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29  作者: 葵 しずく
2章 導かれて
23/155

第16話 お祭り!浴衣デート act 3

二人並んで祭りの本通りへ戻る。


相変わらず大勢の人で賑わっている。

最初にこの通りを通った時は、周りの人の楽しそうな笑顔が辛かった。

世界で自分だけが取り残されたような気分になって不安だった。

すごく寂しかった。


でも・・・



今は先生がいる。隣で一緒に歩いている。

私と同じ目線で、同じ物を見て、感じた事を共有してくれている。


ただそれだけの事なのに、さっきまでの寂しさも不安も全部消えて、

楽しさと充実感、それに安心感が体の中を支配している。


一人でここにいる時は、周りから見られるのが嫌だった。

顔を見られるのが嫌でずっと俯いていた。


でも今は皆に見てもらいたい。私はこんなに楽しいのだと知ってもらいたい。

勝手なのは承知しているが、そう強く思ってしまったんだから仕方がない。




「あ!先生!ここです。」

お目当てのメロンパンカステラを売っている露店に到着した。

「おぉ!いい匂い!これは期待できそう!」

間宮は目をキラキラさせながら、早速列に並んだ。


少し待っていると間宮達に順番が回ってきた。

「いらっしゃい!何個包みます?」

「じゃあ、1個下さい。」

間宮がそう注文すると、

「え?1つだけでいいの?」

瑞樹が意外そうに聞いた。

「あぁ!他にも色々食べたいから、ペース配分考えないとな」

得意気な笑みを浮かべながら、間宮はそう言った。


品物を受け取ると、早速パンを取り出して、半分にちぎり瑞樹に手渡そうとした。


「え?私の分?い、いいよ!全部先生が食べなよ。」

瑞樹は両手を小さく左右に振りながら、そう言って遠慮した。


「何言ってんの!祭りの屋台や露店の食べ物は、シェアしてたくさんの種類を食べ歩くのが基本でしょ!ほら!食べな!」


そう言って再び瑞樹の前に差し出した。


「あ、ありがと。それじゃ、いただきます。」

パンを受け取った瑞樹は何だか嬉しそうだった。


二人はほぼ同時にパンを一口食べた。

そして、またほぼ同時にお互い顔を見合わせて

「美味い!」

「美味しい!」

 

「ビスケット生地がサクサクで、中のカステラは凄くしっとりしてるね!」

瑞樹は目を輝かせながら感想を話す。

「うん!しかもこのカステラって粗目まで入ってるじゃん!!

ヤバイ!いい仕事してるな!」

間宮も大当たりのメロンパンを食べてご満悦だった。



「さて!今度は瑞樹さ・・・いや、瑞樹が行きたい所へ行こうか!」

瑞樹さんから「さん」が消えた。

それが瑞樹にとって、少しだけ距離が縮まったような気がして、何だか照れくさかったが、嬉しい呼ばれ方だった。


「うん!私、金魚すくいしたいんだ!」

「金魚!?すくうのはいいけど、どうやって持って帰るんだ?」

「あ!そっか!そうだった!家に帰るわけじゃなかったんだよね。」


あははははは!

2人で顔を合わせて笑った。


ふとそこで瑞樹は歓声が上がっている変わった露店を見つけた。


「なに?あれ。」

そう言ってその露店を指差す。


「おっ!何か盛り上がってるみたいだな!行ってみるか!」

「うん!」


その露店へ行ってみると、どうやらバスケットボールのシューティングゲームのようだ。


その露店の景品棚を眺めていると

「きゃー!超可愛い!!」

瑞樹が目をキラキラさせながら叫んだ。


どうやらお目当てはかなり大きなひよこのぬいぐるみだった。

どうして女の子は、こうもぬいぐるみが好きなのだろうと考えながら、

そのぬいぐるみを眺めていると、ふいに浴衣の袖が引っ張られる。

「ん?」

引っ張られている方に振り向くと、瑞樹が指で軽く袖を摘みながら

「あのぬいぐるみ欲しいなぁ・・・」

瑞樹は上目遣いで若干瞳を潤ませて、間宮におねだりしてきた。

男嫌いのくせに、何でそんな反則のようなねだり方を知っているんだ!?と言いたかったが、ここは冷静に大人の対応でかわすそうと試みる。


「いや、でもさ、大抵あの手のゲームは、ボールよりリングの方が若干小さくしていてだなぁ」

と説明をしていると

「兄ちゃん!兄ちゃん!人聞き悪い事言ってんなよ!ほら!ちゃんとリングに通るだろ?」

露店の店主が実際にリングを一番小さく縮小した状態で、ボールを通して見せた。


おのれ!余計な事しやがって・・・

そう恨めしそうな目で店主を見ながら、心の中で呟いた。


「それにさ・・・」

思い出した様に瑞樹が口を開いた

「ん?」

「確か先生が男子を煽って、待ち伏せされた事のお詫びって

、まだ何もしてもらってないよねぇ。」

瑞樹はニヤリと悪い顔をしながら、間宮にチクリと刺すように言った。


ウグッ!?それを今言うか!それを言われたら、言われたら・・・・・


「わ、わかった!そのひよこのぬいぐるみだな!任せろ!」

意を決して挑戦する事にした。


「ほんと!?よし!先生!GET出来るまで頑張ってね!」


「え?それって取れなかったら破産しろって事か!?」

思わず間髪入れずにツッコんでみると、

「まあ!そうゆう事になりますね!そうならない為と、私の為に頑張ってくれたまえ!間宮君。」


「・・・・お前な!」


さて!このゲームのルールをチェックしてみるか。

なになに?500円で3投挑戦出来るのか。

景品はA~Eにランク分けされていて、事前に狙う景品のランクを申請する。

ショットを打つ距離は同じだけど、ランクに応じてフープの大きさが伸縮するのか。俺が狙うのは特大のひよこのぬいぐるみだから、最高難度のAランクか・・・なるほどな。


問題は投げるボールが本当のバスケットボールじゃなくて、ドッチボール用だって事だな。これ軽いから風の影響を受けるだろう。幸い今日はそんなに風は吹いてないのが救いだけれど・・・


あとは天井がないから高さの制限がないのがポイントだな。


「よし!じゃ!やってみるかな!」

そう気合を入れて店主に500円を払って、ボールを3球受け取った。


「頑張って!先生!」

瑞樹は少し離れた所で真剣な眼差しを向けていた。

早速瑞樹は周りにいる男共の視線を集めていた・・・

全くちょっと離れただけでこれか・・・どんだけモテるんだよ、あの子は・・・まぁ、あの浴衣姿じゃ無理ないかも・・・


ラインの手前に立ってボールを持って構えた。


その構えを見て周りのギャラリーが少しザワついた。


片手でボールを握り、棒立ちのまま1球目を投げたからだ。

どう見ても適当に投げたようにしか見えない。


続けて2球目も少し腕の角度を変えただけで、棒立ちのまま投げた。

勿論2球ともリングに当たって弾かれて失敗した。


「うん、なるほどな。」


そこで露店の店主が

「兄ちゃん!そんな投げ方で入る程、うちのゲームは甘くないよ!」


そう言われてフフっとほくそ笑んで

「わかってるよ!大体掴んだ!」

店主は少し、ムッ!とした顔になった。


「なぁ!このラインから前で打ったらNGだけど、ここから後ろへ下がるのはOKだよな?」


「それは別に構わないけど、わざわざ更に難しくしてどうするんだよ!」

周りのギャラリーも同意見だった。

勿論瑞樹もそう思っていた。


「そうとも限らないって!じゃ!下がらしてもらうよ!」

そう言って間宮はプロ野球選手のピッチャーがマウンドを慣らす時、自分の投げる時に最適な歩幅を図る時にやる、自分の靴を揃えながら距離を測る方法と同じ事をしながら、後ろへ下がった。


1.2.3.4.5.6

「この辺かな。」

6歩分下がってその6歩目の足は、そのまま固定して振り返った。

かなり距離がひらいたが、構わずそのままシュートモーションに入る。


「え?あんなとこから打つのか?無理過ぎるだろ!」

「これ外したらかなりカッコ悪くね?」

「ほんとそれ!わかってんのかな!あいつ!」


周りからそう言う声が聞こえてきた。

そんな声を聞いて瑞樹はムカついていた。

「なんなのよ!黙って見てろ!先生が何も考えなしで、あんな事する訳ないんだからね!」

そう心で呟いて間宮を見守った。


モーションに入ったが、中々シュートを打とうとしない。

何かゴソゴソと気になる事があるみたいだった。


やはりシックリこないのか、間宮はとうとうボールを地面に置いてしまった。


「おいおい!どうした?兄ちゃん!やっぱり元の位置から挑戦するのか?」

ほら!見た事か!って顔で店主は間宮に声をかけた。


すると間宮はその事には返答せずに、軽く締めていた浴衣の帯を解いて、ギュッと強く締め直して、それから次の瞬間、周りのギャラリーから思わず声が上がる事を始めた。

シュッ!ガサガサ!バサッ!


「え?ち、ちょっと・・・!」

瑞樹も唖然としながら、慌てて顔を手で隠した。


何と間宮は浴衣を脱いで上半身を裸にしたのだ。


間宮のその姿を見ていた、男性陣からは歓声が、女性陣からは黄色い声があがった。

普通いきなり目の前で男が脱いだりしたら、セクハラだと女性達から悲惨殺到される場面なのだが、間宮の体があまりにも格好良かったのか、誰1人として文句を言う女性はいなかった。


確かに格好が良かった。広い肩幅に長い無駄のない両腕、引き締まった胸筋、綺麗に割れた腹筋、それでいてウエストは少しくびれていて、俗に言う細マッチョな体に元々の甘いマスクがその体を一層際立たせていた。


「か、かっこいい・・・」


両手で顔を隠していたが、ちゃっかりと指と指の間に隙間を開けて、しっかり覗いていた瑞樹の口から思った事が思わず溢れた。


「お、おい!兄ちゃん!何こんな所で脱いでんだよ!」

店主が慌てて抗議した。当然である。


「ごめんな!浴衣だと袖が邪魔で打ちにくいんだよ!だから1球だけだから、見苦しいかもだけど、勘弁してよ。」

間宮は苦笑いしながらそう言って、下駄も脱いで裸足でその場に立った。


「しょうがねぇ兄ちゃんだな!一回だけだぞ!通報でもされたら商売上がったりなんだからよ!」

店主は諦めて1球だけ許可した。

「サンキュ!」

そう礼を言って間宮は改めてシュートモーションに入った。

3球目にして、やっとバスケのシュートモーションで構えた、

間宮は「フッ!」と短く息を吐いて集中した。


その瞬間から、店主や間宮の挑戦を見ていた多くのギャラリーから声が消えて、祭りの大通りで不自然な一瞬の静寂が生まれた。


膝をしっかり曲げ溜めを作り、一気に地面を蹴る。

その力を真っ直ぐに足から腰へ、腰から上半身へ、そして腕からボールへ綺麗に伝える為に、柔らかく素直は動きで体を下から上へ伸ばしていく。


その動作の直前の間宮の顔を瑞樹は見逃さなかった。

目はゴールのフープを睨みつけていたが、口元は僅かに笑みを浮かべていた事を・・・


下からの力が綺麗にボールへ伝わり、インパクトの瞬間、「ビッ!!」とゆう音が響いた。ボールが綺麗に指へかかり、指がボールから離れる瞬間手首のスナップを効かせ回転のつけさせた音が聞こえたのだ。


ボールを打放って宙を飛んでいる間宮を見て「綺麗だ」そう瑞樹は感じた。

男をそう形容するのは適切ではないかもしれないが、瑞樹の目にはそう映ったのだ。


放たれたボールは真っ直ぐに逆回転がかかり、綺麗な放物線を描いて飛んでいく。


ギャラリー達は固唾を飲んでボールの行方を追う。


皆の視線を一身に浴びたボールは、吸い込まれる様にゴールへ向かい、フープに全く擦る事なく、静寂の中「シュパッ!!」とゴールのネットを通過する音だけが響いて、その後、「ドン!ドン!」とボールが地面に落ちる音がした。


その音を聞いた瞬間、

間宮は両手を強く握って拳を作り、その右拳を天高く突き上げ、左拳を胸の辺りで力を込めて

「ッッッ・・シャアアアアアアァァァ!!!!!!!!!!!!!」

大きな雄叫びを上げた!!

その雄叫びと同時にいつの間にか大勢に増えていた見物客達から、

大歓声と大きな拍手が送られた!


この時、間宮自身自分に驚いていた。

こんな事ではしゃいだりするのって何年ぶりだろう。

いい大人がする事じゃないと理解していても止められなかった。

それは多分ゲームに成功したからだけではなくて、瑞樹の要望に応えられたからだと気付いて、なんだか今の自分に吹き出しそうになったが、

こんな自分は嫌いではないなと感じていた。


瑞樹は、全身で喜びを爆発させる間宮を見て、あれだけ泣いた後なのに、目頭がまた熱くなって慌てて口元を手で覆いながら、あまりの格好良さと感動が入り混じって、大声で叫んでいた。


最前列にいたギャラリーからハイタッチを求められて、それに応じる間宮をため息混じりで見つめながら

「兄ちゃんには負けたよ!普通一番いい景品なんて、取られないように難易度を上げて客寄せに使ってるだけだってのに、ラインから更に下がってリングに擦りもせずにきめちまうんだからな!参ったよ。」

そう言って店主は降参のポーズをとった。


「アハハ!紛れだよ!ま・ぐ・れ!」


「謙遜すんな!で!Aランクの景品だけど、どれが欲しいんだ?」

店主は観念して、そう聞いてきた。

「そのでかいひよこのぬいぐるみ頂いていくわ!」

間宮は迷わずぬいぐるみを指差した。


「これだな!ほらよ!持ってけ!泥棒!」

店主はぬいぐるみを棚から下ろして、間宮に手渡して続けた。

「もう来るなよ!これ以上持って行かれたら、商売上がったりだ!」

苦笑いしながら店主はそう言い捨てた。

「わかってるよ!別に荒らす気なんてないからさ!サンキュな!」


ぬいぐるみを受け取った間宮は瑞樹を探した。


瑞樹は最前線の端の方でこっちを見ていた。

これだけの見物客が集まっているのに、すぐに見つけれてしまう瑞樹の存在感に苦笑いしながら、ゆっくりと近づいて

「ほら!ご注文のぬいぐるみだ!」

そう言って間宮はぬいぐるみを優しく瑞樹にトスして渡した。


ゆっくり飛んでくるぬいぐるみを、口元に当てていた手を解いて、慌ててキャッチした。

柔らかい抱き心地包まれながら、泣いていたのを隠す為に、そのぬいぐるみに申し訳なかったが顔を「ボス!」っと埋めて涙を拭いて、再び間宮見つめ、最高の笑顔で

「ありがとう!ず~~っと!大事にするね!」

嬉しさと感動を爆発させながら感謝した。


未だに歓声が鳴り止まない中、間宮は何事もなかったように

「さ!次は俺の番だからな!いこう!」

そう言って瑞樹の手を引いて歩き出した。


「う、うん!」

手を引かれるまま歩き出したが、歓声が起こっていた方を見ると

見物客達が

「よかったな!彼女さん!」

「彼氏、超カッコイイじゃん!羨ましい!」

「えぇ!?あの子あいつの彼女なの?そりゃ張り切るわ!」

「俺もあんなデタラメに可愛い彼女欲しい!」

「それ関係ないだろw」


色んな声が瑞樹に届けられて、照れながら、笑顔で小さくバイバイと手を振った。


それからお面を売っている露店で、このキャラクター知ってる、知ってないで盛り上がり

勢いでお互いお面を買って、耳元にお面がくるように、ずらして被ったり、

かき氷を食べて頭が痛くなって2人で頭を押さえたり、林檎飴を食べて口の周りを真っ赤にしたり、持って帰らない前提で金魚すくいで勝負して、瑞樹が圧勝して間宮が本気で悔しがったり、ベンチでコーヒーを飲みながら色んな事を話したり、もうどこからどう見ても講師と生徒ではなく、恋人同士にしか見えない楽しい時間を2人で過ごした。


そんな時に瑞樹がバスケの時の事を話しだした。

「そういえばさ!さっきのバスケの時に気になったことがあったんだけど。」

「気になった?何が?」

「うん。シュートを打つ瞬間に先生笑ったよね?あれって何で?」

シュートを打つ直前に笑みを浮かべたのが、気になっていて聞いてみた。


「ああ!あれか!よく気付いたな。あれは打つ直前に絶対入るって確信をもったからだよ。」

「どうして確信なんてもてたの?あんなに難しいゲームだったのに。」

不思議そうな顔で続けて質問した。


「それは1、2球試しに投げた時に、ある程度手応えはあったんだけどさ」

続けて話そうとした間宮を瑞樹が割って入ってきた。

「え?適当に投げてたんじゃないの?」

「そんなわけないじゃん!あれは投げるボールの重さと指のかかり方を確かめたのと、フープ付近の風がボールにどんな変化をさせるか試してたんだよ。」


「は!?そんな事考えて投げてたの?てっきりやる気がなくて、最初から諦めて、適当に投げてるんだと思ってた。」

驚いて目を大きく見開いて言った。

「ば~か!挑戦する前から諦めるとか、そんなダサい事するかっての!

で!3球目の時にイメージは出来てたんだけど、後は力の伝達が上手くいくかだけが問題だったんだ。でも膝を曲げて上に力を伝えようとした瞬間、真っ直ぐに力が動いたのを感じて、これは絶対入ると確信して思わず笑ったんだと思う。」


「何か専門的な事ばっかりで、よくわからなかったけど、イメージとリアルの動きがピッタリ重なったって事?」

「そうそう!そんな感じだ!」


「じゃあ!じゃあ!わざわざラインより後ろからシュートしたのは?」


「それは角度の問題で、現役時代に一番得意なシュートコースの角度ってのがあってな、ラインの位置からだと、その角度に乗せにくかったから、下がったんだよ。」


「そうだったんだ!すごいね。確かに綺麗な放物線描いてて、思わず息止めて見つめてたもん!あ!もしかしてバスケットボールの経験あるの?」

「あぁ!高校から大学までバスケやってたよ。今も運動不足解消の為に、大学の仲間とストバスやってたりするしな。」


意外って言ったら失礼だが、間宮の過去を少し知る事が出来て嬉しくなった。


「あ!だからあんなに格好いい体してたんだね。」

思わず間宮の体の事を口にしてしまった。

「なんだよ!俺の体,そんなエロい目で見てたのか?。」

と間宮はニヤリとしながら誂うように言った。

「エ、エロ!?ち、違くて、そんな意味じゃないって!

てか講師が生徒にそんな事言ったらセクハラなんだから!」

瑞樹は顔を真っ赤にしながら、必死で否定した。

「あはは!ごめん!冗談だって!」


すると間宮の腕時計のアラームが鳴った。

「ん?そろそろ駐車場に向かわないと、おいていかれる時間だな。」

「え?もうそんな時間?全然気付かなかった。」

瑞樹の表情が一気に曇りだした。


間宮と過ごした時間は本当に楽しかった。

楽しい時間はすぐに過ぎるとよく言うが、こんなに早く感じたのは初めてだ。

そしてこの時間が終わりを告げた時の、寂しさも今まで生きてきた中で一番寂しかった。


嫌でもこれでハッキリと気付いてしまった。


私は間宮先生の事を好きになっている事を・・・

もう離れるのが辛くて仕方がない程に。


それなのに私は未だに肝心な事を隠したままにしている。

この気持ちに気付いてしまったら、嫌われるのが怖くて正体を明かす事から、逃げ出したくなってしまっている。


何でこんな気持ちに気付く前に、本当の事を打ち明けなかった事をすごく後悔した。


そんな事を考えて1人で落ち込んでいると、頭の上から声が降ってきた

「さて!そろそろ駐車場に向かって歩こうぜ!」

そう言って瑞樹に手を差し伸べる間宮がいた。


「う、うん。そうだね・・・」


その手を掴んで立ち上がり歩き出した。


歩いているとふいに間宮が切り出したきた。

「あのさ、今日は色々振り回してしまってごめんな。」



「そ、そんな事ないよ!謝らないでよ!私、すごく楽しかったもん。

私の方こそごめんね。こんな子供と一緒なんて恥ずかしかったでしょ?」


「あほか!一緒にいるのが恥ずかしいって思う相手だったら、こんなに祭りを堪能出来るわけないじゃんか!最初は加藤さんに頼まれたから一緒にいたけど、そんな事すぐに忘れてて、単純にすごく楽しかった!時間を忘れてしまうくらいにな!」


そう言われて嬉しかった。

でも人を好きになるってこんなに幸せで、そしてこんなに辛い事だったんだ。

こんな辛い想いする位なら、好きになんてならない方がずっと楽だったのに・・・

もう戻れない・・・戻る事を全身が拒否しているのがわかる。

前に進む為にも、やっぱり本当の事を話そう。

どうゆう結果になるか解らないけど、言わないと一生後悔する気がする。

もう絶対に迷わない!必ず打ち明ける事が私の本心が求めている事だ。


そう心に強く、強く決意した。


駐車場に向かって暫く歩いていると、間宮が足を止めた。

「どうしたの?先生。」

そう問かけると、間宮は

「ごめん!ちょっと待ってて!」

そう言って屋台の方へ走って行った。


暫くすると人ごみの中から、間宮が現れた。

両手には大きなビニール袋を二つ持って瑞樹の元へ帰ってきた。


間宮が近づいてくると、何だか甘い匂いがした。

この匂いって・・・

「ひょっとして、それ全部メロンパンカステラ?」

瑞樹は目を大きく見開いて聞いた。


「そ!ストックしてあるパン全部買い占めてやった!」

得意気に間宮は笑いながら言った。


「そんなに買ってどうするの?全部食べたりしたらお腹壊すよ?」

「はは!そんなわけないじゃん!はい!これは瑞樹の分な!」

瑞樹に心配を他所に、悪戯っぽく笑いながら抱えていたビニール袋を1つ差し出した。

「え?私に?でもそんなに食べられるわけないよ。」

「分かってるよ!それは瑞樹を含めた同室のメンバーの分だよ。

どうせ最後の夜だからって、遅くまで女子会するんだろ?

腹が減ったら皆で食べな。」


「ありがとう!皆、喜ぶよ!

じゃあ!もう一つのビニール袋って。」

「そ!飲み歩きドタキャンしちゃったからな。

お詫びを兼ねたお土産な!先生達は飲み歩きしてたから、酒のツマミにならないメロンパンは食べてないだろうと思ってさ!」


「そっか!そうだね!フフフ。」

瑞樹は優しい笑顔を向けて微笑んだ。


「おっと!寄り道したから、本当に時間がヤバイ!急ごう!」

「うん!」

そう言って二人で小走りで駐車場へ急いだ。


駐車場へ向かっている道中で、小走りしながら瑞樹が口を開いた

「ねぇ、先生。」

「ん?なんだ?」



「前に聞かれた合宿の感想なんだけどさ・・・」





駐車場では間宮達以外は全員戻ってきていて、順番にバスへ乗り込んでいる最中だった。


最後尾に並んで乗り込む順番を待っていた浴衣組の加藤と神山が、心配そうに祭り会場を見ていた。


「志乃遅いなぁ・・もうバスでちゃうよ・・」

「そうだね、二人共時間にキッチリしてる方なのに、何かあったのかな・・」

ギクっ!

「ちょっと!神ちゃん!縁起でもない事言わないでよ!」

加藤は泣きそうな顔で神山に訴えた。


「ご、ごめん!瑞樹さんも間宮先生もしっかりして・・・・・あ!・・・カトちゃん!あれ!」


途中で言葉を切った神山は加藤の肩をポンと叩き指をさした。


加藤は神山が指した方角を見ると、瑞樹と間宮が小走りでこちらに駆け寄ってきているのが見えた。


「志乃!!」

大きく手を振って加藤は瑞樹に呼びかけた。


その加藤に気付いた瑞樹は手を加藤に向けて振って応えた。

「愛菜~~!遅くなってごめ~~ん!」


息を切らして、何とか加藤達の元へ合流した2人の姿を見て、

バスの乗り込み待ちをしていた講師や生徒達から声が上がった。


「おぉ!なになに!お揃いでお面なんか被っちゃって!」

「うん!どっからどう見てもカップルじゃん!」

「これで手でも繋いでいれば完璧だったのに。」

「ほんとそれ!でもお似合いだよな!」


勝手に盛り上がる周りに

「ちょっと!そんなんじゃないから!ほんとに違うから!」

顔を真っ赤にして、瑞樹は必死に否定した。


間宮は指で顔を掻きながら苦笑いしていた。


そんな事で盛り上がっていると最後の浴衣組が乗り込む順番が回ってきて、皆一斉に乗り込み始めた。


最後に乗り込んだ瑞樹を見て女子が騒ぎ出した。

「瑞樹さん!そのぬいぐるみどうしたの?超可愛いんですけど!」

そう言われた瑞樹はぬいぐるみを愛おしそうにギュッと抱きしめて、微笑みながら「可愛いでしょ。」そう言って空いている間宮の隣の席に座った。


すると別の女子が

「あ!そのぬいぐるみ知ってる!バスケゲームの景品だよね!私もそのぬいぐるみを見て可愛いって思ってたんだ。欲しかったけど、最高難易度のAランクの棚にあって、他の人が挑戦してるの見てたんだけど、あれは絶対無理ゲーだって思って諦めたんだよね。瑞樹さんあれクリアしたんだ!超凄いじゃん!」


「えぇ!?そんなに難しいゲームの景品だったんだ!どうやってクリアしたの?瑞樹さん!」


「え?えっと、それは・・・」

周りの反応にどう答えればいいか、解らなくて間宮の方を見たが、

間宮は知らん顔して窓の外を見ていた。


間宮のその反応を見て、知られたくないんだなと理解はしたが、

どう誤魔化すか困っていると、その会話を聞いていた奥寺が立ち上がった。

「いや!本当に凄かったんだぞ!俺達たまたまその時通りかかってな、凄いギャラリーが出来てて見に行ったんだけどさ!たった500円でクリアしちゃったんだよ!・・・・・ね!間宮先生!」


ゴン!!


間宮はガックリと窓に頭を打ち付けた。

「プッ!!」

そんな間宮を見て、瑞樹は思わず吹き出してしまった。


「ええ?そのぬいぐるみ間宮先生がとったの?」

「マジで!?すげーじゃん!」

周りが更に盛り上がって間宮に注目した。


「い、いや、たまたま適当に投げたら入っただけの偶然ですよ。」

と苦笑いして誤魔化そうとしたが、奥寺が興奮しながら詳細を話しだした。

「あれが偶然ですって?そんなわけないでしょ!適当ってのも嘘ですね!」

そう奥寺は断言した。

「そんなに凄かったんですか?奥寺先生!」

加藤が興味津々で奥寺に聞いた。

「あぁ!凄かった!投げるラインから更に後ろへ下がって、打ちにくいからって、浴衣を脱いで上半身裸になってさ!これがまた格好いい体で、引き締まった細マッチョで、見物してた女性達から黄色い声が飛び交ってたよ!」


「えぇ!?間宮先生裸になったんですか!?マジで!?」

加藤が驚いて目を見開いた。

「マジだ!しかもそこからが、また凄かったんだ!

間宮先生が構えた瞬間、あんな騒がしい本通りなのに、見ていた連中が全員黙って見守り出してさ!シーンと静かになったんだよ!あの時は鳥肌たったなぁ!

その静寂の中で間宮先生はシュートを打ったんだけど、そのボールがゴールのリングに全く擦りをしないで、ゴールのネットだけを揺らす音がしたんだよ!「シュパッ!」ってさ!

シュートが決まった瞬間、間宮先生が拳を突き上げて雄叫びを上げた時は、何だか目頭が熱くなって泣きそうになった!それくらいあの時の間宮先生は格好良かったんだ!」


「嘘でしょ!?あの間宮先生が雄叫びとか・・・」


「嘘じゃないって!それから大勢いた見物客から大歓声と拍手が起こってさ!

もう感動したよ!俺は!」


「やべえ!超見たかったわ!俺!」

「俺も!普段の先生からは想像も出来ないもんな!」

「そんな間宮先生見ちゃったら、絶対好きになっちゃうね!」

「今でも結構好きなくせに!」

「こら!優子!それは言わないでよ!」


あはははははは!


笑いと驚きの声が静まらない中、間宮は寝たふりをして無言を貫いた。

でも隣に座っている瑞樹は気付いていた。

間宮の頬が赤く染まっているのを・・・・


せんせ、照れてるのかな?かわいい。

そんな間宮を見つめながらクスリと微笑んで、そんな事を考えていた瑞樹が、そのまま続けて、

今日はありがとう、先生。本当に楽しかったよ。お祭りデート、私、絶対忘れないからね。

ひよこのぬいぐるみを抱きしめて、そう心の中で呟いた。




















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