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29  作者: 葵 しずく
3章 過去との決別
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第4話 Birthday act 2

 ヴェルダンを出ると、瑞樹は大事な用事を思い出して、3人に話しかけた。


「ね!皆はまだ時間大丈夫?」


「ん?大丈夫だけど、どうしたの?」


「ちょっと付き合って欲しい所があるんだけど。」


 加藤達3人は顔を合わせて問題ない事を確認すると、瑞樹の誘いを了承した。


 目的地へ向かって歩いていると、加藤が瑞樹に目的地はどこと聞いてきた。

「どこに行こうとしてるの?」

「ん?少し歩いたとこにあるパン屋だよ。」


「パン屋さん?」

「そ!待ち合わせ前に探索してて、見つけたお店なんだけど、そこで食べて欲しいパンがあって、感想を聞かせて欲しいの。」


 そう説明をしていると目的地の店の前に到着した。


 瑞樹は3人を待たせて、1人で店内へ入っていった。

 目的のメロンパンをチェックすると、もうラスト1個だけになっていて、瑞樹は慌ててその一個をトレイに乗せた。


 現在13時30分。焼きあがったのが13時だったはずだから、僅か30分で売り切れ目前の売れ行きだった。

 何個焼きあがったのかは知らないが、これだけ人気なら期待が高まる。


 店をでて、何とか1つだけ買えたメロンパンを四等分にして、3人に手渡した。


「メロンパン?」

「そう!ここのメロンパン凄く人気で店頭に並んでもすぐに完売してしまうらしいんだ。その大人気パンの感想を聞かせて欲しいの。」


 それを聞いた加藤達はゆっくりと味わうように、メロンパンを食べてみた。


「うん!すごく美味しい!ビスケット生地もサクサクだし、中の生地も凄くしっとりしてる。」

 まず加藤が感想を述べた。

「そうだね!それとこのパンの香りがいいね!これは通ってまで買おうとする気持ちわかるかも!」

 神山も続いた。

「うん!美味い!皆食べた後で腹いっぱいのはずなのに、こんなに美味しく感じるのは、本当に美味い証拠じゃないかな!」

 佐竹もこのメロンパンに太鼓判たいこばんを押した。


 仕掛け人の瑞樹も一口食べてみる。

「!!美味しい!なにこれ!ヤバい!」

 加藤達の評価も上々!自分で食べても本当に美味しかった。


「うん!ここのショップで仕入れしたいな!」

 瑞樹は目をキラキラさせて、頷きながら呟いた。


「仕入れって?」

 神山がそう質問してきた。

「うん!実は今年の文化祭でウチのクラスがカフェをやる事になったんだけど、カフェをやるクラスが多いから、他のクラスと差別化する為に、外部から日持ちする菓子パンを仕入れる事になって、そのショップを探してたんだ。」


 神山の質問にそう答えると、加藤の鋭い勘が冴え渡った。


「その提案者って志乃でしょ?」


 ギクッ!


「な、なんで?」

 瑞樹は加藤の鋭い質問に、目線を泳がせながら聞いた。


「パンの仕入れ話を提案して、調理パンじゃなくて、菓子パン、それもピンポイントでメロンパンを仕入れる様に、志乃が提案したんじゃない?」

 加藤の推測が見事に大正解だったから、詳細を説明しだした。

「そうだよ。クラスの皆が豪華な打ち上げをする為に、凄くやる気満々だったから、私も協力しようと思って提案したの。」


 そう説明を終えた瑞樹に、加藤は腕を組んでニヤリと笑みを浮かべて続けた。

「表向きはそうなんだろうけど、本当の狙いは違うよね?」


「え?そんな狙いなんてないよ・・・」

 瑞樹は加藤から視線を外して否定した。


「本当の狙いって?」

 神山は興味津々で加藤に聞いた。


「志乃の本当の狙いは、メロンパンを餌に間宮先生を文化祭に誘う事なんじゃないの?」


「ち、違くて・・・・」

 否定しようとした瑞樹だったが、加藤の推測を聞いて、神山と佐竹は特に驚く様子がなく、もうとっくにバレてるんだと分かって、否定するのを諦めた。

「ち、違くはないんだけど・・・その・・・私が一方的に憧れてるだけで・・・出来れば最後の文化祭だし、一緒に回ってくれないかなって思って・・・」

 顔を真っ赤にして両手の人差し指をツンツンと合わせながら本音を3人にぶっちゃけた。


 そんな瑞樹の肩に神山がポンっと手を置いて、ニッコリと笑顔で口を開く。


「あはは!もう、可愛すぎでしょ!瑞樹さんは!」

「そ、そんな事ないから!18にもなってこんな事でいちいち恥ずかしがってる自分が情けないって思ってるもん。」

 本心で否定する瑞樹に、神山は前から思っていた事を話しだした。


「瑞樹さんが何故そんなに自分に自信がないのか知らないけどさ!初めて会った時から、勿体無もったいないいって思ってたんだ。瑞樹さん程の女の子がそうなってしまったのは、きっと色々あったんだと思うけど、もっと自信を持ってこんな回りくどい事しないで、正面からぶつかっていけばいいと思う!」


「でも・・・間宮さんは・・」

 瑞樹が何を言おうとしているのか分かっている神山は、瑞樹が最後まで話そうとしている事を途中で切った


「年齢差の事だよね?確かにあれだけの大人が高校の文化祭に来るってのは想像しにくいけど、瑞樹さんがちゃんと誘えば、きっと来てくれるよ!」


「そ、そうかな・・・」

 瑞樹はまだ自信がもてない感じだったが、


「そうだよ!大丈夫!頑張れ志乃!」

 加藤がそんな瑞樹を後押しした。


「う、うん!そうだね!やってみないと分からないよね!ありがとう、愛菜!神山さん!私、頑張ってみるね!」


 瑞樹の宣言を聞いて、加藤と神山は笑顔になって

「うん!頑張れ!」

 そう瑞樹に心からエールを送った。


 その後4人で通りの探索を暫く続行して、W駅で解散した。

 一旦荷物を自宅へ置く為に帰宅すると、希がリビングでテレビを見ながらくつろいでいた。


「ただいま。」

「おかえり、お姉ちゃん。」

「今日初めて降りた駅前で美味しそうなシュークリームがあったから、お土産で買ってきたんだけど、食べる?」


「え!?シュークリーム!?食べる!食べる!」

「じゃあコーヒー淹れるね。」

「あ!私が淹れるよ!」

 そう言ってソファーから飛び出した希は、慣れた手つきでコーヒーをドリップし始めた。


 ドリップしたコーヒーのいい香りが部屋に広がっていく。

 鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れている希を見ていると、

 口止めされているバースデーケーキの事を話しそうになる。


「そういえばさ!今日って愛菜さん達主催の誕生日会だったんでしょ?どうだったの?」


「え?あぁ!凄く楽しかったよ。友達のお父さんが経営しているステーキハウスで、ビーフハンバーグご馳走になったんだけど、食べた事がない美味しさだったんだ。今度家族で食べに行こうよ!」


「へ~!それはすごいね!」

 希は瑞樹の方を見ないで、コーヒーを淹れるのに集中しながら、そう言った。


 それから少し話すのを戸惑ったが、話の続きを話しだした。

「最後に店内でバースデーソングが流れ出してね!愛菜達がそれに合わせて歌ってくれて、周りのお客さんも手拍子してくれてさ!スタッフさんが愛菜達からってバースデーケーキを運んできてくれて・・・凄く感動して泣きそうだったよ・・」


 そう言って希をじっと見つめた。


「それはすごいね!今まで誕生日会ってやってもらえなかったのが、まとめてやってきたって感じじゃん!よかったね!お姉ちゃん!」

 希は自分の事のように嬉しそうな表情で言った。


「うん・・・・」

 瑞樹は思いだして泣きそうになるのを、俯いて必死にこらえた。


「よし!コーヒーはいったから、シュークリーム食べようよ!お姉ちゃん!」

 希はマグカップを2つリビングへ運びながら、瑞樹を呼んだ。


 ーーありがとう、希!本当に嬉しかったよ。ーー


 リビングへ向かう希の背中を見つめながら、瑞樹は心の中で感謝した。

 普段は自分勝手で天真爛漫な希だが、根は思いりがあって、凄く優しい女の子だ。ただ人一倍照れ屋で意地っ張りなだけで・・・

 そんな本当の妹を家族以外が知ってくれている。

 それが何だか瑞樹は嬉しかった。


「お姉ちゃん!早く食べようよ!」


 希に催促されて我に返った瑞樹は急いでリビングへ向かった。


 ソファーに座って希が淹れてくれたコーヒーを一口飲む。

「アチッ!」

 猫舌の瑞樹には、まだ熱すぎて舌をペロっと出した。


 希は目をキラキラさせながら、シュークリームの物色に余念よねんがない。


「そんなに必死に選ばなくても、お姉ちゃんお腹いっぱいだから、私の分も食べていいよ。」

 そう言うと希は顔を上げて、嬉しそうな顔をして

「ホント?ホントに貰っていいの?嬉しい!私今月お小遣いピンチだったんだ!いっただきまーす!」


 無理してホールケーキなんて買うからじゃない・・・

 ホント馬鹿なんだから・・・

 心の中でそう言うと、また涙がにじんでくるのを必死に堪えた。


 嬉しそうにシュークリームを頬張ほおばる希をニコニコ顔で眺めていた。


「ほら!カスタードが口の周りに付いてるよ!そんなに慌てなくても誰も取ったりしないってば!」

 そう言って瑞樹は希の口に付いたカスタードを指で取り除いて、自分の口で舐めた。


 2人はお互いの顔を突き合わせて笑いあった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の夜、予定通りゼミの講義を終えた瑞樹は、教わりたい箇所があった為、今日講師をしていた藤崎に質問していた。


 藤崎は合宿の時と同様に熱心に説明してくれた。


「どう?これで理解出来たかな?」

「なるほど!だから訳し方が変わったんですね!わかりました、ありがとうございました。」

「どういたしまして!相変わらず英語を頑張ってるみたいで嬉しいわ。」


 そう言った藤崎の口元が目に入った。

 やはりあの時の口紅と同じ色をしている。


「それじゃね!お疲れ様!」

 藤崎は講義室を出ようとした。

「ちょっと待ってください!」

 瑞樹は思わず藤崎を呼び止めた。

「ん?まだ解らない所があるの?」

 顔だけ瑞樹の方を向きながら、立ち止まってそう聞いた。


「あ、あの!いつもその口紅を使ってるんですか?」

「口紅?そうね~最近はこればかり使っているけど・・・どうして?」

 藤崎は首を傾げながら、そう言ってきた。


「えと・・・合宿から帰ってきた日に・・その・・」

「??」

「い、いえ!やっぱりいいです!すみません!失礼します!」

「え?ちょっと!瑞樹さん!?」

 瑞樹は呼び止められているのを、聞こえないふりをして、慌てて講義室から立ち去った。


 ゼミを出て駅へ向かう。

 かなり遅い時間になってしまって、人通りも(まだらだ。

 トボトボと歩きながら、やはり怖くなって真相を聞けなかった事を悔やむ。

 本当の事を聞かされた時、どんな顔をしたらいいかすら、想像するのが怖かった。


 以前の自分なら、身を引いていたかもしれない状況だ。

 でも!間宮の事だけは引けない。

 自分にとって間宮の存在が、どれだけ大きいものか知ってしまったから。

 だから間宮の事だけは、自分から白旗を振って諦めるわけにはいかないのだ。

 どんな結果になるか分からないが、途中リタイヤだけは絶対にしないと強く心の中で、改めて決意した。


 O駅に到着してホームで電車を待っている間、いつものキーホルダーを転がしながら、間宮との出来事を思い出していた。

 思い出せば思い出す程、どれだけ自分の心が間宮に奪われているか痛感する。


 でも!そんな今の自分が結構気に入っていた。


 電車に乗ってA駅へ到着する頃には、今日の誕生日会での出来事が消えていて、頭の中は間宮一色に染まってしまっていた。


 会いたい・・・・一目だけでいいから会いたい・・・


 深刻そうな表情でそんな事を考えながら、改札を抜けて駅の外へ出ようとした時、通り過ぎようとした駅の外壁が何故か気になった。


「遅くまでお疲れ!」


 気になっていた外壁から、そう声をかけられた。

 ずっと聞きたかった低くて耳に馴染む安心する声。

 声をかけられてから数歩進んだ所で足が止まった。
































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