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29  作者: 葵 しずく
3章 過去との決別
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第15話 Cultural festival act7 ~裏切りと仲間達~

平田の口から出てきた単語に、全身の血が冷めていくのを感じた。

「な、何でアンタがその事を知ってるのよ!」

極力動揺を隠すように努めてそう返した。

「お前さ!おかしいと思わなかったのか?あの状況のお前に味方した岸田を、俺が放置するわけがないだろ?」


そうだ・・・・正直、あの頃その疑念は確かにあった。

何度かそれをハッキリさせようとした事もある。

でも・・・・怖かった。予想していた事が当たっていたら、そう思うと怖くて結局聞けなかった。あの時の私は精神的にギリギリの状態だった。そんな時に本当の事を知ってしまったら、もう壊れるのは決定的なのを悟っていた・・・

だから・・・・目を背けた・・・現実から逃げた・・・逃げていたのに・・・


「岸田はお前の時と違って、キッチリと痛めつけてやった。あいつ根性なくてよ、たった2日で俺に許しを請う為に提案を持ちかけてきたんだよ。このまま瑞樹を庇うふりをして、その間に起こった事や、自分にしか話さないような事まで、全部情報を俺に流すから、許して下さいってよ!そういや、チラッと見えたパンツの色まで報告してきた事もあったな!ぎゃはははは!!!」


昔の事を暴露されて、それまで震えを必死に止めて立っていた足が崩れそうになり、背中越しの壁にもたれかかった。聞きたくなかった現実を聞かされてしまった。

急な転校も変だと思ったんだ。本当は親の都合などではなく、良心の呵責に耐えられなくなってしまって、私から逃げ出しただけなのだろう。分かっていたんだ!でも認めたくなかった・・・


瞳に涙が僅かに溜まると同時に瞳の光が消えかける。


ーーーーーもういい・・・疲れた・・・ーーーー


-------------ブチッ!!!!!!!!-------------


物陰に隠れて瑞樹達の様子を伺いながら、間宮がここへ来るのを待っていた佐竹が、恐らく今後二度と聞くことがないと言い切れる程の、激怒の頂点を超えた時に発せられる音が聞こえた気がした。


その音は自分の真後ろから聞こえた。瑞樹達に集中し過ぎて、気配に全く気が付かなかった。音が聞こえた方を振り向こうとした瞬間、自分の横を何かが走り去る気配がして、視線をすぐに正面に戻した。

そこには平田達に全力で突っ込んで行く人物を2人確認でき、それが誰なのか佐竹にはすぐに分かった。


「いい加減にしろよ!お前ら!!!!」

「お姉ちゃんにこれ以上近寄るな!!!!!」


突っ込んで行った2人が大声で怒鳴る。ここへ来る途中にあった焼却炉から拝借してきた木材で出来た棒を勢いよく振り上げ、1人は瑞樹に怒鳴った平田の仲間の脇腹に、1人は平田の頭を狙って振り上げた棒を力いっぱい振り切った。

仲間の方は狙い通り脇腹にクリーンヒット!平田の方は咄嗟に左腕で頭を庇った為、腕を強打する形になった。

「ガハッ!!」

「グッ!!」

棒を振り抜いた2人はそのまま、攻撃した男達の横をすり抜けて、振り向きながら、足を地面に押し付けて突っ込んできた勢いを殺して止まった。


仲間は脇腹を抑えながら膝をつき、平田は腕の痛みと痺れで動きが止まり、攻撃した2人を睨んだ。

「なんだぁ!?こいつら!まさか瑞樹を助けに来たってんじゃないだろうな・・・オイッ!!!!!」

語尾を荒げて威嚇しながら、2人に詰め寄った。

「ふざけやがって!」

脇腹を強打された箇所を手で庇いながら、膝をついていた仲間が立ち上がった。


「ヤバいなぁ・・・ついブッちぎれて後先考えずに突っ込んじゃったね・・・希!」

「そうゆう所が似てるから、私は愛菜さんが大好きなんだと思います!」

希は加藤同様後先考えずに突っ込んで、大ピンチな状況にも拘らず笑みを浮かべながらそう言った。

「よし!褒めてないな!てか、希は実は空手少女で、こんな奴ら軽くボコボコに出来る!って驚きの展開とかってないの?」

「あはは!私は超帰宅部で、帰って再放送のドラマ鑑賞してるだけの美少女でした!」

「うっ!受験勉強に入る前の私と同じじゃん!」

そんな事を言い合っているうちに、平田達全員に完全に囲まれた。

「そうか!瑞樹1人で全員を相手するのは、キツイから助っ人として来たんだな!」

平田は加藤達をジロジロ舐めまわすように見ながら、汚い言葉を吐いた。

そう言われて平田の仲間達から下品な歓声があがる。その歓声が放心状態に入る直前の瑞樹の耳に届いた。

下を向いていた瑞樹は平田達が取り囲んでいる、中心に目を凝らす。

そこには棒をぎこちなく構えた加藤と希がいた。

一気に意識が覚醒し、気が付けば加藤達と平田の間に割って入っていた。


「なにやってるの!アンタ達!早く逃げて!!」

瑞樹は2人を庇うように、両手を広げながら叫んだ。

逃げろと言われて、希が反応する。

「何言ってるの!お姉ちゃん!逃げるなら一緒に逃げよう!」

「無理よ!全員で逃げたって逃げ切れる訳ないじゃない!」

割って入った瑞樹だったが、やはり戦意は喪失しており、自分自身に起こる事はすでに諦めていたが、2人だけは逃がそうと必死だった。

「わかってるじゃん!逃すわけねえだろがよ!」

「わかってる!私はもう抵抗しないから、せめて2人だけは見逃して!お願いよ!」

「おいおい!俺達この女共に殴られたんだぜ?それは無理な話だろ!キッチリと落とし前付けてもらわないとな!」

そう言い捨てて、平田は加藤の肩を掴んだ。

抵抗する加藤と掴んだ手を振り払おうとする瑞樹達を物陰から目撃した佐竹は、助けようと腰を上げて、利き足に力を入れた瞬間、自分の真横を全速力で駆け抜ける人影が、佐竹の突進を急停止させた。


その人影は平田の手前で、独特のフォームで体を捩りながら、華麗に宙を舞った。その勢いのまま捩った体の反動を利用して、鞭のように足をしならせ、切れ味の鋭い変形型の回し蹴りを平田の右頭部に炸裂させた。


スパァァン!!!!


綺麗に入った蹴りの大きな衝撃音と共に平田が横倒れになる。

平田の仲間達は何が起こったのか解らない。いや、平田自身も理解が追いつく間もなく倒された。


「ぐあぁ!!!」


ズサアァァっ!!

綺麗に回し蹴りをヒットさせた人影は、地面に着地し倒れた平田の方に体を回転させて、滑りながら平田の仲間達の位置を確認して、瑞樹達の正面で止まった。

瑞樹達も一瞬の出来事で唖然としたまま、体が硬直していた。


「空手少女はいないけど、古武術美少女ならここにいるよ!カトちゃん!」

飛んできた少女は、そう言って顔だけ加藤の方に向けて笑みを浮かべていた。

そこでようやく3人は誰が飛んできたのか理解する。


「か、神ちゃん・・・」


神山は再び平田達と対峙して、古武術特有の構えにはいった時に、神楽のライブが始まり、軽快なサウンドがここまで流れてきた。

ロックサウンドをBGMに構える神山の姿は、まるで映画のワンシーンのように映える。

そんな神山の両肩を加藤が掴んで、

「なんでここにいるの!私は関わるなって言ったよね!」

加藤は語尾を荒げて、神山の乱入に怒り心頭だった。


「うるさい!だまれ!!!」


加藤の台詞を打ち消すかのように、神山は加藤に背を向けたまま怒鳴った。

ビクッ!!

神山の怒鳴り声に驚いた加藤は、体が軽く飛び上がる。

いや、加藤だけではない。瑞樹姉妹も目を見開いて硬直している。

「友達が・・・大切な仲間がヤバい時に助けに来て何が悪いの!カト・・・愛菜!!」

睨むように加藤を見た神山は、怒鳴り返した後に優しく微笑んでみせた。

「いつまで友達ごっこやってんだ!コラァ!!!」

平田の仲間が、神山と加藤のやり取りを邪魔するように、怒鳴りながら左手で神山の胸倉を掴み、右で神山の左頬を狙って殴りかかろうとした。

その時掴まれていた左手の関節を一瞬で逆方向に捻り、掴む力が弱くなったところで、しゃがみこみ男の体重が乗っている足を超低空飛行の回し蹴りで足を払うように振り抜いた。

軸足を払われた男は、簡単にバランスを崩して倒れこむ。

「ごっこ?なめんな!糞野郎!!」

鮮やかな足技と男前な決め台詞に他の仲間達がたじろいだ瞬間を加藤と希は見逃さずに、手に持っていた棒を目の前にいた男達に振り抜いた。


「グアッ!」「ぎゃあ!!」

平田達に追い打ちを仕掛けた2人は、お互い頷きあって再び神山を見た。

「まったく・・・折角アンタだけは純粋に文化祭を楽しんでもらおうと思ってたのに・・・もう、ガッツリ頼りにしてるからね!結衣!!」

「また1人、お姉ちゃんが増えて嬉しいです!結衣さん!」

加藤と希は白い歯を見せながら、神山を下の名前で呼んでそう言った。

その瞬間、確かにあったお互いがお互いの事を思って出来た僅かな壁が消滅した。

神山が欲した関係になれたと実感した時、こんな大ピンチな状況にそぐわない笑顔を見せた。

その3人が必死に守ろうとしている瑞樹が動きだし、再度、平田と正面から対峙した。

「もういいかな・・・これ以上私に、ううん!私達に関わらないで!昔の事はもういい。憎んだりしないから、これっきりにしてくれないかな!ハッキリ言って迷惑なのよ!」

一度光が消えかけた瞳に輝きが戻り、その瞳で平田を睨むのではなく、真っ直ぐに見つめてそう言い切った。

その表情はかつて、平田が本気で惚れた瑞樹そのものだった。

瑞樹の変わりように、平田が怯み一歩後退った。しかし、すぐ後ろにいる仲間達が、その一歩に動揺しだしたのに気付き再び瑞樹の方に踏み込んだ。

「うるせえ!!お前は俺の物だって決まってんだ!」

そう怒鳴りながら、平田は右手を振りかぶり瑞樹に振り下ろす。

歯を食いしばり、目をギュッと瞑って体に力を入れた瑞樹の肩を、後ろから掴まれてそのまま引っ張られ、倒れ込んだと同時に右手側から神山が地面を蹴りあげて、その反動と体の捻りから繰り出される蹴りが、平田に襲いかかるのが見えた。


スパァァン!!!!!


また鮮やかなハイキックが平田の頭部へヒット!!したかに見えたが、同じ攻撃は効かないと言わんばかりに、左腕でガッチリと防がれていた。

「クッ!!」

忌々しそうな表情を平田に向けた神山だったが、防がれた右足を掴まれ、そのまま力任せに投げ付けられて、背中から地面に叩きつけられ、苦悶の表情に変わった。


平田は投げつけた神山の方に向き直り、追い打ちをかけようとする。

「神山さん!」

ダメージを負った神山と平田の間に割り込もうと叫びながら、足を踏み込もうとした瞬間、神山が叫ぶ。

「来ないで!ここは私達に大人しく守られてればいいの!わかった!?」

倒されて激しい痛みが体中に走った神山だったが、痛みを堪えながら駆けつけようとした瑞樹を静止させた。

「もう自分1人じゃ無理だったのは認めるよ。でもね!守られてるだけの私の気持ちって考えた事ある!?惨めで情けなくて死にたくなるのよ!!」


「瑞樹さん・・・・」


平田を睨んで立ち上がった神山は平田の後ろにいる瑞樹に視線を移した。


「だから!今日!今からもう3人には遠慮なんてしない!改めてお願い!私に力を貸して!!一緒に私の過去と戦って!愛菜!希!そして結衣!!」


なんだろう・・・・名前で呼び捨てにされるのなんて、別に珍しい事でも何でもないのに・・・・カトちゃんに・・・そして瑞樹さんにそう呼ばれる事が、こんなに嬉しいと感じるなんて・・・・・

神山の武闘家としての何かに完全に火が付いた。


自然にニヤリと笑みが浮かぶ、構えをとった指先に力がこもる。

「当たり前じゃない!まかせて!志乃!!」


「おい!恥ずかしい友情ごっこは終わったか!?ライブが終わるまでに済ませたいんだ!これ以上くだらない事に付き合ってられんぞ!コラ!」

我慢の限界だと言わんばかりの表情で、平田は3人を睨みつけながら、仲間達に続けて叫びだした。

「お前ら!女だからって遠慮はいらねえ!4人もいるんだ!好き勝手に暴れろ!!」

平田から号令が飛び交い、男達の目つきが鋭くなった。

瑞樹達も構えを取って臨戦態勢に入った時、加藤達が走って来た方角から、悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきた。


「オオオオオォヒャャャャャーーーーー!!!!!!!」


叫び声の主は瑞樹や平田を中心にした、一番外側に立っていた平田の仲間に体当たりして、そのまま2人で倒れ込んだ。

マウントポジションをとった声の主は、人を殴った事なんてないぎこちない動きで、押し倒した男を必死に殴りつける。

「なんなんだよ!てめえは!」

ボゴッ!!

「ブッ!ゴハッ!!」

呆気にとられた側にいた仲間が、殴りかかっている男の顔面を蹴り上げた。

蹴られた男は呆気なく吹き飛ばされる。


「な、なにやってんのよ!佐竹!!!」

加藤が突然乱入してきたのが佐竹だと気が付き、倒れ込んだ佐竹に駆け寄りながら叫んだ。

顔面を強打され、鼻血が止まらない。左手で鼻元を抑えて、痛みで涙目になりながら、駆け寄ってきた加藤に

「何って!助けに来たに決まってるだろ!ぼ、僕だってやれるんだ!」

逃げ出したい気持ちを押し殺しながら、必死に格好をつけた。


乱入してきた佐竹を横目で見ながら、更にイライラを募らせた平田は、後ろで構えている神山に振り向き、間髪入れずにフルスイングで蹴りを入れようと、右足を振りかぶった。神山はその動きを見て、蹴りのガードを意識しながら、平田との距離を詰め、右の掌底で下から上に押し上げる様な軌道で、平田の鳩尾を狙ったが、平田の蹴りの方が一瞬早く、左腕のガードごと神山を吹き飛ばした。

倒れこむ神山に続けて平田が襲いかかろうとするが、素早く2人の間に両手を広げて瑞樹が割って入った。瑞樹を見て足を止めた平田に希が棒を振りかぶって襲いかかるが、仲間の男の腕がラリアットを仕掛ける様に、希の首元に腕を当てて、そのまま力で勢いよく押し戻され倒れ込んだ。

「きゃあ!!」

「希!!」

倒された希を見て、加藤が駆け寄ろうとしたが、後ろに回り込んだ男に取り押さえられてしまう。

「クッ!離せよ!!」

抵抗しようと試みるが、男の力に抗えるわけもなく、動けなくなってしまった加藤を助けようと、取り押さえている男の頭を両手で固定して、後ろから渾身の頭突きを炸裂させた。男は痛みで腕を解いて、頭突きを喰らった部位を両手で押さえ込みながら膝をついた。攻撃した佐竹も激しい痛みに両膝をついて堪える様に肩を震わせている。


そんな事お構いなしに平田は割り込んできた瑞樹の胸倉を掴み、平手打ちの構えで、腕を振りかぶったその時・・・・・


「何やってんだ!お前ら!!!!!!!!」


神山や加藤達が走り込んできた方角から、男が大声で怒鳴る声が響いた。

その場にいる全員の動きが止まり、一斉に視線が声の主に注がれる。

その人物を見た瑞樹の目が大きく見開いて、その男の名を口にする。


「・・・・・・・・・・杉山君」














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