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29  作者: 葵 しずく
2章 導かれて
26/155

第19話 仲間達との誓い・・そして自分へのけじめ・・act 1

 合宿最終日 早朝


 瑞樹は気持ちよくスヤスヤと眠っていると、ジワジワと体に何かが乗っているように、重くなり寝苦しくなってきた。


 それにお腹周りが妙に冷える感覚がある。


 とうとう我慢できずに瞼を開けて、冷えるお腹周りを確認してみると・・・・


「・・・・・え?」



「むにゃ・・・これだけあれば当分生活に困らないねぇ・・・へへへ」

 寝言を言いながら気持ちよさそうに眠っている加藤が・・・


 瑞樹の服を捲くりあげて、両手で瑞樹の胸を鷲掴みして、顔はその胸と胸の間に埋もれさせていた・・・・・


「ひ、うひゃい!!」

 瑞樹は驚き過ぎて、言葉になっていない言葉を発した。


 それから慌てて加藤を体から引き剥がす。

「ちょ、ちょっと!愛菜!なにしてるのよ!

 てか!私の胸掴んで、どんな夢みてるのよ!もう!

 どうりでお腹が冷えると思った!」


 引き剥がし終えると、加藤は拗ねた顔で口を尖らせて

「チェ~~ッ!」

 と呟きながら、起きもせず眠り続けていた。


「ハァ、ハァ・・ほんとに寝てるの?」


 驚いたせいですっかり目が覚めてしまった瑞樹は、

 状況を確認する為に、周りを見渡した。


 テーブルの上には、食べ物や飲み物のゴミが散乱し、

 そのテーブル周りのソファーにはこの部屋のメンバー全員が、雑魚寝していた。



 そうだった。結局皆電池が切れるまで、喋り尽くしてそのまま寝ちゃったんだった・・


 昨夜の出来事を思い出して、額に手を当ててため息をついた。


 これは朝食前に大掃除だなと覚悟していると、出窓から光が差し込んできた。


 窓から外を見てみると、朝焼けが眩しく、また芝生の上には朝霧が降りていて、幻想的な風景が広がっていた。


「すごく綺麗な景色!」


 その景色をもっと見ようと、立ち上がって、寝ているメンバーを踏まないように気をつけながら、寝室へ移動して、7月下旬とはいえ高原の早朝は、肌寒く感じる気温だから、部屋着のジャージとその上からパーカーを羽織って外に出た。


 スウゥ~~~~~~~~~!


 外に出て鮮やかな朝日に照らされながら、瑞樹は大きく空気を吸った。

 朝霧の水分を含んだ空気が、瑞樹の肺に取り込まれていく。


 ハァァ~~~~~~~~~~~!!


 肺に取り込んだ空気をゆっくり吐き出す。


「空気が美味しい!気持ちいい!」


 瞳を輝かせながら、本棟に入りロビーを抜けて施設の敷地外へ出た瑞樹は、

 近くにハイキングコースがあるのを思い出し、そこを散歩することにした。


 ハイキングコースを暫く歩いていると、脇道にスペースが確保されている場所があり、そこにベンチが設置されていて、どうやら休憩場所のようだったので、そこで少し休憩した。


 ここから下の景色を眺められるようになっていて、瑞樹はそこから見える景色を眺めていた。

「うわ~!綺麗!こんな景色東京じゃ絶対見れないよ!」

 興奮気味に呟いていると、コースの上の方から軽快な足音が聞こえてきた。


 足音がする方を眺めていると、スポーツジャージに身を包んだ女性が下りてきた。


 スレンダーな体に軽くウェ-ブがかかった髪を1つに纏め、キャップを深かぶりした女性だった。


 こんな時間からランニングしてるんだ。かっこいいな。

 そんな事を心で呟きながら、その女性を見つめていると、

 その女性が瑞樹の視線に気付いて声をかけてきた。


「あら!瑞樹さんじゃない。おはよう!早いのね。」


「え?藤崎先生?」


「そうよ!瑞樹さんもロードワーク?」


「おはようございます!いえ!私はたまたま目が覚めて、外を見たら凄く綺麗な景色だったから、散歩してただけです。」



「そうなんだ。本当にここ気持ちいいよね。」

 そう言って藤崎は展望から下の景色を眺めていた。


 今の藤崎は化粧をしていないが、綺麗な顔立ちをしていて

 思わず瑞樹は藤崎の横顔を眺めていた。


「毎日走っているんですか?」

「まぁ!だいたいかな?天気が悪かったりしたら走らないし、この合宿中も遅くまで飲んでた翌日はサボったりしてるけどね。」

 そう言って藤崎は片目を閉じながら、軽く舌を出して笑った。


 こんなに綺麗な人でも、努力してるんだなと瑞樹は感心していた。



 そこへ藤崎が思い出したように話しだした。

「あ!そうだ!瑞樹さんに聞きたい事があったんだった!」

「なんですか?」

「今日の最後の講義って何故、間宮先生じゃくて、私の講義を希望したの?」


「何故って・・・正直に言うと間宮先生のstory magicをもう一度受けたいって気持ちはありましたけど、そのstory magicのおかげで何故英語が苦手だったのか気付く事が出来て、もっと知りたいって欲が出たんです。

 志望してる大学は英語が必須科目になっているのもありますが、出来ればですけど、将来、国際的なお仕事をしたいなって思ったんです。その為にも、今は先を見据えて、少しでも英語を伸ばしたくて、藤崎先生を希望しました。」


 瑞樹は真っ直ぐ藤崎を見つめながら、希望した理由と将来の展望を話した。


「そう!それは素敵な夢ね!いえ、瑞樹さんなら、それは夢ではなくて、目標って言ってもいいかもね!

 でも・・・フフ・・間宮先生の言う通りだったわ。」

 藤崎は含み笑いした。


「間宮先生が何か言ってたんですか?」

 間宮の名前が出た途端、俄然興味が沸いて、詳細を求めた。


「ええ、昨日の夜にね、間宮先生に瑞樹さんが、先生ではなく私を希望しているって伝えたの。私的にはショックを受けたり、寂しがったりするリアクションを期待してたんだけれど、嬉しそうに微笑んでたわ。

 最後の講義を記念に僕の講義を希望するのではなく、藤崎先生を希望するって事は、さらに上を目指そうとしているって事だから、喜ぶところじゃないですか!って言われたんだよね。」

 苦笑いしながら、藤崎は昨晩の事を説明した。


「そうですか・・・間宮先生が・・・」

 それを伝え聞いて、頬を赤らめて微笑んだ。



 そんな瑞樹を苦笑いしながら見ていた藤崎は、両腕をグッと伸ばして

「さてと!私はもう少し走ってくるね。それじゃ!またあとでね!」

 そう言って走り出そうとした藤崎を瑞樹が呼び止めた。

「あ!待ってください!今日の最終講義宜しくお願いします。」

 頭を下げて瑞樹がそう言うと

「了解!間宮先生にもよろしくって言われてるしね!まかせて!」

「はい!」

「じゃね!」

 藤崎は親指を立てながら、また軽快に走り去って行った。


 それから暫くしてスマホが震えた。

 セットしていた時間になって、アラームが鳴りだしたのだ。


「あ!いけない!もうこんな時間!早く戻って、皆を起こして掃除しないと!」


 瑞樹は慌ててコテージへ戻って行った。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 瑞樹達が大慌てで部屋の後片付けに奮闘している頃、

 間宮も早めに目が覚めた為、いつもなら部屋で飲んでいたコーヒーを、

 お気に入りの場所へ持ち込んで、マッタリしようと中庭へ向かっていた。


 中庭へ出ようとした時、デッキチェアに誰か座っているのに気付いた。


 あれ?こんな時間に俺以外の人が、ここにいるのは初めてだな。




 ハァ・・・やっぱりフラレたか・・・

 しかもフラレた原因が間宮先生とか・・キツイよ・・


 デッキチェアでため息をついていたのは、奥寺だった。

「でも、俺もあの人好きなんだよな・・・講師としても男としても憧れる・・・そんな人を今更嫌いになんかなれそうにもないしな・・

 だからといって、これからどんな顔して接すればいいんだか・・・」

 一人でブツブツと呟いていた。


 そんな奥寺の後方から声がかかる。


「おはようございます。奥寺先生、早いですね。」


 ビクッ!!


 聞き覚えがある声を聞いて、思わず体が跳ねた。

 すぐに声が聞こえた方を見ると、間宮が湯気が上がる、紙コップを持って立っていた。


「お、おはようございます。間宮先生。」

 少し気まずそうな表情で返した。


「隣よろしいですか?」

 間宮が奥寺の隣のデッキチェア付近に立って聞いてきた。


「あ、あぁ、どうぞ!どうぞ!」

 奥寺は隣のデッキチェアに向かって、手を伸ばしてそう言った。


「ありがとうございます。では失礼します。」

 ニッコリと笑顔で間宮は隣に座って、持ち込んだコーヒーを一口飲んだ。


「夏場でもホットなんですね。」

 何か話題をと探していた奥寺は、湯気が上がる紙コップを見て、話題をふった。


「ええ、朝のコーヒーだけは季節関係なくホットなんですよ。

 アイスコーヒーだとジュースみたいに一気に飲んでしまって、リラックス出来ないので。」


「そうなんですか。何となくですが、わかります。

 確かに朝は時間に追われてる事が多いですが、それでも気持ちを落ち着かせたいって時ありますよね。」


「そうなんですよ。だから忙しい朝でも、この時間は大切にしたいので、極力早く起きるようにしてるんですよ。眠くて辛い時もありますけど。」


「ははは、僕は少しでも寝ていたいので、真似出来そうにありませんね。」


 ははははは。


 2人で静かに笑った。


 それから少しの沈黙が流れたが、すぐに奥寺が口を開いた。


「あの、間宮先生。少しだけお話聞いて頂けませんか?」

 奥寺は神妙な顔つきでそう話しだした。


 間宮は少し考えたあと

「お話とは、藤崎先生への告白の事ですか?」


「え?何故それを?」

 驚いた顔で奥寺が問いかけた。


「すみません、盗み聞きするつもりではなかったのですが、奥寺先生に渡したい物があって、あの時偶然見かけたので、僕も遊歩道へ奥寺先生達を追いかけていたんですよ。追いついた時にその・・・奥寺先生が告白をされていたので、慌てて物陰に隠れていたんです。」

 申し訳なさそうな表情で弁解した。


「そうでしたか。まぁ、気にしないで下さい。

 そうか、あの見事な玉砕シーンを見られちゃいましたか。ははは」

 奥寺は苦笑いしながらそう言った。


「玉砕?断られたんですか?」

 驚いた顔で奥寺に聞き返した。


「え?あの時の会話を聞いてたんですよね?」

「奥寺先生の告白は聞いていましたが、藤崎先生の返事まで聞いてしまったら、本当に失礼なので、返事が返ってくる前に、あの場を離れたので結果は知らなかったんです。」


 それを聞いた奥寺は、少し焦りながら

「そ、そうですか!それは余計な事を喋っちゃいましたね。

 お恥ずかしい限りです。」

 恥ずかしそうに俯いた。


「何が恥ずかしいんですか?奥寺先生の告白すごく格好良かったですよ!

 告白を受けてくれたら格好がいい、断られたら恥ずかしいとは思いません。気持ちを真っ直ぐにだせた良い告白でした。羨ましかったです。」


「羨ましい・・・ですか?」


「はい。気持ちはまだ若い頃と変わらないと思っているのですが、年齢を重ねる度に、色々な柵が邪魔をして真っ直ぐに人を好きになれなくなってきているんです。だから僕は、あの時の奥寺先生を羨んでました。」

 間宮は柔らかい笑顔で奥寺に正直な気持ちを打ち明けた。


「そう言ってもらえたら、何だか救われた気分になりますね。」


「別に弁護したつもりはありませんよ。

 本心を言わせて頂いただけです。」


 間宮がそう言うと、2人は顔を合わせて微笑みあった。



 コンコン!


 ガラス製のドアをノックする音がする。


 間宮と奥寺はノック音がする方へ視線を向けた。


「何を朝っぱらから、そんな所で男同士で見つめ合ってるんですか?

 生徒達が見たら、変な噂がたっちゃいますよ?」


 そこには夏らしい水色のワンピースに、白のサマージャケットを身にまとった藤崎が苦笑いしながら立っていた。


「おはようございます。藤崎先生。」

 柔らかい、いつもの笑顔を藤崎に向けて挨拶をした。

「おはようございます。間宮先生、奥寺先生。」

 藤崎も2人に笑顔で挨拶を返した。


「お、おはようございます。藤崎先生・・・

 け、今朝は何時にも増してお綺麗ですね。」

 奥寺は緊張しながら、藤崎の容姿を褒めた。


「あ、ありがとうございます。今日は帰るので、いつもの格好だと流石に恥ずかしいですからね・・・」

 少し気まずい雰囲気はあったが、藤崎は自然に自然にと、意識して言葉を選びながらお礼を述べた。


「そうですね。今日で皆さんとお別れなんですね。何だか寂しいです。」

 奥寺はしみじみと話した。

「ほんとですね。ここに来た時は、正直皆さんと、こんなに仲間意識を持つ事になるなんて、想像もしてませんでしたが・・」


 あはははは!


 奥寺と藤崎は自然に笑いあえた。


「で!」

 それだけ言って、藤崎は我関せずと言わんばかりに、デッキチェアにリラックスした状態で、そっぽを向いてコーヒーを飲んでいた間宮の頭に肘を乗せた。


 コツン!


「いて!」


 驚いた間宮は、その肘の持ち主である藤崎を見上げた。


「間宮先生、私、今日はこんな格好でもいいですよね?」

 間宮のリアクションを楽しむように、ニヤリと笑みを作りながら、藤崎は自分の格好に理解を求めた。


「はい?何故、その事に僕の許可が必要なんですか?」

 間宮は真顔で質問を質問で返した。

 それを聞いた藤崎は呆気にとられたが、すぐに顔を引きつらせながら


「はぁ!?間宮先生が私に人気取りみたいな格好してないで、もっと生徒達の事を考えろ!って叱ったから、翌日から目立たない格好してたんじゃないですか!」

 藤崎は少し剣幕に間宮に抗議した。


「え?間宮先生!藤崎先生を叱ったんですか!?」

 奥寺も叱った事を知って驚いたが、当の本人は


「あ、あぁ!そんな事もありましたね。すみません・・・忘れてました。」


「・・・・・・・!!!!!!」

 流石の藤崎も頭にきて


「あのね!ま・・」

「でも、」

 藤崎は思いきり文句を言ってやろうと、左手を腰に当て、右手の人差し指を間宮に突きつけて話しだしたが、途中で間宮が藤崎の言葉を切って


「翌日からの藤崎先生は格好良かったですよ。勿論、今朝の藤崎先生も凄く素敵ですけどね。」


 その台詞を聞いて、人差し指を突きつけて、口をあけたまま暫く固まった。

 それからゆっくりと態勢を戻して、両手をモジモジと絡ませながら


「そ、そうですか?気に入ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます。」

 間宮に総攻撃を仕掛ける勢いだった藤崎が、間宮の一言で虎から子猫へ変貌させられた。


 その光景を目の当たりにした奥寺は、

「はは!あの藤崎先生がここまで振り回されるなんて・・・

 それも彼女を叱ったのか、あの人は・・・

 敵わないわけだ・・・」

 奥寺は納得して。スッキリした表情で2人に声をかけた。


「間宮先生、藤崎先生!もういい時間ですし、このまま朝食にしませんか?」


 それを聞いて藤崎は奥寺の存在を忘れて、乙女モードになっていた事に気が付き、慌てて表情を戻し

「そ、そうです!その事を2人に言いに来たんでした!

 最後くらい講師達全員で一緒に食べようって言ってたんですよ。」


「お!それはいいですね!間宮先生も行きましょう!」

 残りのコーヒーを飲み干してから、立ち上がって

「そうですね。では食堂へ行きましょうか。」


 3人はすぐに食堂へ移動を始めた。



 食堂へ到着すると、

 生徒達が元気いっぱいに朝食をとっていた。

 その光景を眺めながら

「この朝の光景も、今日で見納めなんですね。」

 間宮がそう呟くと、2人は声を合わせて

「はい。」とだけ返して、目を細めた。


 朝食をトレイに乗せて、他の講師達が待っているテーブルへ向かい合流した。


 その席では今日の講義の事や、これまでの講義を行ってきた傾向と対策など、色々な情報交換を行いながら、講師全員顔を合わせながら食事をした。


 この合宿が始まった頃では考えられない光景である。

 各々が正規雇用を狙って周りを蹴落とす事ばかり考えていたはずだった。


 しかし、その流れを根底から破壊したのが間宮だ。


 講師達は間宮から、大きな影響を受けて気がつくと、敵にしか見えていなかった、他の講師達と今はこんな事をしている。


 恐らく、この合宿に間宮を同行させた天谷の狙いはこれだったのだろう。


 間宮の存在が講師達に良い刺激を与える。

 いつの間にか皆、自分の事より生徒の事を考えて行動するようになっていた。


 講師達のこの一致団結した流れを作り出したのは、間違いなく間宮だ。

 間宮に刺激されて、生徒達のことだけを考えたプランニング、講義の質の向上、講師としての向上心、どこをとってもハイレベルなものだ。


 そんな講師達を周りの生徒達は、本当に心強いと目を輝かせながら見つめていた。






















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