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29  作者: 葵 しずく
3章 過去との決別
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第13話 Cultural festival act5 ~思わぬ再会~

 間宮達がいなくなってから、一時間程経過した。

 相変わらず客足は衰える事を知らない。

 ホール、厨房、裏方までフル回転状態で目が回る忙しさだったが、誰ひとり笑顔を絶やす事なく頑張っている。


 オープンして二時間が経過して、ようやく瑞樹の休憩時間になった。

「あ!杉山君!お疲れ様。これから私、休憩はいるからよろしくね。」

 入れ替わりで休憩明けの杉山に、そう言って更衣室へ入ろうとしたが、呼び止められて振り返った。

「瑞樹わるい!休憩に入る前にデリバリー頼まれてくれないか?」

 瑞樹は少し考える表情をみせた。

「は?デリバリー?そんなサービスなかったよね?」

「もちろん!そんな事までやってたら、人手不足で店が速攻でパンクするって!ただ、これだけはさっき先生に頼まれてさ・・・」

「先生?先生がデリバリーしろって言ってきたの!?そんなズルしないで、先生もちゃんと並んでって言えばよかったじゃん!」

 両手を腰に当てて、少し眉間に皺を作って杉山にそう言い切った。

「そりゃ、先生の依頼ならそう言って断ってたさ!そうじゃないから断れなかったんだよ!」

 杉山はため息混じりにそう説明した。

「じゃあ、誰の依頼なのよ?」

「さっき、神楽優希が学校へ到着したらしくて、今は楽屋で待機中らしいんだけど、デリバリーを依頼してきたのは、そのマネージャーらしいんだよ。」


 学校へ到着したのは、神楽だけではなく今日のライブを撮影する為にテレビ局の人間も多数来ていた。この場合テレビ局側がケータリングやロケ弁を用意するのが定例だ。もちろん今回も例に漏れずケータリングサービスを準備されていたのだが、何故か神楽はそれを拒否しているらしい。

 そこで前日の飲食店ランキングでぶっちぎちの1位だった猫娘カフェに白羽の矢が立ったのだ。ただ、一般の人間に混じって並んだりしたら、学校中が大混乱してしまうのは目に見えている為、マネージャーが特別にデリバリーを依頼してきたのだ。当の本人は並ぼうとしていたらしいが・・・


「なるほど・・・それは並んでとは言えないわね。わかった!じゃあ私が届けてくるよ。」

「サンキュ!助かるよ!休憩なのにわるいな。すぐに用意するから待っててくれ!」

 杉山はそう言って大慌てで厨房へ駆け込んだ。

 待っている間に着替えようと、更衣室に入ろうとしたら、厨房から杉山の声が飛んできた。

「瑞樹!スタッフとして行くんだから、宣伝も兼ねて着替えないでその格好でいってくれ!」

 まだ宣伝必要?と言い返したかったが、杉山と口論しても時間が勿体無いだけだから、諦めて素直に応じて入ろうとした更衣室のドアを閉めた。


 メニューが揃って準備が出来た後、届け先は理事長室の隣にある大会議室を楽屋に使われていると伝えられて、会議室を目指してデリバリーを開始した。

 飲み物が入っていないとはいえ、あまり乱暴に扱うと中身が偏ってしまう恐れがある為、急ぎたいのを我慢して慎重に運んで行く。

 目的の理事長室近くまで来ると、部屋の前にスーツ姿の女性が立っていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 カフェを先に出た間宮は文化祭のパンフレットを片手に、校内をこまめにチェックしながら歩き回っていた。

 体育館から大きな音が聞こえる。16時から神楽優希の単独ライブが行われる予定で、それまでは軽音部のライブや各クラブの模様しものが開催されている。大きな音楽と歓声が盛り上がっている事を表していた。

 体育館を通り過ぎて、そこから校舎へ入り、暫く歩いていると劇や出し物、飲食関連の店舗、様々なクラスが立ち並び、その廊下を沢山の人が行き来していて、体育館のライブに負けない盛り上がりをみせていた。

 間宮は自分の高校生時代を思い出しながら、各クラスを横目で見物してさらに歩を進めていると、人気ひとけが少ない廊下の突き当たりにスーツ姿の女性が立っているのが目に入った。その女性に話しかけている見覚えのある猫姿の女子高生もいる。


「お待たせしました!カフェ猫娘です。ご注文の品をお届けに参りました。」

「ありがとう!無理言ってごめんなさいね。」

 そう言って差し出されたトレイを受け取った女性が瑞樹を見て続けて口を開いた。

「あら?あなたはこの前道案内してくれた子よね?」

「はい!覚えてくれてたんですね。」

「もちろんよ!あの時は助かったもの。で!今日は随分と可愛らしい格好なのね。似合ってるわよ!」

「あ、あはは!ありがとうございます。」

 後頭部に手を当てながら、照れ笑いする瑞樹を見た間宮は単身で行動しているようで、心配になり横槍を入れるように声をかけた。

「瑞樹!何やってんだ?こんなところで。」

 瑞樹はマネージャーの女性との会話を中断させて、呼ばれた方に顔を向けると、少し心配そうな表情をした間宮が近寄ってくる。

「間宮さん!」

「休憩時間か?加藤達と文化祭回るんじゃなかったのか?」

「ああ!うん!今から連絡しようと思ってたところだよ。」


 ん?・・・・・間宮??

 マネージャーの女性は自分に向かってそう呼ばれていない事に、違和感を覚えて瑞樹が話している相手を確認しようと覗き込んだ瞬間、間宮も瑞樹が話していた相手の方を見て、目が合ってお互い固まった。


「え?・・・・茜か?・・・・・」

「りょ・・・・良兄りょうにい??」

 お互い指をさしながらお互いの事をそう呼んだ。


「お、お前こんなとこで何してんねん!」

「良兄こそ、ここで何してんのよ!ここ高校やで?まさかJK目的で潜り込んだんちゃうやろな!?お父さん達泣くで!」

「あ、あほか!そんなんちゃうわ!俺はボディ・・・じゃなくて神楽優希のライブがあるから来ただけや!」

 思わず瑞樹の前で、ボディーガードの事を暴露しそうになったのを咄嗟に誤魔化した。


 当の瑞樹はそんな事を気にする余裕はなく、ただ固まって頭をフル回転させて状況を冷静に把握しようと必死だった。


 だが、やはり色んな事が一気に目の前で展開されていて、理解が追いつかなくて口をパクパクさせている・・・・


「は?ウチの優希のファンなん?良兄が?似合わんねんけど!」

「ウチのって・・・サラッと気持ち悪い事ゆうてんぞ!お前!」

「何が気持ち悪いねん!ウチは優希のマネージャーやねんで!」

「おいおい!何しょうもないボケかましてるねん!」


「あ、あの・・・・」

 2人の口論について行けない瑞樹は、助けを求めるように会話を中断させた。

 瑞樹の介入で我に返った2人は、瑞樹をほったらかしにしている事に気が付いた。

「あら!ごめんなさい。みっともないところ見せちゃったわね・・・」

「いえ!あのお二人はその・・・・」

 目をパチクリさせながら、2人の関係を確認しようとした。

 そう聞かれて2人は顔を合わせて、間宮は彼女を紹介した。

「紹介する。間宮 あかね3歳下の俺の妹だ。」

 そう紹介されて、瑞樹も慌てて自己紹介を始めた。

「は、はじめましてでもないんですけど、瑞樹 志乃です。お、お兄さんにはいつもお世話になっています。」

 そう自己紹介してお辞儀した。

「茜です。改めて宜しくね!志乃ちゃんって呼んでいい?兄の知り合いなら、私の事は茜でいいからね。」

「あ!はい!宜しくお願いします。茜さん。」


 お互い自己紹介を終えると、茜がジトっとした目で再び間宮を見た。

「ところで、良兄!志乃ちゃんとどんな関係なん!?まさか彼女とか言わへんよね!」

「そんなんちゃうわ!瑞樹は俺の得意先のゼミに通ってる子で、色々あって知り合った友達や!」

「ほんまやろうね!可愛いからって手なんかだしたら、犯罪なんやで!わかってる!?」

 茜はそう言って間宮の胸元に、指を突きつけてそう警告した。

 そんな茜を見て、瑞樹は慌てて2人の間に入った。

「茜さん!本当にそんなんじゃないです!ただ私が一方的に迷惑ばかりかけてしまっているだけですから・・・・」

 瑞樹は何だか複雑な気持ちで、茜にそう説明した。

「そんな事より、間宮さんって関西の人だったの?」

 さっきから間宮の口から出たとは思えない、関西弁を聞いて驚いていた。

 知り合った時から、綺麗な標準語を喋っていた人から、いきなり関西弁が飛び出したのだから無理はない。

「あれ?言ってなかったっけ?俺達、大阪出身なんだよ。」

「マ、マジですか・・・」


「それより良兄!さっきのボケたんちゃうからね!ウチは今ほんまに神楽優希のマネージャーやってるんよ!じゃなかったらこんな所におらんやろ!」

「マジでか!?そういや茜は芸能関係の仕事したがってたな。でも親父めっちゃ反対してたんちゃうか?」

「してた!してた!反対押し切って東京に出てきたんやもん。」

「それっきり帰ってないんか?たまには帰ったれよ。」

「働き出してから、全く帰らない良兄に言われたくないわ!不良兄!」


 ・・・・・・・プッ!

 あはははははは!

 我慢出来ずに瑞樹が吹き出した。その笑い声に驚いて2人は瑞樹の方を見た。

「あはは・・・ご、ごめんなさい!別に笑う内容じゃないのは分かってるんですけど、普段の間宮さんのギャップと茜さん達の関西弁を聞いてたら、何だか漫才聞いてるような感じになっちゃって・・・・それに不良兄て・・・・」


 そう言われた2人は顔を合わせてため息をついた。

「そう、それよく言われてたから、隠してたんやけどな・・・」

「そうそう!全然おもろい事なんて言ってないのに、笑いがとれるのって微妙やねんで!志乃ちゃん!」

「うんうん!ですよね。ごめんなさい・・・」

 まだ口元を抑えて笑い続けている、瑞樹の手に持っている注文していたランチが入っているBOXが目に入り、優希を待たせている事を思い出した茜は、自分の名刺入れを取り出して、間宮に名刺を差し出した。

「これ!ウチの名刺!携帯番号とアドレスが書いてあるから、後で連絡してや!5年ぶりに会ったんやし、近いうちにゆっくり話しようや。」

 差し出された名刺を受け取った間宮は、照れくさそうに頬ろ掻きながら、

「そうやな!また連絡するわ。」


 茜は瑞樹が届けてくれたランチが入ったBOXを受け取り、代金を支払って柔らかい笑顔を向けた。

「デリバリーありがとう。優希といただくね!ライブ楽しみにしててよ!」

「はい!楽しみにしてます!ありがとうございました。」

 楽屋に引き上げていく茜を見送り2人きりになり、さっきのカフェでの事とか、文化祭の感想とか色々話したかったが、メロンパンを食べていた時の間宮の表情が頭に浮かんで、言葉が出てこなかった。

瑞樹は沈黙に耐え切れなくなって、加藤に連絡をとろうと、ポケットに入れていたスマホを取り出し、耳に当てた。

「んじゃ!俺も行くわ。じゃあな!」

「え?あっ・・・・うん・・・」

 スマホを取り出したのを確認した間宮は、瑞樹にそう言ってその場から立ち去った。思わす追いかけようと足が動いたのと同時に加藤が電話に出た為、2歩目の勢いが無くなった。


 小さくなっていく間宮の背中を寂しそうな表情で見送りながら、加藤と話している声は努めて明るく振舞う自分が、気持ち悪くて仕方が無かった。


 立ち去るふりをして、加藤と合流した瑞樹達から距離を取ってガードしていたが、特になにも起きず、仕事に戻った後もトラブルは起きなかった。

神楽優希のライブ時間が迫るにつれて、客足がドンドン減っていく。

カフェも16時からのライブに合わせて15時に店を閉める予定で、

 余裕が出来たスタッフは、仲間内で神楽のライブの事で盛り上がり始めていた。瑞樹も例外ではなく、もしかしてこのまま平田は来ないのではないかと期待してライブの話題に混じっていた時に・・・・・カフェの入口が開いた。

 一番近くにいた瑞樹が対応しようと、客の前にすっかり慣れた猫ポーズで出迎える。


「いらっしゃいにゃ!何名様にゃ?」

 その直後、背筋が凍る感覚を覚えた。

「よう!宣告通り来てやったぜ!瑞樹・・・」


「・・・・・・・平田」











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