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29  作者: 葵 しずく
3章 過去との決別
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第4話 Birthday act 3

呼ばれた方向からは背を向けた状態になる。

 振り向く前に妙な事を考えてしまった。


「とうとう幻聴まで聞こえてきたのかな・・・」


 そんな的外れな勘違いを壊すように、その声が更に耳に届く。


「お~い!お嬢さん!暑い中待ってたのにスルーですか?」


 間宮さんが私を待っていた・・・

 それを聞かされて小躍りしたい程の気持ちを必死に堪えた。


 以前クラスメイトの友達が言っていた事を思い出す。

 好きだとゆう気持ちを全面的に出した方が、恋愛では負けで少し突き放す感じで、主導権を握れば勝ち!・・・って言ってたっけ!

 よ、よし!


 間宮に背を向けている状態で、顔の筋肉緩みっぱなしだった顔を、急いでクールな表情に作り直して、顔だけ間宮に向けた。


「待ってたって別に約束していたわけじゃないでしょ?」

 若干引き攣り気味の表情で頑張って演じてみた。

 本心はすぐにでも間宮の胸元に顔を埋めてグリグリしたいのだが・・・


「はは!まぁ、そうなんだけどさ。何か久しぶりな感じがするな。合宿からそんなに経ってないのに。」

 間宮は苦笑いして、瑞樹に歩み寄りながらそう言った。


「そ、そう?私は別にそうは感じないけど?」

 ーーホント久しぶりな感じ!どれだけ会えるのを楽しみにしていた事か・・ーー


「それは寂しいな・・・ところで瑞樹ってもう晩飯食べたのか?」


「まだだけど?なんで?」

 ーーーえ?晩ご飯?もしかして連れて行ってくれるの?ねえ!ーーー



「そっか!俺もまだなんだけど、一緒にどうだ?」


「なんで?」

 ーーやった~~!!間宮さんにご飯誘われた~~!!ーー


「瑞樹って今日誕生日だろ?何時に会えるか分からなかったから、レストランとか予約は出来なくて、大した店に連れて行ってやれないんだけどな。」


 間宮さんが自分の誕生日を知っていてくれていた・・・

 その事が分かった瞬間、クールな瑞樹さんは木っ端微塵に吹き飛んでしまった。


「う、うん!そう!今日私の誕生日だけど、何で知ってるの?」

「合宿でプロフ見て来月誕生日って話しただろ?

 そのプロフに誕生日が書き込まれてたのを覚えてたんだよ。」


「そ、そっか!そうなんだ。」


「で!どうするんだ?疲れてるなら無理しなくていいけど。」


「ぜんっぜん!疲れてないよ!朝起きた時より元気なくらいだよ!」


「あははは!なんだそれ!んじゃ!駅前のカフェにでも行くか。」


「う、うん!あっ!その前に親に連絡しておくね。」

 思いもよらない間宮とのお食事デート・・・のようなもの。

 勿論、瑞樹は嬉しかったのだが、心の準備が出来ていなかった為、心臓の動きが激しすぎて軽く目眩めまいがしたような気がした。


 カフェに到着して、窓際の席に案内された。


 早速食事のメニューと食後のコーヒーを注文して、運ばれてくるのを待っていた。


「急に誘って悪かったな。ご両親大丈夫だったか?」

「え?あぁ!大丈夫だよ。了解って返事がきてただけだったし」


「そっか!それならいいんだ。

 それはそうとデザートはいらなかったのか?ご馳走するんだから遠慮なんかしなくていいんだぞ?」


「ううん!スイーツはいいの。実は愛菜達にも誕生日を祝ってもらってランチしたんだけど、そこでサプライズバースデーケーキを用意してくれていて、大きなケーキ食べちゃって、また甘いもの食べたら太っちゃうから・・・」


「ははは!そっか!加藤さん達に祝ってもらったんだ。よかったじゃん!てか体型気にするようには見えないけど?」


「うん!凄く嬉しかったよ。

 そんな事ないよ・・・勉強、勉強でろくに身体動かしてないし、油断して太ったりしたら、希にからかわれちゃうし・・」


「希って?」


「あぁ!私の妹なんだけど・・」


「へえ!瑞樹って妹がいるんだ。」


「うん。」


「妹も姉に似て美人だったりするんだろうな。」


 び、美人・・・軽い冗談で言ったのだろうけど、間宮さんは大人なんだから、自分の言った言葉にちゃんと責任もってほしい・・・そんな事をサラっと言われたら間に受けちゃうし、調子にのっちゃうんだから!と文句を言いたかったが、例え冗談でも間宮に言われると、心底喜んでいる自分がいた。


 そんな会話をしていると注文していた料理が運ばれてきたので、食事を始めた。


 でも瑞樹は初めて間宮と2人きりで食事とあって、緊張して味なんて全く解らなかった。


 一通り食事を済ませて、食後のコーヒーを楽しんでいると、間宮が話しかけてきた。

「あれから受験勉強は順調なのか?」


「う、うん、まぁまぁって感じかな。」


「そう言えば聞いた事なかったと思うんだけど、瑞樹ってどこの大学狙ってるんだ?」


「言ってなかったっけ。第一志望はKなんだ。」

 志望校が向陽大だと聞かされて、間宮は目を大きくした。


「何でKなんだ?」


「そこで専攻したい学部があって、塚本教授って人の講義が受けたいんだ。」

 瑞樹は志望動機を間宮に話して聞かせた。


「塚本教授!?偏屈なおっさんだぞ・・・」


「間宮さん、塚本教授と知り合いなの?」

「知り合いってか、俺も言ってなかったんだけど、K大出身で塚本教授の講義は俺も受講してたんだよ。」


「え・・・?えーーーー!?間宮さんってK大だったの!?」


「ははは、世の中狭いってね!」

「ほんとそれ!ビックリしたよ。」


 それから暫く向陽大の話題が尽きる事なく話していて、

 気が付けば23時を回っていた


「おっと!もうこんな時間か!そろそろ帰らないとヤバいだろ。」

「う、うん・・・」


「ん?どした?」


「・・・・・・・・」

「瑞樹?」


「・・・・たくない・・」

「え?」

「帰りたくない・・・なんて・・ははは」


「何言ってんだよ。そんな事出来るわけないだろ。」


「だって・・・・今度いつ会えるか分からないんだもん・・」


 瑞樹は瞳を潤ませながら、切実に訴えかけた。


 そんな瑞樹を見て、少し考えた後に間宮は仕事で使っている自分の名刺を一枚取り出して、名刺の裏に何か書き出した。


 瑞樹は俯いていて、何をしているのか解らなかったが、少し経ってから、呼ばれたので顔を上げた。


 すると照れくさそうにラッピングされた長細い小ぶりな箱を手渡そうとしていた。


「誕生日おめでとう。」

「え?」

 瑞樹は思考が固まり、どうしたらいいか分からなくなった。


 間宮は中々受け取らない瑞樹の前にその箱を置いた。


 目の前に置かれた箱を瑞樹はただじ~っと見つめる。


「瑞樹!」

 ビクッ!

 そう呼ばれて肩が震えた。

「は、はい。」

 瑞樹は我に返り間宮に視線を戻した。


「一応俺からの誕生日プレゼントなんだけど・・迷惑だったか?」

 自分の思考が停止して、意味不明な行動をとったせいで、間宮を困らせた事にようやく気が付いた。

「ち、違う!迷惑なわけない!まさか間宮さんにプレゼントまで貰えるなんて考えた事もなくて、本当に驚いただけなの!ごめんね。」


「それならよかった。じゃあ受け取ってくれるんだな?」

「も、もちろん!返せって言われても返さないから!」

「なんだよそれ!」


 あはははは!


 2人で笑いあった後、落ち着いたところで改めて、目の前に置かれていたプレゼントの箱をそっと触れた。


「ありがとう!開けてもいいかな?」

「どうぞ。」


 ラッピングされた包装紙を丁寧にめくると綺麗なケースが出てきた。


 そのケースを開けると・・・


「え?・・これって・・・」


 ケースの中身は以前腕時計のショップで一目惚れしていた、間宮が使っているozoneのレディースモデルだった。


 中身がそれだと解ると、慌ててケースを閉じて間宮の前に戻した。


「だ、駄目だよ!いくらなんでも、こんな高価な物受け取れないよ!」


「あれ?返せって言われても返さないんじゃなかったか?」

 苦笑いしながら、間宮はプレゼントを返そうとする瑞樹にそう言った。


「確かにそう言ったけど、これは駄目!こんなの貰えない!」


「これが高価って言ってたけど、いくらで売ってるんだ?」

 間宮は不思議な質問を瑞樹にした。

「え?何で値段知らないの?この時計って58000円もするんだよ!?消費税入れたら60000円超えちゃうんだよ!?」


「これの末端価格ってそんなにするんだな。」


 まだ間宮の不思議トークは続いていた。


「ごめん、さっきから何言ってるか解らないんだけど?」


「あぁ!そうだよな!ozoneとウチの会社は技術提携してるんだよ。だから、ウチの社員はメーカーから直接買う事が出来るから、安く買えるんだけど、そこの役員と妙にウマがあって、その役員に直接頼んだら殆ど原価近くの単価で売ってくれるんだよ。ショックを受けるだろうから、原価は伏せておくけど、全然たいした金額じゃないから気にしなくていいよ。」


「そ、そうなんだ。でもこれって間宮さんと・・・その・・・」


「い、言っとくけど、俺とペアにしようと思ってそれを買ったんじゃないからな!何かこのモデルって若い連中に人気で、高校生でも頑張ってバイトして買ってるらしいじゃん。だから、これならどこで使っても恥ずかしくはないかなと思っただけだからな!」


 間宮は必死になってペアにしようとしたのではないと否定した。

 否定する間宮の顔が赤くなっているのを見て、瑞樹は子供みたいにムキになった間宮が付いけている腕時計にそっと触れた。


「人気があるとか、人気がないとかどうでもいいよ。

 私は間宮さんとの、ペアウォッチをプレゼントしてくれた事が嬉しいんだよ。」


 瑞樹は握っていた手を離して、間宮の手の側にある、腕時計が入ったケースを改めて自分の手元へ移動させた。


 ケースから時計を取り出して瑞樹は左腕に付けてみて、

 間宮によく見えるように左腕を目の前に差し出した。


「どうかな?似合ってる?」


 優しく微笑みながらプレゼントした時計を見せる。

 はっきり言ってめちゃくちゃ似合ってる。

 ozoneの広報部長がこれを付けた瑞樹を見たら、ガチでCM出演のオファーを出すだろうと、思えるほどメーカー自信作の時計と綺麗な腕と、それを装着している瑞樹の美貌のコントラストが息を呑む程に素晴らしかった。


「あ、あぁ!よく似合ってるよ・・・・本当に!」


「よかった。これ本当に貰っていいの?」

「もちろん!瑞樹にプレゼントする為に買ったんだから、受け取ってもらわないと困るよ。」


「うん!じゃあ遠慮なくいただきます。本当にありがとう!ずっと大事にします。」

 そうお礼を言って、間宮が付けている時計が目に入り、本当にペアの時計を付けている事を実感して、嬉しそうにはにかんだ。


「それと・・・・これもどうぞ。」


 そう言って間宮は瑞樹の前に、そっと名刺を置いた。


「これって名刺?」

 そう言いながら瑞樹は名刺を手に取って、表に印刷されている部分を読んだ。

 読み終えてから、なんとなく裏を見て目を見開いた。


「え?これって・・・」

 そう呟いて慌てて間宮の方を見た。


「これなら、今度いつ会えるとか連絡とれるだろ?」

 間宮はニッコリを笑みを浮かべてそう言った。


 名刺の裏には間宮の個人の携帯番号とアドレス、そしてlineのIDが書き込まれていた。


「う、うん!これ登録していいんだよね?連絡してもいいんだよね?」

 瑞樹は不安そうに確認した。

「もちろん!いつでも連絡してくれていいよ。」


 その言葉を聞いて瑞樹はようやく安心した表情を浮かべて、間宮の名刺を自分の胸に押し当てた。


 ずっと知りたかった。でも断られるのが怖くて聞けなかった。そう考えると、今まで自分の連絡先を聞いてきた人達って凄いなと、素直に感心させられた。

 聞かれる度に、バッサリを断り続けた瑞樹だからこそ、断る方の気持ちは分かっていても、断られる気持ちは未経験なだけに、怖かったのだ。


 それからすぐに自分のスマホに間宮のデータを登録して、早速目の前にいる間宮に電話した。


 当たり前だが、間宮のスマホが震えた。


 自分の番号を教える為にかけているのだろうと、電話に出ずに震えている自分のスマホを眺めていた。

 だが、ワンコールで十分なはずなのに、一向に電話を切ろうとしない。


「・・・てよ。」

「え?なに?」

「電話に出てよ。」

「え?何で?」

「いいから!電話にでて!お願い!」

 真剣な表情で訴えかける瑞樹を見て、よくわからないが電話にでた。


「も、もしもし?」

 目の前にいる相手からの電話に出る妙な状況に、首を傾げながら、スマホに声を当てた。


 瑞樹の耳に間宮の低くて耳に馴染む声がスマホ越しに届く。

 いつもの会話で聞く聞こえ方とは違って、まるで耳元で囁いているような聞こえ方に、瑞樹はドキドキと心臓が跳ねた。


 顔を赤く染め、間宮の声の余韻に浸ってから、瑞樹もスマホ越しに一言だけ発した。

「ありがとう。」

 そう言って幸せそうな表情で電話を切った。


 電話を切った間宮は不思議そうな表情で瑞樹を見ている。

 そんな間宮の視線に気付いた瑞樹は苦笑いで誤魔化した。


 その後店を出て駐輪場まで歩いて、お互いの自転車を出したところで、もう時間も遅いし、自宅まで送ると言ってくれたから、瑞樹はその言葉に甘える事にした。


 帰宅途中にプレゼントされた腕時計が0時を知らせるアラームが鳴った。


 この瞬間、瑞樹の誕生日が終わった。


 親友の加藤や神山達が素敵な誕生日会を開いて祝ってもらい、妹からのサプライズケーキを食べて、想い人からペアの腕時計をプレゼントされ、ずっと知りたかった携帯番号やアドレスまで教えてもらった。


 この18歳の誕生日はいつまでも忘れない。絶対忘れたくない!そう綺麗な月に誓う瑞樹だった。

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