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29  作者: 葵 しずく
2章 導かれて
28/155

第21話 仲間達との誓い・・そして自分へのけじめ・・act 3

 最後の講義を終えた間宮と藤崎は通路で鉢合わせるが、

 2人共歩みを止める事なくお互いの目を見ながら近づいて行く。


 そしてすれ違う手前で間宮は右手を上げて、すれ違いさまに藤崎が間宮の右手めがけて


 パーンッ!!


 藤崎は力いっぱい間宮の右手を叩き、いい音を響かせハイタッチをして、そのままお互い歩き去った。

 その時2人の表情は充実感と達成感で満たされたように、笑みを浮かべていた。


 その2人の様子を、こっそりと朝一で最後の挨拶の為に、施設へ来ていた天谷が呟いた。


「どうにかして2人共ウチに引き込めないかしらねぇ。

 あのコンビは必ずウチの看板になるわ!」

 ニヤリと笑みを浮かべながら言い切った。


 天谷の秘書が思わず

「社長・・・物凄く悪い顔をされてますよ・・・」

 ため息混じりにそう忠告した。


「あら!悪い顔なんて失礼ね!戦略的な顔って言ってくれるかしら?」


「は、はぁ・・・」

 物は言いようだと秘書は思ったが、声に出すと後が面倒臭いのでやめた。




 講義が終わり各自荷物の整理を済ませ、中央ホールへ集合した。


 壇上の中央に天谷が立って、その天谷を挟むように講師達が並んだ。


「皆さん、長期の合宿お疲れ様でした。

 この合宿はどうでしたか?って質問する必要はなかったですね。

 皆さん、凄くいい顔していますよ。その表情だけで十分です。

 また明日から通常の講義が始まるわけですが、この合宿で得た物をさらに磨いて上を目指して下さい。夏休みだからと決して油断だけはしないように!」


「はい!!」

 天谷の挨拶に生徒全員が元気に返事を返して、社長の挨拶は終わり、続いて講師達の挨拶が始まった。


 数学の奥寺から始まり横へ順番に挨拶をして行く。


 そこで間宮は気付く。また自分がトリになっている事に。

 トリを避けようと気配を消して、隣に立っている村田の背後に回り込んで、村田と藤崎の間に割り込もうとしたが、さっきまであった筈のスペースが無くなっている・・


 それでも無理矢理入り込もうとしたら、村田と藤崎の肘に押し返された。

 何度やっても押し返される・・・・


 仕方がないから、2人の耳元に小声で話しかける。

「あの・・・また僕がトリみたいなので、代わってもらいたいのですが・・」

 間宮はそう2人に呟いてから、再度入り込もうとしたが、

「無理です!」

 2人同時にそう言いながら、さらに強い力で押し返した。


 その3人のやり取りに気付いた数人の生徒は笑いを堪えるのに必死だ。

 瑞樹も気付いたうちの1人だ。と言っても彼女は最初から間宮しか見てなかっただけだが・・・


 そうこうしているうちに、藤崎まで順番が回ってきた。

 藤崎はマイクを受け取ると、挨拶を始める前に、

「間宮先生!往生際が悪いですよ!いい加減諦めてトリを飾って下さいね!」

 ニヤリと笑みを浮かべて、間宮を横目で見ながら言い聞かせる様に言った。


 間宮は諦めてションボリしながら元の位置に戻った。


 それから、藤崎と村田は当たり障りのない挨拶を済ませて、間宮にマイクを届けた。

 間宮は腹を決めてマイクを構えた。

「え~皆さんお疲れ様でした。挨拶って事ですが、先ほどの講義の後で、僕が皆さんに言いたかった事は伝えたので、特にないのですが、1つだけ言いたい事を、とゆうかお願いしたい事があります。

 自宅へ帰宅されたら、ご両親にちゃんと感謝の気持ちを伝えてください。

 この合宿の参加費は決して安くはありません。その参加費を捻出するのにご苦労されたと思います。親なのだから当たり前なんて思わずに、しっかりお礼を言って下さい。

 親というのは子供の幸せだけを考えて、そして子供がいくつになっても心配しながら、日々頑張っておられます。

 だからなるべくマメにご両親に、今日あった出来事とかを話してあげて下さい。きっと安心されると思いますので。

 こんな話をしていると、僕も親の声が聞きたくなったので、帰ったら電話してみます・・・・・・・・3年ぶりに。」



「!間宮先生が一番親を大切にしてないじゃん!」

 加藤が素晴らしい反応速度でツッコミをいれた。


 あははははははは!

 会場が笑い声で溢れかえった。

 間宮らしい笑いの取り方で合宿全スケジュールを消化して締めた。




 中央ホールを出て、スタッフがチェックアウトの手続きを行っているうちに、生徒と講師達がバスへ乗り込む。

 最後にスタッフが点呼をとって、お世話になった施設を後にした。


 暫く移動して昼食をとる為に規模の大きな道の駅に到着した。


 そこで昼食とお土産を買う予定になっている。


 バスから降りて瑞樹は間宮を誘おうとしたが、奥寺に先を越されて連れ去られてしまった。

 ならばとお土産を買っている時を狙ったが、間宮は終始スマホで電話をしながら、お土産を選んでいて、瑞樹は自分のお土産を買いながらずっとチェックしていたが、結局電話を切ったのは、バスへ乗り込む直前だった。

 また作戦が失敗に終わった。バスの席は間宮とは大きく離れており、とても話が出来る状態ではなかった。


 こうなったらバスがゼミに到着した時に先生を捕まえるしかない。

 そう考えて到着したらすぐに降りられるように、手持ちの荷物を頭の上の棚から下ろして、足元へ忍ばせて準備をしてから、寝不足だった体を少しでも休ませる為に、加藤達が楽しそうにおしゃべりしていたが、少し眠ると伝えて仮眠をとる事にした。



 それから数時間後、バスがゼミの前にある駐車場へ到着した。

 しっかり睡眠をとって体力が回復した瑞樹はバスが止まり切る前に、手持ちの鞄を握り締めて準備を整えて待機する。


 バスのドアが開いた瞬間立ち上がり通路へ出ようとしたが、タッチの差で数人が先に通路を出て歩き出していた為、少し足踏みをさせられた。

 しかも運が悪い事に瑞樹はかなり後ろの席で、間宮は最前列に座っていた為、瑞樹は通路へ出た時点で、もうすでに間宮はバスから降りていた。


 ようやくバスから降りてスーツケースを受け取る場所へ向かったが、間宮はもう荷物を受け取り終えたらしく姿が見えなかった。


 慌てて自分のスーツケースを探していると、加藤が駆け寄ってきた。

「志乃!間宮先生を探してるんだよね?」

「う、うん。でも、もうここにはいなくて・・」

 瑞樹はまるで心細くて泣き出しそうな子供のような表情をしていた。

「大丈夫!志乃のスーツケースは私が受け取っておくから、アンタは先生を探しに行って!」


「で、でもそんなの悪いし・・・」

「いいから!早く!!」

 加藤が珍しく声を荒らげた。

 そんな加藤に驚いたが、すぐに視線を人だかりが出来ている広場へ向けて

「うん!お願い!ありがとう!愛菜!」

 そう言って瑞樹は走り出した。


 探そうとしだした時に、スタッフが拡声器でアナウンスを始めた。

「皆さんお疲れ様でした。預けていた荷物を受け取った方から、解散して結構ですので、気をつけて帰宅して下さい。」


 そのアナウンスを聞いて、荷物を受け取り終わっている生徒達は、すぐに帰宅を始める者、まだ駐車場から動かないでグループになってしゃべっている者と別れて、変則的な人の流れが出来てしまい、人探しをするのは困難な状況に陥ってしまった。


 そんな人ごみの中で見覚えがある横顔が僅かに視界に入った。


「いた!間違いない!先生だ!」


 瑞樹はそう確信を得て、間宮の側へ向かおうとしたが、目の前に帰宅を急ぐ人の流れの壁に遮られた。


 しかし瑞樹は全く動じる事なく、持っていた鞄を体の前に固定して構えた。

「志乃さんのバーゲンで鍛えた、すり抜けスキルをナメるなよ!」


 そう言い放つと間宮目掛けて人の壁に突っ込んだ。

「すみません!横切ります!」

 そう大きな声で叫びながら、壁に突入した瑞樹は、人との衝突を最小限に抑えて、華麗なステップで人ごみを避けながら突き進む。

 幾多のバーゲンで培ったスキルは伊達ではなかった。


 見事に壁を突破した瑞樹は間宮を再度ロックオン!

 こちら側は人がまばらで障害はもう皆無だった。


 もう少しで間宮の元へたどり着ける。

 だが間宮の向こう側に誰かがいるのが見えた。

 その人物が誰なのか確認した時、瑞樹は足を止めた。


 間宮といるのは天谷だった。

 2人は何か近づきがたい雰囲気で話し込んでいる。

 その2人に気後れしてこれ以上近づけなかった。


 暫く2人を見ていると、天谷が通りの方を指をさしながら、間宮から離れた。


 いまだ!


 そう決めて止まっていた足を、再度動かしてようやく間宮を捕まえた。


「あ、あの間宮先生!」

 近づいてすぐに間宮に声をかけた。

「ん?あぁ、瑞樹さん。どうかしましたか?」

 間宮は必死な表情の瑞樹を見て、少し驚いた声で応えた。


「あの、この後少し時間を頂けませんか?どうしてもお話したい事があるんです。」

 真剣な表情で間宮に頼んだ。


 それを言った直後、一瞬、間が空いた。その時、間宮は思いつめた顔をしたように瑞樹には見えた。


 それから間宮は重そうに口を開いた。

「すみません。これから社長が講師とスタッフを集めて打ち上げを開いてくれるそうなので、今からその店へ向かわないといけないんです。」

 そう言って軽く頭を下げてから、間宮は通りの方へ歩き出した。


 瑞樹は諦めずに更に言葉を重ねた。

「10分!いえ!5分だけでも構いませんから!」


 間宮はその言葉を聞いても、瑞樹の方を見る事なく背を向けたまま

「すみません。」

 それだけ言い残して、瑞樹の元を立ち去った。


 その間宮の態度を見て、今朝からあった疑念が形になっていく。

 ずっと腑に落ちなかった。

 昼食をとる為にバスから降りた時もお土産を見ている時も、確かにタイミングが悪かったが、どちらも間宮と視線が合っていた。

 いつもの間宮なら自分に気づいたら、気を使って声を必ずかけてくれたはずなのだ。


 ・・・・・・・もしかして、私・・・・先生に避けられてる?・・・・

 その疑念が形になったのは、さっきの間宮の態度が原因だ。

 あんなの先生らしくない。

 意図的に避けてるとしか思えない。


 瑞樹はそう頭の中で結論づけて呆然と立ち尽くした。


 何で?私何か気に障る事した?全く心当たりがない・・・どうして急に私の事を避けだしたの?どうして・・・・



 暫くそのまま立ち尽くす瑞樹を呼ぶ声が聞こえた。

「志乃!!間宮先生いた!?会ってあの話できたの?」

 走ってきた加藤は軽く呼吸を弾ませながら、結果を聞いた。


 加藤の方へゆっくり向きを変えて

「うん。愛菜のおかげで会えたよ。でも打ち上げがあるからって話は聞いてもらえなかったよ・・・」

「え?打ち上げって・・・そんな急にやるものなの?少しくらい時間あったんじゃない?」

「うん。私も5分だけでもいいからって言ったんだけど・・・すみませんって言ってお店に向かっちゃった・・・」

 落ち込んだ表情を隠さず、加藤に詳細を説明した。


「ねぇ・・・愛菜・・・私さ・・・間宮先生に避けられてるっぽい・・」

「え?そんな事ないって!考え過ぎだって!」

 加藤はネガティブな考えをしだしている瑞樹を否定した。


「ううん、勘違いじゃないと思う。今日一日ずっと先生を見ていたから分かるの・・・今日の先生、私にだけ態度が昨日までと全然違うんだよ・・」


「志乃・・・・」


「愛菜・・・私・・・先生に何かしたかな・・・ほら!私ってこんな奴だから、空気読めないとこがあるじゃない?だから知らないうちに、嫌われるような事しちゃったのかな・・・って・・」


 加藤にも検討もつかなかった。

 考え込んでいる加藤を呼ぶ声が届いた。

「お~い!カトちゃん、みっちゃん!そろそろ行こうよ!」

 神山が大きく手を振って、2人とは少し離れた場所から呼びかけた。


「あ!うん!わかった!」

 加藤も神山に手を振って応えた。


「とりあえずさ!今日は残念だったけど、話をするチャンスは今回だけじゃないんだしさ!また仕切りなおして頑張ろうよ!」


「うん・・・」

 瑞樹は無気力な返事を返すだけだった。


「それでさ!今から神ちゃん達とお疲れ会兼ねて、晩ご飯食べに行こうって話になったんだけどさ!志乃も行こうよ!」

 瑞樹を少しでも元気づけようと、明るく振舞いながら食事に誘った。


「うん・・・・ごめん・・・やっぱり今日は帰るね。」

「え?でも・・」

「何か色々疲れちゃったし、それにこんな状態で行ったら、皆に気を使わせてしまうだけだしね・・・ごめんね。神山さん達にも宜しく伝えておいて・・」

 瑞樹は頑張って無理に笑顔を作って誘いを断った。


「そっか・・・うん・・そうだね。わかった!伝えておくね。」


「それじゃ、お疲れ様。またね!」

 そう言って小さく手を振った。

「うん!お疲れ様!またね、志乃!」

 加藤も手を振って、瑞樹を見送った。




「あの、すみません。」

 瑞樹を見送っていた加藤の後ろから、聞きなれない声で話掛かられた。

 振り返ると20代後半位のスーツ姿の男が立っていた。

「はい。」

 返事だけ返すと男は要件を話しだした。

「この集団って天谷さんとこのゼミの合宿帰りで正解?」

「え?はい、そうですけど。」

「やっぱりそうか。オフィスからバスがここへ入っていくのが見えたから、そうじゃないかと思ったんだ。」

「はあ・・・」

 話が見えない加藤は困惑気味で相槌をうった。


「でさ!この中に間宮って奴がいると思うんだけど、どこにいるか知らないかな?自分の荷物に俺らの土産も持って、電車で帰るのも大変だろうから、ここで受け取ろうと思って来たんだけど、見当たらなくて、携帯もバッテリーが切れているみたいで繋がらなくてさ。」


「あ!間宮先生のお知り合いの方ですか!」

 加藤はようやく合点がいった。


「間宮・・・先生?・・

 プッ!そ、そっか!今あいつ先生だったんだっけ・・・あいつが先生とか・・ククククク・・・」

 間宮の知り合いだと名乗る男は、手を口に当てて思わず吹き出した。


「先生なら他の講師達と打ち上げ会場へ向かったみたいなので、ここにはもういませんよ。

 それより、間宮先生が今は先生ってどうゆう意味か聞いていいですか?」


「そっか!じゃあ、あいつを捕まえるのは無理っぽいな。

 ん?どうゆう意味って・・・間宮から何も聞いてないの?

 あいつはさ・・・・」







 瑞樹はO駅のホームでベンチに座って電車を待っていた。

 まだ気持ちの整理がつかない瑞樹は俯いたまま、あのキーホルダーの玉状の飾りを指で転がしてながら考え込んでいた。

 どれだけ考えてもやはり避けられている原因に心当たりがなく、困惑状態に陥っていた。


 そんな瑞樹のスマホが震えた。着信名を確認すると加藤からだった。

 正直、今は誰とも話したくない気分だったが、相手が加藤なら電話に出ないわけにはいかず、軽く深呼吸してから通話ボタンをタップした。


「もしもし?愛菜?どうしたの?」

「あ!志乃!?今どこにいるの?」

「O駅のホームで電車を待ってるところだけど?」

「そっか!よかった!間に合った!」

「間に合った?どうかしたの?」

「志乃!今すぐこっちに引き返してきて!」

「え?どうゆう事?」

「今日間宮先生にあの事を話さないと、今度いつ話せるか解らないんだよ!ううん!最悪の場合、もう会えないかもしれないの!」

「何言ってるのよ。またゼミに行けば先生はいるんだから、いつでも話せるじゃない。」

「さっき志乃と別れてから、間宮先生の知り合いって言う松崎って人に声をかけられて話をしたんだけど、間宮先生って本当は講師なんかじゃなかったの!」

「・・・・・・え?」


 加藤は松崎から聞いた話を瑞樹に説明した。

 松崎と間宮は同じ会社の同僚で、間宮は講師ではなく、本当は天谷のゼミを担当しているIT関連の営業マンだとゆう事、その天谷に頼まれて合宿に講師として同行していただけだとゆう事、明日からは会社員に戻って、ゼミには殆ど出入りしなくなるとゆう事を伝えた。


「・・・・・・・・・」

 瑞樹は絶句するしかなかった。

「もしもし?聞いてる?間宮先生の会社に行けば会えるかもしれないけど、高校生の私達が出入り出来る場所じゃないから、取り次いでもらえるか解らないし、先生の連絡先って教えてもらってないんでしょ?

 なら!もう他の講師達もスタッフもいなくなってしまってるけど、ゼミに戻れば打ち上げしてるお店を知ってるスタッフがいるかもしれないし、もし誰も知らなかったら、2人でこの辺りのお店を虱潰していけば、見つかるかも知れないから、探しに行こう!!」



「・・・・・ありがとう、愛菜。でも・・・・もういいよ。」

「は?何言ってんの!?もう諦めちゃったの!?」

 断られた加藤は語尾を強めて諦めたのかと問い詰める。



「ううん、そうゆうわけじゃないんだけど、これ以上誰かに助けてもらわないといけない事なら、もし探しに行って先生を見つけられたとしても、この先も迷惑かけると思うんだよね。そんなの変じゃない。だから今回の事は私だけでなんとかしてみたいんだ。もしこのまま会えないようなら、それが運命だったんだと思う。愛菜の気持ちはホントに嬉しいんだよ?でも愛菜にはわかってほしい・・・。」


「・・・・・そんな言い方ズルい!もう何も言えないじゃない!」

「ごめんね、助けてもらってばかりなのに、わがまま言って・・・」

 瑞樹は苦笑いしながら、電話越しに謝った。


「・・・わかった、志乃がそう言うのなら、私は見守る事にするよ。

 でも!何か手伝える事があったら、絶対に遠慮なんかしないで言ってね!」


 ガタンゴトン、ガタンゴトン!


 ホームへ待っていた電車が滑り込んで来た。


「うん!ありがとう。電車が来たから切るね。じゃあね!」


 電話を切って電車に乗り込んだ。



 運命の神様に期待しよう。私にけじめをつけさせて貰えるように・・・






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 打ち上げ会場に参加者が全員揃っていた。


 その事を確認すると、参加者の中央に立った天谷が、グラスを持って挨拶を始めた。


「皆さん!長期の合宿ご苦労様でした。労をねぎらうために、細やかではありますが、打ち上げとしてここを用意させて頂きました。今日はお腹いっぱい食べて、飲んで疲れを癒して下さい。

 それでは!乾杯!」


「乾杯!!」


 天谷の音頭に合わせて参加者もグラスを鳴らしながら、声を揃えた。


 あちらこちらで笑い声が聞こえ出して、打ち上げが始まった。


 始まって暫く間宮は現地で仲良くなった奥寺達と談笑しながら、食べ物に舌鼓を打っていた。


 そこへ会場に出来た各グループを一つずつ、参加者の労をねぎらっていた、天谷がやってきた。


「皆さんお疲れ様でした。」

「お疲れ様でした。」

 そう言って天谷とグラスを合わせた。


「どうでしたか?合宿は。」


「はい!凄くいい経験が出来たと思います。」

 奥寺は満足そうに感想を述べた。


「そうですね。今までの講師感を覆された合宿になったと思います。

 誰かさんの影響で!ですけどねw」

 そう言って藤崎達は間宮の顔を見た。


「フフフ・・・だそうですけど、間宮先生はいかがでしたか?」

「はい、講師の方々も生徒達も、皆さん真剣に合宿と向き合っておられて、僕はその流れに乗せられたって感じでしたね。」


「それはこっちの台詞ですよ!間宮先生!」

 奥寺が白い歯を見せて笑って言った。


「ほんとですよ!私なんて初日に間宮先生に叱れれたんですから!」


 あははははは!

 藤崎の自虐ネタに皆が爆笑した。


「確かに間宮先生の影響があったからだと思いますが、それでも変わられた先生方も大変素晴らしかったと思いますよ!この後に正規採用者の発表を行いますが、許されるなら今回参加して下さった先生方を全員受け入れたい気持ちです。でも経営事情でそれは出来ない事を許して下さい。」

 天谷はそう言って頭を下げた。


「い、いえ!初めからそうゆうお話だったんですから、社長が謝る必要はないですよ。」

 慌てて村田が天谷にそう言った。


「ありがとう。ではもうしばらく食事を楽しんでいて下さい。」

 そう言って天谷は次のグループの方へ向かっていった。


 天谷が立ち去ってすぐに、村田が間宮の元へやってきた。

「間宮先生、お礼を言うのが遅れましたが、今日の講義立ち合わせて頂いてありがとございました。」

「いえいえ!どういたしまして。何か参考になる事ありましたか?」

「はい!凄く勉強になりましたし、納得もできました。」

「納得ですか?」

「ええ!何故間宮先生の講義は皆に受け入れられたのか、そして何故僕の講義は駄目だったのかが、よく解りました。」

「駄目だなんて・・・」


「いえ!駄目なんです!でも負け犬になるつもりはありません!来年必ずこの合宿に参加して、正規雇用を勝ち取って、間宮先生の元へ行きますから、待ってて下さいね!」

「その事なんですが・・・実は・・」


「え~!皆さん!お楽しみのところ申し訳ないのですが、今回の合宿で判断させていただいた、正規採用者の合否判定を発表させて頂きます。」


 間宮は隠していた事を白状しようとしたが、スピーカーから流れる天谷の声にかき消された。


 会場の空気が一気に変わる。

 ピーンと張り詰めた空気が会場全体を支配した。

 約一名を除いて・・・


 講師達は強ばった表情をしているなかで、間宮はいつも通りの柔らかい笑顔を絶やさなかった。


 そんな間宮を見た他の講師達は、採用確定している間宮を羨んだ。



「では!あまり引っ張っても皆さんの心臓がもたないでしょうから、

 サクッと私の側近の西山から発表しますね。」

 そう言った天谷は側近の西山に頷いた。


 それを受けて西山はマイクを持って口を開く。

「それでは新規の正規採用者の発表を科目順で私から発表させて頂きます。

 呼ばれた講師はバッジを社長の方からお渡ししますので、前に出て整列して下さい。」


「はい!」


 講師達は緊張を隠せない声色で返事をした。


「それでは、まず数学担当から発表します。

 数学担当採用者 奥寺 勇先生!」


「はい!」

 奥寺はキリッと締まった表情で返事をして前へ出た。


 パチパチパチパチ!!!


 周りから祝福の拍手が沸いた。


「続いて国語担当・・・・・」


 数学の発表を皮切りに、順序よく次々を採用者が発表された。

 歓喜に喜ぶ者、うなだれて動けなくなってしまった者と様々だったが、

 発表者の西山は淡々と発表を続けた。


 そして次が最後の英語担当の発表になった時、

 藤崎は両手を拍手する構えを作った。


 藤崎は間宮が採用されると確信して、誰よりも早く気持ちを込めて、大きな拍手を送るつもりだった。


 藤崎の後ろにいた間宮も藤崎と同じ構えをする。


「では最後に英語担当を発表します。

 英語担当採用者・・・・」


 構えた藤崎の両手に力が入る。



「採用者 藤崎 真由美先生!」


 

















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