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29  作者: 葵 しずく
3章 過去との決別
36/155

第5話 チケットの行方

 8月21日 登校日


「いってきます!」


 今日は夏休み最後の登校日。

 登校するにはかなり早い時間に家を出た。


 その目的は登校前に寄る所があるからだ。

 学校があるU駅を通り越してW駅で下車した瑞樹は、

 まっすぐに目的地へ向かった。


 まだ8月だが、早朝だと幾分か爽やかな風が吹いて気持ちがいい。


 メイン通りを歩いていると、カフェなどの一部の飲食店が開店していて、爽やかな風に乗っていい香りが漂ってくる。

 そんな通りを進んで行くと、より一層香ばしい、いい香りが瑞樹の鼻に届いた。


 ベーカリー OOTANIオオタニ


 以前メロンパンを試食した店だ。


 店に到着すると、立ち止まらずに勢いよく店内へ入る。


「おはようございます。大谷さん!」

 元気に挨拶をしながら、まっすぐレジへ向かった。

 レジの奥にある工房から、少し小太りな店主が出てきた。

「おはよう!瑞樹ちゃん!言われてた時間より早かったね。」

「あはは!気になっちゃって早く来ちゃいました。」

「はは!そっか!丁度焼きあがったとこだよ。

 ほい!試食用のパンだ。」

 焼きたてのパンが目の前に並べられた。


 試食用として用意されたのは、通常の大きさから比べると25%程の大きさに作られたパンを、5種類を各5個ずつ焼いてもらっていた。


「かわいい!これ試食用だからこの大きさでお願いしましたけど、実際に販売するパンもこれ位か半分位の大きさでもいいかもしれませんね。」


「うん!!それもいいかもしれないな。もしこのサイズで仕入れるとなると、一度に焼ける個数が増やせるから、前に話した価格より、まだ安くできると思うよ。」


「ほんとですか!じゃあサイズも含めて、今日のプレゼン頑張ってきますね!」


「あぁ!期待してるよ!」


 実は瑞樹の誕生日の翌日に仕事の邪魔になりにくい閉店間際を狙って、単身で交渉の為に、このショップを再度訪れていた。

 仕入れの話をした時は、高校生の文化祭で売りたいと聞いて難色を示したが、瑞樹の懸命な交渉の結果、5種類のパンを各50個以上を仕入れる条件で、店主の大谷の了承を獲れたのだ。

 勿論、価格の方もかなり安く見積もりをしてくれた。

 後は今日クラスに試食用のパンを持ち込みプレゼンが通れば、正式な契約を結べる事になっている。



「あ!大谷さん。全部でおいくらですか?」

 瑞樹は財布を取り出して価格を尋ねた。


「あ~・・・この試食用の分はサービスでいいよ。」

「え?いえ!そうゆうわけには・・」

 瑞樹は気を使わせたくなくて断ろうとした。


「遠慮しなくていいよ!実はさ、初めてウチに来て瑞樹ちゃんから今回の話を聞いた時嬉しかったんだよ。」

 大谷は笑顔で瑞樹そう言った。

「嬉しかった・・・ですか?」

「あぁ!瑞樹ちゃんがウチと取引をしたいと決めた理由が、メロンパンだったのが嬉しかったんだ。」

 嬉しそうな表情で大谷は続けた。

「瑞樹ちゃんウチのメロンパンを凄く美味しいって褒めてくれたでしょ?俺としてもメロンパンには特別な思い入れがあってね、どこにも負けないメロンパンってやつを追求してるんだよね。俺のパン職人としての原点はメロンパンなんだよ・・・・・・だから単純に嬉しかったし、瑞樹ちゃんとなら、一緒に仕事がしたいって思ったんだ。」


「大谷さん・・・」


「だから、この試食用のパンは俺からのプレゼン成功を祈るエールだと思って、受け取って欲しいんだ。」


 年上の男性にそこまで言わせてしまったら、もう何も言えなかった。瑞樹は手に取っていた財布を鞄に閉まった。


「わかりました!ではこのパンは有り難く頂きます。ありがとうございます。」

 瑞樹は大谷の気持ちに感謝して、準備されていたパンを紙袋に詰めて店を後にした。


 話し込んでしまって、少し時間に余裕が無くなった為、小走りで駅を目指した瑞樹だったが・・・

「あれ?瑞樹じゃね?」

 その声を聞いた瞬間、勝手に足が止まった。

 この声・・・忘れたくても忘れられなかった声・・・

 顔から血の気が引いていくのが分かる・・・・

 肩が小刻みに震える。喉が一気に乾く。

 震える唇を噛み締めながら、声がする方へ顔を向けた。


「やっぱり瑞樹じゃん!久しぶりだな~・・おい!」

 瑞樹を呼び止めた男は、不敵な笑みを浮かべて立っていた。


「平田・・・・」

 瑞樹はその男をそう呼んで、睨みつけた。


 そこには平田と呼ばれる男の他に2人一緒に立っていた。

「おい、平田。瑞樹って前にお前が言ってた女の事か?」

 平田と一緒にいた1人の男がそう聞いていた。

「あぁ!そうだ。お前その話で爆笑してたよなぁ。」

「クックックッ・・・あれは傑作だったからな!」


 2人は瑞樹を舐め回すように見ながら話している。

 その視線が瑞樹には気持ち悪くて仕方がなかった。

 吐き気すら憶えるほどに・・・


 その視線に耐え切れず、平田達から離れようとした時、聞きたくない声で呼び止められた。


「おい!待てよ!俺達オールで遊んでたんだけどよ、まだ遊び足りないって話しててさ!お前も付き合えよ。」


「は?何で私がアンタに付き合わないといけないのよ!」

「いいじゃん!付き合えって!」

 平田はそう言いながら瑞樹の腕を掴んだ。


 掴まれた腕から全身に鳥肌がたった。

「離せよ!私に触るな!!」

 掴まれた腕を力いっぱい振り払った。


「おいおい・・・そんなに拒否されたら傷つくなぁ・・・」


「ふざけんな!どのつら下げて私にそんな事言えるのよ!アンタのせいで私が、どんな目にあったか知ってるでしょ!」


「あの時は悪かったって!本当に反省してんだぜ!」


「白々しい!お前が反省なんて絶対しない!それは私が一番知ってる!」


 そう言われた平田は、軽くため息をついて、ニヤリと笑みを浮かべた。


「その制服って英城だよな?今、英城ってネットで話題になってるじゃん!神楽 優希が単独ライブするってよ!チケットなんてすでにプレミア化してるらしいじゃねえか。」


「それがどうしたのよ!」


「俺達も神楽 優希は結構好きでさ!チケット3枚程回してくれよ。」


「何で私がアンタらなんかに、そんな事してやらないといけないのよ!」


 瑞樹は平田を睨みつけながら、要望を拒否した。


「さっきから酷い言われようで、流石の俺も傷ついたわ・・・」


 その平田の言葉を無視して、3人に背を向けて立ち去ろうとした。


「じゃあ、英城の奴を適当にシメてチケット頂くしかないな!そうなったらそいつがシメられたのは、お前のせいだからな!瑞樹!」


 ビクッ!


 その台詞に肩が跳ねて、握り拳を作った両手が震えた。

「何それ!脅しのつもり!?」

 背を向けたまま、視線だけ平田に向けた。


「さあねぇ・・・」

 ニヤニヤしながら、そう言って瑞樹の方へ歩き出した。

 瑞樹とすれ違い際に呟くように話しかける。


「必ずお前のとこの文化祭に行ってやる。傷ついた俺は何するか、お前ならよく知ってるよなぁ・・楽しみにしてろよ。」


 平田達はそう言い残して瑞樹の側を立ち去った。


 3人が完全に視界から消えたのを確認した瑞樹は、膝から崩れ落ちる様に、その場にしゃがみ込んだ。


 その時瑞樹は思い出したくない、あの時の事が走馬灯のように頭の中で流れた。


 体に力が入らない・・・瑞樹の側を通りかかった何人かの通行人が心配して声をかけるが、耳に届いていない。

 放心状態になりその場から動けなくなった。


 その時瑞樹のスマホが震えた。

 力なくスマホを取り出して、着信内容を確認する。

 加藤からのlineメッセージで、今日のプレゼン頑張れ!とゆう内容だった。

 自分の過去を知っている加藤に、思わず今起こった平田の事を書き込んで送信した。

 すぐに加藤から返信が返ってきた。

 今はその事は忘れてプレゼンに集中して!あんな糞野郎の為に、これまでの努力を無駄にするつもり!?と加藤らしい返答が返ってきた。


「そうだ・・・プレゼン・・・頑張らないと協力してくれた大谷さんの期待を裏切ってしまう・・」

 そう呟いて、力が入らなかった体に鞭を打って、何とか立ち上がった。


 そのまま足取りが覚束おぼつかない状態で、学校へ向かう。


 若干遅刻気味で教室へたどり着いて、担任に頭を下げて席へ着いた。


 丁度これから文化祭の打ち合わせが始まるタイミングで、すぐに委員長達が前回同様に壇上に立って、打ち合わせ会議が始まった。


 始まってすぐに殆どの生徒から同じ問題が報告された。

 その問題とは神楽 優希が単独ライブを行う事がどこからかネット上に漏れてしまい、もの凄い勢いで日本中に拡散されてしまったのが原因で、チケットを求める電話やメールの着信が鳴りやまない事態になっている事だった。


 それだけ話題になっているわけだが、このまま放置しておくと、大きなトラブルに発展する可能性がある為、早急に学校側からの対応を要求する事で合意した。


 それから各役割分担を固定化して、それぞれ必要な備品をリストアップを行い、予算内で収まる事の確認を済ませた。


 次に裏方以外のスタッフに制服が必要か不必要かが審議された。

 当然の様に男子が必要だと主張するが、これに女子達が反発した。この議題はかなり難航したが、最終的にデザイン次第で決める事で収まった。

 そうなると当然モデルが必要になるのだが、委員長がモデルを誰にするか、生徒に投げかけると、男子、女子共に1人の女子を見つめた。


 そんな会議が行われている中、瑞樹はやはり今朝の事を思い出していた。

 考えない様にしようと思えば思うほど、やはり考え込んでしまう。いつの間にか窓際の瑞樹は外を遠い目で見つめていた。誰か遠くで自分を呼んでいる気がしたが、気に留める事が出来ない。


 すると周りから一斉に拍手する音が聞こえた。

 その拍手で我に返った瑞樹は、その時初めて周りの全員が自分を見ている事に気が付いた。


 頬杖をついていた瑞樹は慌てて顔を上げた。

「え?な、なに?」


「またやったな!瑞樹!てことでモデルは頼むな。」


「え?モ、モデル?ってなに?」

「なにってカフェで使用する制服を実際にデザインして、サンプルを制作してもらって、採用するかどうか決める為に、瑞樹にはモデルになってもらう。」

 当然のように淡々と説明する委員長に瑞樹が噛みつく。

「は?何で私がそんな事しないといけないの?フロア担当は私だけじゃないじゃん!」


「だって・・・・」

「だって?」

「お前またこの場にいながら、会議に参加してなかっただろ?」


 ウグッ!!


 またやってしまった事にようやく気が付いた。

 そんな自分になんだか腹が立ってくる。

 この文化祭で外部の人間も巻き込んでいるのに、その大事な会議に私情を持ち込んで、挙句の果てに話し合いも上の空で聞いていなかった自分に・・・


「ごめん!モデルの件了解!会議を続けて!」

 そんな自分に腹がたったのがきっかけになり、瑞樹は完全にスイッチが入った。


 そして今日の最後の議題、パンの仕入先について話し合いが始まった。


 試食用のパンを持ち込んだのは、瑞樹の他に4名いた。

 壇上に立っている委員長達が、パンを人数分に行き渡るように準備する。

 プレゼンター達はその間、黒板にプレゼン内容を書き込んだ。


 準備が終わり、早速プレゼンが始まる。


 瑞樹の順番は最後になったので、他のプレゼンを真剣に聞いていた。


 試食用に配られたパンも順番に生徒達の口に入る。

 どれも評判は良いようだ。


 最後に瑞樹の順番が回ってきた。

 定価の販売価格から、どれだけ値引きをして、仕入れられるかを、まず説明してその価格にする為の店側の条件も合わせて説明して、完売すればどれくらいの利益が出せるかを、熱心にプレゼンした後に、生徒達にパンを試食してもらった。


「う、うまっ!」

「このパン!ヤバくね?」


「美味しい!特にメロンパンがヤバい!」

「だよね!これハマるんだけど!」


 生徒達の評価が手応えを感じさせた。


 そこで更にパンのサイズを通常より半分以下にすれば、さらに安く仕入れられる事を説明して、瑞樹のプレゼンは終了した。


 その後すぐに投票を始めて、集計した結果、瑞樹のプレゼンが圧倒的な票数を獲得して、文句なしでベーカリーOOTANIからパンを仕入れる事が決定した。


 皆には見えないように、小さくガッツポーズをする。


 予定していた議題を全て消化した後、最後に担任から今回の文化祭招待チケットが生徒達に配布された。


 例年通り1枚で2名まで入場可能なチケットを1人あたり10枚渡されたが、今年のイベントが神楽 優希の単独ライブとあって、ネットでもすでに騒がれている事も考慮されたからなのか、チケットの作りが特殊な作りになっていた。


 複製を防止する為に、かなり特殊な紙を使用されていて、

 さらに転売等を防止する意味も含めて、チケット1枚、1枚に受け取った生徒の顔写真とフルネームが印刷されていた。

 顔写真が印刷されている事は一部の生徒から、反対する意見もあったが、あくまでトラブルを起こさない処置だと、詳細を説明すると、その生徒達も了承した。


 瑞樹もそのチケットを受け取り、ここからが勝負だと気合いを入れた。


 このあとホームルームを終えて解散の流れになったが、裏方担当の生徒はこのまま残り、店の内装について話し合い、必要な備品を揃える作業に入った。


 ホール担当の瑞樹はすぐに下校しようと、廊下へ出たところで、麻美にカフェに行こうと誘われたが、行く所があるからと断って、駅へ早足に向かった。

 自宅とは反対方向の上り線から、電車に乗ってW駅で下車して、メイン通りを駆け足で進んで、ベーカリーOOTANIへ到着すると、今朝よりも勢いよくドアを開けて店内へ入った。


 店内には数名の客がパンを選んでいたので、迷惑にならないように気をつけながら、工房にいる店主を呼び出した。

「こんにちわ!大谷さんいますか?瑞樹です。」

 その瑞樹の元気な声を聞いて、工房から大谷が出てきた。

「いらっしゃい!瑞樹ちゃん!プレゼンはどうだった?」

 大谷はすぐにプレゼンの結果を聞いてきた。瑞樹はまず何も言わずに、満面の笑顔で大きなピースサインを作って、大谷の顔の前に突き出した。


「プレゼンは大成功でした。これで正式な契約結んでもらえますか?」

 瑞樹は大谷が出した条件を、すべてクリアした事を報告した。

「おめでとう!勿論契約させてもらうよ!パンの方も腕によりをかけて作るから、期待してもらってかまわない」

 そう言って大谷は瑞樹に向かって、親指を立てて笑顔で応えた。


 細かい打ち合わせはまた後日にする事になり、瑞樹は店を出て帰宅した。



 その日の夜


 瑞樹は自室でスマホと向き合っていた。

 チケットを渡して、文化祭へ誘う為に間宮と連絡をとろうとしていたのだが、電話をかける勇気はなく、lineでメッセージを送ろうと、文章は書き終えていたのだが、中々送信ボタンをタップ出来ずにいた。


 

中々送信出来ないのは、断られたらと不安なのもあったが、タップ出来ない理由はそれだけではない。

 


 もし文化祭で平田が本当に来ていて、間宮さんと一緒にいる時に絡まれたら・・・

 間宮さんに私の昔の事で迷惑はかけたくない。

 中学の時と違って、私の学校で同じような事をやろうとしても、あいつにそんな権力はないから、私1人だけなら何とか対処できるはず・・・

 でも・・・・間宮さんと文化祭を回る為に、ここまで頑張ってきたのに・・・

 何でまたあいつが私の前の現れたりするのよ・・・


 悔しくて手が震える・・・歯を食いしばりながら、間宮宛に書いていた文章を消した・・・


 駄目だ・・・やっぱり巻き込む訳にはいかない・・・



 実は間宮にlineを送ろうとしたのは、今回だけではない。

 連絡先が書いてある名刺を貰った翌日から、瑞樹は毎晩スマホと睨めっこしていたのだ

 特に用事があった訳ではなく、単に間宮と話がしたかっただけなのだが、食事中だったらどうしよう・・・お風呂だったら迷惑かも・・・・寝てて起こしてしまったら最悪だ。

 などと送信直前に1人で言い訳をブツブツと言い出して、結局一度も送れずにいた。


 でも今日はしっかりとした大切な用件があった。

 だから、lineを送るのを楽しみにしていた。


 ーーなのに・・・・なんでこうなるのよ・・ーー


 ベッドの上でスマホを抱き込むように、うずくまり、声を殺して泣いた・・・・



 声を殺していても、悔し過ぎて嗚咽おえつが漏れる。

 その悔し涙の声は、瑞樹の部屋の前で、ドアをノックしようとしていた、希まで届いていた。

 ノックをしようと、ドアを叩く直前の格好だった希は腕を下ろし、何も言わずに自分の部屋に戻っていった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 23日 21時頃


 瑞樹は何時いつも通りゼミでの講義を終えて、駅までの道を歩いている。


 どうしても平田の事が頭から離れずに苦しそうな表情をする事が多くなっていた。


 足取りが重く、人混みを避けて歩くことを苦痛に感じなから、いつもなら遠回りになってしまう為、避けていたホームのベンチへ向かった。


 この場所は乗り込む時も、又、下車してからも改札や乗り換える時でも、一番遠い位置にあり移動時間が増えてしまう為、殆どの客が嫌がる場所で、多少混雑している時でもここだけはいつもガラガラのベンチだった。


 当然こんな時間だから、誰もベンチに座ってなく、そのベンチ周辺にも誰もいなかった。


 そんな寂しいベンチに座って俯きながら、大きなため息をついた。


 あれから、事情を全部知っている加藤に相談した。

 加藤はそんな事気にしないで、間宮にチケットを渡して文化祭に誘うべきだと言ってくれたが、やはり間宮の身を案じるとチケットを渡す気にはなれなかった。


 そんな状況では当然文化祭へのモチベーションは下がる一方で、大谷との打ち合わせもまだ出来ていなかった。


 そんな時、両手で顔を覆うようにして、俯いている瑞樹に声をかけてくる人物が現れた。


「あれ?瑞樹か?どうしたんだよ、こんなとこで俯いたりして・・・」

 その人物はそう言いながら、瑞樹に近寄ってくる。

 耳に気持ちよく馴染む、低くて、優しい声に驚いたが、

 もう確認しなくても、誰が声をかけてきたのかすぐに分かった。


 瑞樹は呼びかけられた方向にゆっくりと顔を上げた。


「間宮さん・・・・・」

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