なんじゃないかと考えた。
だが、杉山の返答は加藤の予想を外す内容だった。
「いや!女の人だったよ。」
間宮ではない事実を知って、加藤は希や神山の顔を見て困惑してしまった。
そんな現場を校舎の壁に身を隠しながら見ていた人物がいた。
その人物は現場を離れながら、スマホを取り出して電話をかける。
トゥルルル・・・・トゥルルル・・・トゥルルル・・・・
!!
「もしも~し!頼まれた通りクラスの皆を助けに向かわせたわよ。まったく!ガキの喧嘩に顔突っ込ませるなんて、私になにやらせるのよ・・・これで貸し1つだからね!今度お酒でもご馳走してよね!」
「うんうん!わかってる!名前はだしてないから安心して!それじゃライブが終わる頃だから仕事に戻るわね。じゃ、またね!不良兄!」
杉山達を瑞樹の元へ向かわせたのは、間宮の妹、茜だった。
いきなり電話をかけてきた間宮は、瑞樹達が襲われてる事を茜に伝えて、杉山達、瑞樹のクラスメイトを校舎裏へ助けに向かわすように誘導してくれと頼んできたのだ。瑞樹本人に間宮が差し向けた事をバレないようにとも頼まれた為、杉山達には名前を名乗らずに、嗾けるだけ嗾けて姿を消したのだ。
こんなまわりくどい方法など使わないで、兄が直接現場に出向いてガキ共をなぎ払えば済む話なのに、何故それをしなかったのか理由が気になったが、今更、聞いても仕方がないから、考えるのをやめて今度は神楽の頼みを実現させる為に動き出した。
瑞樹はクラスメイト達から少し離れて、加藤達の元へ向かった。
間宮がここに現れなかった事の疑問を話し合っていた加藤達は、瑞樹が近づいてきた事に気が付いて、話を中断させて瑞樹に笑顔を向けて迎えた。
「もう!無茶ばっかりするんだから!愛菜達に何かあったら、私はどうしたらいいのよ!お願いだから心配させないで・・・」
そう言いながら加藤達が無事だった事に安堵して、瞳にまた涙が溜まっていく。
瑞樹の加藤達に向けた第一声が抗議だった事に驚いたが、瑞樹らしくて思わず吹き出してしまった。
あははは!
「ひどい!本当に心配したんだからね!」
溜まっていた涙が、ポロポロと落ちる。そんな瑞樹の言い分に加藤が言い返しだした。
「なら!志乃も1人で無茶しないで私達を頼ってよ!勝手に解決しようとするから、私達も無茶な行動をとる事になったんだからね!」
両手を腰に当てて、少し怒った表情で注意した。
「そ、そうだよね・・・ごめん。以後気をつけます。」
素直の反省して軽く頭を下げて謝った。
「私達も謝る事があるの。本当は岸田の事が志乃の耳に入る前に、平田を黙らせたかったのに、油断したせいで間に合わなかったんだ・・・ごめんね・・・」
謝る瑞樹を見て、加藤は自分達も失敗した事を話しだして謝罪した。
「え?何で愛菜が岸田の事を知ってるの?」
加藤の口から岸田の話が出て驚く瑞樹に希が説明を始めた。
「それは、私が愛菜さんに話したからだよ。」
希は以前から平田の事を調べていた事、そして調べる過程で岸田の本性を知ってしまった事、それらを踏まえて初めて加藤に会ったモールで2人きりになった時に、加藤に確認したい事と話したい事があったのは、姉と加藤の親密さを見て、恐らく過去の事を知っている人物だと気が付いて、本当に知っているかを確認して、知っていたから岸田が裏で裏切っていた事実を話して、2人で瑞樹が本当の事を知る前に平田の口を封じようとしていた事を話した。
そんな事を2人で考えていた事を知り、瑞樹は驚きと動揺を隠せなかった。
「そ、そっか・・・二人共、岸田が裏切っていた事知ってたんだ・・・はは、馬鹿だよね私って・・・すぐに信じちゃってさ・・」
情けない自分を見せたくなくて、俯きながら自分を責めた。
「それは仕方がない事じゃないかな!あの時の志乃はもう壊れる寸前だったんだから、そんな時にそうやって優しくされたら、誰だって縋ってしまうのは当たり前だと思う。」
加藤が自分を責める瑞樹を否定した。
「そうだよ!お姉ちゃん!それに騙されたって言うけど、結果的に岸田の存在のおかげで卒業するまで耐え抜けたんだから、ある意味じゃ岸田を利用出来たって考えられない?だからお互いがお互いを利用したんだから、お姉ちゃんが一方的に騙されたわけじゃないんだし気にする事じゃないと思う!」
希が加藤に続いて、瑞樹に思った事をそう話して騙された自分を責める必要性はないと訴えた。
「はは、希はいつも凄い考え方するよね・・・そうゆう所、昔から羨ましかったよ・・・でも」
そこで言葉を切って、瑞樹は顔を上げて3人を見渡した。
「でも!今は皆が側にいてくれる事がわかった!だからもう大丈夫!心配しないで!」
そう言って加藤達に笑顔を見せた。
「うん!そうだよ!もう志乃は過去を乗り越えたんだよ!だからこれからは私達と先を見て一緒に頑張って行こうよ!ね!」
加藤は瑞樹の笑顔を見て、晴れやかな表情で瑞樹の両手を握って嬉しそうにそう語った。
その後、神山が瑞樹に話しかけた。
「ねえ!志乃、落ち着いてからでいいから、よかったら私にも昔の話聞かせて貰えないかな?仲間として志乃の事もっと知りたいんだ。」
真剣な眼差しで瑞樹にそう頼んだ。瑞樹は少し考えてから、再び笑顔を神山に向けた。
「うん!わかった!情けない話だけど、今度話すから聞いてくれる?」
「もちろん!それを知れば今までの志乃に対して謎だった事が理解出来ると思うし、そうすればもっと志乃の事を大切に思えるから必ず聞かせてね!」
「ありがとう・・・・結衣」
そう言い合った2人は、涙を流しながらそっと抱き合った。。
その2人を加藤と希が囲む様に、同じく涙を流して4人で抱きしめ合った。
抱き合う4人を見つめていた麻美が涙を流している事に気が付いた杉山が、湿っぽい雰囲気を吹き飛ばす様に声を上げだした。
「よし!瑞樹も復活した事だし、さっさと最終収益の計算をして打ち上げに行くぞ!目標の利益よりかなり儲かったはずだから、超豪勢な打ち上げで疲れなんか吹っ飛ばして騒ぐぞ!皆!!」
杉山はクラスの皆にそう豪語して、拳を突き上げた。
そんな杉山に協調するように、メンバー全員が晴やかな表情で同じように拳を突き上げ、声を揃えて
「おおぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
皆、最大限に声を張って叫んだ。
大歓声で盛り上がるクラスメイトの仲間達を、加藤達と抱き合っていた瑞樹は、優しい笑顔で見つめていた。
皆・・・・皆・・・・・本当にありがとう・・・・・




