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29  作者: 葵 しずく
3章 過去との決別
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第9話 Cultural festival act1  ~猫娘~

 9月22日


 ついに色々と話題に上がっていた英城学園の文化祭が開催された。

 初日は一般開放はされずに、学園の生徒達や教師達だけのオープニング祭として位置づけられていた。


 要するに予行練習みたいなもので、この日に各クラスは出し物を他の生徒達の反応をチェックして翌日の本番に備える日なのである。



「ちょっと!なによ!これ!!」


 瑞樹のクラスもカフェのオープン準備でバタバタしている最中に、更衣スペースで着替えをしているホール担当の女子達から、大きな声があがった。


 更衣室から数名の女子が血相を変えて出てきて、制服のデザインを担当した男子達に詰め寄った。


「ちょっと!アンタ達!これどういう事よ!」

 女子は一旦着た制服のスカートを脱いで担当者に突きつけた。


「ど、どうって?」

 視線をその女子から外して、白々しくそう返した。

「これよ!ここ!!」

 そう言ってスカートの一部分を指さした。

「何でこんなところにこんな大きな穴が空いてるのよ!破れてるわけじゃないよね!この穴はどう見たって人為的に空けられた穴よ!こんなのが空いてたら下着が見えちゃうじゃない!志乃が制服のデザインを決める時に着ていた時はこんな穴なかったよね!」


「いや・・・・あれから最終デザインを思案している時に、委員長から・・・この穴を空けろって言われてさ・・・」

 デザイン担当の男は助けを求めるように、側にいた委員長の方を見ながらそう説明した。


「ハァ!?どうゆう事よ!杉山!!」


「それはだな、この穴が最も重要な・・・」

 今度は委員長の杉山に詰め寄った。杉山はあくまで冷静な態度を崩す事なく話しだした時に、更衣室から瑞樹がその制服を着て出てきた。

「こうゆう事でしょ?」

 そう言って出てきた瑞樹に周りにいた全員の視線が集まった。

 穴が空いている箇所を後ろへ回して、瑞樹のお尻からその穴を通って可愛い猫の尻尾が生えていた。

 しかもそれだけではない。猫耳が入っていると渡された袋の中に入っていたアイテムを全部装着すると、耳と尻尾の他に両手、両足が猫の肉球にデザインされた手袋とスリッパが追加されていて、本格的な猫コスが完成されていたのだ。


 うおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!


 その場にいたクラスの男子全員が雄叫びをあげた。

 その雄叫びに驚いてビクッ!っと体が跳ねる瑞樹を女子達も絶賛した。


「キャーーー!!志乃!超可愛い!!てかこれヤバくない!?」

「ヤバいって!この猫志乃を見ただけでお金とっていいレベルじゃん!」

 クラスの女子達からも大絶賛された瑞樹は勢いで更衣室からこの姿で出てきたのだが、急に恥ずかしくなってモジモジと俯いた。


「これが狙いだったんだ!どうだ?納得したか?」

 杉山はドヤ顔で抗議していた女子にそう言い切った。

「そ、その為の穴だったんだ・・・た、確かにこれは凄い武器になるよね・・・何だか悔しいけど、このままでいきましょう!」

 女子も納得去ざる負えなかった。それほど猫瑞樹の破壊力が凄まじかったと言える。


 それから各自持ち場の準備を入念に行っている時に、瑞樹のスマホが震えた。

 電話に出ると相手はベーカリーOOTANIの店主である大谷から、注文されていたパンを届けに裏門へ到着したとの連絡だった。


 その連絡を受けて瑞樹は男子数名を連れて裏門へ向かった。


「大谷さ~~ん!!」

 瑞樹は元気に大谷を呼びながら駆け寄った。


 大谷が声がする方を見ると、猫の格好をした瑞樹がこちらへ向かっているのを見て、目を丸くしながら硬直して、手に持っていたスマホを思わず勢い良く落としてしまった。


 ガシャン!

「うわ!しまった!」


 落としてしまったスマホを駆け寄った瑞樹が慌てて拾った。

 幸い衝撃に強いケースに包まれていた為、スマホは無傷で済んだようだ。

「もう!どうしたんですか?壊れたら大変ですよ!」

 そう言いながら大谷に拾ったスマホを手渡した。

「いや、申し訳ない。瑞樹ちゃんの格好に驚いてしまってさ!」

「え?」

 急いで受け取りに向かったから、猫姿だったのを大谷に言われて初めて気が付いた。

「あ!耳とか外すの忘れてた!」

 自分の格好に気が付いた瑞樹はここまでこの格好で駆けてきてしまった事を、想像して顔を真っ赤ににしてその場にしゃがみこんでしまった。


 しかし、瑞樹のその行動が最高の宣伝効果を生んでいた事をのちに知る事になる。


「いやいや!恥ずかしがる事ないよ。凄く可愛らしくて驚いただけなんだから。」

 大谷は恥ずかしがってうずくまる瑞樹に手を差し伸べた。

「誂わないで下さい!大谷さん!」

 大谷の褒め言葉を否定しながら、差し伸べられた手をとって立ち上がった。

「ははは!別に誂ってなんかないよ。さて!じゃあパンの受け取りをお願い出来るかな?」


「あ、はい!じゃあ受け取りのサインは私がするから、杉山君達はパンをカフェに運び込んでね!」


「了解!大谷さんありがとうございました!」

 杉山は大谷にお礼を言って、早速次々とパンが乗ったトレイを教室へ運び込みだした。


「じゃあ、瑞樹ちゃん。ここにサイン貰えるかな?」

「あ、はい!」

 伝票とペンを手渡されて、その伝票に受け取りのサインをして大谷に返した。

「はい!確かに!それとこれはウチで使っている紙袋なんだけど、持ち帰りのパンを入れるのに使うといいよ。それじゃ俺は店へ戻るな!カフェ頑張って!」

「はい!ありがとうございます!大谷さんのお店もこの紙袋を使ってしっかり宣伝しますね!今日は本当にお世話になりました。」

 瑞樹は大谷に深く頭を下げて感謝した。

「こちらこそ!楽しい仕事だったよ。またメロンパン食べにおいで。」

「うん!必ず食べに行きますね!」

 大谷に笑顔を向けてそう返事して、車に乗り込んで走り去る大谷を見送った。


 瑞樹が教室へ戻ると厨房担当の男子と女子が、届いたパンを一つ一つ丁寧にラップを巻いていた。

 ホール担当は設置していたテーブルクロスの、拭き取り作業に追われていたので瑞樹もすぐに仕事へ戻った。



高校生活最後の文化祭。邪魔が入る可能性は高いが後悔しないように楽しもうと、平田の事が原因で、間宮と回れない事が何より残念な事だったが、せめてこのクラスのカフェを大成功させる為に、自分が出来る事を全力で頑張ろうと心に決めた瑞樹だった。


準備を初めて暫くしてから、文化祭初日の始まりを告げるチャイムが、学園中に鳴り響いて2017年英城学園の文化祭がついに始まった。



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