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29  作者: 葵 しずく
2章 導かれて
27/155

第20話 仲間達との誓い・・そして自分へのけじめ・・act 2

 合宿最終日 朝 食堂にて 瑞樹サイド



 瑞樹達がようやく掃除を終えて、遅れ気味で食堂へ入ってきた。


「ふぃ~~、やっと掃除終わった・・・誰だよ!あんなに散らかしたのは・・・」

 疲れた顔で加藤がボヤく・・・


「殆どカトちゃんじゃん!」

 すかさず突っ込む神山。

 もう相方と言っていい程の名コンビぶりである。


 朝食を受け取り、全員席についた。

「いただきます。」

 と手を合わせていると、加藤が急に吹き出した。


 プッ!ククク・・・


 瑞樹が怪訝な顔して

「なによ・・・人の顔見て吹き出したりして・・・」


「ご、ごめん!だって志乃から聞いた今朝の話を思い出しちゃってさ・・」」


「ん?今朝何かあったの?」

 南が興味津々で食いついてきた。


「それがさ・・私が志乃の服を捲りあげて、おっぱい掴んで、顔を埋めてたんだって。」

 加藤は南の耳元で小声で話した。


「えーーーーーー!?!?!カトちゃん!みっちゃんのおっぱいをもん・・・・ふごふが!!」


 驚いた南は思わず大声で叫びだしたが、それを慌てて瑞樹と加藤が南の口を塞いだ。


「バッカ!声が大きいよ!南!」

 加藤が南に怒った。


「南・・・ほんと勘弁して・・」

 瑞樹はため息混じりで呟いた。


 その会話を聞いてた、瑞樹達の周りに座っていた男共が加藤を取り囲む。

「加藤さん!その話もっと詳しく聞かせてくれない?」

「顔埋めてたってマジ!?」

「掴んだってどんな感じで掴んだんだ?」


 質問攻めに合う加藤はタジタジだった。

「え?いや!私は寝てたから、覚えてないよ!」


 すると今度は被害者の瑞樹に矛先が変わった。


「瑞樹さん!やっぱり揉まれて、感・・・」


「はいはい!もう、その話はおしまい!質問は一切受け付けません!」

 瑞樹は顔を真っ赤にしながら、その場を締めた。


 男共はこれ以上騒ぐと、本気で怒られそうな雰囲気だったので、

 渋々撤収する。


 そんな瑞樹を加藤がニヤリと笑みを浮かべて眺めている。


「なによ!」

 加藤の視線に気付いた瑞樹が恨めしそうに聞いた。


「べつに~~。」


「ヤな感じ!」


 膨れっ面で朝食を食べだした。


 食べ終わって食器を返却しようと立ち上がった時、瑞樹に声がかかった。


「み、瑞樹さん。ごめん!ちょっといい?」


「なに?」

 瑞樹はいつもの様に素っ気ない態度で、要件を聞いた。


「あの、よかったら俺とlineの交換してくれないかなって思って、これ俺のIDなんだけど・・・ダメかな?」

 そう言って声をかけた男子は、自分のIDをメモした紙を差し出した。


 そのメモを少し見つめて、すぐに男子に視線を戻して

「ごめん。初対面とか面識があまりない人とかと、連絡先の交換とかするつもりないから、そのメモは受け取れない。」


「そ、そっか・・そうだよな。俺の方こそいきなりこんな事頼んでごめんな。」


「ううん。それじゃ。」


 それだけ言い残して、瑞樹は食器を返却して部屋へ戻りだす。


 食堂を出た辺りで、後ろから加藤に呼び止められた。

「志乃!待ってよ!部屋に戻る前に自販機に付き合ってよ。」


「別にいいけど・・・」


 瑞樹は不満顔で加藤に付き合った。


 自販機コーナーへ到着した時、瑞樹は我慢出来ずに加藤に聞いた。

「ねえ!愛菜。さっき何で私の顔見て笑ってたの?」


「ん?昨日の花火大会から感じてたんだけどさ!

 間宮先生は特別として、他の男子達への対応も、少し柔らかくなってきたんじゃないかなって思ってさ!

 はい!ミルクティーでいいよね?」


 加藤は瑞樹の分まで買って、手渡たした。


 ミルクティーを受け取って、

「え?そうかな・・・私は特に意識しないで、いつも通りにしてるつもりだけど・・」


 瑞樹は考え込んで、加藤の感じた事を否定しながら財布を出した。


「あぁ!いいよ!それは私の奢りだから!」

 そう言って加藤は瑞樹の財布を押し返してから、話を戻した。


「そう?だって志乃と話した男子って今までなら、怒こらせたりしてたんでしょ?

 でも、ここに来てから誰も怒らせたりしてないよね?」

 加藤は瑞樹を指さしながら、ズバッと切り込んだ。


「!!」

「そ、そう言われてみれば、お祭りでナンパしてきた奴ら以外怒らせてないかも・・・」

 腕を組んで、目を閉じながら、思い出そうとしても、怒らせた記憶がない事に気が付いた。


「でしょ?」


「うん、これじゃ駄目だね!気が緩んでるのかな。気を引き締め直して、警戒し直さないと!」

 険しい表情で決意しようとする瑞樹に、


「いやいや!違くて!いい傾向だって言ってるんだよ。

 いつもトゲトゲした壁を作っている理由を私は知っているけど、

 でも、このままじゃ、やっぱり駄目だと思うんだ。」

 瑞樹が的外れな決意を固めようとしたから、加藤は慌ててそれを否定した。


「それはそうかもだけど・・・でも私は・・・」

 加藤から視線を外して下を向いた。


「無理だって思ってるの?そんな事ないよ!間宮先生がきっかけになって、志乃は少しずつだけど、変わってきてるよ。さっき食堂で変わってきてる志乃を見て、嬉しくなってニヤついて見てたんだから。

 それにメモを渡そうとした男子にだって、以前の志乃なら、言語道断って感じでバッサリ切り捨てたと思う。でもそうしなかったよね?しかも、ごめん、なんて言ってさ!」


「う、うん・・・

 そっか、それでさっき私を見てたんだ。」


「そ!親友の本当の姿を見れるのを楽しみにしてるんだからね!」

 加藤は人差し指を上に向けて、白い歯を見せてニッコリ笑った。


「うん、ありがとう。

 愛菜って本当に優しいね。こんな私なんかの事・・・」

「はい!ストップ!」

 加藤が瑞樹の言葉と途中で静止させた。

 瑞樹は驚いた顔をしていたが、加藤はそのまま話しだした。

「そこ!前から言おうと思ってたんだけど、志乃は何で事あるごとに、

 私なんかって言うの?何で自分の事をそんな風に言うの?」


「え?だって・・・私なんか・・・」

「ほら!また!

 いい!志乃!これからは私{なんか}って言わないって私と約束して!」


「え?そんな事、急に言われても・・・」

 困惑した表情で瑞樹は加藤に言った。


「急にじゃないよ!ずっと気になってた!志乃はもっと自信もっていいんだよ?昔の事があって以来、壁を作るようになったのだって、原因は志乃じゃないじゃん!男達を怒らせて傷つける度に志乃も傷を負ってるのだって知ってる!本当は昔の自分に戻ろうと、少しずつ勇気をだして、努力してるのも私は知ってる!

 そんな頑張ってる自分の事をなんかって言わないで!」


 加藤が真剣にそう訴えかける。

 その言葉が瑞樹の心に響いた。

 本当の自分を知ってくれている。

 表に出さずに、我慢していた事を知ってくれている。

 誰も気が付きそうにない、小さな努力を知ってくれている。


 瑞樹は加藤が言ってくれた言葉に、心が喜んでいるのを感じた。


 瞳を閉じて、加藤の言葉を心で繰り返して

 瞳を開けて真っ直ぐに加藤を見た。


 ありがとう。愛菜と出会えて本当に良かった。

 親友でいてくれて良かった。

 こんなに私の事を想ってくれている愛菜の期待に応えたい。

 だから・・・・


「うん!わかった。約束する!もう私なんかって言わないし、これからは自信をもって頑張るよ!」

 清々しい表情で加藤の目を真っ直ぐに見つめながら、瑞樹は約束を交わした。


「うん!頑張れ!志乃なら絶対大丈夫!」

 加藤は顔をクシャクシャにして笑顔でそう言った。


「あ!ミルクティー貰うね!いただきます。」

瑞樹は何だか照れくさくなって、話題を変えた。

「どうぞ!これ飲んだら、最後の講義の準備しないとだね!」

「うん!最後の講義も頑張ろうね!」


 瑞樹はこの合宿でたくさん得たものがあった。

 自身の受験生としてのレベルアップは勿論だが、

 楽しい同室の仲間達、頼りになる講師達、その中でも藤崎から受けた影響は大きいものだった。

 そして間宮の存在。

 自ら作った壁の中に身を潜めていた瑞樹が、初めて恋をした相手。

 あの事件から男性を信じられなくなった瑞樹が、唯一心を開く事が出来る存在との出会い。

 そんな中でも、加藤 愛菜とゆう心から信じる事が出来る親友との出会いが、この合宿で得た最高の宝物だったのかもしれない。






 一方、食事が終わっても間宮達の討論会は続いていた。


 そんな間宮達にスタッフが声をかけた。


「間宮先生。少しよろしいですか?」

「はい、どうしましたか?」

「今日の講義は全学年共に間宮先生を希望する生徒が多かったんで、

 中央ホールで講義して頂く事になりましたので、宜しくお願いします。」


「そうですか。わかりました。」

 間宮は驚く素振りもみせずに了承した。


 そんな間宮を見て、村田が口を開いた。

「あの!間宮先生!」

「はい。」

「今日の講義なんですが、今後の勉強の為に、私も同行してよろしいでしょうか?

 モニターで見るより、実際の雰囲気を感じながら見せて頂きたいのです。」

 真剣な眼差しで、間宮に同行する事を頼んだ。


「勿論構いませんよ。村田先生の参考になるかはわかりませんが、

 僕の方は全く問題ありませんので、見ていって下さい。」


「ありがとうございます。」

 村田は深く頭を下げて感謝した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 合宿最後の講義が始まった。


 間宮と藤崎は先に1~2年生の講義から開始した。


 2人共、希望した生徒の期待に見事に応えた講義を展開させて、

 最後の3年生の講義へ臨んだ。



 ===藤崎サイド===


 藤崎を希望した32人の生徒が開始5分前から席に着いていた。


「おはようございます。」

 藤崎は自分の講義に参加した32人の顔を見渡しながら挨拶した。


「おはようございます!宜しくお願いします!」

 生徒達は揃ってそう返した。


「皆いい目をしてるわね!この合宿が始まった頃と比べたら、別人かと思うくらいね!」

 藤崎も生徒達と同じ目をしてそう言った。


「最後の講義で私を希望した皆は、最後まで貪欲に上を目指そうとしている生徒だと私は確信しています。希望した人数を間宮先生に報告したら、それだけ英語を好きになってくれたんだと喜んでいました。

 最後の講義を私に託してくれた事を絶対後悔させたりしません!

 今日も私について来てね!いい!?」


「はい!!」

 生徒達も藤崎の気持ちに応える様に気合の入った返事を返した。


「それでは最後の講義を始めます!」



 藤崎は宣言通り、今までで一番熱のはいった講義を展開した。

 ホワイトボードを隙間なく書き込み、それを消してまた書き込む。

 それが、何度も繰り返された内容の濃い講義となった。


 生徒達も藤崎に負けない熱気で、その講義を真剣に受講する。

 参加した全員から質問が飛び交い、それをひとつ残らず藤崎が答える。


 そんなやり取りが、時間いっぱいまで行われて終了した。


 終了のアラームが鳴った時、さっきまでの真剣勝負のような講義が嘘だったかのように、静寂が生まれた。


 その静寂を破るように藤崎が口を開いた。


「これでこの合宿で私に出来る事は全てやり終えました。

 この合宿で皆が得たものは、これからの受験に向けて凄い武器を手に入れたんだと自覚して下さい。

 ただ!どんな凄い武器でも使い方を間違えば、たちまちゴミになってしまいます。

 一番の間違いは油断です。油断せずにこの武器を受験当日まで磨いて下さい。

 そうすれば、必ずあなた達の大きな味方になってくれます。

 受験結果の発表の日、最高の笑顔で全員が志望校の合格報告をして

 くれる日が来るのを信じています!

 長い合宿だったけれど、皆本当に頑張ったと思います!

 皆と過ごした7泊8日・・・絶対に忘れません!

 信じてついてきてくれて・・・ありがとうございました。」

 藤崎は最後に頭を深く下げて感謝を述べた。


 その挨拶を聞いて生徒達は全員立ち上がり、大きな拍手を藤崎に送った。

 拍手をうけて、少し目が赤くなった藤崎は満面の笑みで応えた。


 拍手を送りながら、この講義に参加していた瑞樹は、やはり最後にこの講義を選択して良かった。間違っていなかったと確信した。

 必ず最高の結果報告を藤崎先生にしようと固く誓った合宿最後の講義だった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 同時刻  ===間宮サイド===


 いつもの会議室の10倍はある中央ホールでの講義になった為、

 間宮は参加者全員が聞き取れるように、ヘッドホンマイクを装着して、自分の声を、大きなスピーカーを通して生徒達の届けられるようにした。


「3年生の皆さん、おはようございます。」

 いつもの柔らかい笑顔でそう挨拶した。


「おはようございます!」

 間宮の講義を希望した大勢の生徒達の大きな挨拶が返ってきた。


 間宮はその挨拶を受けて、柔らかい表情を消して、真剣な表情で参加した生徒達を見渡して口を開いた


「さて!これから合宿最後の講義を行うわけですが、その前に皆さんに質問があります。

 この受験を乗り越えて志望校へ入学して、それから就職して働く事になるのですが、この一連の流れを、自分の中にある未来を{夢}として持っている方は挙手して頂けますか?」

 そう間宮は生徒全員に質問した。


 その質問を受けて8割の生徒が手を挙げた。


 その結果を見届けて間宮は続けて口を開く。


「ありがとうございます。では先ほど手を挙げた生徒達にお願いがあります。

 これから始める講義中にその{夢}を{目標}として持ち直してください。

 これは私の持論なのですが、夢は夢として持ち続けている間は叶わないと思っています。それは何故かと言うと、夢として持っていては、それを叶える為にどうすればいいか、ハッキリさせれないと思うからです。

 ですが、その夢を目標へ変えれば、努力する方法が見えてきます!

 夢とは違い、目標と言うのは努力すれば必ず叶うようにできているんです!

 少しの捉え方の違いで、この先へ続いている道は大きく異なります。

 その違いを含ませた物語をこれからお話させて頂きます。」


 間宮の最後のstory magicが始まった。


 今回の物語は幻想物語ではなく、この合宿そのものを題材にした話だった。

 この合宿に参加している複数の生徒の感想を元に構成されている。

 スタート地点は違うが、最後には皆同じ方向を見て進んで行くとゆう内容のものだった。

 その内容の中に夢と目標の違いを盛り込んだ話になっており、

 生徒達はいつもより、更に深く話を聞き入っていた。


 間宮の物語の話し方にも変化があった。

 以前は淡々と優しく話して聞かせていたのが、

 今回は物語の要所、要所で語尾を荒げたり、逆に冷めたような話し方、色々な言い聞かせ方を混ぜて話した。


 その度に生徒が驚いてしまったかとゆうと、そんな事は全くなく、むしろ積極的さが増して、講義は異様な盛り上がりを見せた。


 物語は最高の盛り上がりの中で完結した。


 終わったと同時に生徒全員のスタンディングオベーションがおこり、

 大歓声が沸き起こった。


 やはり絶対的エースは間宮だった。

 物語の中に今後の人生観を盛り込み、生徒達に真剣に考える時間を与えたうえに、しっかり新しい物語を完結させて英語力アップにも繋げてみせた。



 参加していた加藤は

「夢を目標へ・・・か!よしっ!!」

 握りこぶしを作って思いを込めて気合を入れた。



 歓声が落ち着いたところで間宮が最後の挨拶にはいる


「皆さんお疲れ様でした。これで僕の全講義終了です。

 夢を目標へ持ち替えれましたか?

 まだの人は慌てなくてもいいので、ゆっくり考えて取り組んで下さい。

 夏休みが終われば受験まで一気に進む感覚があるかと思いますが、

 どうか焦らないで、ここで学んだ事を自信に変えて受験勉強に取り組んで下さい。僕の事と、この物語はいつ忘れても構いませんが、物語の中に散りばめておいた、英語への探究心と習得した事は忘れずに勉強に励げめばきっと結果はついてきます!合格発表の日に最高の結果を我々に届けてくれる日を楽しみに待っていますね。」


「はい!ありがとうございました!」

 全員が誰ひとりとして、疲れた顔をする者はいなかった。

 皆自信に満ち溢れる表情で、間宮に感謝した。


 そのまま間宮は会場を退室しようと歩き出した瞬間から、また拍手が起こった。

 間宮は照れ臭そうに頭を掻きながら、中央ホールを出たが、

 間宮がいなくなっても、暫く拍手が鳴り止まなかった。

















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